Execution Agentが実現する、AIによるダッシュボード分析の民主化
電通デジタルは、AIを活用したマーケティングソリューション「∞AI MC Planning」に、AIエージェント機能「Execution Agent」を新たに実装しました。プランナーの実践知を学習したAIが対話形式でデータ分析をサポートし、担当者の経験やスキルに依存しない高品質なアウトプットを実現します。本記事では、開発を担った3人のメンバーに、開発の背景から具体的な仕組み、今後の展望までを聞きました。
データ活用の高度化と、ダッシュボードが抱える「読み解き」の壁
――まず、Execution Agent開発の背景について教えてください。
毛利:マーケティングの複雑化が加速し、法規制の強化でデータ活用の難度が上がる中でも、データの活用が競争優位を築く重要な要素であることに変わりはありません。クライアントからも「自社内でデータの利活用や運用を行いたい」という声が多く寄せられるようになっています。
しかし、さまざまなプラットフォーマーの台頭により情報の分断や顧客行動の把握が難しくなっており、データ分析や改善業務の高度化・属人化が進んでいます。こうした状況を踏まえ、データ活用の民主化——つまり、一部の熟練者だけでなく、誰もが高品質な分析を行える環境をつくることが、私たちが取り組むべき重要なテーマだと考えています。
毛利:BIツール(ビジネスインテリジェンスツール)を活用したダッシュボードの導入が進む一方で、「読み解きに時間がかかる」「担当者の経験やスキルによって、分析のクオリティや打ち手に大きな差が出てしまう」といった声をいただくことがありました。レポート作成業務の属人化は、人財育成にかかる時間の長期化や報告までのリードタイムの長期化にもつながり、PDCAサイクルの高速化を阻む要因となっています。
中﨑:開発者の立場から見ても、ダッシュボードは「データを見られる状態」と「そのデータを業務判断に使える状態」の間に、まだ大きな隔たりがあると感じていました。情報量の多いダッシュボードほど、慣れていない方にとっては"見えるけれど、次に何をすればいいか分からない"状態になりやすいです。
一方で、経験のあるプランナーは同じ画面を見ても自然に論点を絞り込み、重要な変化を拾い上げ、次に見るべき切り口まで頭の中で組み立てています。差が出ているのはデータそのものではなく、そこから意味を引き出すための思考のプロセスです。そのプロセスをAIで補助できれば、分析の品質やスピードをより多くの人に広げられると考えたことが、Execution Agent構想の出発点でした。
Execution Agentの仕組み。プランナーの実践知をAIに実装する
――Execution Agentとはどのようなソリューションですか?
大橋:Execution Agentは、BIツールに内蔵する形のAIエージェント機能です。ダッシュボード上のデータを読み取り、要約・考察サマリーを自動で生成します。プランナーが日々の業務で培ってきた実践知を型化し、いつ・誰が実行しても同様のクオリティでデータの背景まで読み解く高度な示唆を得られる仕組みです。
集計内容や出力形式をあらかじめ固定することで分析クオリティのばらつきを解消し、BIツールの習熟度や担当者の経験に依存することなく、高度な示唆を一定のクオリティで得ることが可能になります。また、特定のBIツールやLLM(大規模言語モデル)に依存しないシステム設計を採用しているため、クライアントの環境に応じて適切なソリューションを選定することが可能です。
――開発はどのように進められたのですか?
