読み解くにあたっては、以下の2点が重要です。
①対前年比(同期間)
分析対象とする期間と、その1年前の同期間を比較します。今回は、コロナの検索行動への影響が深刻になった2020年4月1日から4月17日と、その前年を比較します(「0 『コロナへの関心』の変化」参照)。
「1 行動の変化」では、新型コロナウイルス症候群(COVID-19、以下"コロナ"と呼称)による行動の変化を取り上げました。では、その背景にある個人の心理・需要には、どのような変化が起きているのでしょうか。
心理の変化は、「からだ」への影響、「こころ」への影響、「くらし」への影響に分けて考えることができます。
「からだ」への影響としては、コロナ対策や、運動・フィットネスの需要が増加しています。
「こころ」への影響では、コロナへの不安、在宅、家族関係などに起因したストレスが増加。そうした不安からの「コロナ差別」も発生しています。
「くらし」への影響については、家計・経営資金、失業・休業などの検索も増加し、実体経済の悪化が懸念されます。また支出を「生活必需品」「健康関係」「子供の教育」に絞り、その他の支出を切り詰めたいという傾向を示しています。
次に、需要の変化ですが、在宅時間の増加に伴い、「在宅で利用でき、他人との接触が不要な商品・サービス」の需要が増加する一方で、「外出・接触が必要な商品・サービス」の需要が減少しています。コロナの影響(需要の増減や、特徴的な検索傾向など)は、業界・テーマごとに異なるので、1つずつ丁寧に見てみる必要があります。
本稿では、上記の各項目について詳細を解説いたします。
※リンク先のサイト名は角括弧[ ]で表示しています。サイト名表示がないものは、すべてGoogle トレンドへのリンクです。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
本節では、需要の具体例を説明するために「Google トレンド」を活用します。その読み解き方の説明も兼ねて、まずは「ボランティア」の検索需要(直近2年分)を確認してみましょう。以下のようなグラフが表示されるはずです。
読み解き方の解説を見たい方は、以下のボタンを押してください。
読み解くにあたっては、以下の2点が重要です。
①対前年比(同期間)
分析対象とする期間と、その1年前の同期間を比較します。今回は、コロナの検索行動への影響が深刻になった2020年4月1日から4月17日と、その前年を比較します(「0 『コロナへの関心』の変化」参照)。
今期の検索需要は、前期と比較して明らかに減少しています。では、この原因は何でしょうか?
②対前年比(年間)
年周期での検索需要の変動傾向を見ると、季節性の影響や、そのトピック自体の需要の変動が把握できます。
「ボランティア」というキーワードの検索需要量は、波線グラフより下の、山の面積で表せます。前期・今期を比較すると、全体的な量には極端な変化は見られません。これによって、「2020年1月以降のボランティア需要減少は、"ボランティア"という言葉自体が時代遅れになっているからではない」ということがわかります。
参考までに、1年周期で需要が極端に違う例も載せておきます。
対前年での年間比較・同時期比較から、「ボランティア」という検索需要の季節性は弱く、特定の危機が発生したときに急増することがわかります。
しかし、今回の「コロナ」という危機に対しては、検索需要は低下しています。これは皆さんもご想像のとおり、外出自粛要請や、感染すること・させてしまうことへの危惧が原因と見られます。
しかし、「ボランティア」に代表されるような利他の精神が弱ったわけではありません。例えば、せめて「寄付」で何かの役に立てないか、「在宅 ボランティア」で何かできないか、という需要は増加しています。
こうした利他精神が発露しているのは、日本だけではありません。Google によるアメリカでの検索動向調査では、以下の検索が増加しています。
「こんなときだからこそ、誰かのために、できる範囲で何か貢献できないか?」という利他精神が活性化しているのを見ると、人間はすてきだな......と思えます。
しかし、このようにうれしい話ばかりではありません。以下の先行調査2点は、「日本在住者の、コロナによる心理の変化」を浮き彫りにしています。
これらの調査からは、「からだ」「こころ」「くらし」の3点に関する不安の増加をうかがい知ることができます。そして、検索行動の変化もそれを裏付けています。
