「日本のコンビニの当たり前」は世界に通じない  電通デジタル × セブン&アイHDが挑んだグローバル発信戦略

半世紀以上にわたり、日本のコンビニ文化を形づくってきたセブン‐イレブンは、いまも社会課題に向き合いながら、人々の暮らしを支え続けている。
その取り組みや本質的な価値をより広く、深く世界へ届けるために、セブン&アイ・ホールディングスは新たなグローバルサイトを2025年6月に立ち上げた。コンセプトは「CONVENIENCE REIMAGINED(コンビニの再定義)」。
同社コーポレートコミュニケーション本部 ブランドコミュニケーション部 オフィサー 髙木麻利子氏は、このサイトを単なる情報発信ではなく、「グローバル市場に向けた戦略的なプラットフォーム」と位置付ける。
その構想を、戦略設計からコンテンツ制作、サイト構築、広告誘導設計まで一貫して支援したのが電通デジタルだ。プロジェクトマネージャーとして携わったDentsu Digital Global Center(以下、DDGC)の前田紗也加氏、エクスペリエンス&プロダクト部門でクリエイティブディレクターの二井内洋一氏を交えた鼎談を通して、企業価値を海外に発信する新たなアプローチを紐解いていく。

2025年12月23日にDIGIDAYに掲載された記事を転載

海外のビジネスリーダーに、ブランド価値と社会的役割を伝えたい

DIGIDAY:まず、グローバルサイトを立ち上げることになった背景についてお聞かせください。

髙木麻利子(以下、髙木):当社は以前からコンビニエンスストア事業をグローバルで展開しています。今後も海外展開を強化する戦略があること、また海外ではセブン&アイ・ホールディングスとセブン‐イレブンの関係や企業の位置づけが十分に認知されていないことから、株主や投資家を含む企業の意思決定層であるビジネスリーダーに向けて、ブランド価値をきちんとお伝えする必要を感じていました。

セブン&アイ・ホールディングス ブランドコミュニケーション部オフィサー 髙木 麻利子
髙木 麻利子/株式会社セブン&アイ・ホールディングス ブランドコミュニケーション部オフィサー。百貨店勤務を経て2019年に同社へ。ECサイトのデジタルマーケティング施策をはじめ、コーポレートサイト運用、VI管理を担当後、プロジェクトマネージャーとしてオウンドメディア立ち上げを推進。現在は企業広告の企画・制作に加え、ブランドの市場ポジショニング強化のためグローバルコミュニケーションに注力している。

50年以上にわたり日本で培ってきたバリューチェーンを基盤とするコンビニエンスストア事業は、当社の強みを象徴するベストプラクティス。どのような想いやプロセスで商品やサービスをお届けしているのか。ふだん見えない部分をお見せすることで、ブランドの本質的な価値や社会的役割を見出してもらえるのではないかと考えたのです。
独自で行なったグローバル調査によると、北米やヨーロッパのビジネスパーソンは企業のWebサイトに加え、SNSで動画を見る人が多かった。それで、デジタルメディアを起点にグローバルサイトを制作することにしました。

DIGIDAY:伝えたかったブランド価値とは、具体的にどのようなことでしょうか?

髙木:ひとつはニーズに合わせて進化していく「お客様起点の精神」、もうひとつは日常のなかにある不便を解消する「お客様にとってのコンビニエンス」であることです。最近は来日された海外のお客様がセブン‐イレブンの商品をSNSで紹介してくださることも増え、海外で話題になる現象が起きていました。

それぞれの国や地域で何が琴線に触れるかはSNSなどのデジタルメディアを通して知ることができますが、海外のビジネスリーダーに直接アプローチする知見はなかったので、グローバル調査実施後のネクストステップを、電通デジタルさんに相談したというわけです。


顧客視点のこだわりをコンテンツにも反映

DIGIDAY:実際に構築されたサイトはどのような内容なのでしょうか?

