「使ってほしい」が鍵となる。パートナー・家族視点で見る新しい購買導線。

【第1回】Insight to Commerce|男性スキンケア市場特集(後編)

「Insight to Commerce」は、生活者の声と購買データを掛け合わせ、カテゴリーを横断してブランドが選ばれる背景と購買体験の設計を読み解く連載です。第一弾では男性スキンケア市場の概況を取り上げます。前編では男性本人の声から、「美容」ではなく「不快の解消」が購買の起点になっていることを読み解きました。本記事(後編)では、パートナーや家族が果たす「媒介者」としての役割から、新たな購買導線と習慣化の設計を考えます。

【前編】「美容」ではなく「不快を減らす」へ。男性本人の声から読む、購買インサイト

市場は、洗面台の上でも広がっている

――男性スキンケア用品の購買導線において、なぜパートナーや家族の視点が重要なのでしょうか。

川﨑:男性スキンケアは本人が自分で選んで買うもの、という前提だけで考えると、購買導線の一部しか見えません。日用品に近い商品であるほど、購入者と使用者が必ずしも一致しないことがあります。家族の買い物の中で一緒に選ばれる、パートナーが勧める、洗面台に置いてあったものを使い始める。こうした家庭内の接点も、実は大きな入口です。つまり市場は、化粧品売場やECの商品ページだけではなく、洗面台の上でも広がっています。家庭内で受け入れられ、置かれ続け、共有されることが、習慣化の起点になります。

写真:川﨑 帆夏
川﨑 帆夏(コマース&プロモーション部門 プロモーションデザイン部)

増島:購買導線として見ると、本人向けの導線と、家族・パートナーが勧める導線は分けて考える必要があります。店頭では男性用売場だけでなく、洗顔料、シェービング、ボディケア、日焼け止めなど隣接カテゴリーとの接続が効きます。ECでも、購入者が本人とは限らない前提で、「家族で使える」「パートナーに勧めやすい」「初めてでも迷わない」といった導線を用意できます。購入者と使用者が異なる可能性があるカテゴリーでは、誰に向けて何を伝えるかを分けることがカギになります。本人には不快解消や手軽さ、家族やパートナーには勧めやすい理由や家庭内での使いやすさを提示する。そこを分けると、購買体験の設計がかなり具体化します。

写真:増島 亜海
増島 亜海(コマース&プロモーション部門 ECモールコンサルティング部)

谷垣:男性本人としても、自分から売場に行くのは少し気恥ずかしいけれど、家に置いてあるものなら試しやすい、ということはあります。誰かに「これ使ってみたら」と言われると、選ぶ手間も心理的な抵抗も下がります。特にスキンケアに詳しくない人ほど、信頼している人からの推薦は大きいと思います。自分で棚を見て選ぶより、「これなら合いそう」と渡される方が楽ですし、最初の一歩としても自然です。

写真:谷垣 和杜
谷垣 和杜(コマース&プロモーション部門 Amazonコンサルティング部)

歓迎されるケアと、やりすぎに見えるケア

――パートナーや家族は、男性のスキンケアをどのように受け止めているのでしょうか。

川﨑:パートナーや家族の声を見ると、男性のスキンケアは基本的には歓迎されています。乾燥を防ぐ、清潔感が出る、身だしなみに気を遣っていると感じる。こうしたケアは、近しい人にとってもポジティブに受け止められやすい。ただし、どんなケアでも無条件に歓迎されるわけではありません。高価な商品をいくつも並べる、香りが強い、見た目の変化を過度に追うなどの場合は、周囲から「やりすぎ」に見えることもあります。ここで大事なのは、誰かの価値観に合わせるというより、日常生活の中で無理なく共有できる文脈をつくることです。

