本質を射抜く「戦略的思考」とは。宣伝会議賞・5作品受賞者が語る創造力の源泉
1962年の創設以来、コピーライターの登竜門として広告界をリードするクリエイターを輩出し続けてきた宣伝会議賞。第63回となる今回は、応募総数56万4909点の中から現役コピーライター87人による厳正な審査が行われました。その激戦を勝ち抜き、電通デジタル社員3名の作品が5つの協賛企業賞を受賞。受賞作はどのような思考プロセスで生まれたのか、制作の裏側を伺いました。
本質への深掘りと発想の広がりが生むクリエイティブ
――宣伝会議賞に挑戦した理由を教えてください。
林:私は同じ部署内のコピーライター5人で「CoBra」というバーチャルチームを組んで活動しています。「せっかくならAIも活用して応募してみよう」という話が出て、私は31課題中20課題ほどに応募しました。
近藤:普段からさまざまな公募賞に応募していますが、宣伝会議賞は社会人1年目からほぼ毎年挑戦しています。公募賞は賞の特色上、比較的自由な発想で臨めます。普段の業務とは異なるアプローチや表現を試す場として、今回は25課題に応募しました。
堀井:クリエイティブ職に異動してまだ2年ほどですが、プランナー・コピーライターである以上、挑戦できる機会には積極的に臨むことを心がけています。本賞はもちろんですが、それ以外の公募も頻繁に応募をしています。今回も「出せるものはすべて出す」という姿勢で、ほぼ全課題に応募しました。
――受賞作を生み出すまでのプロセスを教えてください。
堀井:課題によって求められるものが異なるため、アプローチも変わります。例えばヤマサ醤油「これ!うま!!つゆ」の場合、商品メリットが明確だったため、まずリサーチなしに着想をすべて書き出しました。
その後、SNS上のユーザーコメントやAIを活用して不足していた視点を補い、改めて書き直すというプロセスを繰り返しました。
先にリサーチを行うと発想が制約されやすいため、まずは自由に広げることを優先しています。また、「仕事以外の時間が仕事を生む」という考えのもと、日常のインプットを大切にしています。
第63回 宣伝会議賞 協賛企業賞
| 協賛企業 | ヤマサ醤油株式会社 |
|---|---|
| 課題 | 日々忙しいみなさんの楽しい食生活を応援する「ヤマサ ぱぱっとちゃんと これ! うま!! つゆ」を手にとりたくなるキャッチフレーズ |
| キャッチフレーズ | 手間暇かけず、これかける。 |
林:今回は自分の中でAI活用を一つのテーマに設定していました。AIが提示する方向性を網羅的に確認したことで、かえって「自分が本当に表現すべき核心」が明確になり、 最終的には自らの手でゼロからコピーを書き上げました。結果としてAIの提示とは異なる作品になりましたが、思考の補助線としてAIを活用したからこそ、この答えに辿り着けたと感じています。
JTの課題は「パーパスである『心の豊かさをもっと』を20~30代の顧客にも理解されるようなアイデア」でした。「心の豊かさ」は「喜怒哀楽」と深い関係があるのではないかという着想が出発点です。
また、Z世代を中心に「コスパ・タイパ」重視の傾向が強まる一方で、効率を追い求めるだけでは埋まらない「心の余白」を求めている側面もあります。その相反する2つの価値観を掛け合わせることで、新しい豊かさの形を提示しようと考えました。
第63回 宣伝会議賞 協賛企業賞
| 協賛企業 | 日本たばこ産業株式会社(JT) |
|---|---|
| 課題 | JT グループのパーパス「心の豊かさを、もっと。」が20-30代に理解・共感されるようなアイデア |
| キャッチフレーズ | 怒ったり泣いたり。コスパ悪いことが、新しい私を生んでいる。 |
近藤:私は今回、「膨大な応募作の中に埋もれない、独自のポジショニングを確立すること」を大前提に置きました。宣伝会議賞ではユーモアのある作品が注目されやすく、多くの表現がそこに集中する傾向があります。そこで、あえてその逆を行き、企業の本質を鋭く突く「タグライン的発想」で差別化を図れば、自ずと際立つ存在になれると考えたのです。
例えばタンスのゲンの課題は「ECブランド『タンスのゲン』の魅力を伝えるキャッチコピー」でした。商品数・デザイン・ユニークさといった個々の強みをそのまま表現するような定番のアプローチではなく、「それらの根底にあるものは何か」を掘り下げました。辿り着いたのは「アイデアフルな思考がこの会社にはある」というエッセンスで、そこから受賞コピーへとつなげました。
第63回 宣伝会議賞 協賛企業賞
| 協賛企業 | オザックス株式会社 |
|---|---|
| 課題 | オザックスの魅力を一言で伝えるアイデア |
| キャッチフレーズ | 創業115年。ベンチャーだ。 |
| 協賛企業 | タンスのゲン株式会社 |
|---|---|
| 課題 | 家具・インテリア×EC「タンスのゲン」の魅力を伝えるアイデア |
| キャッチフレーズ | その引き出しがあったか。 |
| 協賛企業 | マニュライフ生命保険株式会社 |
|---|---|
| 課題 | 人生100年時代の人生設計パートナーとして、マニュライフ生命に相談したくなるアイデア |
| キャッチフレーズ | その不安は、プランになる。 |
ただし、抽象化だけではコピーが単調になるため、アイデアを横に展開する作業も並行して行っています。本質への深掘りと発想の広がり、その両輪があってこそクリエイティブジャンプが生まれると考えています。
審美眼と選ぶ力で差がつく、AI時代の人間独自の価値
――今後、コピーライティングにおいて、人間とAIはどのように協業すべきだと考えますか?
