製薬オムニチャネルを成果に変える、“他業界知見×現場伴走”のアプローチ
電通デジタルのdentsu healthは、デジタル・組織・マーケティングを横断し、製薬・ライフサイエンス業界の「変わり続ける力」を支援するヘルスケア領域の総合支援サービスです。MRの役割変化やオムニチャネル化、患者基点へのシフトなど構造的な変化が加速する中、他業界のオムニチャネル知見も交えながら、dentsu healthが提供できる価値や果たす役割、その強みを紹介します。
なぜ製薬会社のオムニチャネルは「壁」にぶつかるのか
――多くの製薬会社がオムニチャネル戦略を進めていますが、どのような課題が見られますか?
登坂 統彦:よく見られるのは、課題ごとに個別のITツールを導入していった結果、システムが乱立して現場の運用が複雑化しているケースです。もう一つは、グローバル本社と同じツールの導入を指示されたものの日本の実情に合わず、現場のオペレーションに負担が生じているケースです。
根本にあるのは、何から手を着けるべきか「真の課題」の絞り込みが難しい点です。問題意識は強くても、どこから紐解くかで足踏みしてしまう。だからこそ私たちは、まず現場への丁寧なヒアリングから悩みを解きほぐし、優先して解決すべき課題として構造化するところからご一緒しています。
大船 良:私は製薬業界一筋ではないので外から見た印象になりますが、こうした課題は業界特有の長年の慣習に起因するところが大きいと感じます。その最たるものが対面による信頼関係を何より重視する文化で、これが結果として、デジタルチャネルやデータを使ったマーケティングへの移行に時間を要する要因になっていたと感じます。ただ、コロナ禍を経て業界全体の意識は大きく変わりつつあります。デジタルチャネルやデータ活用の価値が再認識され、デジタルフットプリントをマーケティングに生かそうという機運も、ここ1〜2年でようやく業界全体に広がってきました。
狩野 洸寿:現在、MR(医薬情報担当者)の生産性向上は喫緊の課題となっています。ピーク時に約6.5万人いたMR数が現在は約4万人まで減少しており、従来のように医師一人ひとりに手厚い訪問フォローを続けるのは難しくなりました。
さらに、がんや希少疾患などのスペシャリティ領域の製品が増えたことで、求められる情報提供の質は以前にも増して高まっています。人員が減っても高い売上目標を達成しなければならない以上、従来の営業スタイルのままでは限界があります。だからこそ、営業活動をデジタルで補正・強化していく取り組みが今、強く求められております。
大船:製薬業界は他業種と比べて格段にコンプライアンスや法規制が厳しく、医師へのメール配信一つとっても、厚生労働省のガイドライン、薬機法、プロモーションコードなど守るべきルールが数多くあります。人命に関わる製品を扱う以上、誤配信は許されない。大事な説明は必ず対面で、という習慣を大切にされてきた背景やご苦労はとてもよく分かります。ただ、MRが減っている現実の中で従来のやり方だけに留まってしまうのは、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態になりかねないとも感じます。
そうした課題に対して、直近ではAIを活用して業務を補完・強化する動きも本格化しています。例えば、オウンドサイト上で医師からの問い合わせに即座に回答できるAIチャットボットの構築や、MRが送るメール本文のコンプライアンス違反をAIで事前自動チェックする仕組みなど、AIの実装ケースが非常に増えています。実際、クライアントの皆様から「AIを活用して現場の安全性を担保しながら業務を効率化できないか」といった具体的なご相談やお問い合わせを頂く機会も急速に増えています。厳格な規制を守りつつ現場の負担を減らす手段として、こうした最新テクノロジーをどう組み込んでいくかが今まさに問われていると感じます。
他業界のCX手法を製薬に「翻訳」する難しさ
――製薬業界に、他業界のCX手法やデジタル化の知見を適用する難しさはどこにありますか。
狩野:顧客にあたる医師の中に、デジタルツールでのコミュニケーションになじみが薄い方や、対面でのやり取りを好まれる方がまだ多いことが挙げられます。またMR自身も、「直接お会いすることこそが誠意」と教わってきたことや「過去の成功体験」が背景にあるため、双方の意識改革が必要です。ただ、近年は環境の変化に伴い、そうした意識も少しずつ変わり始めており、取り組みを強化している企業も増えつつあります。
大船:デジタルチャネルにおいて最適化された顧客体験を提供するには、CDP(顧客データ基盤)などを活用して顧客ごとの各種データを統合していくアプローチが主流ですが、肝心のデータが整備されていないケースがとても多いと感じます。社内データのサイロ化は製薬業界に限った話ではありませんが、今なおこの段階にある企業が多いという印象です。
例えば、MRや営業部門が持つデータ、ウェブサイトを管轄するIT部門が把握している行動ログ、メディカル部門のデータなどが、医師一人一人に対して横串になっていない。ウェブサイト上で行動ログを取得できる環境が整っていない企業も、意外と多いですね。
