AI浸透が進む時代において半歩先の未来を予測する専門組織「with AIラボ」とは
生成AIの急速な普及にともない、生活者の価値観や購買行動、カスタマージャーニーには大きな変化が起き始めています。電通デジタルは、AI時代の生活者インサイトや行動の変化とその予兆把握を目的とした社内専門組織「with AIラボ」を設立しました。本記事では、ラボ設立の背景や、独自に実施した定量調査から見えてきた「AIと人間の境界線」、そして次世代マーケティングへの展望について、プロジェクトメンバーに話を聞きました。
半歩先の未来を見据える2つの視点
――「with AIラボ」を立ち上げた背景をお聞かせください。
池田:2022年に生成AIが広く登場して以来、世の中のさまざまなシーンで大きな変化が起きています。国内電通グループ(dentsu Japan)では、独自のAI戦略「AI For Growth」の下でさまざまなソリューションを展開しており、マーケティング業務の高度化・効率化を急速に進めてきました。一方で、テクノロジーだけでなく、それを使う生活者インサイトや行動にもまた、変化が生じていると感じます。
生活者のインサイトを的確に捉え、それを企業戦略に生かしていくことは、dentsu Japan のコアコンピタンスです。今まさに「AIを前提とした生活者」を専門に研究する組織が必要であると考え、本ラボを発足しました。
――「with AIラボ」の活動方針を教えてください。
山崎:私たちは、ビジネスに直結する「半歩先の未来」を見据え、次の2つの視点を掲げています。
1つ目はAIエージェントが浸透した時代において、生活者の価値観や購買行動、カスタマージャーニーがどう変わるかを予測するという生活者を知るための視点です。2つ目はプラットフォーマーなどのAI戦略を把握し、「ブランドがAIに正しく推奨されるロジック」などの理解を深めるAIのトレンドを知るための視点です。
この2つの視点から、さらに「3つの問い(研究テーマ)」へとブレイクダウンし、下記のテーマでA~Cにグループ分けをして分科会ごとに研究を深めています。
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Group-A:生活者の半歩先のインサイトと購買行動はどうなるか。
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Group-B:AIやプラットフォーマーは、社会や情報のルールをどう作り変えようとしているのか。
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Group-C:AIに推奨されたあと、人はどのように行動しているのか。
with AIラボ独自の定量調査から見えた人間とAIの境界線
――今回実施した調査の概要を教えてください。
小野下:私たちが実施しているのは、AIが浸透した社会における生活者を捉えるための定点観測調査です。
一般的な「AI利用実態調査」は、認知率や利用頻度といった数字を測るにとどまるケースが多いと感じています。しかし当ラボの調査では、AIがどれだけ生活者の日々の意思決定に入り込んでいるかを知るために、生活者の購買行動におけるAI活用や利用意向、また深層心理やインサイトに踏み込んだ独自のカスタマイズ項目を設けている点が大きな特徴です。具体的には、次の2段構えでリサーチを行っています。
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購買行動におけるAIの関与度:各業界の購買行動時におけるAI利用状況、AI回答依存状況や、購入までの各プロセスにおいて、検索エンジンやSNS、店舗スタッフ・専門家の意見などと比較して、AIがどれだけ利用されているかを測定する。
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購買に閉じない人生観やインサイト:仕事、恋愛、家族、人生観といった人間らしい悩みにAIがどこまで介在しているかを探る。
人生観やインサイトについては、「AIに相談するか、”ヒト”に相談するか」という極端な状況の2択(全45問)。いわゆる究極の2択から、深層心理を解き明かすことで、生活者が「AIに委ねることを許す境界線」がどこにあるのかを見定めています。
――現在までに得られた調査結果から、特に注目すべき発見を教えてください。
小野下:私は、AIがどれだけ生活者の日常に浸透しているかという基礎データを分析しました。