大橋:開発は3つのステップで進めています。ステップ1の「ユースケース検討」では、ダッシュボードに搭載されているデータからどのような分析が可能かを検討し、集計の定義や要件、出力形式のパターンを整理した上で分析パターンを設計しました。
ステップ2の「要約コメント機能の実装」では、オープンソースの会話型AI開発フレームワークを活用し、文章構成・文体・グラフ形式などを指定しながら出力形式の制御を重ね、アウトプットの品質を高めています。
ステップ3の「考察コメントの実装」では、WebSearch APIを用いて要約コメントに関連するトピックスを指定したドメインから取得し、ニュースやユーザーレビューなど幅広い観点からデータを解釈できる仕組みを実現しました。
――汎用型のデジタル広告ダッシュボードへの展開についても教えてください。
大橋:個社案件で培った知見をプロダクト化し、電通デジタルのアセットとして展開するという考え方のもと、汎用型のデジタル広告ダッシュボードにもExecution Agentを搭載しています。現在は社内向けにインナーリリースし、ユーザーのフィードバックを収集しており、今後のバージョンアップとあわせて社外展開も検討しています。
汎用版では、チャットボット形式で選択肢を表示し、ユーザーに指標や粒度を選ばせることで目的に沿った分析を行います。依頼可能な分析タイプは「全体評価」「獲得効率」「誘導効果」の3つです。「全体評価」は指定したKPIの規模とシェアを評価するもので、全体の実績推移や上昇・下落が顕著なメニューを3つの角度から分析します。「獲得効率」はCV/CVR/CPAを可視化して改善余地を特定するもの、「誘導効果」はClick/CTR/CPCの推移からトラフィック誘導効率を判定するものです。
開始日・終了日の設定からKPIの選択まで、AIからの選択式の質問に回答していくだけで分析が完了するため、ダッシュボードの操作に慣れていない方でも目的に沿ったレポートを即座に生成できます。
中﨑:個社向けと汎用版では、目指している価値は共通していますが、設計の重心は異なります。個社向けはクライアントごとの業務やデータ構造に合わせて深く最適化できる構成である一方、汎用版は迷わず使えること・出力品質が安定していることを強く意識しています。個社案件で得られた知見をそのまま横展開するのではなく、汎用サービスとして成立するよう再設計している点が技術的にも大きなポイントです。
AIエージェントが変える広告運用の未来
――今後の展開と、読者へのメッセージをお聞かせください。
大橋:現在AIエージェント自体のバージョンアップ開発を進めており、電通デジタルのプランナーの知見を分析内容や選択肢に組み込むことで、さらに高度な分析を可能にする予定です。ぜひExecution Agentの活用を検討してみてください。「こんなことはできないか?」というご要望があれば、遠慮なくお知らせいただけるとうれしいです。
毛利:将来的にはAIエージェント化をさらに進め、対話形式で運用改善や予算アロケーション、メディアプラン改善まで相談できる存在にしていきたいと考えています。CRO(コンバージョン率最適化)との統合も視野に入れており、1stパーティデータと連携しながら一連のPDCAサイクルを回せる仕組みを目指しています。単なるダッシュボードを超えた、ビジネスパートナーのような存在として、データ分析の属人化や業務効率化に課題を感じている方にぜひご期待いただければと思います。
中﨑:技術面で目指しているのは、AIが単にデータを要約する段階を超えて、利用者と一緒に論点を整理し、次のアクションまで考えられる存在になることです。プランナーの分析観点や判断基準をAIにさらに反映させることで、より実務に近い支援ができると考えています。ダッシュボードの"見える化"を一歩進めて、"読み解ける化"につなげることを目指して開発してきました。データ活用の属人化に課題を感じている方にとって、現実的に使える選択肢の一つとして期待していただければうれしいです。
関連サービス
データ・AI
ダッシュボード構築からAIエージェントによる分析支援まで。データドリブンな意思決定を実現し、マーケティング運用の高度化を支援します。
PROFILE
プロフィール
毛利 光太郎
外資系コンサルティングファーム、事業会社のプロダクトオーナー、メディアのストラテジーを経て現職。データ活用したソリューション企画とコンサルティングを主に担当。
大橋 芳浩
Webメディア企業にて、広告データの分析、アドテク関連のコンサルティング業務に従事。2024年電通デジタル入社。幅広いBIツールの実装や、クライアント企業のデータ可視化のためのコンサルティング業務に従事。
中﨑 敦
レシピサービス会社にてデータアナリストを経験後、2023年に電通デジタルに入社。入社後はデータエンジニアとして主にソリューション開発に従事。
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