フォントデザインから考えるウェブアクセシビリティ。UDフォントの特徴と使い方を知る
電通デジタルでは、「ウェブアクセシビリティプロジェクト」として障害のある方や有識者を招いた社内勉強会を継続的に実施しています。今回は株式会社モリサワの書体デザイナーである高田 裕美氏を迎え、「UDフォントの開発背景とデザイン」や「読みやすい行間」についてワークショップも交えながら意見交換を行いました。UDフォントとアクセシビリティへの思いを深掘りします。
UDフォントの開発背景とデザイン
――UDフォントとは、どのようなフォントなのでしょうか?
高田裕美氏:UDフォントは、ユニバーサルデザインの思想をもとに、「より多くの人にとって見やすく、読みやすく、間違えにくく、伝わりやすい」ことを目指して設計された書体です。
特徴的なのは、「より多くの人に」という点です。従来のように多数派の読みやすさに合わせるという意味ではありません。高齢者やロービジョンなど少数派である読みにくさを抱える方に寄り添いながら、多数派の読みやすさも損ねないバランスで作った書体ということです。
書体デザイナーの立場から、多数派優位の社会を再考することにもつながります。現在、モリサワでは明朝・ゴシック・丸ゴシック・教科書体など様々な種類のUD書体を提供しています。
――UDフォントのデザイン上の特徴は何ですか?
高田:特徴の一つは、「字面(じづら)」が大きいことです。書体デザイナーは仮想ボディの中に「字面」という領域を設定して文字をデザインしますが、UDフォントではこの字面を一般的なフォントより広くとることで、同じサイズでも文字自体が大きく、はっきり見えるようにしています。
また、「ふところ」と呼ばれる文字内部の空間も広く設計されています。さらに、縦画の下に突き出る「ゲタ」を省略したり、ハネの形を工夫することで、文字がつぶれたり誤読されにくいよう細部にも配慮しています。
Windows 10以降には[BIZ UD明朝]や[BIZ UDゴシック]が標準搭載されていますので、Windowsユーザーの方は実際に使って読みやすさを体感してみてください。
――[UDデジタル教科書体]とは、どんな書体でしょうか?
高田:従来の[教科書体]は、学習指導要領に準拠して毛筆の楷書をもとに作られており、トメ・ハネ・ハライを明確に示すのが特徴でした。その一方で、「読みにくさ」やストレスを感じる子どももいることが分かってきました。
そこで、実際の子どもたちへのヒアリングを重ね、電子黒板やタブレットなどICT教育の現場でも読みやすい新しい教科書体として開発したのが[UDデジタル教科書体]です。開発経緯については『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って―UDデジタル教科書体 開発物語』(時事通信社)という書籍にもまとめていますので、興味があればご覧ください。
――この書体の特徴について教えてください。
高田:子どもたちへのヒアリングから「ストレスを感じやすい部分」を極力減らすようにデザインしています。読み書きに困難のある子どもに配慮しつつ、学習指導要領に準拠した形を採用しているため、先生にとっても教えやすいのが特徴です。
また、教育現場ではICT化が急速に進んでいるため、デジタルデバイス上でも読みやすい点も大きな特徴です。さらに、ロービジョン、ディスレクシアを含む読みの困難さを抱える小学生を対象に、第三者学術機関によるエビデンスも取得しています。
誤解してほしくないのは、このフォントを使っただけで成績が上がる、頭が良くなるといったものではないという点です。しかし、文字を読むストレスが減ることで、その子が本来持っている力を発揮しやすくなると考えています。
――このフォントはどんな場面で使われていますか?
高田:今は、ロービジョンや発達障害に限らず、教育現場では広く使われているようです。教科書・教材、小学生向けの辞書・百科事典などに採用されています。また、Windows OSに標準搭載されていることで、一般の方が作っているだろう店舗のメニュー、スーパーのチラシ、病院の掲示板などでも見かけます。
そして、外国人留学生向けの日本語教育の現場でも活用されています。たとえば熊本県では、外国人住民にやさしい日本語と[UDデジタル教科書体]を組み合わせ、生活情報や災害情報を伝える資料やコミュニケーションマニュアルなどに利用されています。
――UDフォントが持つ社会的な意義について、どのようにお考えですか?