驚いたのは、事前の想定よりもはるかに広範囲、かつ全世代に大きな隔たりなく普及している点です。特に高年代層への浸透も見て取れ、例えば60代男性でも生成AIを今までに使ったことがあるという利用経験者は、過半数にのぼり、そのうち85%の人が継続利用しています。
AIを何のために使っているかの活用用途については、全体的に調べものや商品比較だけでなく、雑談、暇つぶし、愚痴の聞き手といった「感情や本音を打ち明ける相手」としても使われています。単なる情報収集ツールを超えて、日常生活の「参謀」や「相棒」のような感覚で受け入れられているのが現状です。
森:私は生活者の買い物行動におけるAIの浸透度を分析しました。プライベートで現在AIを利用している層において、AIは既に、購買行動における「認知」と「比較」の段階に深く入り込んでいます。
「新しい商品に出会えた」「ブランドの知名度にとらわれず、スペックやコストパフォーマンスをフラットに比較できるようになった」といった前向きな変化が起きています。AIが純粋な条件ベースで選択肢を提示してくれることで、商品との出会いや比較のプロセスがよりフラットなものになってきていると言えます。
では「AIのおすすめ通りにそのまま買うのか」というと、即購入する人は2~3%という結果になりました。条件で正解が決まりやすい一部のカテゴリーにおいては、AIの提案に基づいて購買まで一気に完結しそうな兆しも少しずつ出始めてはいます。
しかし全体の傾向としては、まだまだ「AIに提案されて終わり」ではありません。実際に、ほとんどの人がAIに提案された後に、公式サイトや口コミを見たり実店舗に行ったりして、わざわざ「裏取り行動」をしていました。さらに、「最終的にどれを選ぶかは自分で決めたい」という人が半数を超えました。
情報収集ではAIに大いに頼るものの、「最後の決定権」までは委ねない。今回の調査時点では、そんな生活者とAIのリアルな距離感が見えてきました。この「どこまでをAIに任せ、どこからを自分で決めるのか」という境界線が今後どう変化していくのか、引き続き定点観測でしっかりと捉えていきたいです。
森本:私は、AIが生活者の価値観に及ぼす影響に焦点を当てました。
具体的には、先述の「AIに相談するか、”ヒト”に相談するか」 という人生観やインサイトに関する全45問の2択調査のデータを分析しています。その結果、情報収集などの場面では、AIは新しいテクノロジーというよりも、既に当たり前の「日常ツール」として定着しており、「AIに相談する」と答えた人が多数派でした。一方で、人生設計や恋愛、あるいは「子どもの夢」といった正解のないエモーショナルな領域では、どれだけAIに合理的な提案をされても、鵜呑みにせず「自分で最後まで考え抜いて決める」ことを重視する傾向が強く見られました。
「自分らしさ」に関わるコアな部分は、どれだけ効率的で確実だとしても手放したくないという、生活者共通の強い意思の表れだと感じています。
山崎:今回の調査は、「with AIの現在地――生活者インサイトから見えるAIと人間の境界線とは?」をテーマに掲げており、その境界線を知ることが大きな目的です。
今回の結果から、以下の3つの境界線が見えてきました。
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マジョリティ化の境界線:AIの利用者が既に過半数にのぼり日常の一部になっている
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業界やカテゴリーの境界線:高関与/低関与、スペック比較のしやすさ(機能価値や数字での比較など)といった複数の要因で、AIの浸透度が高い業界とそうでない業界の差が出ている
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決断の境界線:正確性が求められる領域はAIに任せる一方で、正解のない選択や「運命の出会い」のような人間らしい決断が求められる場面では、AIよりもヒトが選ばれている
この「AIに任せる領域」と「人間が考える領域」の境界線は、時代の変化とともに今後スライドしていくはずです。私たちはここを定点的に追い続け、生活者とAIの未来の関係性を見極めていきたいと考えています。
with AIラボが描く今後の展望
――「with AIラボ」では、今後どのように研究調査を進めていく予定ですか。
池田:実は私たちのラボのロゴマークには、頭に空欄の四角がついていて、そこへ自由に言葉を当てはめられるデザインになっています。まずは「生活者」という大きな主語からスタートしましたが、今後はこの空欄にさまざまなキーワードを掛け合わせて研究を深化させていく予定です。