前田紗也加(以下、前田):「CONVENIENCE REIMAGINED(コンビニの再定義)」というコンセプトのもと、セブン-イレブンが顧客起点の精神で利便性を超えた価値創造にどのように挑戦しているかを、①現場力と知見の共有による高度な店舗運営②顧客起点の開発体制による商品づくり③安全・おいしさを支える品質管理とお取引先との協働④地域のニーズに応える商品展開と共創⑤金融・行政サービスなど社会インフラとしての進化、という5つのテーマに基づいた動画と記事で構成しました。

どのコンテンツも、「WHY(なぜ)」「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」を明確にした構造で設計しています。

電通デジタルと協働し制作したセブン&アイ・ホールディングスのグローバルサイト
電通デジタルと協働し制作したセブン&アイ・ホールディングスのグローバルサイト

DIGIDAY:5つのテーマのコンテンツの並びには、どのような意図があるのでしょうか?

髙木お客様を起点にすると、やはり店内の話から入るのが自然だと考えました。独自の価値を届けるために店舗でどんなオペレーションをしているかを伝えたうえで、そこにある商品はどのように開発しているか。そして、その商品を作る過程や安全・安心、おいしさへのこだわり、さらに地域とのつながりに話を広げ、最後は店舗で提供する各種サービスという流れで、当社の価値観や実践する姿への理解を深めてもらえたらと思いました。

二井内洋一(以下、二井内):動画は、経営層へのインタビューを主軸にファクトを端的に伝えていく構成として、独自の価値観を視覚的にもキャッチーに表現することに尽力しました。ただし、映像はあくまで興味関心を高めてもらうきっかけのためのダイジェストです。

動画では語りきれないファクトや具体的なエピソードなど、さらに理解を深める内容を記事で読んでもらえるよう役割分担を設計し、ブランド認知と事業内容理解の両面からネイティブにもわかりやすく価値を伝えていくことを心がけました


グローバル戦略に精通したスペシャリストと、ネイティブ&バイリンガルの最適チームで実現

DIGIDAY:制作にあたり、重視されたポイントはいかがでしょうか。

前田:もっとも重視したのは、表現として伝えたいことがきちんと伝わるかという点です。日本で暮らす我々が大事だと思うポイントが、海外のビジネスリーダーにも同じ感覚を持ってもらえるのか。その問いを常に意識しながら、記事については翻訳を超えた心に響く表現にするため、ネイティブのコピーライターをアサインし、日本人のコピーライターの意図や言葉選びの背景をくみ取りながらトランスクリエーションを進めました。

電通デジタル グローバルセンター ビジネスプロデュース第2事業部 前田 紗也加
前田 紗也加/株式会社電通デジタル グローバルセンター ビジネスプロデュース第2事業部。2018年に電通アイソバー株式会社(現・電通デジタル)入社。グアムでの8年間の生活で培った経験と英語力を活かし、バイリンガルのプロジェクトマネージャー・アカウントマネージャーとして、インアウト/アウトイン両方の領域を担当。主に外資系嗜好品メーカーやラグジュアリーブランド、日系グローバルブランドのオウンドメディア運用・企画・制作、SNSを活用したデジタルコミュニケーション設計、キャンペーン企画・実行に従事。

二井内:動画においても、髙木さんや僕らが伝えたいことのニュアンスを正確に汲みとってもらいながら、ネイティブのナレーターに対しても細やかなディレクションができるバイリンガルの監督を立てました。

また、経営層の想いや熱量をそのまま直接オーディエンスに届けることで共感や信頼を生み出しつつ、日本企業であることも印象付けたいという狙いから、インタビュー部分は英訳して吹き替えるのではなく、あえて英語字幕で伝える表現を採り入れています。

髙木:国内でグローバルコミュニケーションを担える人材は希少な存在ですが、電通デジタルさんには多彩な人材やリソースをフレキシブルに活用していただきました。提案内容やクリエイティブのクオリティも素晴らしく感じています。


公開翌日、動画は万単位の視聴回数を記録

DIGIDAY:公開後の反響はいかがでしたか?

