「次世代リーダー」ってどんな人?伊藤羊一×電通デジタルが考える、これからのリーダーシップ
管理職になりたくない若い人が増えているという。だが、それは「旧来型のリーダー」を念頭に置いているからかもしれない。実はデジタル時代の進展とともに、組織が求めるリーダー像も変わりつつある。企業は次世代を担うリーダーをどのように育てようとしているのか。
Zアカデミアや武蔵野大学アントレプレナーシップ学部で人材育成に携わる伊藤羊一氏と、電通デジタル 事業戦略室 育成企画部 事業部長の伊勢田健介氏、同部の小倉理恵氏が、これからのリーダー像とキャリア開発について語り合った。
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※この記事は2022年6月6日にBusiness Insider Japanに掲載された記事を転載しています。
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※所属・役職は記事公開当時のものです
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伊藤 羊一
- Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長
- 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長
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伊勢田 健介
- 電通デジタル
- 事業戦略室
- 育成企画部
- 事業部長
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小倉 理恵
- 電通デジタル
- 事業戦略室
- 育成企画部
「正解のない時代」は、一人ひとりが「正解をつくれる時代」
──デジタル時代には、どのようなリーダーシップが求められますか。
伊藤羊一氏(以下、伊藤): 人々がデジタルを活用して多様な情報に触れ始めた結果、今は「正解がない時代」になりました。正解が決まっている時代なら、ヒエラルキー型の組織でリーダーが「これをやろう」と示して、下の人が「分かりました!」とついていき、みんなで同じことをやっていればよかったかもしれません。
一方、正解がない世界は、一人ひとりが正解をつくれる世界でもあります。今、求められているリーダーは、「自分はこうやりたい」という思いを一人ひとりから引き出して、それを育ててあげられる人。「Follow Me(皆の衆ついてこい)」ではなく、「After you(お先にどうぞ)」のリーダーシップです。
伊勢田健介氏(以下、伊勢田): ひとくちにリーダーといっても、クライアントに向き合うときとチームメンバーに向き合うときに求められるスキルは違います。手前味噌ですが、電通デジタルには優秀なコンサルタントやプランナーが大勢います。彼らはクライアントからいただく限られた情報から課題を見つけ、ソリューションを先回りして考える課題解決思考を身につけており、それがクライアントにも評価されています。
ただ、チームメンバーと向き合うときは、先回りするのではなく、メンバー自身が気付いていない部分を1on1のミーティングや日々の仕事の中で引き出さなくてはいけません。まさに伊藤さんの指摘する「After you」ができる、相手に奉仕しながら導いていく“サーバント型のリーダーシップ”が必要です。
伊藤: なるほど。ただ、本当はクライアントに対してもソリューションを提示せず、「答えはみなさんの中にあります」と引き出すコンサルティングができたら最強じゃないですか?
小倉理恵氏(以下、小倉): そうかもしれません。例えばDXの支援でも、「なぜDXをやりたいのか」という背景をうまく言語化できていないクライアントは少なくありません。そこを引き出すことができれば、最終的にはこちらからソリューションを提供するにしても、納得感が深まるはず。どちらにしてもサーバント型のスキルは求められます。
伊勢田: 問題は、そうした変化が理解されていないことでしょう。新任管理職研修ではプロジェクトマネジャーと組織のマネジャーの違いを強調しています。プロジェクトマネジャーは業務に精通していたほうが成果を出しやすく、またその成果は周囲からも分かりやすいので評価されやすい。
一方、組織のマネジャーはメンバーに持っている力を最大限発揮してもらうことが重要で、マネジャーが黒子になる場面も多くなる。一般的によくいわれる「エラーの少ないシステムの保守運用者」が評価されにくいという話と似ていて、優れたマネジメントをしても評価されにくい面があると思っています。後者も賞賛される文化づくりに力を入れて、次世代に活躍するリーダーを増やしていかなければいけないと考えています。
もはや会社はキャリアプランを用意しない
