エージェンティックAI時代の到来。マーケターは「戦略の指揮者」へ

【前編】Adobe Summit 2026、自立型AIが変えるCXの未来

「Adobe Summit2026。エージェンティックAI時代の到来。マーケターは戦略の指揮者へ」背景は登壇者の集合写真。左からドニソン 咲妃、内記 利宏

2026年4月、米国ラスベガスで開催されたAdobe Summit 2026。米国のみならず、世界中から1万4000人もの人々が集結した世界最大級のデジタル体験カンファレンスでは、生成AIの「次」として「エージェンティックAI(自律型AI)」という新たなパラダイムが提示されました。全2回にわたってお届けする本シリーズ、前編は、現地に参加した電通デジタルのプランナー2名に、エージェンティックAIがもたらす顧客体験の未来と、マーケターに求められる役割の変化について聞きました。

世界最大級のデジタル体験カンファレンス「Adobe Summit 2026」の全体像

――まず、Adobe Summitとはどのようなイベントなのか教えてください。

内記:Adobe Summitは、アドビ社が毎年開催するデジタルエクスペリエンス領域における世界最大級のカンファレンスです。特定企業の製品・サービスの発表会という枠を超え、テクノロジーとクリエイティビティが交差する最前線であり、グローバルのマーケティング潮流を先読みするための「羅針盤」のようなイベントです。24回目となる今年は、現地に1万4000人以上が結集し、最新のプロダクトアップデートに加え、世界のトップブランドの先進事例や、今後数年のマーケティングの方向性を決定付ける思想が発表されました。

基調講演の会場前には開始前から長蛇の列ができ、「この瞬間だけは絶対に聞き逃せない」という参加者たちの期待に満ちた熱気を感じました。各セッションでもキャンセル待ちの列が発生し、2日目夜のSummit Bash(アフターパーティー)では至る所で白熱した意見交換が行われるなど、会場全体が圧倒的な活気とエネルギーに包まれていました。

会場を撮影した写真。大きなディスプレイの前にたくさんの人が座って見ている。ディスプレイには、街中にAdobeの広告が掲示されている様子が映っている(右)、ディスプレイを撮影した写真。CGで作られた球体に仮想のビル街とAdobeのロゴが映っている(左)
「Adobe Summit 2026」会場の様子

――電通デジタルとして現地に参加した目的は何ですか?

ドニソン:今回のSummitへは、経営層をはじめ、マーケティングや顧客体験領域、グローバルソリューションを専門とするメンバーなど、多角的な視点から総勢7人のチーム体制で現地に赴きました。

そのなかで、プランナーやマーケターとして日々クライアントのビジネス成長を支援している私たち2人は、「プラットフォームやAIがこれほど進化した」という技術論で終わらせず、実際に企業が日々のマーケティング活動において具体的にどのようにAI、特に後述するエージェンティックAIを活用しているかを把握し、急速に進化する技術が企業のマーケティング実務や組織構造にどのような影響を与えるのか、顧客体験をどう変えていくのかを見極めることが参加の最大の目的でした。

内記:最先端のグローバルトレンドを日本市場のコンテクスト(文脈)にいち早く翻訳して還元する。これが私たちのミッションです。プランナー視点でその「実効性」と「本質」を見極めるため、現地での一次情報の獲得にこだわりました。

写真:内記 利宏
内記 利宏(グローバルソリューション室 ソリューション事業部)

2026年のコアテーマ「エージェンティックAI」が示す顧客体験の未来

――今年のAdobe Summitを貫くコアテーマについて教えてください。

内記:今年のSummit全体を貫くテーマは、エージェンティックAI(Agentic AI)の転換でした。これは、従来の生成AI(Generative AI)のフェーズを超える概念です。従来の生成AIが「プロンプト(指示)に対してコンテンツを出力する」という作業単体の支援だったのに対し、エージェンティックAIはAI自らがビジネス目標とビジネス環境を理解し、複雑なワークフローを自律的に実行する能力を持っています。