登坂:製薬会社の支店や営業所に貴重な営業データが埋もれてしまっているケースも多く見られます。本社に共有されていないエリア固有の情報や、現場で個別に管理されている医師の行動履歴データが残されていることは珍しくありません。データを活用したいという想いは強い一方で、業界特有の制約や慣習があるため、有効活用に踏み切りづらいというジレンマも感じます。
構想で終わらせないオムニチャネルの現場伴走
――これまでにdentsu healthで手がけた事例に、リアルイベントでのチェックイン(受付)時にリアルタイムでデータ取得・連携させた事例があります。どのような狙いで導入されたのでしょうか。
狩野:狙いは大きく3つあります。「現場データのデジタル活用」「医師の体験価値(CX)向上」「MRの業務負担軽減」の同時実現です。
これまで、医師向け講演会では手書きの芳名録が主流でした。しかしこれは、多忙な先生方に手間をかけるだけでなく、社内報告用にMRが後からExcelに手入力したり、面倒で紙のまま放置されたりと、業務効率の面でもデータ活用の観点でも非常にもったいない状態でした。処方に大きく影響する貴重なリアルイベントのデータが、現場に埋もれてしまっていたわけです。
そこで受付体験をスマートにすることで医師のCXを高めつつ、MRの業務負荷を軽減する。そして取得したデータを即座に次のマーケティングに活かせる環境を作ることが、今回の取り組みの目的でした。
大船:MRの営業活動を後押しするためのデジタルチャネル、という立ち位置がとても大事です。講演会や学会、セミナーといったリアルチャネルは、製薬会社にとって欠かせないもの。そこで得られる医師の情報を、医師にもMRにも負担のない形でどう取得していくかを考えることが重要だと思います。
登坂:チェックイン時のリアルタイムデータ連携の事例は、他業界で浸透している手法であっても、製薬業界にそのまま当てはめるのが難しかった一例です。これまでの業務ルールや運用の前提がある中で、新たなプロセスへ移行するには乗り越えるべき壁が多く、最適解を探すのが容易ではなかったと言えます。そこに真摯に向き合い、真の課題解決にフォーカスするお手伝いこそが、私たちの果たすべき役割だと考えています。
大船:ツールを運用するのは基本的に製薬会社のIT部門ですが、それによって医師やMRの働き方をどう変えていくかは、マーケティングや営業企画部門などの役割です。IT部門に顧客体験の設計や浸透まで委ねるには、やはりハードルが高いのが現実です。そうした部門間の役割の違いを踏まえ、医師や現場の体験に基づいたデジタル活用をトータルで提案・伴走できるのは、我々の強みだと感じています。
――具体的にはどのような支援をしているのですか。
登坂:製薬会社の変革を推進される方々の描く展望を言語化し、社内合意のための上申資料作成から実装計画の策定、現場での運用定着まで、常駐に近い形で一貫支援しています。絵を描く前に現場へ深く入り込み、丁寧なヒアリングや実務の理解を通じて、本質的な課題と解決策をともに見出していく。それが私たちのスタイルです。
大船:私は先述したチェックイン時のリアルタイムデータ連携の運用シナリオ作成まで担当しました。講演会前日までの医師の予約、当日QRコードでチェックインした医師をMRが検知して会いに行く流れ、後日のサンクスメール送付など、さまざまなオペレーションのシナリオです。
こうしたきめ細やかな運用シナリオを作ることができるのは、dentsu health室には医師やMRの行動・体験を深く理解しているメンバーがいるからこそだと感じています。例えば、会場到着後にランチョンセミナーへ向かう医師なら「両手が塞がっているかもしれない」と配慮し、通知のタイミングや画面設計を工夫する。ITの視点だけでは見落としがちな現場のリアルな立ち振る舞いまで汲み取り、システムに落とし込んでいく意識こそが、本当のCX設計には不可欠だと実感しています。
登坂:オムニチャネルを定着させるには、医師や患者様へのCX(顧客体験)だけでなく、推進する従業員のEX(業務体験)を高める視点が不可欠です。デジタル化と標準化で現場の負荷を減らし、生産性と体験価値を両立させる。現場のリアルな課題起点で向き合うことが、結果として組織全体の変革につながります。
社内外の課題に寄り添い、ともに挑むデジタル変革
――製薬会社の方と一緒にCXを描く際に心がけていることは何でしょうか。
登坂:まず、「CX」という言葉が指す意味合いや目的について、事前にお互いの認識を丁寧に揃えていくことです。業界特有の文脈を考慮せずに「CXはこうあるべき」と切り出してしまうと、現場の感覚とズレが生じてしまいかねません。製薬業界の現場のリアルを十分に踏まえたうえで対話を進める姿勢が何より大切です。
以前、製薬会社の上層部の方々にCXに関するワークショップを実施した際も、最初は皆さま様子見の雰囲気が伺えました。しかし、私たちが提示した内容が、まさに皆さまが現場で大切に培ってこられた実体験を体系化したものだと伝わると、場の空気がガラリと変わり、非常に前向きに議論へご参加いただけました。ご自身の営業活動や経験と結びついた瞬間に、深い腹落ちや共感が生まれます。他業界の手法をそのまま当てはめるのではなく、製薬業界の文脈に合わせて「翻訳」し、現場にとって真に価値ある形へ昇華させてご提供できること。それこそが大きな強みだと考えています。