高田:UDフォントの普及の背景には、2016年の障害者差別解消法の施行があります。読む行為においては、小さな文字が見づらい高齢者や、教科書の文字にストレスを感じる子ども、日本語だけだと理解が難しい外国籍の方など、「読むことに対する障壁」は広く存在します。
こうした困難に対して、自治体や企業・団体は合理的配慮が求められる場面も増えています。UDフォントだけですべて解決するものではありませんが、多くの人が理解しやすい文字表示を目指す上で、今までになかった有力な選択肢の一つになると考えています。
UDフォントを体験して見えたこと
――ここからは、勉強会に参加した皆さんにもお話を伺います。今回の体験や、高田さんとの意見交換を通して印象的だったことや新たな気づきについてお聞かせください。
千葉順子(電通デジタル):私はこれまで何度か高田さんのお話を伺ってきて、「UDフォントについてもっと多くの人に知ってもらいたい」と感じていました。今回、社内はもちろんのことグループ会社のみなさまなど幅広い方々にご紹介できて、本当に良かったです。
西垣戸初美(電通デジタル):高田さんの話の中で、[エレクトロハーモニクス]※の書体を使って文章を読む体験は衝撃でした。読めない、そしてそれを恥ずかしいと思う気持ちを、疑似的にでも体感できたのは大きな収穫でした。
エレクトロハーモニクス(Electroharmonix):日本人だけが読めないフォントとされており、カタカナやひらがなをモチーフにした欧文フォント。日本語に見えてしまい、判読がしづらくなる
植木真(インフォアクシア):私は、「行間」についての話が印象的でした。ウェブアクセシビリティのガイドラインで「行間は1.5倍」が目安とされていますが、これは本来英語の基準です。日本語でも最適かという点は疑問だったので、「最適な行間はフォントによって変わる」という考えは、日本語向けガイドラインを考える上でとても参考になりました。
さらにワークショップで4パターンの行間を実際に比べてみた結果、多くの人が1.5倍を選ぶ一方、1.8倍を「見やすい」と感じる人も一定数いることが分かり、一律の基準を設ける難しさを実感しました。
UDフォントとウェブデザイン
――ここからは、UDフォントとウェブデザインの関わりについてお聞きします。高田さんはフォントデザイナーの視点でウェブをどのように見ていますか?
高田:最近はプロのデザイナーが手がけるウェブサイトが増え、特に気になる点は少ない印象です。トレンドを押さえながら、読みやすさにも配慮されたウェブサイトが多いと感じます。
ただ、UDフォントはデザイナーにとって扱いが難しい書体でもあります。ロービジョンの方にとっての「読める・読めない」は、健常者が感じる「このフォントは好き」「少し読みづらい」などの感覚とは全く重みが違います。情報格差があってはならない内容については、UDフォントの活用をもっと意識してもらえればと考えています。
西垣戸:「UDフォントは扱いが難しい」というのは私も感じます。UDフォントは字面が大きく見えるので、デザイン全体のバランスが取りづらい場合もあります。
でも「扱いが難しいから使わない」というのは制作者側の論理です。目的に合ったフォント選びについて、クライアントにも丁寧に説明し、合意を取ることがこれからますます重要になると感じています。
高田:ウェブサイトの良いところは、ユーザーがフォントなどの表示を選択できることです。デザイナーが指定した書体を初期設定にしつつ、ユーザー自身がブラウザ設定や拡張機能で好みのフォントに切り替えられる設計が大事だと思います。制作者が「選択できる自由」を残しておくことは非常に重要です。
植木:私自身、高田さんの話を聞くまでは「文字サイズとコントラストに配慮すれば十分」と思いがちでした。しかし、フォントの選び方一つで「読めない」「読むのを諦める」「そもそも読む気にならない」人がいるという事実を、改めて深く考えるきっかけになりました。
千葉:電通デジタルは幅広い利用者のウェブサイトを手掛けています。現場から「アクセシビリティ的におすすめの書体は?」と聞かれることもありますが、現状では「ガイドラインにはフォントに関する定義がないので、われわれとしてはできるだけ読みやすいゴシック体がおすすめ」と少しふんわりとしか答えようがありませんでした。ただ、今回のお話を通して、私たちも自分たちなりの指針を整えていきたいと思いました。
ウェブアクセシビリティプロジェクトの在り方
――当事者の声に触れることについて、どのように考えていますか?