しかし、これは「人間が不要になり、すべての判断がAIで自動化される」という意味ではなく、上位の目的や戦略を定め、ブランドのアイデンティティや審美眼をガードレールとして設定するのは、どこまでも人間(マーケター)の役割です。

ドニソン:つまり、マーケターが手動で細かなカスタマージャーニーを一つ一つ設計・設定する時代から、人間がインサイトに基づいて明確なゴールを指揮し、AIエージェントがデータとコンテンツ、チャネルをリアルタイムにつなぎ合わせて自律的に機能する時代へのシフトが示されたわけです。

AIが機械的な速さで実行を最適化してくれるからこそ、マーケターは「どのようなインサイトに着目し、どんなコンテクストを設計すべきか」という、人間にしかできない本質的な戦略・意思決定の領域に集中できるようになる。これが、今回示された人間とAIの新しい分業モデルの真髄だと捉えています。

写真:ドニソン 咲妃
ドニソン 咲妃(グローバルソリューション室 ソリューション事業部)

――具体的にはどのような発表がありましたか?

ドニソン:この大転換を象徴する発表として、特に3つに注目しました。1つ目は「Adobe CX Enterprise」です。これは自律型AIエージェントが駆動する新たな顧客体験基盤で、複数のAIエージェントが連携し、マーケティング施策の設計から実行までを統合的に管理する仕組みです。

象徴的だったのが、某米国化粧品小売大手の事例でした。夜間にインフルエンサーの投稿がSNSで拡散された際、人間が眠っている間にもAIエージェント(エンタープライズ・コワーカー)が自律的に作動。リアルタイムで顧客データを分析してセグメントを組み、最適なメッセージやオファーを自動生成して、夜が明ける前に複数のチャネルでキャンペーンを自律的に立ち上げてしまうという、驚異的なスピード感が披露されました。

内記:2つ目は「Adobe Brand Intelligence」です。エージェンティックAI時代にはコンテンツの爆発的な増加が見込まれます。AIが量産するコンテンツがブランドガイドラインから逸脱しないよう、自動でガバナンスを機能させる仕組みです。ブランドのアイデンティティを守りながら、マーケティングコミュニケーションの究極のパーソナライゼーションを実現するための鍵になると考えています。

こちらも、某クラウド型ITサービス大手の事例で、AIが生成した無数のバリエーションに対し、「ブランドのトーン&マナーに適合しているか」「法的(リーガル)な文言チェックをクリアしているか」を「Adobe Brand Intelligence」が瞬時に検証し、自動修正を施す様子が紹介されました。人間のクリエイティブの意図や判断パターン(暗黙知)をAIが学習し続けるため、ブランド毀損のリスクを排除しながら、圧倒的な量産体制を築ける点が非常に実用的でした。

内記:3つ目は「AI検索向けBrand Visibility Solutions」です。生活者の情報取得手段が検索エンジンからLLM(大規模言語モデル)へ移行しつつある中で、AI検索時代においてブランドの存在感をどう維持するか。これはLLM時代の新たな闘い方を提示するものでした。

ここでは、某スポーツ用品大手の事例をベースに、ユーザーがChatGPT上で「自分に合うゴルフアイテム」を検索した際、同社の製品が的確にレコメンドされるデモが行われました。Adobeの「LLM Optimizer」を使うことで、AIエージェントがWebサイトを巡回した際に見る「AI向けの読みやすさ(リーダビリティ)」を最適化し、AI検索の回答内(プロンプト内)で自社ブランドを「選ばれる存在」にするための、全く新しいLLMOの実用的な手法が提示され、非常に刺激的でした。


マーケターの役割変化と、企業が今取り組むべきこと

――エージェンティックAI時代にマーケターの役割はどう変わると考えますか?

