2025.10.31
電通デジタル初のAIビジネスアイデアソン開催 その舞台裏と社内文化醸成の仕掛けとは?
2025年、電通デジタルは初の試みとなるAIビジネスアイデアソンを開催しました。社員一人ひとりがAIを駆使し、業務効率化から新規ビジネス創出まで、さまざまなアイデアを提案。全社を巻き込み、500件を超える応募が集まった AIビジネスアイデアソンは、どのように企画・運営され、どんな成果を生み出したのか。その舞台裏の仕掛けと工夫を、事務局メンバーに聞きました。
※2025年10月時点での所属・役職です
「創造力と挑戦心を引き出す相棒として、AIを使ってもらいたい」
――今回のAIビジネスアイデアソンの開催経緯を教えてください。
濱:電通デジタルは、もともとAIへの関心が高い社風でもあり、社員一人ひとりがAIの新しい可能性に敏感にアンテナを張っているという自負があります。会社としては、2023年時点で全社員にChatGPTをはじめとするAIツールのアカウントを配布し、誰もが自由にAIを活用できる環境を整えました。
一方で、「AI=チャットツール」という認識で利用している社員も少なくないのが現状です。もちろん、業務効率化などの便利なツールとして使いこなすことも重要ですが、それだけではありません。AIは、社員の発想力や挑戦心を後押ししてくれる「相棒」でもあるということを、改めて実感してもらいたいと考えました。
さらに、社員がそうした発想のもとでAIを日常的に活用できるようになることで、会社としても新たな価値や収益の柱を生み出していけるのではないか。今回のAIビジネスアイデアソンは、そうした未来への布石となるプロジェクトという位置づけです。
応募条件は唯一「AIを活用すること」
――AIビジネスアイデアソンの応募概要を教えてください。
濱:初めての開催だったため、まずはできるだけ多くの社員にAIビジネスアイデアソンの存在を知ってもらい、気軽に応募してもらうことを重視しました。そのため、応募要件のハードルはできる限り低く設定しています。名称も「ビジネスコンテスト」や「ハッカソン」ではなく「アイデアソン」としたのは、「アイデアこそが出発点であり、最も大切なもの」という思いを込めたからです。
課題は「社内業務の効率化」と「クライアント課題の解決」の2つ、条件は唯一「AIを活用すること」です。応募形式も自由で、書式の指定や資料の添付も不要としました。とにかく敷居を低くして、多くのアイデアが集まるよう工夫しました。
八木:エントリー数のKPIは当初100件を目標にしていましたが、正直、どれくらい集まるかは未知数でした。最終的に500件を超える応募があったのは、やはりハードルを下げたことが大きかったと思います。
濱:全社説明会は1回だけ実施しましたが、その際の山本CAIOのプレゼンも非常に効果的でした。AIを使えばアイデアをすぐに形にできること、AIに採点させながらアイデアをブラッシュアップするなどのデモを見せながら、「ほら、こんなに簡単にできるんだから、みんなもどんどん参加してみよう!」というような、心理的ハードルを一気に下げるメッセージを伝えていたことが、応募数の大幅増につながったのではと感じています。
日常の課題意識が原動力に。電通デジタルの底力を再確認
――応募総数500案から、最終プレゼンの5案までを絞る過程を教えてください。
西生:5月末の応募締め切り後、一次審査を実施し、500案の中から40案を選出、結果は7月初旬に発表しました。審査では、まず応募内容を電通デジタルのAIスペシャリストやAIリーダー約50人に共有し、点数をつけてもらいました。同時に、評価項目を設定したプロンプトを使ってAIにも内容の要約・採点を行わせ、人とAIによるハイブリッド評価を採用しました。
一次審査を通過した40案については、各チームに改めて応募資料を作成してもらい、最終書類審査を実施し、最終的に9月に上位5案を選出。審査員は案の「新規性」「ビジネス貢献」を重視するため、役員を含むAIスペシャリスト8人で、40件すべての資料に目を通したうえで評価しています。
――最終書類審査を通過した5案で、9月10日に最終審査プレゼンを実施しました。プレゼン当日の様子はいかがでしたか?