谷垣:男性本人も、そこには少し敏感だと思います。自分の肌を整えたい気持ちはあっても、美容に熱心すぎると思われるのは少し照れがある。だから、清潔感や健康的な印象、乾燥対策として受け入れられる商品や言葉の方が続けやすい。周囲から勧められる場合も、「もっと美容をした方がいい」ではなく、「乾燥しているからこれ使ってみたら」「日焼け止めだけは塗った方がいいよ」くらいの言葉の方が受け取りやすいです。相手を変えようとする言葉ではなく、日常の困りごとを軽くしてくれる言葉が合っていると思います。

増島:この視点は、商品設計や売場設計にも直結します。家庭内で受け入れられるかどうかは、継続利用に影響します。本人が使いやすいだけでなく、洗面台に置かれても違和感がない、香りが強すぎない、家族で共有できる、といった条件が購買後の定着を支えます。
ブランド側も、本人の美容意識だけでなく、家庭内でどう見えるか、どう置かれるか、誰が購入するかまで捉える必要があります。購買の意思決定は、本人の頭の中だけで完結しているわけではありません。


「これ使ってみたら」が、最初の一歩になる

――パートナーや家族の視点は、具体的にどのような購買導線につながるのでしょうか。

増島:季節の悩みと組み合わせると、自然な推奨理由になります。例えば11月なら「乾燥する季節に、家族で使える保湿ケア」、5月なら「日焼け止めだけは塗ってほしい」「汗ばむ季節の清潔感ケア」といった訴求です。購買データで売上の山を確認しながら、その手前で広告や店頭露出、EC内レコメンド、CRM配信を組むことで、周囲から自然に勧められる理由をつくれます。生活者調査だけでも、購買データだけでもなく、両方を重ねることで見えてくるものがあります。本人に向けた訴求と、パートナーや家族が勧めやすい訴求は同じではありません。誰が商品に気づき、誰が購入し、誰が使い続けるのかを分けて設計することで、プロモーションの精度が上がります。

川﨑:パートナーや家族は、男性スキンケアにおける媒介者です。本人が必要性を感じていても、何を選べばいいかわからない。そこに近しい人からの一言が入ると、最初の一歩になりやすい。「きれいになるため」だけではなく、「不快を減らす」「相手の肌を気遣う」「家族で使える」という言葉にすると、周囲も勧めやすくなります。男性本人に購入を促すだけではなく、パートナーや家族が勧めやすい理由を用意することが、市場を広げるうえで重要になります。

谷垣:本人側から見ても、「買わされている」という感覚ではなく、「ちょうど困っていたから試してみる」という形が自然です。特に乾燥や日焼け、髭剃り後のヒリつきは、自分でも実感しやすいので、提案される理由が腹落ちしやすい。家族やパートナーから渡されると、自分で選ぶ手間が省けるだけでなく、使うことへの照れも少し薄れます。最初の一歩を踏み出すハードルが下がれば、その後は使いやすさや効果実感で継続できるかどうかが決まっていくと思います。


洗面台に残る商品が、習慣になる

――購入後に使い続けてもらううえで、商品やコミュニケーションにはどのような工夫が必要でしょうか。

川﨑:商品設計でも、パートナーや家族の視点は欠かせません。洗面台に出したままでも違和感のないデザイン、無香料または控えめな香り、家族で共有できる大容量ポンプ、肌質や性別を限定しすぎない処方。こうした要素は、本人の使いやすさだけでなく、家庭内で置かれ続けるための条件です。コミュニケーションでも、「彼をもっと美しくする」より、「日焼け止めだけは塗ってほしい」「乾燥する季節に、家族で使える保湿ケア」「髭剃り後の肌をそのままにしない」といった表現の方が、近しい人の実感に寄り添います。

谷垣:習慣化の観点では、「しまい込まない」ことが大事だと思います。棚の奥に入ると使わなくなってしまう。洗面台に自然に置くことができ、洗顔や髭剃りの流れでそのまま使える商品は続きやすいと思います。本人が無理なく始められること。周囲が気持ちよく勧められること。家庭内で過剰に見えず、清潔感を支えるものとして受け入れられること。この3つがそろうと、スキンケアは特別な行為ではなく日常の習慣になっていくのだと思います。

