形骸化を防ぐAI導入。電通ランウェイが短期間でアクティブユーザー50%を達成した裏側
【第5回】AI Hacked Marketing、その進化の最前線
【第5回】AI Hacked Marketing、その進化の最前線
「AIを導入したものの、現場で活用されない」――こうした課題を抱える企業は少なくありません。そのような中、電通ランウェイは定着を見据えた独自AIの開発・導入により、社内の週間アクティブユーザー(WAU)50%を達成しました。本記事では、独自AI「Mates AI(メイツ・エーアイ)」の開発から全社展開までのプロセスを通じて、どのように実効性を高めたのか、また定着のポイントについて、電通デジタル・電通ランウェイ両社の担当者に聞きました。
阿部佳怜(電通デジタル):多くの企業を支援する中で、共通する課題は大きく3つに整理できます。
1つ目は、「適合業務の不明確さ」です。経営層から導入を求められても、現場レベルで具体的な活用イメージが描けず、判断に至らないケースです。2つ目は、「データ・業務整理の不足」です。業務プロセスやナレッジが暗黙知のまま残っており、構造化されていないため実装フェーズで進行が停滞してしまいます。3つ目は、「導入後の形骸化」です。多大なコストをかけても、現場のユーザーに利便性や必要性が伝わらず、活用されないまま「負の遺産」となるケースも少なくありません。
阿部:これら典型的なつまずきを回避するため、構想策定から定着までを一貫して支援する「E2E(エンドツーエンド)」型のオファリングを提供しています。具体的なプロセスは以下の通りです。
このプロセスの肝は、単に「作る」ことではなく、「現場で使い続けられる仕組み」を逆算して設計する点にあります。
例えば、初期の「構想策定」では、インパクトと技術難易度の両面からロードマップを描き、導入の納得感を醸成します。また、開発後の「定着化支援」においては、単なる操作説明に留まらず、ROI(投資対効果)を測定する指標設計まで含めて行います。「AIを入れて終わり」にせず、事業成長に寄与するまで伴走し続けるのが我々のスタイルです。
阿部:最大の強みは、コンサルタント、エンジニア、そして業務に精通したプロフェッショナルが一体となった支援体制です。業務理解に基づいた構想から、技術実装、現場への定着までを分断させずシームレスに推進できるため、高い実効性を実現できます。
また、当社が開発したAIエージェントプラットフォーム「AI For Growth Canvas」をベースに活用することで、ゼロからの開発に比べて圧倒的なスピードで導入が可能です。クライアント独自の業務要件に合わせた柔軟なカスタマイズと、プラットフォームによる迅速な立ち上げ。この両立が、変化の激しいAI領域において大きな武器になると確信しています。
坂本新氏(電通ランウェイ):電通ランウェイは、メディアコミュニケーション業務を根幹に、ブランドエクスペリエンス領域まで事業展開を行っているエージェンシーです。私たちが直面していた課題は、一言で言えば「急激な事業拡大に伴うリソース不足」でした。
昨年来、案件が急増する中で、メディア業務特有の緻密な運用ナレッジをいかにコンパクトに若手に継承するかが急務となっていました。しかし、そのオンボーディングにベテランの工数が奪われるというジレンマもあり、自社専用のAI活用によってこの状況を打破できないかと考えました。そこで、グループ内でAIの実装から活用までを実現できる電通デジタルに相談しました。
坂本:個人的に主要な生成AIは一通り試しており、機密性の高いメディアデータを扱う以上、「セキュリティとレギュレーション」の担保は必須条件でした。
その上で検討したのは、既存の汎用的なAIツールをそのまま導入するか、より業務に最適化させた専用の環境を構築するかという点です。汎用ツールも利便性は高いのですが、最終的には私たちの独自業務に合わせて柔軟に機能をカスタマイズできる拡張性を重視し、「AI For Growth Canvas」を選択しました。
勝谷友秀(電通デジタル):私たちのスタンスは、クライアントの要件に最適なAIを実装することです。たとえ自社プロダクトを検討いただいている場合でも、まずは複数の選択肢からメリット・デメリットをフラットに比較します。
今回のケースでは、汎用的なAIでは手が届きにくい「電通ランウェイ独自のナレッジ」を直接AIに学習させ、現場で即戦力として機能させることが最優先でした。その点、カスタマイズ性と拡張性に優れた「AI For Growth Canvas」を基盤とした独自AI「Mates AI」の構築がベストだと判断し、ご提案しました。
阿部:最も時間をかけたのは、現状業務の可視化から理想像の設計、実行計画までを描く「構想策定」です。中でも現場へのヒアリングには特に力を入れ、最終的に25人の方に対して、1人あたり30分から1時間ほどかけてじっくりとお話を伺いました。
