2020.08.27

近未来思考で挑む顧客体験起点のDXとは

電通デジタルでは、現在のコロナ禍に対する一つの解決策として、顧客体験を起点としてデジタルトランスフォーメーションを進めていく「CXトランスフォーメーション」という方法を提案しています。

オンラインで行われた「CXトランスフォーメーションセミナー」で、電通デジタル 小浪宏信と、株式会社ビービットの宮坂祐氏が、「Withコロナ時代」の生活者の意識や行動変化、「BEYONDコロナ」を見据えた企業のデジタルトランスフォーメーションについて解説しました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

CXトランスフォーメーション部門
部門長

小浪 宏信

株式会社ビービット
執行役員

宮坂 祐

コロナ以前のトレンド――コロナウイルスによる環境変化

小浪 : まずは、コロナ以前に企業が取り組んでいたトレンドを、キーワードで挙げてみました。全体としては、デジタルトランスフォーメーションの必要性を喚起するキーワードが多かったという風に捉えています。1つずつ順番に説明していきます。

アフターデジタル

宮坂 : 『アフターデジタル』は、私の同僚であるビービットの藤井保文が書いた共著本で、2019年3月に発売され、そろそろ10万部に届こうかという売れ行きです。

アフターデジタルって対比概念なんですね。リアルとデジタルが分かれていた世界(ビフォアーデジタル)から、リアルのすべてがデジタルに包み込まれた世界(アフターデジタル)へ。生活者はその変化の中にいることを企業はきちんと捉えるべきだ、ということが主な内容です。そして、アフターデジタルな世界を考えるなかで、次に出てきたキーワードがOMO(Online merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)です。

OMO

OMOは、O2O(Online to Offline)の進化概念です。Webでクーポンを配って来店してもらうのがO2Oだとすると、デジタルデータを起点にして、オンラインとオフラインを融合する施策がOMO 。オフラインでもオンライン的な戦いをしていく、そんなものの考え方です。O2Oよりもう少し顧客目線の概念かもしれません。

テックタッチ/ハイタッチとバリュージャーニー

「テックタッチ」はデジタル接点。高い頻度でお客さまに接することができるチャネルです。「ハイタッチ」は個別の人接点。リアルな営業マンが訪問するとか、特別なイベントにお客さまを招待するといった対応方法です。「ロータッチ」はこの中間で、電話やメールでの対応、ワークショップなど、集団単位での人接点です。

これらを組み合わせて、お客さまとの関係を深めていくようなジャーニーをどう作っていくのか。われわれはこれを「バリュージャーニー」と名付けました。バリュージャーニーをうまく作れていた会社ほど、このコロナ禍でも比較的善戦できていた。そういう見方もできると思います。

カスタマーサクセス

バリュージャーニーを作るためには、いかにお客さまを自社のジャーニーにオンボードさせ、満足して使い続けていただくかが大事です。そのためのアプローチとしてカスタマーサクセスが注目されるようになっています。

カスタマーサクセスとは、お客さまに、愛着を持って長くサービスを使っていただき、LTVを高める手法です。

コロナ前からアフターデジタル、OMO、テックタッチ/ハイタッチとバリュージャーニー、カスタマーサクセスといった概念は存在していました。企業がBEYONDコロナへ向けてDXを進めていくなかで、これらの概念がどのように影響するのかを、引き続き説明していきます。


コロナの現状と今後の見通し

小浪 : ここでいったんコロナに関する現状をまとめておきます。2019年12月、中国で発生したと言われる新型 コロナウイルスは、その後、全世界に広がり、感染者数は814万人(2020年6月16日時点)。ビジネス面では、旅行観光業、飲食業、エンタメ業界をはじめ、各業界に甚大な影響を与えている。一方で、デリバリーが発達したり、イベントが進化したり、Eコマースへのチャネルシフトが加速している状況もあります。

今後の見通しについて、米ミネソタ大感染症研究政策センターの報告書によると、①小規模な波が1~2年続く、②大規模な波が発生する、③このままじわじわ続く という3つのシナリオが想定されています。

いずれにしろ2年間ほどはこの状態が継続するのではないかという観測で、やはり新型コロナウイルスとの共存は考えなければいけない。Withコロナ時代があったうえで、アフターコロナ、BEYONDコロナの世界に入っていく流れなのかなという見通しです。


Withコロナ時代の生活者の意識・行動の変化

小浪 : コロナによる環境変化や体験を経て、生活者の意識や行動が どのように変化するのか。宮坂さんはどのようにお考えでしょうか。

宮坂 : 1つめは「デジタル慣れ」。今までオンライン会議をしたこともないような人が普通にZoomを使うようになったり、家でNetflixを見るようになったりしています。

2つめは「リアル渇望」。無性に外に飲みに行きたいとか、テーマパークに行きたいとか、そういう渇望感は間違いなくあると思います。

一方で、3つめの「『三密』警戒」。密閉空間、密集場所、密接場面への警戒感は深く心に刷り込まれている。これはすごくアンビバレントな感情で、デジタルには慣れてきたけど、やっぱりリアルも好き。渇望もしているけど、どうも怖い。