高田:どんな取り組みも、現場を見て当事者の声を直接聞くことで得られる気づきがあります。たとえば、最初に盲学校を見学したとき、私はてっきり生徒さんたちは点字で学習しているものだと思い込んでいました。ところが実際には、多くの生徒さんが印刷された文字を使って学習していたのです。
その生徒さんたちは大半がロービジョンで、紙に顔を近づけながら一生懸命文字を読んでいました。教科書では[学参ゴシック(ゴシック体をベースに手書きの字形に直した書体)]が使われていましたが、先生が作る教材は、手書きの教科書と異なる部分をホワイトで補正するなど工夫されていました。現場でのこうした取り組みを知ったことはとても参考になりました。
千葉:当事者の声に直接耳を傾けることの大切さは、私もウェブアクセシビリティプロジェクトを通じて強く感じています。以前、ディスレクシア(読み書き障害)の方を招いた勉強会で、書体によって受ける印象が大きく異なるという話があり、それが今回の高田さんとの勉強会のきっかけにもなりました。
また、「視覚障害」というと全盲の方をイメージしがちですが、実際にはロービジョンの方が大多数で、見え方も人によってさまざまです。だからこそ、「ガイドラインに沿っていれば十分」ということはなく、当事者の声から学ぶことの重要性を痛感しています。
――ウェブアクセシビリティプロジェクトとして、今後目指していきたいことは何ですか?
千葉:ウェブ上の情報は基本的には、デバイスさえあればどこからでも誰でもアクセスできるものであるだけに、今後は「読める」だけではなく多くの人にとっての「読みやすさ」も追求していきたいと考えています。これまで行ってきたユーザーテストの結果や当事者の方々の声、さらには高田さんから得たフォントや行間に関する知見を、今後のウェブ制作の現場に共有していきたいです。
また、障害がなくても加齢によって見えにくくなることは誰しも経験します。そんなとき「このサイトがあってよかった」と思える情報提供ができるよう、知識とノウハウを広げ続けたいと考えています。ゆくゆくは、見やすさに関するポイントを統計的に整理し、まとめていくことも考えています。
最近、フリーランスでアクセシビリティの向上に取り組んでいる方から「電通デジタルがアクセシビリティに取り組んでくれると我々の啓蒙活動の後押しになるから嬉しい」という声をいただきました。当事者の方だけでなく、同じ志をもつ方々の力になることができていると思うと私たちも嬉しいですし、私たちだからこそできる取り組みもあると信じているので、これからも当事者の方々の声を大切にしながら、一歩ずつ取り組みを続けていきたいです。
PROFILE
プロフィール
千葉 順子
大規模サイトのリニューアルやコーポレートサイト・B2Bサイトの運用、LP制作などの実績多数。ウェブデザイナー、制作ディレクター、プロデューサーなどの経験を経て、現在はアクセシビリティコンサルタントとしてウェブアクセシビリティプロジェクトのプロジェクトリーダーを務める。
西垣戸 初美
Webデザイナーとして様々な業界のプロジェクトに参画し、コンポーネントを利用したサイト設計やECサイトの構築・リニューアルなどのデザイン業務を担当。現在は社内のウェブアクセシビリティプロジェクトに参画し、アクセシビリティに配慮しつつもクリエイティブを諦めないデザインを目指して知見を深めている。
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