NRIの調査は「自身、家族の健康」に対する関心が、コロナ以前よりも増加していることを示しています。検索需要もそれを反映して、「コロナ対策」に関する検索が大幅に増加しています。
「対処法キーワードでの検索需要が、YouTubeでも伸びている」ことには注意が必要です(例:「マスク 作り方」のYoutube検索需要)。こうした対処法の検索需要は「漂白剤・コカインの服用が有効」[CBS News]、「5Gがコロナの感染を媒介」[WHO]などというフェイクニュースの対象になりがちです。情報の発信者が正しい情報を伝えようとする場合、YouTube/Twitterなどでの発信を行わないと、正しい情報が伝わらないことがあります。
また、健康に対する意識が高まり、「運動・フィットネス」系の需要も増加しています。3密を避け、健康にも良いイメージのある「自転車、自転車通勤」や、個人でのトレーニングが可能な「体操、トレーニング、筋トレ、ダンベル、縄跳び、ヨガマット」などの需要が増加。「ビリーズブートキャンプ」「ぶら下がり健康器」などの懐かしい健康法も需要が伸びています。
NRIの調査からは「ストレス・家族関係」に対する関心が、コロナ以前よりも増加していることも読み取れます。
コロナへの漠然とした不安、在宅へのストレス、家族との接触機会が増加することによるストレスなどが発生し、カウンセリング、頭痛薬などの対処法にも需要増加が見られます。
また、特定の民族・企業・グループなどに対する「コロナ差別」[法務省]も発生しています。
こうした動きも、コロナによる不安・ストレスの原因をわかりやすい誰かに押し付けて安心したい、という心理がもたらす誤りです。特にコロナのように、原因も不明なら、これまでに経験したこともない「不可視の危機」は正確な判断力を奪い、不安を助長します(参考:Wagner, Klaus「可視化しやすい「洪水」と、しにくい「地すべり」に対する反応差」[Wiley Online Library])。
家計への不安も増加しています。NRI調査では収入減少・失業・就職難・増税などについての不安が増加。今後の支出は「生活必需品」「健康関係」「子供の教育」を重視し、その他の支出を切り詰めたいという傾向を示しています。
消費動向調査でも、消費者の「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」「資産価値」の5項目すべての見通しが悪化しています。
こうした不安が、検索需要にも強く反映されています。2020年2月ごろから「支援金」「都 支援」「融資」などの外部資金調達や、「ファクタリング」「給料 ファクタリング」のような手持ち債券の現金化で当座をしのごうとする需要が増加。
外出自粛傾向が強まった2020年3月末からは「失業給付」「失業保険」「休業補償」「民事再生」などの検索が増加しており、実体経済の悪化が懸念されます。
「給料 ファクタリング」「失業給付」の検索需要[Google トレンド]
在宅時間の増加に伴い、需要も大きく変化しています。全般的な傾向として、「在宅で利用でき、他人との接触が不要な商品・サービス」の需要が増加し、「外出・接触が必要な商品・サービス」の需要が減少しています。需要が増加したものは、以下のように分類できます。
検索需要調査を、業界やテーマに関わる主要キーワード全般に対して行うことで、業界別の需要動向をうかがい知ることができます。以下は、アルバイト関係でコロナによる需要が伸びたキーワードの一例です。「家でできるバイト」「デリバリー需要の増加で求人が増える、宅配系のバイト」「人手不足が報道されることが多い、小売店でのバイト」などの検索需要が増加しています。
一方で、外出・対面が前提となる職種の検索需要は大きく低下。
医療系バイトの検索需要には、これらの心理がともに現れています。人手不足が報道されることが多い「医療」の需要が増加。しかし密接な対面が必要な病院・看護系では伸びが見られず、密接を避けられる「薬局」では伸び率が高い、という具合に感染への不安も見受けられます。
以下はテーマ別の検索需要動向です。(随時追加)
テーマ | 検索需要動向 |
旅行 |
|
---|---|
パート・アルバイト |
|
ジム・フィットネス |
|
ダイエット |
|
ファッション |
|
こうした変化に対処する際には、どのような点に注意すればよいでしょうか。Part3では「情報を発信するとき」「情報を受信するとき」の対処法を解説します。
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