肢体障害当事者が直面する、ウェブサイトの見えない壁とは?

ー肢体障害当事者の困りごとを知るー

「肢体障害当事者が直面するウェブサイトの見えない壁」背景は登壇者の集合写真。左から植木氏、板垣氏、海瀬氏、千葉

電通デジタルでは、「ウェブアクセシビリティプロジェクト」として、障害のある方や有識者を招き、実体験をもとに学ぶ社内勉強会を継続的に実施しています。今回は、肢体障害のある板垣 宏明氏と視覚障害のある海瀬 一氏を迎え、ウェブサイト利用時に直面する困りごとについて学びました。

先天性多関節拘縮症とはどのような障害か

――板垣さん自身の障害について教えてください。

板垣 宏明氏(アイ・コラボレーション神戸):私は「先天性多関節拘縮症」という自身の障害を、親近感を持ってもらえるように、あえて「やらせてもらっています」と紹介させていただきます。立って歩くことができず、腕も自力ではほとんど上がりません。背筋を使って、なんとか少し持ち上げている、という感覚ですね。握力もないため、グー・チョキ・パーといった動きはできません。

外出時は電動車いすを使い、自宅では自助具と呼ばれる福祉用具を活用しています。家電の操作はスマートスピーカー、室内の移動はキャスター付きの椅子を使っています。

写真:板垣 宏明氏
板垣 宏明氏(NPO法人アイ・コラボレーション神戸 理事長)

――パソコンやスマートフォンはどのように操作されていますか?

板垣:キーボードやマウスは市販のものですが、腕が上がらないため、「ShiftキーやCtrlキーを押しながら」といった操作ができません。そこで、「固定キー機能」(Macではスティッキーキー)を使っています。修飾キーを押しっぱなしにできるアクセシビリティ機能で、コピー&ペーストなどもこれで行っています。

また、腕の可動域が狭いので、マウスポインターの速度は最速に設定しています。少し動かすだけで大きく動いてくれると、それだけで操作が楽になります。

勉強会で投影された、板垣氏のweb利用方法を紹介するスライド。左側に板垣氏が利用している黒のキーボードと赤いマウスの写真を掲載、右側に普段のweb利用の方法を記載している。市販のマウスとキーボードを使用し、shift、ctrlなどはキーロックを設定していること、マウスは右手の肘と左手で操作していること、右手を台にして左手一本でタイピングしていることが説明されている。

スマートフォンに関しては、基本的には右手で入力(フリックと数回押す入力の併用)をしています。長文になると音声入力も使っています。iPhoneのアクセシビリティ機能「AssistiveTouch」を使い、画面ロックやスクリーンショットなど、やりにくい操作をショートカットにまとめています。

最近のスマートフォンは大型化が進んでいて、操作しづらさも感じます。そこで、キーボード表示を左右に寄せられる「片手用キーボード」を活用しています。状況に応じて切り替えられるので、とても助かっています。


肢体障害当時者が向き合う「ウェブサイトの壁」

――ウェブサイトを利用する中で、特に「障壁(バリア)」を感じるのはどんな場面でしょうか。

板垣:操作面で一番困るのは、クリック範囲が狭いことです。小さなボタンや、文章中の「こちら」という文字だけにリンクが貼られているものは、とても操作しづらいですね。一方で、申し込みフォームなどの入力フォーム系でよくあるラジオボタンやチェックボックスに関して、ラジオボタンやチェックボックスそのものだけでなく、ラベル(例:名前、年齢などを入力する内容について書かれている部分)のテキストをクリックしても選択できるようになっている設計は、かなり助かります。

使いやすいサイトの例でいうと、デジタル庁のサイトは「さすがだな」と感じました。画像(サムネイル)と文字が一体でクリックできたり、新着情報が横幅いっぱいクリックできたりと、クリック範囲がとても広い。ホバーしたときに濃いインジケーターが表示されて、「今カーソルが乗っている」とすぐ分かるのもありがたいですね。こうした配慮があるだけで、操作のしやすさは大きく変わります。

――スクロール操作についてはいかがでしょうか?

板垣:身体障害のある人にとって、スクロール操作は負担になりやすいです。マウスのホイールを回したり、2本指でタッチパッドをスクロールしたりするのが難しい場合もあります。そのため、ページ内リンク、いわゆる目次があると助かりますし、ページトップに戻るボタンがあると、さらに使いやすくなります。

特に、大事な情報がページの上部にまとまっていると、スクロール量を減らせるのでありがたいですね。

――サイト全体に関わるメニューなど、使いやすい、使いにくいなど気になる部分はありますか?