狩野:私たちのチームには、描いた絵を現場に浸透させることに長けたメンバーが多いと感じます。製薬会社の特有かつ複雑な業務プロセスを深く理解しているからこそ、単なるITツールの導入にとどまらず、全体のCX(顧客体験)を見据えた本質的なアドバイスが可能です。特に強みと言えるのは、現場推進における「壁」を乗り越えた豊富な実績と経験値を持っている点です。「どこで躓きやすいか」「現場の巻き込みで何が課題になるか」といった現実的な課題と解決策を生々しく語り、伴走できる。まさに今、製薬業界の現場で最も求められている支援の形を体現できていると感じます。
――最後に、製薬業界でオムニチャネル推進や組織変革に挑まれている皆さまにメッセージをお願いします。
大船:ツールはあくまで手段です。入れて何をするのかを明確にしなければ、ツールの良し悪しの話で終わってしまう。自社の基幹システムに合うのか、導入後にマーケティングやMRの業務がどう変わり、何が楽になり、何が増えるのか。ツールを提案する以上、そうした業務整理まで支援する責任があると考えています。電通デジタルは国内の主要ベンダーと幅広く付き合いがあり、課題に最適なソリューションを提案できると自負しています。
狩野:私自身、以前は製薬会社にいましたので、他部署を巻き込んで変革を起こすことの難しさは身に染みてよく分かります。実際、ご支援の現場でも、担当者の方がお一人で、あるいは自社の中だけで変革を進めるにはどうしても限界がある場面を何度も目にしてきました。
今求められている変革は、従来の製薬業界のやり方の延長線上ではうまくいかないことも増えています。だからこそ、製薬業界の深い知見はもちろん、他業界での成功事例や知見も併せ持つ「第三者」としての存在が不可欠です。社内だけでは突破できない壁にぶつかったとき、ぜひ私たちを相談相手として思い出していただけたら嬉しいです。
登坂:製薬会社の中には、CXやオムニチャネルを冠した専門部署や役職を新設される動きが広まっています。そうした現場で推進役を担う方々としっかり目線を合わせ、ともに試行錯誤しながらプロジェクトを成功へ導くことが、いま私たちが果たすべき役割だと考えています。お声がけいただくきっかけやプロジェクトの形態も様々で、主に以下のようなご相談からスタートすることが多いです。
- フルオムニチャネル策定:戦略からCDP/CRM等の基盤整備まで、バラバラな顧客体験を一本化
- Mops(オペレーション最適化):複雑化した現場のデジタル運用を整理・標準化し、実行力を伴走支援
- 個別製品でのベストプラクティス創出:特定の製品・ターゲット医師に合わせたコンテンツとチャネル運用の最適化
- オウンドメディア・サイトリニューアル:UXデザインやAI活用により、医師に選ばれるサイトへと刷新
大切なのは、ツール・システム導入ありきではなく現場の「真の課題」から始めることです。医師へのCXだけでなく社内スタッフのEX(業務課題)まで組み込まなければ、ツールを増やしても形骸化してしまいます。限られたリソースで成果を出すためにも、私たちは現場に深く入り込み、実効性のある運用を皆さまとともに作り上げていきます。
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ツール導入ありきではなく、現場の真の課題から始める。医師へのCXとMRの業務体験の両面から、製薬・ライフサイエンス業界のオムニチャネル変革を伴走します。
PROFILE
プロフィール
登坂 統彦
製薬・ライフサイエンス業界に特化したCXコンサルタント。医師と患者を顧客と捉え、医師が治療を行い、患者が治療を受ける治療体験をいかに向上させるかという視点から、製薬会社へのコンサルティングと体験設計を手がける。現場に入り込んで課題を明確にし、上申資料や実装計画書の作成まで伴走するスタイルで、CXとEXの両面から製薬会社の変革を支援している。
大船 良
業種を問わず、BtoB・BtoCの幅広い企業を対象に、コミュニケーション戦略の設計から、それを実現するシステムやツールの開発・導入、データ活用、運用とPDCAの推進まで、マーケティング業務を一貫して支援するストラテジスト。製薬領域ではdentsu health室と連携し、他業界で培った知見を生かしたデジタル活用の提案や、現場に常駐してのオペレーション設計にも携わっている。
狩野 洸寿
製薬会社、コンサルティングファーム、医療データベンダーを経て現職。製薬業界向けのCXコンサルタントとして、製薬会社での実務経験と医療データの知見を生かし、オムニチャネル戦略の策定やデータ活用を支援している。戦略を描くだけで終わらせず、MRの理解促進など現場への浸透にも力を注ぎ、構想から実行までを一貫して伴走する。
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