「美容」ではなく「不快を減らす」へ。男性本人の声から読む、購買インサイト

【第1回】Insight to Commerce|男性スキンケア市場特集(前編)

「第1回、Insight to Commerce。男性スキンケア市場特集、前編。美容ではなく不快を減らすへ。男性本人の声から読む、購買インサイト」背景は登壇者の集合写真。左から川﨑 帆夏、谷垣 和杜、増島 亜海

ECや店頭における購買行動は、商品カテゴリーや購買者本人の意識だけでは捉えきれないほど複雑になっています。「Insight to Commerce」は、生活者の声と購買データを掛け合わせ、カテゴリーを横断して、ブランドが選ばれる背景と購買体験の設計を読み解く連載です。第一弾では男性スキンケア市場の概況を前編・後編にわたり取り上げます。本記事(前編)では、男性本人の声から、購買を阻む壁と、その先にある購買体験設計への示唆を読み解きます。

男性スキンケアを、購買体験から読み解くわけ

――連載第1回では、男性スキンケア市場を取り上げます。このテーマを購買体験の視点から見る意味を教えてください。

川﨑:男性スキンケア市場は伸びていますが、単に「男性の美容意識が高まった」と捉えるだけでは、購買行動の実態を見落としてしまうと感じています。本人の意識だけでなく、生活上の不便、家族やパートナーからの推奨、店頭やECでの商品の接触など、複数の要因が重なって「買う理由」が生まれているからです。

だからこそ、生活者の声と購買データを掛け合わせる必要があります。どの悩みが、どの季節に、どの接点で顕在化し、誰の一言で購入に近づくのか。そこまで分解していくと、広告、店頭、EC、CRMをどうつなぐべきかが見えてきます。

写真:川﨑 帆夏
川﨑 帆夏(コマース&プロモーション部門 プロモーションデザイン部)

増島:インテージSCI(全国消費者パネル調査)のデータを見ると、男性用化粧品カテゴリーは前年比104.4%と伸長しています。ただし、購買の中心には洗顔料、拭き取りシート、シェービング関連など、日常の身だしなみに近いアイテムがあります。市場は「美容に積極的な一部の男性」だけでなく、毎日の洗顔や髭剃りの延長でケアを取り入れる人たちによって広がっていると見ています。

男性スキンケア市場、年間平均購入額の比較グラフ。比較対象年は2024年と2025年。2024年は57,709円に対し、2025年は4.4%アップし60,267円であった。

購買データを見ると、どの時期に需要が立ち上がるのか、どのカテゴリーが入口になりやすいのかが見えてきます。そこに生活者の声を重ねることで、単なる商品訴求ではなく、悩みが顕在化する直前に接触するプロモーション設計が可能になります。

写真:増島 亜海
増島 亜海(コマース&プロモーション部門 ECモールコンサルティング部)

谷垣:一人の男性としての実感からも、いきなり「美容を始めよう」と思ってスキンケア商品を買う人ばかりではないと思います。洗顔後につっぱる、髭剃り後にヒリヒリする、夕方になると顔が疲れて見える。そうした小さな不快が先にあり、それを減らしたいから使ってみる、という方が自然です。

今回、男性を対象に実施したスキンケアに関するアンケート結果からも、スキンケアを「美容」というより、清潔感の維持や肌の不快を減らすためのものとして捉える傾向が見られました。スキンケアという言葉には、まだ少し構えてしまう人もいると考えます。しかし、「清潔感を保つ」「肌の不快を減らす」「朝の支度を整える」という言い方であれば、自分ごと化しやすい。男性スキンケアは、髪を整えることや髭を剃ることに近い、社会生活の中で自分のコンディションを整える行為として広がっていくのではないでしょうか。

写真:谷垣 和杜
谷垣 和杜(コマース&プロモーション部門 Amazonコンサルティング部)

伸びているのは、美容意識だけではない

――男性スキンケア市場は若年層の美容意識や「美容男子」の文脈で語られることも多いですが、実際にはどのような広がり方をしているのでしょうか。

増島:若年層の美容意識が市場を押し上げている面はもちろんあります。ただ、データ上で購買額の中心を見ると、毎日使う基本アイテムの存在感が大きい。洗顔料、汗や皮脂を拭き取るシート、シェービング前後のケア用品など、生活動線に近い商品が多く見られます。一方で、高機能なオールインワン商品や、年齢による乾燥・ハリ不足などに応える保湿ケアにも一定の購買の山があります。つまり市場は、一枚岩のブームとして広がっているのではなく、「最低限のデイリーケア」から「年齢や肌悩みに応じたケア」まで、多層化しながら伸びていると捉えるのが適切です。

