AI×クリエイティビティの本質を探る。アウトプットから「世界観の設計」へ
生成AIがクリエイティブを瞬時に形にする今、改めて問われるのが「人間の創造性」の本質です。AI活用によるクリエイティビティの拡張をテーマに、CAIO 兼 執行役員の山本覚と、アドバンストクリエイティブセンター部門長の和田純一が制作の民主化が進む時代において、クリエイターが担うべき真の価値やAIとの共創の未来について語り合いました。
成果物の量産から、課題解決の「クリエイティビティ」へ
和田:電通デジタルは2015年頃から「AI×クリエイティブ」の分野に先駆的に取り組んできました。マーケティングソリューションブランド「∞AI🄬(ムゲンエーアイ)」や次世代AIオウンドメディア「Owned Human™(オウンドヒューマン)」など、多種多様なツールを独自に開発し続けています。
2018年に開発された「ADVANCED CREATIVE MAKER」を振り返ると、画像生成AIが登場する以前ということもあり、正直なところクライアントへ提供できるレベルには至っていませんでした。しかし現在、生成AIの登場によって状況は一変しています。インプットした文字情報とファインチューニングされたデータのみで、極めて高品質なバナーが出力されるまでになりました。わずか数年で、動画生成も含めたアウトプットの質は飛躍的に進化しています。
ここで私が強調したいのは、「AI×クリエイティブ」と「AI×クリエイティビティ」は似て非なるものであるということです。私の定義では、バナーや動画といった具体的な成果物を「クリエイティブ(アウトプット)」、一方で、課題の本質を見抜き解決策を生み出す抽象的な思考力そのものを「クリエイティビティ」と捉えています。
素材を量産し、広告効果を数値的に追求する「クリエイティブ」は、すでにAIでの代替が可能になりつつあります。しかし、ビジネスの根幹にある課題を特定し、新しい価値を定義する「クリエイティビティ」の部分は、依然として人間が主導すべき領域であり、AI時代においてこその価値が高まると考えています。
山本:同感です。クリエイティビティは、決してクリエイターだけが発揮する特別なスキルではありません。あらゆるビジネスにおいて等しく発揮されるべきものです。
私は学生時代に音楽活動をしていましたが、表現の形が違うだけで、クリエイティビティの本質はすべて地続きだと感じています。たとえば、歌からメロディーを削れば「ラップ」になり、そこからリズムを除けば「プレゼンテーション」になります。さらに言葉すら取り去り、純粋な『思想』だけを抽出したものが「経営理念」や「ビジネスモデル」です。アウトプットの形態が変化しても、その根底にある「何を成し遂げたいか」という設計思想は共通しているのです。
現場を「見る」ことが、抽象化の精度を育てる
山本:抽象化(Abstract)の語源には「引き出す(Tract)」という意味が含まれています。真の抽象化は頭の中だけで完結せず、現場へ行き、人や実像に触れることで初めて本質を引き出す対象が生まれます。
たとえば、分子構造は式だけ見ても理解が深まりませんが、電子顕微鏡でその姿を「見る」ことで理解が一気に加速します。クリエイティビティを育てるためには、抽出の対象となる「現場」を大切にしなければなりません。
和田:「見る」というプロセスは、AIとの共創において極めて重要です。AIは、人間が頭の中で言語化・ビジュアル化しきれず、これまでは捨ててしまっていたアイデアの欠片を、すべて可視化してくれます。それを見ることで、「今まで捨てていたが、実は面白いのではないか」という新たな発見が得られます。
「制作の民主化」が促す、クリエイターの価値変容
山本:私たちが開発したツールの中には、商品画像1枚から演出シナリオを含めた動画広告を生成できるものも登場しています。これにより、クリエイターに限らず、誰もが高品質なアウトプットを手に入れられる「制作の民主化」が加速しています。もはや「誰でも作れる」ことが当たり前の時代になったと言えるでしょう。
制作がコモディティ化する一方で、クリエイターの役割は変化しています。クリエイターの豊かなインサイトも、従来はアウトプットの過程で情報量の多くが削ぎ落とされていました。これからは抽象的な思想を、AIというプリズムを通して一人ひとりに最適な形で届ける、「世界観そのもの」を設計することがクリエイターの仕事になると確信しています。