ドニソン:世間では「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安の声も耳にしますが、私たちは全く逆の未来を描いています。AIが自律的に動くからといってマーケターの存在意義が薄れるわけでは決してありません。むしろ、「何をブランドとして重視し、どのドメインに注力するのか」「どのような生活者心理に着目し、AIにどのようなゴールを託すか」「そのアウトプットがブランドの個性に相応しく、かつ思想と本当に共鳴できているか」を鋭く見極める、より本質的な戦略思考や審美眼の重要性がこれまで以上に高まっていくと感じています。

内記:これまで多くの時間を割いていたオペレーション業務をAIが力強く支えてくれることで、ビジネスの「目的の設定」や「ブランドおよびAIのガバナンス」という、より高度でクリエイティブな意思決定にエネルギーを注げるようになると考えます。いわば、マーケターが「現場の作業者」から、膨大な仮説検証をAIとともに驚異的なスピードで社会に実装していく「戦略の指揮者」へとシフトしていくステップです。テクノロジーの進化によって、マーケターが持つ本来のクリエイティビティやビジネスを動かす情熱が、より純粋に生かされる世界がすぐそこまで来ているのだと確信しています。

――ツール導入以前に、企業が取り組むべきことは何でしょうか?

内記:最新のAIエージェントを動かすためには、その燃料となる「データ」の整理と統合が不可欠です。組織内でデータがサイロ化(分断)している状態では、AIは正しい判断ができません。顧客データやコンテンツ資産がバラバラな状態では、最新AIも宝の持ち腐れになってしまいます。

しかし裏を返せば、これまで多くの企業が未来を見据えて投資し、地道に整えてきたデータ資産や顧客基盤が、このエージェンティックAIの登場によって「いよいよ真に花開くときが来た」とも言えます。これまでの仕込みや準備、積み重ねてきたコストが、ようやく圧倒的なビジネス成果として回収フェーズに入る。そのための強力なブースターが、まさに今整ったわけです。

ドニソン:その上で、これから特に重要になるのが「AIに何をさせないか」「どうブランドの暗黙知を学習させるか」というプロセス設計です。数値化しにくいブランドの「らしさ」や「美意識」といった暗黙知を言語化し、AIの行動規準(ガードレール)として組み込む。この組織的なプロセス構築こそが、AI時代のコモディティ化を防ぎ、自社だけの独自性を輝かせる鍵になると捉えています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

ドニソン:エージェンティックAIがもたらす変革は、一過性のツール導入ではなく、マーケティングのあり方そのものを再定義する全社的なプロジェクトです。アドビの最上位「プラチナパートナー」として認定されている電通デジタルでは、戦略策定からデータ基盤の構築、AIを動かすシナリオ設計、そしてブランドの魂を宿したクリエイティブガバナンスの構築まで、各領域の専門家がアドビ製品のポテンシャルを最大限に引き出し、CX変革を一気通貫でサポートしています。

内記:いよいよ、これまで蓄積してきたデータ資産を武器に、マーケティングが企業の成長を引っ張っていく時代です。ぜひ私たちと共に新しい時代の市場をリードしていきましょう。


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世界最前線のテクノロジー潮流を捉え、日本企業のビジネスに実装。グローバル知見と現地連携で、次世代の顧客体験づくりを伴走します。

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PROFILE

プロフィール

内記 利宏

グローバルソリューション室 ソリューション事業部

大手外資系メーカーにてマーケティングに携わり、ブランドマネジャーとしてCSV経営プロジェクトを立ち上げからリードするほか、スタートアップのアクセラレーターなども幅広く担当。2024年に電通デジタルに参画。大手メディアのビジネスリサーチや新規事業構想支援、自動車メーカーやSaas企業などのマーケティング支援に従事する。

内記 利宏

ドニソン 咲妃

グローバルソリューション室 ソリューション事業部

消費者行動学を専攻後、2023年に電通デジタルへ入社。化粧品・飲料・保険・SaaS企業の調査・分析からインサイト抽出、カスタマージャーニー設計、戦略立案まで一貫して担当。顧客理解を起点としたマーケティングプランニングを強みとする。

ドニソン 咲妃

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