高額商材でも直感で決める?Z世代における「偶発購買」のリアル
電通デジタルは偶発購買実態調査2026の分析過程にて、Z世代における偶発購買(衝動買い)の心理を追加分析しました。タイパ・コスパ重視ともされるZ世代が「高額商材でも偶発購買する」背景心理と、今後企業が取るべき次世代マーケティング戦略について、分析を主導したメンバーやデジタルネイティブ専門チーム「YNGpot. ®(ヤングポット) 」のメンバーに詳しく話を聞きました。
Z世代の偶発購買に潜む「失敗したくない」けど「後悔したくない」という心理
――今回のレポートで、「Z世代」にフォーカスした理由を教えてください。
草柳:電通デジタルが独自に実施した「偶発購買実態調査2026」の分析を進めていく過程で、非常に興味深い発見がありました。それが、「高額商材におけるZ世代の偶発購買比率の高さ」です。
自動車やラグジュアリーブランド、旅行といった、本来ならじっくり比較検討(計画購買)されるはずの商材において、30代以上の世代よりもZ世代のほうが偶発購買の数値が高く出ていたのです。
「これは本当だろうか」という驚きとともに、なぜ若い世代が高い買い物を直感的に意思決定するのか、その背景にあるインサイトを紐解きたいと考え、Z世代にフォーカスしたレポートを作成しました。
――Z世代において高額商材の偶発購買比率が高い背景には、どのようなインサイトがあるのでしょうか。
野口:Z世代は価格よりも「今の自分を表現できるか」「今の自分に合うか」を直感的に判断する傾向が強いと感じています。インフルエンサーやSNS上の身近な人がブランド品を持っている姿を見ることで着用イメージが湧きやすいという昨今の情報収集の環境も、即決を後押しする一因と考えています。
内田:心の天秤の左側に「金額」が乗るとしたら、右側に乗るのは「今買わずに後悔したくない」という感情です。彼らは常にこの2つを天秤にかけています。また右側には「今の体験を味わい尽くしたい」という願望も乗ります。思い出とセットになった今しかできない体験にこそ価値があり、そこに投資することを好むのです。
その背景にはコロナ禍を経験し、5年先すら不透明な世界を見てきたことが影響していると考えます。未来が描きづらいからこそ、彼らの視線は自ずと「今」という近い距離に向いているのです。
コーポレートブランドとユーザーブランド
――Z世代の心理を読み解く重要なキーワードとして「コーポレートブランド」と「ユーザーブランド」という言葉がレポート内に出てきますが、それぞれ何を指し示しているのか、詳しく教えてください。
草柳:従来は企業主導で「どう選ばれたいか」を発信するのが一般的でした。これを「コーポレートブランド」と呼んでいます。しかし現在、ユーザーは企業の発信をそのまま受容せず、身近なコミュニティや界隈での解釈を重視しています。これが「ユーザーブランド」です。
この2つは矛盾せず、ブランドの「A面とB面」として共存します。公式発信であるコーポレートブランドを土台に持ちつつ、その解釈をユーザーに委ねるのがユーザーブランドの領域です。この傾向はZ世代をはじめとする若年層で特に顕著なため、今回のレポートでも深く掘り下げています。
購買において「リアルな声」、「リアルな体験」を求める理由
――Z世代が「ユーザーブランド」を重視する傾向が強いのはなぜでしょうか。
内田:「それが自分に合うかどうか」という尺度で情報の正しさをジャッジしているからです。Z世代は多様なコミュニティに触れながら、複数のブランドを自分軸で組み合わせる「編集者」の視点を持ちます。 ゆえに「自分に当てはめると?」と想像し、その景色が見えやすい、生活者による情報(ユーザーブランド)に価値を見出す傾向があると言えます。
例えば、ファッションブランドであれば、公式情報が自分と全くスタイルの違うモデルだけを起用していれば、完全には参考にできません。そのため、自分と容姿や嗜好が似ている一般の方の情報や界隈での意見も含めて参考にする必要があるわけです。
野口:ただしSNSの情報をメインとするものの、自分の目で見て最終的な納得感を担保する場所として、リアルの体験も重視するのがZ世代の特徴だと考えています。
具体的な行動として今回のデプスインタビューのなかでも、服を買うときは「事前にSNSで調べて欲しい服のイメージを収集し、商業施設を1日かけて何軒も回り、カフェやランチなどの休憩を挟んで悩み抜いた末に、最後に直感で買うものを決める」という意見が複数ありました。
Z世代は、基本的にはネットでの比較検討を重視しています。ただ、そのプロセスを経て店舗に足を運んだからこそ、事前に調べていたSNSの情報にはなかった商品も比較検討対象となり、「こっちのほうがときめく、かわいい」という判断につながります。その最後の一瞬のひらめきこそが、Z世代における「偶発購買」の実態なのだと感じます。
企業が取るべき3つの戦略
――「ユーザーブランドとしての広がり → リアルな体験 → 最後の瞬間が偶発購買」という長いジャーニーに対し、企業はどのように戦略を立てるべきでしょうか。
草柳:カスタマージャーニーの設計自体を、最初から2パターン用意しておくのが有効だと考えます。一つは、従来の「AISAS(アイサス)」モデルや最新のAI行動を踏まえた計画購買型のジャーニー。もう一つが、検索ではなくSNSなどの回遊行動から偶発的にブランドと出会い衝動買いに至るプロセスを体系化した購買行動モデル「SEAMS®(シームス)」を活用した偶発購買型のジャーニーです。
購買に至るシナリオをワンパターンで捉えず、予期せぬ入り口から入ってくる行動を前提に考えることが基本となります。その上で、自社の商材がどのポイントで「偶発購買」を起こし得るのかを事前に捉えておくことが重要です。
永井:ブランドがZ世代の偶発購買を捉えるうえで有効だと思われるアクションについては、下記の3つがポイントになると考えています。なぜこれらが重要なのかについては、ぜひ本調査レポートをご覧ください。
- トライブ・界隈を捉えたスモールマスによる局所的熱狂
- AISAS×SEAMSでの両利きのジャーニー設計
- ブランド主語の施策と生活者主語の施策の同時展開
――偶発購買に再現性を持たせるためのアプローチやソリューションはありますか?