板垣:グローバルナビゲーションは、JIS規格ではあまりおすすめできないのは理解していますが、ホバーするとメニューが展開する方式のほうが、僕は使いやすいです。クリックしなくても、持っていくだけで出てくれるほうが助かりますね。

ただ、少しポインターを外しただけで閉じてしまうメニューは困ります。主要なナビゲーションは固定表示にしてもらえるとうれしいです。スクロールしても消えなければ、いちいち上に戻らなくて済みますから。

――掲載してあるコンテンツ面では、なにか気になることがありますか?

板垣:何よりも、情報を出し惜しみしないでほしいと思っています。例えば飲食店を探すとき、バリアフリー情報がまったく載っていないサイトと、「段差あり・エレベーターなし」と書かれているサイト。どちらがありがたいかといえば、間違いなく後者です。

情報さえあれば、こちらで行けるかどうかの判断ができます。逆に、情報がないこと自体が、大きな「障壁(バリア)」になっていると感じます。あとは、文字だけでは伝わりにくいところは、写真があればさらに判断材料が増えます。立位姿勢の人が「この段差は車いすの人には無理」と思っていても、車いす当人には「いや、これくらいならいける」というケースもあるので、見て判断するのも選択肢が増えてうれしいです。

――ウェブサイト制作者に一番伝えたいことを教えてください。

板垣:「Nothing About Us Without Us(私たちのことを、私たち抜きで決めないで)」という言葉があります。2006年に国連で採択された障害者権利条約の策定過程で生まれたスローガンです。

ここで言う「私たち」には、障害のある人だけでなく、健常者の皆さんも含まれていると思っています。ウェブサイトでも、テスト段階で当事者が参加するだけでなく、最初の設計の段階から意見を取り入れることが大切だと思います。

そうやってさまざまな声を聞きながら作っていくことで、「この人にも使える」という視点が積み重なり、結果として、より多くの人にとって使いやすいウェブサイトにつながっていくのではないでしょうか。


アクセシビリティは誰のためか——企業と当事者が「共につくる」時代へ

――本日板垣さんたちが神戸から来てくださいましたが、今回板垣さんたちが登壇するに至った経緯を教えてください。

千葉 順子(電通デジタル):板垣さんが登壇するイベントに何度か参加する機会があり、その度に板垣さんの視点でのサイトの使いやすさ、使いにくさを非常にわかりやすく、率直にお話しされているので、勉強になることが多く、弊社ならびにグループ会社メンバーなどたくさんの人に聞いて欲しいと思い、今回勉強会への登壇をお願いしました。

神戸からわざわざお越しいただくことに、申し訳なさはあったのですが、今回も期待を裏切らない、むしろ期待以上にためになるお話をたくさん聞かせていただき、板垣さんの話術の上手さもあり、笑いが絶えない楽しい2時間になりました。偶然、板垣さんの旧友の方がグループ会社にいらっしゃり、数年ぶりに再会!などサプライズもあり貴重な機会になったことも印象深いです(笑)。

写真:千葉 順子
千葉 順子(電通デジタル ウェブアクセシビリティプロジェクト リーダー)

――植木さんは板垣さんとは古いお付き合いと伺いましたが、板垣さんについてどのような方か教えてください。

植木 真氏(インフォアクシア):私が好きなのは、板垣さんが必ずご自身のことを「障害者やらせてもらっています」と紹介されるところです。あまり障害者の方と接する機会がない人は面食らうこともありますが、変な緊張が解けて自然と肩の力を抜いて話を聞くことができるようになります。誰に対してもこういったユーモアを交えてお話をされる方であり、NPOの理事長として様々なプロジェクトを手掛けていらっしゃいます。

写真:植木 真氏
植木 真氏(ウェブアクセシビリティプロジェクト監修/インフォアクシア代表)

――当事者の体験を直接聞くことで、どんな気づきがありましたか?