川﨑:ブランド側も、「男性向けだからこう売る」と一括りにはできません。エントリー商品と悩み対応商品では、選ばれる理由も、購入前に必要な情報も、売場やECでの導線も変わります。どの層に、どの生活文脈で、どの接点から入ってもらうのかを分けて考えることが重要です。生活者の声を見ると、男性本人がスキンケアを「特別な美容」として捉えているケースばかりではありません。むしろ、洗顔や髭剃りの延長で、日常の不快を減らすものとして受け入れられている。この認識のズレを捉えることが、コミュニケーション設計の出発点になります。

谷垣:自分ごととしても、「美容意識が高いから買う」というより、「困っているから買う」という感覚の方が近いです。スキンケアという言葉に少し距離を感じる人でも、「髭剃り後のヒリつきを抑える」「洗顔後の乾燥をなんとかする」なら納得しやすい。入口は美容というより、日常の中で感じる不快や困りごとの解消なのだと思います。最初から本格的な美容の世界に入るより、いつもの洗面台やシェービングの流れの中で、自然に一つ足すぐらいの設計が受け入れられやすいと思います。


男性が求めているのは、美肌より「不快の解消」

――男性がスキンケアに求めるものは「きれいになりたい」という意識とは少し違うのでしょうか。

谷垣:男性の声として多く見られたのは、「美肌になりたい」という声よりも、「乾燥がつらい」「髭剃り後の赤みが気になる」「清潔感がないと思われたくない」といった声です。目的はプラスを足すことよりも、マイナスをゼロに戻すことに近い。肌をきれいに見せたいというより、みすぼらしく見えたくない、不快感をなくしたい、最低限の清潔感を保ちたいという感覚です。始めるきっかけも、鏡、写真、オンライン会議の画面など、自分の見え方をふと客観視する瞬間が多いのだと思います。朝の洗面台の鏡を見て肌が粉を吹いていることに気づく。ウェブ会議で自分の顔が疲れて見える。髭剃り後の赤みがいつもより気になる。そういう日常の場面で初めて、「何かした方がいいかも」と感じるのだと思います。

川﨑:そこを動かすには、コミュニケーション上の言葉の置き換えが有効です。「美しく見せる」より、「不快を減らす」「清潔感を保つ」「身だしなみとして整える」という文脈の方が、本人の実感に接続しやすい。美容カテゴリーの言葉をそのまま持ち込むのではなく、生活者が自分の行動として受け入れられる表現に翻訳する必要があります。電通デジタルコマース&プロモーション部門内に発足した有志のプロジェクトチーム「購買インサイトラボ」の調査でも、男性の約半数が現在スキンケアを行っている一方で、「必要性は感じているがまだできていない」「過去にしていたがやめてしまった」という層も一定数いました。ニーズはあるのに購買や継続に至らない層が残っているということです。


始められない壁は、どこにあるのか

――興味や必要性があっても、始められない、続かない理由はどこにあるのでしょうか。

谷垣:男性側からすると、まず「何を買えばいいかわからない」という壁があります。化粧水、乳液、美容液、クリームと選択肢が増えるほど、初心者には違いが分かりにくい。詳しく説明されているほどいいとは限らず、「初心者はまずこれでいい」「朝はこれだけ」「髭剃り後はこれ」といった、迷わない入口がある方が買いやすいと思います。手間も大きな壁です。複数のアイテムを順番に使う、キャップを開け閉めする、手がべたつく、塗った後に手を洗う。こうした一つ一つの小さな動作が、習慣化の妨げになります。特に朝の忙しい時間や、夜に疲れて帰宅した後は、スキンケアが「楽しみ」ではなく「増えたタスク」として認識されやすいのだと思います。

増島:購買データの視点から見ても、最初の購入だけでなく、継続購入まで捉えることが大切です。スキンケアは短期間で劇的な変化を感じられるものばかりではないので、「変化がわからない」「お金と時間に見合わない」と感じて離脱する人もいます。だからこそ、どの悩みに効くのか、どの場面で使えばいいのか、どれくらい簡単なのかを、購入前から納得できる形で伝える必要があります。また、男性向け商品であればよい、という単純な話でもありません。強い洗浄力やメントール感より、低刺激性や保湿力、香りの控えめさを重視する人もいます。入口を広げるには、商品特徴と生活者の実感を細かく接続していく必要があります。