濱:最終プレゼンは、オフラインとオンラインのハイブリッド形式で実施したところ、オフライン会場にも約150人が集まり、立ち見が出るほどの盛況でした。各チームの応援に駆けつけた社員も多く、会場全体が一体感に包まれ、結果発表時には涙する方も多くいました。
町:濱さん、八木さん、西生さんが中心となって、社内広報の準備を丁寧に進めてくれていたことも功を奏したと思います。開催前からしっかり周知が行き届いていました。
八木:広報チームが、各チームの紹介動画を最終プレゼン審査会の1週間前から配信してくれたのですが、それが非常によくできていたことも大きかったのではないでしょうか。チームごとの個性や熱量が伝わる内容で、視聴した社員も感情移入しながら本番を迎えることができたと思います。私自身も、プレゼンを見ながら胸が熱くなる場面が多々ありました。
濱:クライアント対応に関わる部門だけでなく、ミドルオフィス・バックオフィスを含めた社内業務に携わる多くの社員も、日々の業務課題に真剣に向き合い、積極的にAIを活用し解決しようとするクリエイティビティを実感しました。特に、最終プレゼンに残ったチームの提案はそうした課題への解決意識が強く感じられる内容で、電通デジタルの底力を再確認する機会になったと思います。AIビジネスアイデアソンは、社員の日常的な課題意識を具体的な行動につなげるための第一歩になったと感じています。
上位2チームがモンゴルでワークショップを実施
――最終審査プレゼンの上位2案が、次のステップである技術PoCに進みました。モンゴルにある電通データアーティストモンゴル(以下、DDAM)で実施したワークショップの概要を教えてください。
濱:最終審査プレゼンで上位に入賞したチームは、最終審査の約1週間後にあたる9月21~24日の4日間、DDAMでワークショップを行い、スピーディに実現することを全社説明会の時点で告知していました。
町:このワークショップでは、DDAMのメンバーと一緒に考え、アイデアを具体化・具現化することを目的としました。出国前にロードマップの策定やターゲット設定、提供価値の明確化まで検討を済ませ、現地では主要機能の検討とコア技術のPoC(概念実証)を行いました。
――DDAMでの協業の様子はいかがでしたか?
町:DDAMメンバーの約7割は日本語を、9割は英語を話せるため、コミュニケーションに支障はほとんどありませんでした。それぞれのチームにDDAMから3人ほどが加わり、初日に代表者から「やりたいこと」を共有。その内容を踏まえて方向性を擦り合わせ、DDAMのメンバーとともにモックを制作し、技術的な形に落とし込むという流れでした。
――ワークショップを終えての感想を教えてください。
町:このワークショップによって、アイデアが実現へ向けた具体的なステップを踏めたことが最大の成果でした。さらに、今回生まれたアウトプットが、将来の電通デジタルの事業成長の一助となる可能性を感じられたことも大きかったです。
濱:DDAMと直接やり取りしている部署はまだ限られており、「エンジニア×モンゴル」という構図に、心理的にも物理的にも少し距離を感じている社員も多いと思います。しかし、今回のワークショップで、DDAMのエンジニアに自分のアイデアを伝え、具体的に形にしてもらうことが“意外と簡単にできる”という実感を、参加したメンバーは得たはずです。自分一人で悩むよりも、DDAMに相談する方が早い——その体感こそが一番の収穫だったと思います。
――モンゴルワークショップ後に行うことを教えてください。
濱:今後は、ワークショップで形になったものを実際に実装・運用へと進めていく段階に入ります。プロダクトの構築・開発と初期リリースを行い、社内インフラへの展開・運用を順に予定しています。アイデアを出して終わり、モンゴルで体験して終わりではなく、実際の成果につなげていくことが重要です。
「アイデアを形にする」精神を“文化”として定着させたい
――今回のAIビジネスアイデアソンは、電通デジタルにどのような価値をもたらしたと考えていますか?
西生:「ビジネスアイデアを生み出すために、AIをどう使えばいいのか?」について、社員一人ひとりが自分ごととして考えるきっかけをつくれたことが大きいと思います。
八木:私も同感です。今回限りではなく、継続的に発展していく仕組みになっている点も非常に良いと思います。最終選考に残らなかった案も今後社内公開する予定なので、各部署でアイデアを起点に新しいプロジェクトが生まれ、社外への付加価値提供力が向上し、社内の業務効率化がされていく流れができれば理想的ですね。
町:日々、日常業務に追われている社員も多い中で、意識的に立ち止まり、創造的に考える機会を提供できたのは大きな意義でした。また、自分たちが考えたアイデアが短期間で形にできることをワークショップを通して体感する形になり、社内外で活用できるイメージを醸成できた——そんな「良い循環」が生まれたことも、会社にとって大事な資産になったと思います。
――来年のAIビジネスアイデアソンに向けた意気込みをお願いします。
濱:AIビジネスアイデアソンの思想を電通デジタルの“文化”として定着させていきたいですね。今年盛り上がったイベントではなく、毎年の祭典として、さらには日常的な文化として根づくには、2年目が最も重要です。来年以降は、今回の上位2チームのメンバーが審査員として参加し、アイデアを「形にする」精神を次世代へ継承していくような仕組みにしたいと思っています。
町:来年に向けて、今回の成果をしっかりと“形に残る実績”にしたいと考えています。濱さんがおっしゃったように、AIビジネスアイデアソンが社内文化として根づいていくことが重要です。その醸成に少しでも貢献できるなら、来年もぜひ関わりたいと思います。
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