例えば、「若者」「富裕層」といった特定のターゲットや世代、「子育て」「旅行」といったライフステージやモーメント、さらには特定の業種や商材へとスコープを絞り、より解像度の高いインサイトを掘り下げていくイメージです。
さらに、外部の専門家や有識者の方々とのコラボレーションも本格化させ、「買い物」や「教育」といった各カテゴリーにおける未来予測シナリオの構造化にも取り組んでいきます。
――研究成果は、企業のマーケティング戦略や顧客体験設計にどのように還元されていくのでしょうか。
小野下:これからのBtoCマーケティングは、「AIに選ばれるための設計」が不可欠になります。しかし今回の調査が示す通り、生活者はすべてをAIに委ねたいわけではなく、必ず「最後は自分で決めたい領域」を残しています。
AIの浸透によってスペックやコスパの比較がシビアになるからこそ、「AIに最適化しつつ、いかに人間の心に選ばれるブランドであり続けるか」という両利きの視点が重要です。そのブレイクスルーのノウハウを、企業の皆さまと、ともに形にしていきたいです。
山崎:今回の調査では、業界ごとのAI普及率や購買率、カスタマージャーニーといったマクロな定量データも網羅しています。ここに、私たちの強みである「生活者のインサイトや価値観」を掛け算することで、当ラボならではの独自の視点で、企業の皆さまの次世代マーケティング戦略やCX(顧客体験)設計を具体的にご支援できると考えています。
カスタマージャーニー全体で見れば、現時点のAIはまだ選択肢の一部に過ぎません。大切なのは「AIへの全振り」でも「AIの無視」でもなく、AIの利便性と人間の情緒的な価値をいかに「両輪」で回していくかという視点です。
今回の第1回調査結果は、プレスリリースやホワイトペーパーとして順次公開しますが、より詳細なデータや分析をご覧になりたい方は、ぜひ直接お問い合わせください。今後は、こうしたラボ独自の定点調査にとどまらず、企業の皆さまとの「共同研究」の枠組みも積極的に推進していきたいと考えています。ご興味のあるご担当者様は、お気軽にご相談ください。
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関連サービス
電通デジタルのAI研究所「with AIラボ」
AIの浸透で変わる購買行動と価値観を独自調査で可視化。生活者インサイトを起点に、企業のマーケティング戦略設計を支援します。
PROFILE
プロフィール
池田 純一
日系・外資系の広告会社を経て、株式会社電通のMCプランニング局に入社。企業のオンオフ統合メディアプランニング、ダッシュボードの設計・運用、クライアントの事業成長に貢献するキャンペーン設計やPDCA業務などに従事。2024年より現職として、マーケティングコミュニケーション領域におけるソリューション領域の管掌・全体統括を務める。
山崎 喜貴
株式会社電通に入社後、2022年より電通デジタルへ出向。現在はマーケティングプランニングセンターにて、企業の戦略プランニングや事業戦略立案、PDCAマネジメント業務をリードする。近年はデータやAIを戦略の核に据えたチームに所属。with AIラボではプロジェクト全体のけん引・マーケティング領域を担当している。
小野下 雄大
マーケティング調査会社、デジタル広告会社、電通のビジネスプロデュース局を経て、2021年に中途入社。現在はマーケティングプランニングセンターに所属し、主に日用消費財(FMCG)のマーケティングコミュニケーション戦略を立案。with AIラボでは分科会「Group-A」のリーダーを務める。
森 俊貴
新卒で電通に入社し、マーケティング局を経て2023年末より電通デジタルへ出向。現在はマーケティングプランニングセンターにて、大手企業からスタートアップまで多種多様なクライアントを対象に、マーケティング戦略の立案から実行・デリバリーまでを一気通貫で推進する。with AIラボの「Group-A」メンバーとして、AI時代における買い物行動の変化を追う。
森本 寧々
2023年に新卒入社。CX部門にて生活者目線の顧客体験設計に携わる。現在はAIトランスフォーメーション部門にて、企業のAI導入支援や業務変革(AIX)を推進するAIコンサルタントとして活躍。with AIラボでは生活者の深層心理分析を担当。
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