2025.06.10

DXの未来を築くため、明治安田が仕掛ける社内検定制度

明治安田生命保険相互会社

明治安田生命保険相互会社(以下、明治安田)は、2020年4月に始動した10年経営計画のもとでDX人財の育成に力を入れています。この取り組みの一環として、電通デジタルと協力し、デジタル・ITリテラシーを向上させるための社内検定制度を設計し、運用しています。このプロジェクトの詳細と成果について、両社の担当者に話を伺いました。

  • 経営計画の目標を達成するため、全職員のデジタル・ITリテラシー向上が必要だった
  • 学習環境には「MYユニバーシティ」などが整っていたが、習熟度を客観的に評価するアセスメントは存在しなかった 

  • 社内検定に向け、目標に合わせたシラバス設計や学習ポータル「MYユニバーシティ」への連携、出題形式の設定、設問制作、補完コンテンツ・運用マニュアルの作成を包括的に支援 
  • 多職種連携により、設問内容の品質を担保
  • 模擬テストや上級試験受験者向けの事前研修を行い、継続的なサポートを提供 

  • 全職員向け「初級」の合格率は約9割と高水準に達成 
  • 任意受験の「中級」「上級」も多くの職員が受験し、デジタル・ITリテラシー向上への意欲が高まった 
  • テスト結果により、全職員や部署別の習熟度を可視化し、デジタル・ITリテラシー向上の課題を明確化した 

「めざす姿」を実現する重点方針として「人とデジタルの効果的な融合」を掲げる

――明治安田が掲げるDXの目的や、そのための人財育成の重要性、戦略について教えてください。

明治安田生命保険相互会社・樋口遼大氏:当社は2020年に「MY Mutual Way 2030」という10年計画を策定し、2030年にめざす姿として「『ひとに健康を、まちに元気を。』最も身近なリーディング生保へ」を掲げています。

そのための重点方針のひとつが「人とデジタルの効果的な融合」です。人にしかできない役割を最大限に発揮し、テクノロジーを活用することで、お客さまの体験価値を向上させます。ここで必要なのが職員のデジタル・ITリテラシー向上であり、全国の職員を対象にDX人財の育成に取り組んでいます。

樋口遼大氏(明治安田生命保険相互会社 IT・デジタル戦略部 IT・デジタル戦略企画室)

――DX人財育成に向けたこれまでの取り組みと、今回の社内検定制度の導入背景を教えてください。

明治安田生命保険相互会社・光司龍哉氏:当社には、全職員がスマートフォンアプリで様々なビジネススキルや知識を学べる学習ポータル「MYユニバーシティ」があり、デジタル・ITに関する講座を数多く用意していたり、オフラインの研修やワークショップなども積極的に実施したりしています。

しかし、改めてめざす姿の実現を考えたとき、学習の習熟度を客観的に評価・分析するためのアセスメントが存在していないことが課題としてあげられました。

光司龍哉氏(明治安田生命保険相互会社 IT・デジタル戦略部 IT・デジタル戦略企画室)

樋口:そこで、まずは2023年に経済産業省のデジタルスキル標準を基に明治安田版のスキル標準を設定しました。スキルセットの概要、スキル項目別に習得すべき水準に基づき、全職員の習得水準を測るアセスメントとして、デジタル知識確認テストの作問・実施に伴走いただけるリソースを外部に求めることになりました。

――明治安田の方針や課題認識を受け、電通デジタルとしてはどのような提案をしたのでしょうか?

電通デジタル・磯部勝彦:経営計画の実現に向け、全職員のデジタル関連のナレッジ・スキルの獲得が急務とされる中、プロジェクトマネジャーとしてチームを組み、スピード感を持って制度設計の提案作業を進めました。前提として、明治安田様側で求めるアセスメントの基本的設計はすでに整理されていましたので、そこに電通デジタルの強みを掛け合わせるアプローチを実践しました。

UXインテリジェンスの浸透・向上を目的とした一般社団法人UXインテリジェンス協会(電通デジタルは特別会員として参画)が実施するUX検定の企画・運用実績により検定制度の設計ノウハウを持っていたこと、自社内でもDXやUXに関わるスキルアセスメントを定期的に実施していることから、これらの知見を生かしつつ、提案させていただきました。