和田:アウトプットの工程がAIに委ねられる分、価値は制作の「手前」にある構想力へとシフトしています。今後はブランドが持つインサイトを抽出し、AIというプリズムを介して多様なアウトプットへ展開する「全体のアーキテクチャ」を設計することが、クリエイターの主戦場になるでしょう。
山本:AIの進化に伴い、言語化されたデータが徹底的に処理されるようになればなるほど、「言語化できない領域」の価値が改めて注目されています。クリエイティビティの本質とは、まさに大規模言語モデルが得意とする「言語化された世界」の隙間にある、形にできない想いや直感に宿るのではないでしょうか。
AI時代において人が提供すべき価値は、ロジックを超えた「人間同士だからこそ響き合う物語」を紡ぐことに集約されていくと考えています。AIを単なる「効率化の道具」ではなく、自分を磨くための「鏡」として使いこなす視点が不可欠です。
和田:AIを鏡として使うことで、自己の思考を拡張し、組織的な知の拡張や人財育成にもつなげていきたいと考えています。自分のアイデアをAIに評価させ、「さらに高い視点で本質を突くには何が足りないか」と問い続ける。そうした対話を通じて、自分自身の思考をアップデートし続けること。それが、これからのクリエイターに求められるAIとの向き合い方だと感じています。
パーソナライズドマスで「文化」の創造を目指す
山本:今後はデータ計測とAIの組み合わせによって、人流だけでなく、その場にいる人々の「情動(感情)」の動きまで可視化し、意味付けできるようになります。ここで、各種センサーやIoT技術の進化がこれを可能にしつつあり、プライバシーに配慮した設計のもとで、従来は把握しにくかった生体情報や行動の変化を計測・分析できる環境が整いはじめています。
こうした高度なデータ取得と解析を基盤に、個別最適化(パーソナライズ)を重視しつつ、社会全体が同じ方向を向く熱狂を創り出す「パーソナライズドマスマーケティング」という概念を提唱しています。AIで個別表現を最適化しながら、みんなで共通の文化を享受し、同じ未来へ向かう。これがAIによる新たな文化創造の形です。
和田:「パーソナライズドマスマーケティング」は非常に重要なキーワードですね。個々のニーズに応えるだけでなく、社会的なインパクトとしての「マス」の力を維持し、文化としてのうねりを作ること。AIはその両立を可能にするはずです。
山本:イノベーションとは、一見離れた思考を紐付ける力です。AIに「自分の課題」と「自分とは異なる知覚」を掛け合わせてもらうことで、自分の中に新しい思考回路が形成されます。一度つながった回路は、その後も自分自身の能力として残り続け、イノベーティブな思考の土壌となります。AIとの対話は、単なる効率化ではなく、人間自身の進化を促すプロセスなのです。
和田:電通デジタルでは現在、クリエイティブの思考プロセスを学習させた社内活用AIを開発しています。実際にクリエイターたちが自らの発想や思考プロセスを磨くためのAIとして試験活用を始めています。
AIに答えを出させるのではなく、AIとの高度な対話を通じて、人間自身のクリエイティビティを最大化させていく。私たちはこれからも、最先端のテクノロジーを自ら使いこなし、そこから得られた知見を社会へと還元していくことで、AIと人間が共に高め合う未来をリードしていきたいと考えています。
PROFILE
プロフィール
山本 覚
東京大学松尾豊教授のもと人工知能(AI)を専攻。AIとビックデータを活用し、広告の自動生成、広告効果の予測、CROやSEOなど、多数のデジタルマーケティングサービスを提供。『ワールドビジネスサテライト』、『NHK ワールド』など多数メディアに出演。多くのイベントをはじめとして企業や大学などでのセミナー登壇も多数。主な著書『売れるロジックの作り方』、『AI×ビックデータマーケティング』など。
和田 純一
ネット専業広告会社にてWebサイトの構築・運用のプロジェクトマネジメント、およびGoogle Analyticsなどを活用したアクセス解析コンサルティング業務に従事。2014年ネクステッジ電通に移籍後、CRO(コンバージョンレート最適化)領域を推進し、2016年アドバンストクリエイティブセンター立ち上げより参画。ダイレクトクリエイティブのプランニングからPDCA、AIを活用したクリエイティブソシューションの開発などを担当。2021年にアドバンストクリエイティブセンターのセンター長に就任。
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