──リーダーを目指す人は、自身のキャリアをどう考えればいいでしょうか。
伊藤: リーダーへのキャリアというと、理想のコースがあって、成果を出して階段を上るようにステップアップするイメージを抱いている人は多いでしょう。しかし、リーダーがすべてに精通する必要はない。僕は武蔵野大学でアントレプレナーシップ学部の学部長をやっていますが、教授陣は僕より優れた異才ばかり。僕ができないからお願いしているわけですから。お互いに「この分野のプロフェッショナルはあの人だよね」という感覚でやっていると、階段を上って自分が優れていることを証明しなくてもいい。キャリアは多様でいいんです。
伊勢田: 電通デジタルのビジネス領域は非常に多岐にわたるため、そもそも求められるスキルが多様です。社長の川上も「(個人のキャリアについて)電通グループを含めて考える」と打ち出していて、出向や転籍でキャリアを積むチャンスも提供されています。実際、リーダーのキャリアは多様です。
2022年3月から、電通デジタルで活躍している多様な社員約30人分のこれまでの歩みをスライド2枚にまとめたビジュアルレポートを、社内イントラに公開していますが、今いる部門やそこにたどりついたルート、転職歴などのバックグラウンドはさまざまです。
小倉: ビジュアルレポートは、所属先や職位などいわゆる「外的キャリア」ではなく、やりがいや仕事に対する価値観、どんな転機をどう乗り越えたのか──という一人ひとりの「内的キャリア」にフォーカスしています。次世代リーダーはロールモデルであるものの、同じルートを通ればいいと考えるのは間違い。キャリアに正解はなく、自分で答えを出すしかないと考えています。
伊藤: 結局、「自分はどう考えているのか」に尽きるんですよね。会社から与えられたキャリアプランを上っていくのではなく、自律的に考えられる人がリーダーになれるし、リーダーになった後も同じ問いをメンバーに投げかけられるのでしょう。
ルーツの違う人の強みが活かせる組織に
──社員が自律的にキャリアを考えるために、企業はどのようなサポートをすべきですか。
伊藤: アントレプレナーシップ学部の1年目が終わったとき学生に感想を聞いたら、多くの学生から「この学部は人の夢を笑わない。最高だ」と返ってきました。こうした環境が大切なのは会社でも同じ。その点、電通デジタルさんは夢を語れる環境をつくっていますよね。
伊勢田: 現場の上司が1on1で部下の夢を聞いて応援してあげられることが理想です。ただ、スキルや時間の問題もあるので、現場以外でも会社全体で4人のキャリアコンサルタントが社員から相談を受ける機会を設けています。例えば「クリエイティブ領域の仕事をやりたい」と相談されたら、「なぜやりたいのか」「やりたいクリエイティブの仕事とは具体的にどんなものか」と深堀りしていきます。現在、そこで吸い上げたものを現場の決裁者にフィードバックして、プロジェクトへのアサインやキャリアプランに活かしてもらう仕組みを構築中です。
あと、自分でキャリアを考えるきっかけももっとつくっていきたいですね。ロールモデルとして取り上げた社員と対話できるイベントを企画したり、キャリア相談であがってきた情報をもとに人と人をつなげる取り組みも行なっていく予定です。
小倉: リーダーシップ開発プログラムでは、4カ月かけて育成を行っていく予定です。さまざまな関係者との交渉力を磨くスキル系のワークもありますが、今の時代に求められるリーダーとは何か、自分の目指すリーダー像に対して、今の自分には何が足りないのかといったことを考える機会も提供しています。旧来のリーダー像を念頭に置いて「私にはできない」と遠慮しがちな人には、その誤解を解いてほしいですね。
伊藤: これらの施策が整合性のある形で提供されて、一つの世界観になっているところが強みですよね。ピンポイントで優れたキャリア施策をやっている会社はあっても、それらが社長の宣言以下、ストーリーとしてつながっている会社は少ない。
伊勢田: 電通デジタルは、さまざまなルーツを持つ人たちの集合体です。その多様性を維持したまま成果を出せる組織にすることが私たち育成企画部のミッション。中途で入ってきた方も、マインドチェンジさせるのではなく、その人の個性や強みを活かしてキャリアを構築していくサポートをしたい。そこは一貫しているし、やっとそれを施策として示せる段階に来たのではないでしょうか。
伊藤: いやあ、熱い! 今日はお二人の熱意を感じました。日本には「After you」のリーダーがまだ少ない。今後もいろいろ意見交換して、次世代のリーダーたちを盛り上げていきたいですね。
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※この記事は2022年6月6日にBusiness Insider Japanに掲載された記事を転載しています。
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