髙木:インプレッションやクリック数などの数値は想定を大きく上回り、好意的なコメントもたくさん寄せられたことが印象的です。今回の施策は海外にいる社外のビジネスパーソンを対象としたものでしたが、海外のセブン-イレブンで働く人や現地の運営企業の方々の理解を深めることにもつながり、レクチャーツールとしての役割も果たしたようです。

二井内:実際にどれだけの人に見てもらえるか、つくり手としては少しドキドキしましたが、動画に至っては公開翌日に視聴回数が万単位になり、その後も50万、60万とどんどん増えていきました。広告を打つなど、SNSを中心に情報発信したことも効果的でしたね。

電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 クリエイティブプランニング第2事業部 二井内 洋一
二井内 洋一/株式会社電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 クリエイティブプランニング第2事業部。2000年よりコピーライターとしてのキャリアをスタート。2012年より電通デジタルの前身となる株式会社電通イーマーケティングワンに参画し、2016年よりクリエイティブディレクター。担当クライアントは金融・自動車・ITなど多岐にわたる。東京コピーライターズクラブ会員。

当たり前を疑ってみることの重要性を実感

DIGIDAY:国内向けのコミュニケーションではなく、グローバルでのコミュニケーションを目的としたプロジェクトを通して得た気づきはありましたか?

前田行政サービスがサクッとできたり、地域ごとに特産品を活かした商品が並んでいたりすることは、海外では当たり前ではなく、日本のコンビニ独自のものです。いかにお客様の生活を便利にするかという考え方の徹底ぶりやそもそもの前提や認識が日本と海外では大きく異なるので、コミュニケーションをする際は乗り越えなければならないハードルがたくさんあることに気づけましたね。

二井内:食材ひとつ取っても、うどんだと伝わるけれど素麺だと伝わりにくいなど、僕らにとっての日常の当たり前の感覚を疑ってみることの重要性を実感しました。なかでも今回、難しさを感じたのは「画づくり」です。

スマホをかざすだけで手続きが完了するなど、最近の便利はとても画にしづらいことに気づかされました。ロケハンで何度もシミュレーションを行い、撮り方や見せ方を工夫していくことで日本独特の利便性を表現できたと思っています。

髙木ふだんから「お客様視点」と言いながらも、自分自身がさまざまな物事を日本の視点で考えている。日本では定番のおにぎりが海外のお客様の目には新鮮に映るように、国や地域によって異なるコンビニエンスストア事業の浸透度、そして文化的な背景なども加味しながらコミュニケーションしていかなければならないと気づけたことが大きな学びになりました。


単なる情報発信ではなく、戦略的なプラットフォームに

DIGIDAY:今後、このグローバルサイトをどのように活用していくのでしょうか?

髙木完成したグローバルサイトは単なる情報発信ではなく、グローバル市場に向けた戦略的なプラットフォームです。顧客起点の精神を軸に新たな価値創造に挑戦し続ける当社の姿を、既存のコーポレートサイトやSNS、デジタルコンテンツを含めたクロスメディア施策によって、より多くの方に知っていただけるよう、広報とも連携しながらグローバルコミュニケーションを進めていきます。

DIGIDAY:グローバルを見据えた施策を着実に形にできる点は、電通デジタルの大きな強みですね。

前田:はい。セブン&アイ・ホールディングスさんのように、世界へ向けて戦略的に発信しようとする日本企業は増えていますが、私が所属するDDGCにはグローバルプロジェクトの豊富な知見・経験を持つネイティブとバイリンガルのスペシャリストが多数在籍しています。さらに、プロジェクトの内容に最適なメンバーを柔軟にアサインできる体制を整えています。これにより、さまざまなグローバルコミュニケーションの戦略立案から実行までを一気通貫でサポートすることができます。

もちろん、DDGCでは日本企業の海外展開だけでなく、日本市場で事業を展開する外資系企業に対しても支援を行っています。日本の市場環境や企業文化に即した形で、外資系企業のグローバルコミュニケーションをローカライズするなど、日本のマーケットに根ざした支援を積み重ねてきました。

こうした実践を通じて培ってきた知見を生かし、Webサイト構築のような形あるアウトプットにとどまらず、組織や人に働きかける無形の取り組みも含めた、幅広いグローバルコミュニケーションを今後もお手伝いしていきたいですね。

Written by DIGIDAY Brand STUDIO(文/山本千尋、撮影/合田和弘)

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