そういったなかで、今までにはなかったような社会的なペイン、すなわち既存のビジネスや社会システムの限界がいろいろと表出してきました。

これに対してどう向き合うか。基本的な方針は「デジタル顧客接点のアップデート」です。たとえば、「リアル渇望」に対してはハイタッチで対応するので、位置づけの再構築が必要です。結果として、より希少で重要度が高いものとして価値が上がることになるでしょう。

「『三密』警戒」については、慶応義塾大学の安宅和人教授が「開疎化」という概念を提唱しています。

ヨコ軸に密閉(Closed)と開放(Open)、タテ軸に密(Dense)と疎(Sparse)をとった4象限のマトリクスを作ります。「開疎化」とは、これまでコスト効率が悪かった「開」で「疎」な場所をデジタルの力でうまく活用しようという考え方です。

都市は「密閉(Closed)かつ密(Dense)」な空間です。人と機能を集約させていて、効率が良い代わりに、今回のコロナのようなことにはすごく弱い、

一方、地方のような「開放(Open)かつ疎(Sparse)」な空間は、今まではコスト効率が悪く、敬遠されていました。働きづらいし、モノとヒトの移動のコストもかかる。しかしデジタルをうまく使えば、「開疎」な空間に関してもコスト効率のいい形で活用できるようになるのではないか。そういうことをおっしゃっています。これは、知っておくべき概念です。

小浪この「デジタル慣れ」「リアル渇望」「『三密』警戒」ですが、関連する調査結果をご紹介しますと、弊社のFu-man insight lab™で2020年5月に実施した独自調査で「コロナ禍で新たに取り入れたサービスは何ですか?」と聞いたところ、以下のような結果になりました。

特徴的なのが、「外出自粛解除以降も取り入れたい」という意向が軒並み50%以上を示しています。仮にコロナウイルスの流行が収まったとしても、コロナ禍で経験したサービスは不可逆で、生活自体が変わってきていると言えるのではないでしょうか。

もう一つ。これは電通が4月に調査した結果ですが、生活者の方に、「コロナ影響下での情報に対する意識」について聞きました。回答の中から、スコアの高いものをピックアップしてみました。

たとえば、「社会に向けた取り組みを開始している企業には共感できる」「社会を元気にするには企業の取り組みが必要」のように、情報の内容だけでなく、企業からの情報の発信方法、取り組みに共感したり、賛同したり、ということが起きています。パーパスへの共感と近いのかもしれません。

このコロナ禍で起きた行動の変化や、新たに芽生えた意識にはどういうものがあるのか、まとめてみたのが以下の図です。

強制的な環境変化としては、三密回避、ソーシャルディスタンス、収入減が影響して、購買意識、行動の抑制が起きています。在宅勤務や外出自粛によって、過去にない社会的/個人的心理不安が生まれています。

それが、どんな心理や行動の変化につながっているか。三密回避によって、対面接点の貴重さを改めて感じたり、リモートの交流体験が加速したりということが起きています。また、EC、動画配信等のオンラインサービスの利用機会が増えています。あとは、閉塞感や心身の疲れから、ストレスをいかに発散できるかということを感じられている方も多い。

収入減に関して言うと、支出の優先順位付けが起きていて、生活必需品の備蓄だったり、贅沢品の購入を控えたり、そういった購買行動につながっているかもしれません。

心理的な面では、自分や家族の将来像に照らして、今後どのように行動するべきか、再考している方も多いのではないかという仮説を立てています。

これらの変化は行動様式に影響を及ぼすのではないかと考えています。リモート環境が一般的なコミュニケーション手段になっていくとすると、時間的・空間的な効率性が高まるかもしれません。一方で対面接点は、重要性が再認識される中で、必要な生活シーンが選別されていくでしょう。オンラインサービスの利用意向は不可逆です。どれぐらい先になるかはわかりませんが、コロナが収まり収入が回復したとしても、コロナ状況下での変化は今後のライフスタイルや行動様式として残っていくと思われます。


BEYONDコロナを見据えた企業の取り組み方針

小浪 : コロナによって生活者のライフスタイルや行動様式は大きく変化しました。企業としても自社をどのようにDXしていくべきか、考えなくてはいけません。大きな傾向としては、最初に紹介したアフターデジタル、OMO、カスタマーサクセス、さらにはCRM、1ID化、パーパスマネジメントといったDXのトレンドはとどまることなく、逆に加速する傾向になると考えて良いかと思います。

宮坂この2年ぐらい、アフターデジタル、OMO的な話をずっとしてきました。良くも悪くも、いよいよ加速することにならざるを得ないでしょう。実際、今までなかなかDXが進まなかった伝統的な大手企業でも、この数ヵ月で取り組みが始まっています。では、実際にどのようにDXを進めていけば良いのか、参考として2つ事例を紹介します。