増島:購買後の定着まで見ると、プロダクト、売場、EC、CRMを一体で設計することが求められます。購入直後に使い方を分かりやすく伝える、季節の変わり目にリピートする理由を提示する、家族で使うことを想定した商品であれば大容量や詰め替えへの導線を用意する。こうした細かな設計が継続率に影響します。男性スキンケア市場を広げるうえで、パートナーや家族は単なる補助線ではありません。購買のきっかけをつくり、継続を支え、過剰になりすぎないバランスを保つプレイヤーです。


「使ってほしい」を、購買体験へ落とし込む

――最後に、男性スキンケア市場を広げるうえで、ブランドは何を意識すべきでしょうか。

川﨑:男性スキンケアを「本人の美容意識」だけで捉えると、市場の広がりを小さく見積もってしまいます。本人が感じる不快、周囲からの推奨、家庭内での受容、季節による悩みの顕在化が重なって、購買の理由が生まれています。大事なのは、生活者の声を単なるコメントとして扱うのではなく、購買体験の設計に落とし込むことです。本人にとって自然な言葉、家族やパートナーが勧めやすい理由、売場やECで迷わない導線をつなぐことで、ブランドが選ばれる理由はより具体的になります。

増島:生活者の声と購買データを掛け合わせることが重要です。どんな人が、どの時期に、どのカテゴリーから入ってくるのか。その理由を読み解くことで、売場、EC、広告、CRMの設計はより具体的になります。電通デジタルのコマース&プロモーション部門では、生活者調査、購買データ、売場、EC、CRM、広告コミュニケーションを横断しながら、ブランドが選ばれる理由を具体的な購買体験へ落とし込む支援を行っています。

谷垣:男性本人にとって、スキンケアは気合いを入れて始めるものではなく、生活の中で少し不快を減らすものとして入ってくる方が自然です。そこに選びやすさ、使いやすさ、勧められやすさが重なると、続ける理由になります。「美容」ではなく「不快を減らす」へ。そして、「使ってほしい」という身近な気遣いから購買につながる導線へ。そこに、これからの男性スキンケア市場を広げるヒントがあると思います。

※調査時期/協力 2026年6月5日~6月16日/ミルトーク


関連サービス

エクスペリエンス&コマース

生活者インサイトと購買データから、ブランドが選ばれる理由を読み解く。広告・店頭・EC・CRMを横断した購買体験設計を一気通貫で支援します。

PROFILE

プロフィール

増島 亜海

コマース&プロモーション部門 ECモールコンサルティング部

新卒で電通デジタルに入社。楽天を中心とした、コマースメディア活用のプランニング業務に従事。ECモール内施策の運用・プランニング、行動データを活用した広告配信・分析など、モール経済圏を活かしたマーケティングを幅広く支援。

増島 亜海

谷垣 和杜

コマース&プロモーション部門 Amazonコンサルティング部

デジタルマーケティング支援会社を経て、2025年に電通デジタルに入社。Amazonを中心としたECモールにおける広告運用コンサルティング業務に従事。スポンサー広告の運用・プランニングのほか、AIや各種分析ツール、購買データを活用し、市場動向や購買行動を分析。データに基づく施策立案を通じて、クライアントの売上拡大を支援。

谷垣 和杜

川﨑 帆夏

コマース&プロモーション部門 プロモーションデザイン部

大手日用品・ビューティメーカーに新卒入社し、5年間リテール営業・店頭販促の推進に従事。 その後、電通デジタルへ参画。現在はリテールメディアの横断的な戦略立案やデジタル販促のディレクション業務に携わり、飲料・日雑品メーカーの施策を担当。

川﨑 帆夏

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