事業成果を生むUX組織の共通点とは? 『UX組織白書2025』制作メンバーが語る
UXインテリジェンスの普及と研鑽を目的として設立された一般社団法人UXインテリジェンス協会(以下、UXIA)は、2025年10月にUX組織開発のトレンドや最新事例をまとめた『UX組織白書2025』を刊行しました。本記事では、白書制作の背景やそこから得られた知見を踏まえ、なぜ今UXが重要なのか、そしてUXIAが描く未来像について、UXIA 理事長・遠藤直紀氏(株式会社ビービット 代表取締役)と副事務局長を務める電通デジタルの小浪宏信、事務局の笹原史郎に話を伺いました。
現場の声を力に変える。UX組織推進のための白書発信
――UXIA設立の経緯を改めて教えてください。
遠藤直紀氏(ビービット):当社は以前から中国でも事業を展開していますが、デジタル普及の初期段階からUXが急速に重視されている状況に強い衝撃を受けました。約15年前、中国のUX関連団体が主催したワークショップに招かれた際には、参加者が1000人を超えており、当時の日本との差を痛感しました。
当時の日本ではUXがインターフェース改善に留まる概念として扱われていた一方で、中国ではビジネス全体を捉える視点として重視されており、アリババはUXを学ぶ社内大学を設立し、テンセントは全社員にUX理解を求めるなど、企業の中核となる考え方として位置付けていました。
UXは企業と顧客のあらゆる接点を対象とする概念であり、その質の向上は競争力の向上につながることから、知見を蓄積・共有し、広げていく場として一般社団法人UXインテリジェンス協会(UXIA)を立ち上げました。
小浪宏信(電通デジタル):電通デジタルとビービットでは、これまでも企業向けのUX支援やコンサルティングで協業しており、私たちも遠藤さんと同じ問題意識を共有していました。
単なる委託関係ではなく、企業内部に深く入り込み、UX人材やチームを育成し、広げていく場が必要だと考えており、多くの企業を支援する中で、個社対応だけでは日本全体のUX成熟度の遅れを埋めることは難しいと感じていました。こうした課題認識が一致し、電通デジタルとビービットが中心となってUXIAを設立しました。
――UXIAの活動の中心である分科会について教えてください。
笹原史郎(電通デジタル):UXIAでは現在、「先進事例研究分科会」「UX組織開発分科会」「資格・講習整備分科会」「生成AI×UX実践研究会」の4つの分科会を中心に活動しています。これらの活動を通じて、UXインテリジェンスの普及や事例共有を推進すると同時に、会員企業の皆様と議論しながらUXの現在地と未来を共に考える場を提供しています。
特に「UX組織開発分科会」では、UX組織をどのように運営し、発展させるかという実務的なテーマに向き合い、ナレッジ共有や人材育成、社内浸透の取り組みなどについて、課題を抱える企業同士が意見交換を行っています。主にマネジメント層が参加し、1〜2カ月に1回の頻度で濃密なディスカッションを実施しています。
――昨年、「UX組織開発分科会」を中心として『UX組織白書2025』を発刊されました。発刊の目的を教えてください。
笹原:UXIAではこれまで、「UX組織開発リファレンスブック」や「UX組織診断・処方箋」など、活動成果をさまざまな形で発信してきました。2024年に入り、「UXがビジネスに与える影響を、現在の実態を踏まえて可視化すべき」という話が分科会の中で上がり、白書の刊行を検討し始めました。
小浪:分科会では、会員企業の皆様が自社のUX施策に自信を持って取り組める学びを提供するとともに、社内で説明しやすい共通認識を生み出すことを目指してきましたが、経営層の理解が進みにくいという課題は根強く残っていました。そこで、UX組織の必要性を社会的に示し、ミドルマネジメント層の後押しとなるツールとして、白書という形式で発信することにしました。
UX組織が機能している企業ほど、経営の理解がある
――『UX組織白書2025』の概要を教えてください。
笹原:白書は全体で約90ページ、2部構成でまとめています。第1章「データで見るUX組織の現在」では、UXIAが実施したアンケート調査にもとづき、大企業におけるUX組織の実態を分析しました。調査は、従業員501人以上の事業会社に所属するマネジメント層800人から得た回答をもとにしています。
第2章「UX組織推進企業インタビュー」では、UX推進に先進的に取り組む会員企業4社(丸井グループ、三井住友海上、リクルート、MSD)へのインタビューを掲載しています。UX組織の変遷や現在の取り組み、経営層の理解を得るためのKPI・KGI設計、社内浸透の工夫など、具体的で実践的な知見を紹介しています。
――白書の制作に関して、電通デジタルのメンバーはどのような役割を担いましたか?