事例1:オンライン適合型ライブ

2020年5月に、あるアーティストグループ がオンライン適合型ライブを開催しました。無観客の会場で行うライブがオンラインで全世界に配信され、スマホないしはPCから参加して視聴します。ライブ会場には、舞台背景に液晶パネルが敷き詰めてあって、各国から選ばれた参加者が表示されています。画面に映っている人たちは、MCのときにメンバーに呼びかけると、リアルタイムでコミュニケーションをとることができます。チャットも活用して全員が参加しているみたいな感じがあり、もちろんECとも連動しています。

小浪 : 私もこのライブは見ました。新しい体験がここで生まれていて、しかもオンラインならではの特性が生かされ、ビジネスとしても成功している。すごく良い事例だなと思いました。

事例2:プロ野球球団を所有するグループ企業

宮坂先日ある企業グループの方とディスカッションをしました。このグループには、鉄道、ホテル、プロ野球の球団、不動産、百貨店などの企業があります。今回のコロナ禍によって、すべての企業が大きなダメージを受けています。BEYONDコロナになっても、おそらく100%元通りになることはない。では、企業として生き残るためにどうするかという思考実験です。

この会社は、郊外の「開疎」な場所に土地や施設をたくさん所有している。鉄道もある。そのリアルアセットとデジタルサービスを組み合わせることで、働きやすさを支援するようなサービスが考えられます。

プロ野球球団については、OMO的にリアルとデジタルを組み合わせて、自宅空間に野球の臨場感をうまく持ち込むことができるかもしれません。先の事例のオンライン適合型ライブのように、球場の席に液晶パネルを設置すれば、選手は満員の客の中で野球しているような高揚感を味わえる。これくらいの発想の転換はあり得るのではないでしょうか。

バリュージャーニーの再デザイン

BEYONDコロナを見据えたDXで大事なのは、個客の体験を起点にして、点ではなく、線でつながるバリュージャーニーをきちんと描くということです。顧客接点に生じた変化を把握し、必要に応じたチャネルを強化するためのサービス・施策開発を行うことが求められます。

小浪 : バリュージャーニーの再デザインによって、お客さまとどういう接点が作れるのか、どういうシナリオでお客さまに寄り添えるのかをサービスに落とし込んでいくことが必要です。自社データ、他社データ、自社チャネル、他社チャネル、DMPといったデジタルのパーツをきちんと線でつなげて、顧客価値に還元していくことが、これからのDXのチャレンジだと思います。


まとめ:いかにDXを進めるか?

小浪 : アフターデジタル、OMO、カスタマーサクセス、バリュージャーニー。これらコロナ前のトレンドはBEYONDコロナで加速していきます。コロナによって変化した生活者に対して、ありふれた商品やサービスを従来の方法で提供していては、お客さまのニーズに応えきれません。お客さまの体験の変革に合わせて、お客さまの体験起点で企業全体のDXを実現する。それを電通デジタルでは「CXトランスフォーメーション」と呼び、2020年1月に同名の部門を新設しました。

DXの課題やタスクは多岐にわたって存在します。まず環境分析、ビジネスモデル作成、事業戦略立案に加えて、ミッションやパーパスの定義が必要です。そのうえでお客さまの体験を描き、その体験を実現するための基盤を作る。その基盤を使うための業務設計や業務を回すための体制、さらには人材育成も視野に入れて、アジャイルに進めていく。かなりハードルの高い取り組みだということは間違いありません。

DXに本気で取り組む企業が増加する一方で、さまざまな要因で思うように進捗していない事例も散見されるようになりました。そうした状況に対して、CXトランスフォーメーションは、DX組織の立ち上げから運営支援のソリューション提供まで、お客さまの体験起点でDXをアジャイルで進めていく手法です。

われわれ電通デジタルCXトランスフォーメーション部門は、ビジネスデザイン、デジタル人材育成プログラム、EXデザイン、データアナリティクスデザイン、デジタルプラットフォームデザイン、サービスデザイン、CX/UXデザインなど、DXに必要なあらゆるソリューションをご用意して、クライアント企業に寄り添いながらご支援したいと考えています。

このCXトランスフォーメーションは変革リーダーの方に寄り添いたいと思って作ったサービスでもあります。構想と実行 の壁に阻まれるリーダーの皆さまにパートナーとして寄り添い、理想的なサービス実現までこぎつけることで、優れた顧客体験に溢れる社会を作りたいと考えています。DXに関して何らか課題を抱えて悩まれているお客さまは、お気軽にご相談ください。

宮坂DXは単なるデジタル化ではありません。デジタルの活用によって、新しい顧客価値を作るということです。そういう意識のもと、最近は電通デジタルさんと一緒にソリューションを提供しています。賛同される方がいらっしゃいましたら、ディスカッションをしながら、ご支援をしていきたいと思っています。

(本記事は、2020年6月18日、19日に開催された「CXトランスフォーメーションセミナー ~近未来思考で挑む顧客体験起点のDX~」のセッションで発表された内容を再構成したものです。)

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