川﨑:これからの男性スキンケアでは、「男性らしさ」を演出するより、一人一人の肌悩みに誠実に応えることが重要になっていくと思います。ジェンダーを強く限定しない商品や、従来は男性向けとされてこなかった商品を選ぶ男性も増えています。だからこそ、ブランドは情緒だけではなく納得感をつくる必要があります。購入前の不安を減らし、使用後に続ける理由まで設計することが、コマースとプロモーションの両面で求められます。

――男性のインサイトを踏まえると、店頭やEC、広告ではどのような設計が有効でしょうか。

増島:売場やECの導線では、膨大な選択肢を見せるより「まずはこれでよい」と思える入口がカギです。店頭なら洗顔料やシェービング用品の近くにオールインワンや保湿アイテムを置く。ECなら「朝の髭剃り後」「夜のシャワー後」「乾燥が気になる時」といった生活行動から商品へ導く。肌質診断や初心者向けセットも、選択の不安を減らす有効な手段です。さらに、データで月別売上を見ると、男性用化粧品は12月、次いで6月に売上の山が見られます。12月は乾燥や年末年始の対面機会、6月は汗、皮脂、紫外線が気になり始める時期です。悩みが顕在化してからではなく、その直前に接触することで、生活者の実感と販促タイミングを重ねることができます。

川﨑:コミュニケーションでは、言葉の置き換えが有効です。「美肌を目指す」より、「髭剃り後の肌をそのままにしない」「洗顔後のつっぱりを10秒でケアする」「夕方の疲れ顔に備える」といった表現の方が、生活の中に入りやすい。商品の魅力を大きく語るより、使う場面を具体的に示すことが、購買のきっかけになります。

電通デジタルのコマース&プロモーション部門では、こうしたデータ上の需要の山と、生活者が悩みに気づく瞬間を接続して、広告、店頭、EC、CRMを横断した購買体験として設計することができます。単発の訴求ではなく、気づき、比較、購入、継続までを一体で捉えることが求められます。

谷垣:男性本人にとっては、いきなり美容の世界に入るというより、いつもの洗顔や髭剃りの延長に自然に置かれていることが重要だと感じます。例えば、洗顔料を買うついでに保湿アイテムが見える、シェービング用品の横に髭剃り後のケアが置かれている。そういう導線なら、「これなら自分にも関係がある」と思いやすい。12月に向けて11月から「乾燥する前に備える」、6月に向けて5月から「汗ばむ季節の清潔感ケア」や「日焼け止めだけは始める」といった文脈があると、自分ごと化しやすいと思います。


購入者本人の先にある購買の「壁」

前編では、男性本人の声と購買データを重ねながら、スキンケア市場の実態を読み解いてきました。「美容意識の高まり」という一言では捉えきれない、不快解消を起点とした購買動機。商品知識・使用の手間・効果実感という3つの壁。そして、言葉の置き換えと導線設計によって壁を下げる可能性。しかし、男性スキンケアの購買は、本人の意思決定だけでは完結しません。後編では、パートナーや家族が果たす「媒介者」としての役割と、そこから生まれる新たな購買導線を掘り下げます。

※調査時期/協力 2026年6月5日~6月16日/ミルトーク


関連サービス

エクスペリエンス&コマース

生活者インサイトと購買データから、ブランドが選ばれる理由を読み解く。広告・店頭・EC・CRMを横断した購買体験設計を一気通貫で支援します。

PROFILE

プロフィール

増島 亜海

コマース&プロモーション部門 ECモールコンサルティング部

新卒で電通デジタルに入社。楽天を中心とした、コマースメディア活用のプランニング業務に従事。ECモール内施策の運用・プランニング、行動データを活用した広告配信・分析など、モール経済圏を活かしたマーケティングを幅広く支援。

増島 亜海

谷垣 和杜

コマース&プロモーション部門 Amazonコンサルティング部

デジタルマーケティング支援会社を経て、2025年に電通デジタルに入社。Amazonを中心としたECモールにおける広告運用コンサルティング業務に従事。スポンサー広告の運用・プランニングのほか、AIや各種分析ツール、購買データを活用し、市場動向や購買行動を分析。データに基づく施策立案を通じて、クライアントの売上拡大を支援。

谷垣 和杜

川﨑 帆夏

コマース&プロモーション部門 プロモーションデザイン部

大手日用品・ビューティメーカーに新卒入社し、5年間リテール営業・店頭販促の推進に従事。 その後、電通デジタルへ参画。現在はリテールメディアの横断的な戦略立案やデジタル販促のディレクション業務に携わり、飲料・日雑品メーカーの施策を担当。

川﨑 帆夏

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