磯部勝彦(電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 サービスイノベーション&プロダクトマネジメント事業部 グループマネージャー)

樋口:電通デジタルさんとは、これまで研修や勉強会の共催経験があり、DXやUXの最前線で活躍されている方々が多く、生成AIの最新情報についても豊富な専門的知見を持っている印象がありました。生命保険業界に熟知されている点もご依頼を後押しする材料となりました。

独自の学習コンテンツに紐づけた設問内容、学習マイルストーンを策定

――社内検定の設計・構築の流れ、両社の協業について教えてください。

磯部:週次の定例会議を通じて、検定の重要な論点やアウトプットのイメージを議論しました。具体的には以下の順序でタスクを進めました。

  1. シラバス設計
  2. マイルストーン設計
  3. 出題形式の設定
  4. 設問作成
Zoom

明治安田様から提供いただいた「スキル別×職員層別の習得水準」を基に、習得レベルを「初級」「中級」「上級」の3区分に分け、学習コンテンツと関連キーワードを整理したシラバスを設計しました。その後、「MYユニバーシティ」との紐づけによる学習マイルストーンを策定し、効果的な学習方法を提案しました。

さらに、シラバスとマイルストーンを基に出題形式を設定し、具体的な設問を作成しました。デジタルスキルは「ビジネスモデル・プロセスデザイン」「体験デザイン」「デジタル活用」などに分類され、それぞれのスキル項目の難易度を初級、中級、上級毎に調整する必要がありました。

シラバスと学習マイルストーンを踏まえた出題形式の設定、具体的な設問作成を進めていきました。一口にデジタルスキル・リテラシーといっても、スキル分類としては「ビジネスモデル・プロセスデザイン」「体験デザイン」「デジタル活用」「システム開発」「データ活用」「DXの意義」などに分かれ、分類ごとにスキル項目が必要です。同じ項目でも初級、中級、上級ごとにどう難易度を設定するか。細かい調整が必要とされるプロセスも多かったですね。

最終的には明治安田様が独自に運用できるよう「運用マニュアル」を作成し、内容を確定しました。

樋口:明治安田側では、いただいたご提案をもとに上席にはかりつつ、細かい制度設計の検討を進めていきました。例えば、初級、中級、上級の3つのカテゴリーごとに、初級は全職員必須にし、中級、上級はどの職員を対象に、いつ受験を実施するか。その結果の集計・分析方法はどうするか。次年度の取り組みにどうつなげていくかなど社内調整を実施しながら、全社展開をはかっていきました。

検定結果の集計・分析により職員のデジタル習熟度を可視化

――3カ月というタイトな期間で作成されたとのことですが、スムーズな作業のために注力したポイントはありますか? 

電通デジタル・栗原路子:私はシラバス作成や設問設計を担当しました。「MYユニバーシティ」を基に設問や学習マイルストーンを作成するため、動画コンテンツをメンバー全員でチェックしました。膨大な作業でしたが優先度をつけて行ない、得意分野が異なるメンバーと分担することで効率化を図りました。

また、「MYユニバーシティ」に網羅されていない先端分野については別途書籍などでインプットしながら、出題に反映していったのも品質を担保するうえで工夫したポイントです。さらに、役割分担しつつも、抜け漏れがないよう、各メンバーで相互チェックを行い、例えば専門性の高いシステム開発などの項目は、違う部署のメンバーにもレビューを依頼し、フィードバックをもらうプロセスを踏んだのも電通デジタルならではの多様な人財リソースが生きたポイントだと思います。

加えて、実際に作成した設問の難易度や分量、試験自体の制度設計が実際の運用に耐えうるかを測るため、明治安田の社員様にご協力いただき、事前の模擬テストを行い、ブラッシュアップにつなげていきました。

栗原路子(電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部)

電通デジタル・戸田典宏:私は元々生命保険業界に長く在籍していた経験を活かし、電通デジタルでは生命保険業界のクライアント企業のアドバイザリーを務めています。

明治安田様でも、DX戦略の考え方として「人とデジタルの効果的な融合」を掲げていらっしゃるように、生命保険という商材の特徴でもあるのですが、デジタルですべて完結するわけではなく、あくまでデジタルは人間の作業を補完する手段でしかありません。デジタルを効果的に活用し、最後にお客様にサービスをお届けする際に、目指すべきゴールである顧客体験の向上につながるのか。他のメンバーとは異なる視点からのアドバイスに注力していました。

戸田典宏(電通デジタル トランスフォーメーションストラテジー部門 ディレクター)

――明治安田としての苦労した点や電通デジタルとの協業の良かった点はありますか?