林:人間は「良し悪し」や「美しい/美しくない」を判断するフィルターとしての役割を担うようになるのではないかと考えています。AIが膨大なアウトプットを生成できる時代だからこそ、個人の審美眼や視点をフィルターにして純度の高いコピーを作り、人の心を動かす。そうした協業スタイルが当面続くのではないでしょうか。
近藤:現時点では、AIは人間を「良い意味で追い込んでくれる存在」だと捉えています。AIの生成物を見て、「これくらいのアウトプットはみんな出してくる。ならば自分はそれを超えるものを考えよう」という刺激剤にしています。最終的には、AIの進化によって人間は本当に楽しいと感じることに集中できるようになるのではないかとも考えています。
堀井:量を生み出す点では、人間はもはやAIに及びません。そのため人間の価値は「何を選ぶか」というディレクション能力に移行していくと思います。AIが生成した100案からベストを選ぶには、日常の中でどんな広告に心が動き、何が人の心を動かすかを体感として持っていることが不可欠です。AIが制作し、人間がディレクションする。そうした分業が進んでいくと考えています。
本質を突く言葉で、クライアントの課題を解決する
――受賞を通じて磨いた力を、今後のクライアントの課題にどう生かしていきますか?
近藤:「本質に迫り、他と重ならないコピーを書く」というテーマで挑んだ結果、3作品の受賞につながりました。課題の根幹を押さえることで、AIへのディレクションも的確になります。今回の試行錯誤で一つの型を確立できたと感じているので、それを軸にしながら、さらに深めていきたいと考えています。
堀井:今回の経験から、2つのことを学びました。1つ目は「小さな工夫が人を動かす」という広告の本質です。授賞式では各社からお祝いの花が届く中、ヤマサ醤油様が私のコピーと名前を入れたバルーンアートをサプライズで贈ってくださいました。私以外の方も写真を撮るほど目を惹く素敵なもので、情報があふれる時代だからこそ、ちょっとした驚きや工夫が人を深く感動させるのだと、広告の本質をその瞬間に体感しました。
2つ目は「本質を一言で言い当てる力」です。先輩方からも指摘を受け続けてきたことでもありますが、これまでは核心に迫るコピーが書けず、「外角低めのボールばかり投げている」という感覚がありました。今回初めて、自分の中でど真ん中に剛速球を投げられた手ごたえがあり、そこさえ定まれば軸のぶれない企画が生まれると確信できました。この2つの学びを生かして、クライアントの課題に真摯に向き合い、本質を突きながらも人を驚かせる広告を作っていきたいと思っています。
林:今回の受賞コピーは、普段自分が書くものと比べてかなりの長文です。「コピーは短く端的にまとめるべき」という意識が強かったのですが、その枠を外してもいいのだと気づく契機になりました。また、実際の案件では提案時には厳選して出すことが多かったのですが、幅広く提示することが最終的にクライアントのためになると実感できたことも、今後に生かせる収穫です。
――今後、どのようなクリエイティブを生み出していきたいですか?
堀井:授賞式で、自分のコピーを前にクライアントが喜ぶ姿を直接目にしたのは初めての経験でした。クライアントの課題を真摯に解決する広告を作りたいという思いが、改めて強くなりました。「面白い」の基準を日々のインプットを通じて高め続け、その基準を超えた先に、人を動かす広告が生まれると信じています。今持っているこの感覚を忘れずに業務に向き合っていきたいと思っています。
林:人に気づきをもたらし、その人の人生が少し前向きになる。その変化がアクションにつながり、ビジネスへの貢献にもなる、そうした連鎖を生み出せるクリエイティブを作っていきたいと考えています。「社会を変える」というと大きく聞こえるかもしれませんが、どんなに小さな変化であっても、それは確かな意味を持つと信じています。規模にとらわれず、一つ一つの仕事に向き合っていきたいです。
近藤:目標は2つあります。1つ目は「説明のできないコピー・企画」を作ることです。AIがあらゆる表現を論理的に生成できる時代だからこそ、「なぜか好き」「意味はわからないけれど、気になる」と感じさせるものを作りたい。ロジックを超えた表現こそ、これからの人間に求められると考えています。
2つ目は「経営層から頼られるクリエイター」になることです。クライアントの課題を丁寧に紐解き、本質を言語化して安心感を与えられる存在として、「近藤に任せれば大丈夫」と信頼していただけることが、これからの目標です。
PROFILE
プロフィール
林 秀和
シンクタンク、マーケティング・リサーチ会社を経て、2017年に電通デジタルに入社。 コピーライター・クリエイティブディレクターとして、ネーミング・サービスタグラインからTVCMやWeb動画、LP、バナー、TDまで幅広い領域でのクリエイティブ制作に従事。 コピー起点の発想とストラテジストとしての視点を組み合わせて、デジタル領域を起点にマスも含めて戦略・企画・配信設計まで一気通貫して行っている。 パーパスを起点にコアアイデアと施策を生み出すワークショップ型ソリューション「PIECEキャンバス」を開発するなど、つくり方からつくることに興味を持つ。
近藤 昌太郎
デジタル広告代理店にて、コピーライター・クリエイティブプランナーを兼務。言葉を軸に戦略・企画・制作・運用を一貫して担当。メタバース、デジタルツイン、AIなど最新テクノロジーの活用を積極的に行う。広告に閉じない事業視点での社会課題解決を行うため、電通デジタルに参画。
堀井 大
「数字の先にいる人の心を動かす。それが、結果として数字を動かす」をモットーに、TVCM、WEBCM、SNS、OOHなどオンオフ統合のコミュニケーション設計から施策実行を担当。邪魔者扱いされがちな広告だからこそ、「あ、見てよかった」と思ってもらえるようなクリエイティブを日々追求。
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