草柳:電通デジタル独自の統合ソリューションである「TDM(Tribe Driven Marketing/トライブドリブンマーケティング)」の仕組みが非常に有効です。トライブとは、SNS上のユーザーを趣味嗜好で区分した小さな集団(界隈)を指します。TDMはSNSの全量発話データを基に、「今、どういう界隈で何が盛り上がっているのか」を精緻に可視化し、捉えることができます。
偶発購買を起こすためには、クリエイティブを作るだけでなく、ソーシャルコンテンツ、テレビCM、あるいはフィジカルな体験スペースの創出など多岐にわたる仕掛けが必要ですが、私たちにはこれらを実行・形にする幅広いケイパビリティと対応力があります。TDMというデータソリューションと、それを実行に移せる組織体制の両面で、再現性のある戦略としてご支援できると考えています。
デジタル×リアルの体験設計から、生活者に「委ねる」対話へ
――最後に、Z世代へのマーケティングに課題を感じている読者へメッセージをお願いします。
野口:Z世代は「コスパ・タイパ重視の計画購買世代」と捉えるのは正しいですが、彼らには同時に「今この瞬間の体験や人のために全力でお金をかけたい」という熱い人間らしさも同居しています。
今後の若年層向けマーケティングでは、この相反する感情を捉える設計が重要です。電通デジタルには各領域の専門家が集う「YNGpot.」というチームがあり、私や内田も所属しています。私たちはZ世代の翻訳者として、インサイトの抽出段階から伴走し、Z世代が自然と欲しくなる購買の仕組みをクライアントと共に作っていきたいと考えています。
内田:私は「デジタルの施策こそ、リアル(現場の声)からヒントを得るべき」だと感じています。ネットの情報だけでなく、企業が実際のコミュニティに入り込み、リアルな姿を捉えること、それを基にデジタルの力を使って世の中に広く届けることが重要ではないかと考えます。だからこそ、 YNGpot.ではZ世代との共創を大切にしています。Z世代の生活者にプロジェクトへ参画いただき、共にマーケティング施策を考えながら、最終的に企業が発信する情報を見て納得して買ってもらえるような仕組みを作りたいです。
永井:価値観が多様化する現在、自社の中だけでブランドのあり方を考えるのは至難の業です。すべてを完璧にコントロールしようと抱え込まず、生活者がどう解釈してくれるかに「委ねてみる、気張らずにやってみる」というスタンスが大切だと感じています。私たちも、その「生活者に委ね、対話していくプロセス」を研究し、企業にとってより有効なマーケティング施策を模索していきたいと考えています。
草柳:Z世代へのマーケティングに絶対的な正解や、これさえやれば一発で攻略できるという魔法はありません。まずは「ヒントを見つけに行く」というスタンスで、我々のレポートをご覧いただけたらと思っています。また、自社独自のブランド調査を一緒に実施してみたい、といったご相談も対応可能ですので、ぜひお気軽にご連絡をいただければと思います。
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多くの支援実績を持つ専門人財による、価値創造と顧客体験の統合プランニング。既存施策から予兆分析に基づく新規商品・サービス開発まで支援します。
PROFILE
プロフィール
草柳 元裕
2025年9月に電通デジタルへ入社。クリエイティブストラテジストとして、ブランドコミュニケーション戦略立案と実行の専門領域に加え、デジタルマーケティング全般にも領域を広げながら、統合的な戦略立案に取り組んでいる。
永井 大地
総合広告会社にてマーケティング部門とクリエイティブ部門を経験し、2025年に電通デジタルに入社。右脳(感性)と左脳(戦略)を同期させるクリエイティブストラテジストとして、ブランディングやDX、IRなど幅広い領域で戦略設計から社会実装までを支援。
内田 美帆
2020年、電通デジタルへ新卒入社。これまで、ウェブサイトやパンフレット、動画など企業が発信するコンテンツの企画・制作を中心としたオウンドメディア領域に従事。また、若年層マーケティングチーム「YNGpot.」の運営にも携わり、Z世代をはじめとした若年層向けマーケティングの企画立案にも取り組む。UI/UXデザインの知見を軸に、クリエイティブ制作からマーケティング戦略立案まで幅広く手掛けている。
野口 萌々音
2023年、電通デジタルへ新卒入社。オウンドメディア領域にて、ウェブサイトの企画・制作に加え、オウンドメディアを起点としたコンテンツ戦略やCRM設計などの提案業務に従事。入社2年目からは若年層マーケティングチーム「YNGpot.」にも参画し、Z世代を対象としたマーケティングプランニングを担当。2026年7月からはストラテジックプランナーとして、戦略立案業務に従事している。
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