光司:検定運用プロセスの構築と約1万人もの受験者の集計には苦労しました。BIツールを活用して全社や個人別の傾向を可視化し、所属長や管理担当者にデータを送るまでに1か月かかりました。こうした分析においても電通デジタルさんに助言いただき、非常に有益でした。

樋口:2024年1月に始まったプロジェクトが年度末までに成果を出せたのは、電通デジタルさんの綿密なヒアリングと週次ミーティングのおかげです。以前からの取り組みで当社を理解していただいていたことが大きかったと考えています。

生成AIなどの活用を前提とした業務変革を目指す

――2025年1月に初級から上級までの検定が終了しました。社内の反響や成果、今後の施策について教えてください。

樋口:全職員向けの初級合格率は約9割と想定以上の結果となりました。この結果からも、全職員のデジタル・ITリテラシー向上を目標とするテストの実施は大いに意味あるものだったと捉えています。

光司:中級は任意受験でしたが、約3,000名が受験し、本社組織の合格率は9割程度。上級は約500名が受験し、同じく9割の合格率でした。上級は普段からデジタル・ITに関わる仕事をしている社員が中心だったことに加え、電通デジタルさんに学習補強のための研修サポートを実践いただいたことも高い合格率につながったと考えています。

樋口:次年度の具体的な施策は未定ですが、今回、初級が高い合格率を達成できたことで、中級を全職員必須とする意見もあります。また、「MYユニバーシティ」のデジタル関連のコンテンツのアップデートや、その他のオフライン研修などについても、引き続き電通デジタルさんとの協業を検討しています。

今後、全社のDX戦略を推進するうえで、今年度から生成AIの活用を前提とした業務推進を担う専担組織「デジタルイノベーションHub」が誕生しました。将来的な人手不足も見据え、社内業務やお客さま対応においても、生成AIなどのテクノロジーの活用を前提とした業務変革が求められる時代になっていくものと捉えています。

さらなるお客さまの体験価値向上に向け、全職員が生成AIといった最新のテクノロジーを業務の一部として使いこなせる状態を目標に、様々な取り組みを進めていきたいです。

――電通デジタルとして、今後のサポートをについて教えてください。

磯部:受験者数や合格率も想定以上の結果を挙げ、めざす姿に向けて明治安田様が力強く前に進んでいらっしゃることは、伴走させていただいた立場として、とてもうれしく感じています。

ただし、検定やテストは、あくまでもスキルを測る手段です。明治安田様がめざす姿を実現していくうえで、前段階のインプットのプロセスや学習の動機付けなど、広くご支援を拡充できればと考えています。

戸田:生命保険という商品は、他の商品と異なり、「欲しい」という能動的な姿勢で購入するというより、信頼できる人を介し「やっぱり加入しておいて良かった」と将来的に価値を実感していただく要素が強い。その上で、あくまでも人を基点としたプロセスが大事になると捉えています。

また、電通デジタルとしても、DXはあくまでも手段であり、より良い顧客体験の提供こそが真のゴールという考えから、人の心をいかに動かし、価値を創造するかというプロセスの支援に注力しています。その観点から、明治安田様が大事にされているコア価値をしっかりと理解した上で、検定実施を基点に、最終的にお客様にどう価値を届けるかといったプロセスに関しても、ぜひ付加価値を感じていただけるサポートをご提供できればと考えています。

EXPERTS

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エクスペリエンス&プロダクト部門 サービスイノベーション&プロダクトマネジメント事業部 グループマネージャー

磯部 勝彦

エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部

栗原 路子

コンサルティング&プロデュース領域トランスフォーメーションストラテジー部門

戸田 典宏

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