遠藤:実務面はほとんど、電通デジタル側が一手に担ってくれました。
笹原:構想段階では3人でスタートし、アジェンダ設計を含め、「UX組織開発分科会」に参加する会員企業の皆様から多くの示唆を得ながら内容を固めていきました。調査すべき定量データやインタビューで掘り下げるべき論点が明確になった段階で、実行フェーズは4人体制へと拡大しました。
具体的には、2人が調査会社と連携しアンケート調査と分析を担当し、もう2人が企業インタビューを担当しました。それぞれが進捗や気づきを共有し、小浪さんのチェック・監修を受けながら、遠藤さんにも随時報告する形でプロジェクトを進めました。デザインについても電通デジタルのメンバーが担当しています。
――『UX組織白書2025』の制作を通じて得られた新たな知見を教えてください。
小浪:第1章のアンケート結果では、これまで感覚的に語られがちだったUXの実態が、数値として明確に可視化されました。特に印象的だったのは、「自社のUXの取り組みが分からない」と回答したマネジメント層が約7割(69.6%)に上ったことです。
UX組織への理解と専門組織の設置状況
※サンプル数:8,004ss
Q. あなたの会社の「UX(User Experience)」への取り組みについて、該当するものを選択してください。(単一回答)
一方、「公的なUX組織がある」と回答した11.6%の企業においては、6割以上が「ビジネスに貢献している」と答えており、UX組織の有無が大きな差につながっていることが判明しました。UX組織の成果と経営層の理解には強い相関があり、この正の循環をいかに回すかが重要だと分かりました。
UX組織のビジネス貢献実感
※貢献していない:「どちらともいえない」「あまり貢献していない」「全く貢献していない」
※サンプル数:299ss
Q.あなたの会社のUXへの取り組みについて、該当するものを選択してください。(単一回答)×Q. UXに取り組む組織やチームの活動は、会社の利益向上に対して貢献していますか?(単一回答)
遠藤:UX組織がうまく機能している企業ほど、経営の理解があるという仮説は、今回の調査でも裏付けられました。顧客評価と事業成果という2つのKPIを設定している企業ほどUX組織が成熟しており、成長フェーズに応じてUXの体制が変化していくことも明らかになりました。外部支援から始まり、経営の理解を得ながら内製化へと移行していく流れが成果の差につながっている点は、非常に興味深い結果です。
小浪:第2章の企業インタビューでは、UX組織の立ち上げや社内浸透の施策に多くの共通点が見られました。トップダウンとボトムアップの双方を重視し、草の根的にUXの価値を伝えていく取り組みを4社とも丁寧に行っています。UXは成果につながるという実感を社内に広げ、ファンを増やしていくという、いわば「社内マーケティング」の重要性を改めて示す結果だったと感じています。
UXを社会の力にする。UXIAが描くこれからの展望
――UXIAとして今後どのような展望を考えていますか?
小浪:UXを起点とした意思決定が行える組織へと変貌するためには、明確なビジョンの定義、経営層の理解、組織体制の強化、人材育成等、様々な壁を乗り越えなくてはなりません。『UX組織白書2025』の刊行を機に、UXIAは「現場で孤独に奮闘するミドルマネジメント層を支援する団体」であることを、改めて広く伝えていきたいと考えています。今後も白書のようなツールや刊行物を通じて、実務に役立つ支援を継続していく予定です。
遠藤:人口減少が進む日本においては、UXの重要性はさらに高まります。公共サービスや商業の現場ではデジタル化が避けられませんが、UXの質が低いことを理由に前に進めないケースも少なくありません。
一方で、デジタル化によってサービス供給が増える中、UXを徹底的に磨き込むグローバル企業の存在感はますます拡大しています。日本企業のUXに対する感度の低さは、もはや社会課題のひとつでもあり、そこへの啓発を続けていきたいと考えています。そのためにも、UXIAの仲間を増やしていきたいですね。
笹原:白書発刊イベントで「まさにこういう資料を求めていた」と声をかけてくださる担当者の方と出会い、UXIAはこうした悩みを抱える方々のための組織であると改めて実感しました。今後も、実務で迷いや課題を抱える方が集まり、相談し合える場を広げていきたいと思っています。
――UXIAに興味を持っていただいた方にメッセージをお願いします。
小浪:UXIAでは、組織開発の戦略や実例・実績を豊富に蓄積したUX組織開発分科会、各メンバーのレベルに応じてUXスキルが学べるUX検定、先端的なUXの取り組みに触れ、新たな知見を得ることができる先端事例研究分科会、さらにAI×UXの実践の機会やノウハウをいち早く効率的・効果的に得ることができる生成AI×UX実践研究会といった取り組みを推進しています。
UXを組織に定着・浸透させようと日々奮闘されているミドルマネジメント層の皆さまには、ぜひご参加いただき、一層の推進力をもって組織運営に生かすしていただければと思います。
遠藤:経営層の方々から「ライフタイムバリュー(LTV)を高めたい」という声を伺うことは多いのですが、具体策の段階で立ち止まってしまうケースも少なくありません。ライフタイムバリューの本質は顧客体験にあり、その中心にUXがあります。「LTVを上げたいならUXIAを頼るべきだ」と伝えていきたいと考えています。
PROFILE
プロフィール
小浪 宏信
電通国際情報サービスに入社後、Webサイト開発業務、及びインタラクションデザインの研究開発に着手。2002年に電通イーマーケティングワン(現電通デジタル)の立ち上げメンバーとして参画。携帯キャリアにてBtoBtoC事業の立ち上げを支援。新規サービスの立ち上げを多数経験。顧客体験設計を中心としたコンサルティング業務等に従事。2023年から、社会課題解決型の新規事業開発を支援する電通デジタルBIRDの部門長に就任。一般社団法人UXインテリジェンス協会 副事務局長。中小企業診断士。早稲田大学/大阪大学 招聘講師。
笹原 史郎
2012年に電通デジタルの前身、電通イーマーケティングワンに入社。15年から17年、電通へ営業兼デジタル担当として出向。2022年より現職。CX/UX領域を中心に、顧客起点でのマーケティング戦略立案&実行、新規サービス構想プランニング、DX組織の包括的支援、各種組織人財開発支援を担当。 一般社団法人UXインテリジェンス協会 組織開発分科会 事務局リーダー。大阪大学/神戸大学 招聘講師。
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