植木:今回、板垣さんがご自身の体験をもとに具体的に話してくださったことで、「だからガイドラインにこの達成基準があるのか!」という気づきがあって、参加された皆さんも一気に腑に落ちたのではないでしょうか。当事者ユーザーの方をお招きして勉強会を行っているのは、まさにそこが狙いの一つです。

千葉:植木さんがおっしゃるように、当事者の方からお話を聞くたびに、だからガイドラインではこうなっているのか、という納得感が深まります。今回はそれだけではなく「情報がないのが一番のバリア」という言葉が、とても印象に残り、考えさせられました。

コンテンツを制作する際に、伝えたい内容と伝わりやすい分量を考えて、時には情報を絞って提供することがありますが、見やすさやわかりやすさはもちろん考慮すべきですが、本当に必要な情報は、その人によって異なるため、伝える側の都合だけで出さない選択をしないというのは重要だと思いました。

特に、車いすや白杖などを使用している場合、そこに辿り着ける手段があるかや、その場所の環境情報は非常に重要なので、道順などはいくつか情報を提供することが大切だと思いました。私たちが気付かない何かが、誰かの利用を妨げていることがあるかも知れない、その視点は忘れないようにしたいと思いました。

そのためにも、施設を紹介するようなサイトの場合は特に当事者の方にレビューをしてもらい、内容として不足がないか確認してもらうことは大切だと思っています。

板垣:必要な情報をすべて出す、という意識がなかなか広まらないのは、やはり障害者を理解しようとする視点が、まだ十分ではないからだと思います。

――海瀬さんは、日常の中でどんな課題を感じていますか?

海瀬 一氏(アイ・コラボレーション神戸):僕は弱視ですが、iPhoneでは「VoiceOver」というスクリーンリーダー機能を使って操作することが多いです。ただ、アップデートのたびに、アプリによっては音声のフォーカスが合わなくなったり、「戻る」ボタンが使えなくなったりすることがあります。

そうなると、アプリごとにVoiceOverをオン・オフしなければならない。VoiceOverはiPhoneに標準で入っている基本機能ですが、まだ十分に対応できていないアプリも多く、もっと意識してほしいと感じています。

写真:海瀬 一氏
海瀬 一氏(アイ・コラボレーション神戸)

――電通デジタルのような企業がアクセシビリティ改善に取り組んでいることを、当事者としてはどう感じていますか?

板垣:正直、「ありがとうございます!」ですよね(笑)。障害当事者は、「この困りごと、誰に言ったらいいのか」と悩みながら生きています。「言うところがないし、まあ我慢して使おうか」と、それが当たり前になってしまっている。

だからこそ、電通デジタルのような企業が、当事者の話を聞きたいとか、設計・開発の段階から当事者を入れたいと考えてくれることには、感謝しかありません。

私がいつも言っているのは、「一緒にやりましょう」ということです。私らも、ただ巻き込まれるだけではなく、知見や経験、知識をきちんと養うという責任を持ちながら、共につくっていきたい。企業の皆さんには、「使えるもんは使う」くらいの感覚で、当事者をどんどん巻き込んでほしいと思っています。

海瀬:やはり、知ってもらうことはとても大事だと思います。視覚障害者も、音で情報を聞き取り、皆さんと同じように情報を取得しています。そうしたことを知ってもらえれば、私たちを取り巻く環境も変わっていくのではないか、という期待があります。

――最後に、この勉強会や取り組みを通じて、電通デジタルとして目指していることを教えてください。

千葉:勉強会を始めたのは、当事者がもつ困りごとについて自分の知っていることが非常に浅く、本当はどう思っているのか、何が嬉しいか、どんなことが課題なのかを想像したくてもできない、自分の思っていることが本当に役に立つのか判断がつかないことに不安を覚えたからでした。さまざまな方からお話を聞くことで少しではありますが、想像できることは広がっています。ただ、知れば知るほど奥深すぎてまだまだだなと感じていますね。

ただ、回を重ね、多くの方と話していて気がついたのですが、電通デジタルという企業が取り組んでいることで、ウェブアクセシビリティに興味を持ったり、また同じ志を持つ人たちの後押しになったりすることがあるんだ、この活動は当事者だけではなく、それを取り巻く人たちの役に立てているんだと実感するようになりました。また、私たちのクライアントは、日本を代表する大企業が多い。そうした企業が一社でも多くアクセシビリティ向上に取り組み、その必要性を伝えてくれることで、その考えが他の企業へ、さらに社会へともっと広がっていくといいなと思っています。

また、アクセシビリティ向上は、障害者のためだけではありません。いずれ年を重ねていく自分たち自身のためでもある。そうした視点を共有しながら、アクセシビリティ向上にこれからも尽力していきたいと考えています。

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PROFILE

プロフィール

千葉 順子

エクスペリエンス&コマース第1部門 オウンドメディア第1事業部グループマネージャー

大規模サイトのリニューアルやコーポレートサイト・B2Bサイトの運用、LP制作などの実績多数。ウェブデザイナー、制作ディレクター、プロデューサーなどの経験を経て、現在はアクセシビリティコンサルタントとしてウェブアクセシビリティプロジェクトのプロジェクトリーダーを務める。

千葉 順子

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