多くの現場の声を聞くことで、個人単位の課題が全体最適の視点ではどう見えるのか、本質的な課題は何なのかを見極めることができます。ここを丁寧に行ったことで、その後の要件定義や開発も非常にスムーズに進めることができました。
新井歩氏(電通ランウェイ):開発フェーズではアジャイル形式を採用し、「Mates AI」内に搭載するエージェントごとに2週間で初期開発、その後1週間単位でフィードバックを反映するサイクルを回しました。最終的に8つのエージェントを並行して開発するというハードな進行でしたが、社内メンバーにも積極的にプロトタイプを触ってもらい、多くの意見を集めました。使っていくうちに「もっとこうしたい」という前向きな要望が次々と出てくるようになり、その積み重ねが最終的なプロダクトの完成度につながったと感じています。
新井:AIは使われてこそ価値があります。そのため、電通デジタルによる複数回の社内勉強会に加え、当社では独自に全社員約200人に対して「1対1の個別レクチャー」を実施しました。単なる操作説明ではなく、個々の具体的な担当業務にどう組み込むかという活用方法まで落とし込むことを徹底しています。
その結果、リリースからわずか約3か月という短期間で、週間アクティブユーザー(WAU)50%を達成することができました。一般的な社内ツールの導入において、このスピード感で半数の社員が日常的に活用しているというのは、非常に手応えを感じる数字です。
勝谷:私たちは定着施策の設計を支援しましたが、全社員への個別レクチャーという徹底した運用は、電通ランウェイさんならではの熱量です。
阿部:単なる説明に留まらず、「この業務ならこう使える」という具体的な活用提案まで現場主導で行われていたことが、高い利用率につながった要因だと思います。
坂本:一番は熱意ですね。我々の細かい要望にも粘り強く向き合っていただきましたし、社内稟議や報告に関する実務的なアドバイスをいただけたのも心強かったです。
新井:デジタル領域の豊富な知見に基づいた業務理解の深さも印象的でした。現在は50%の利用率を最終目標の70%へ引き上げるべく、活用Tipsの共有などナレッジを全社で蓄積し、さらなる利便性向上を目指しています。
Mates AIの詳細はこちら
高品質な統合コミュニケーション提案とオンボーディングを実現する“AI Buddy”「Mates AI」とは?(電通ランウェイ公式note)
勝谷:今回のプロジェクトを通じて、企業ごとに最適化されたマルチAIエージェントを、構想策定から実装まで一貫して立ち上げる手法を「型化」することができました。このプロセスは非常に汎用性が高く、同様の課題を持つ多くの企業に横展開できるものだと確信しています。
一方で、今回の成功の大きな要因は、技術そのもの以上に、初期段階から現場の方々と丁寧にコミュニケーションを重ねた点にあります。業務ヒアリングや課題整理の各フェーズで密に議論し、本質的なニーズを抽出できたことが成果に直結しました。この「対話から始める」アプローチは、今後も私たちの支援の根幹として大切にしていきます。
阿部:AI活用において最も大切なのは、単に新しい技術を導入すること自体ではなく、それによって「現場の働き方や事業がどう変わるか」というビジョンを描き、定着までやり遂げることです。
電通ランウェイさんの事例が示す通り、現場の熱量と正しく設計された技術が噛み合えば、短期間で大きな変化を起こせます。私たちは、単なるシステムの提供者ではなく、その変革のプロセスを共に歩むパートナーでありたいと考えています。
「何から手をつければいいか分からない」という構想段階の悩みから、具体的な活用方法の模索まで、私たちはどのフェーズからでも力になれます。企業ごとの状況に応じた最適なAIトランスフォーメーションを、ぜひ共に実現させてください。
適合業務の特定からマルチAIエージェントの開発、現場定着までを一貫支援。企業ごとの業務要件に最適化されたAI活用基盤を構築します。
プロフィール
ダイレクトマーケティング領域のコンサルティングとデータ・AIを活用したDXコンサルティング経験を経て、現在は主にセールス・マーケティング・クリエイティブ領域のAIトランスフォーメーションの推進を担う。
外資コンサルティングファームを経て、2024年電通デジタル入社。入社後、生成AIを活用したAIMXの提案・デリバリーのリードを担当。AI×ヒトの協業を前提としたマーケティング業務の変革の構想策定から実開発、運用定着までをEnd to Endでご支援し、品質・効果の最大化に貢献。
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