『25時、赤坂で Season2』グッズ施策に学ぶ、AIで実現する空想の具現化
株式会社テレビ東京
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生成AIの登場により、動画広告のクリエイティブ制作は大きな転換期を迎えています。新たな表現をどう生み出し、いかにファンの共感を得るのか――。テレビ東京と電通デジタルは、ドラマ『25時、赤坂で Season2』のグッズ販促において、独自フレームワーク「IG AI Creative Studio」を活用した動画広告施策に挑戦しました。アクリルスタンドが動き出すというユニークな世界観を追求した結果、Instagramでのエンゲージメント単価はプラン比27%改善。本記事では、プロジェクトを推進した4人に背景と成果を聞きました。
※2026年6月付け時点の所属・役職です。
電通デジタル・竹内 喜教:テレビ東京様からいただいたお題は大きく2つありました。ひとつは、実写では難しい、あるいは発想しにくい新たな動画表現を見つけること。もうひとつは、グッズ販促につながるAI活用の知見を蓄積し、今後に生かすことです。
その中で、電通デジタルが提供している「IG AI Creative Studio」に関心を持っていただきました。これは、Instagramユーザー分析ソリューション「Tribe Driven Marketing for Instagram」と連携し、トライブ分析・動画制作・事前評価までを一体で行うフレームワークです。本プロジェクトでは、この仕組みを活用して施策を進めました。
テレビ東京・桑原佑介氏:「25時、赤坂で Season2」に限った話ではないのですが、今の時代は番組を週に1度放送するだけではファンの方々との接点を十分に作ることができません。SNSを中心に継続的に本編以外のサブコンテンツを発信し、ファンの熱量を維持・拡大していくことが重要です。
各番組がメイキング映像やライブ配信などを拡充する中で、グッズの動画についてもコンテンツとして番組と一緒に楽しんでもらおうという狙いがありました。その一環として、今回のAI活用に取り組みました。
桑原:これまでは、番組動画を切り抜いてSNSに展開するなど、効率化の文脈でAIを活用してきました。しかし今回は、そうではなく新しい表現に挑戦したかったのです。一方で、出演者の素材は権利面の制約もあります。『25時、赤坂で』はファンの熱量が高い作品なので、AI動画に対する抵抗感や懸念を想定し、最初は慎重に進めました。ただ、制作陣に提案したところ、前向きな反応が得られました。製作委員会や原作者にも確認し、グッズであれば問題ないと承諾いただきました。
電通デジタル・藤本 修:「あったらいいな」を形にする「空想の具現化」がコンセプトです。現実の制作では制約によって諦めてしまうアイデアも多いですが、それを実現できる点に価値がありました。当初は人を中心とした表現も検討しましたが、制作当時は「不気味の谷」をまだ越えられておらず、技術的に違和感を完全には払拭できませんでした。そこで発想を転換し、アクリルスタンドを動かす表現にしました。結果として、インパクトのあるクリエイティブになったと感じています。
電通デジタル・望月 優夢:今回は推し活の文脈もあったので、そこは強く意識しました。アクリルスタンドは、二次元や画面の中にいる推しを三次元の現実世界に持ち出すための象徴的な存在だと思います。さらに、それを持ち歩くことで「現実の中で推しがそばにいる」という感覚を拡張していくことができる。そうした推し活ならではの体験や世界観を、動画として表現することを目指しました。
電通デジタルには「∞AI Social」というSNSのバズ傾向をリサーチできるツールがあります。それで調べていくと、推し活では擬似同席体験ができるものが伸びていることが分かりました。たとえば、リアルなベッドの写真に、寝転んだ姿のアクスタを重ねて撮ることで、推しと一緒にいるような気持ちになれる投稿です。そうした傾向を踏まえて、推しを近くに感じられる動画にしようという方針がありました。
藤本:今は、「これ、なんかAIっぽいな」と感じるような、AI特有の質感が目につくことも多いですよね。それをなるべく避けるようにしました。SNSのフィードに流れてきたときに、前後の投稿から浮いて見えると、悪目立ちしてしまいます。コントラストや色味を何度も調整して、なるべく自然な投稿に見える絵作りを意識しました。
一方で、後からAIで制作したものだとわかった時に、炎上する可能性もゼロではありません。「AIを使って新たな表現に挑戦しました」と開示した方が見る側もポジティブに受け止めてくれるのではないかと考え、あえて明示することにしました。
藤本:ゼロからイチのアイデアは、人間の方が振り切れるところがあって、最初の企画出しは私たちがやりました。AIだけでは、どうしても当たり障りのない、平均的な企画になりやすいと感じています。私たちが尖った企画を出し、AIとの対話を通じて肉付けしながら、現実的な企画へと落とし込んでいきました。
ビジュアルを制作する段階でも同じです。字コンテから絵コンテ、Vコンテへと進めていく過程でも、「こういう世界観にしたい」と何度もAIに指示を出しながら作っていきました。
一方で、セリフの細かなニュアンスを決める際は、推し活に詳しい望月さんにずいぶん助けられました。たとえば、尺に対してセリフが長すぎるときに、同じ意味を短い言葉でどう伝えるか。あるいは、言葉尻をどう調整するか。そうした場面で、「これは少し違う方向に受け取られるかもしれない」と判断してもらえたのは大きかったです。
望月:AIは候補をたくさん出すことはできても、どれが良いかを判断することはできません。ここは、人間がやるべきところなのだと感じました。私たちがこれまで培ってきた、クライアント業務や広告制作の知見があったからこそできた部分だと思います。
藤本:今まで、時間や労力の制約から泣く泣く諦めていたアイデアを、全部形にできるのはAIの強みです。A案、B案だけでなく、それぞれの派生案や別パターンも大量に生成でき、その中から本当にいいものだけを選び出すことができる。ただ、細かい精度の部分では、どうしても人間が手を加えなければならない部分が当時は多くありました。文字が崩れてしまったり、顔の向きを少し変えたら別人になってしまったり……。本格的に納品物として完成度を高めるには、「こういうものを作りたい」というビジョンやゴールを人間側が頭の中にしっかり描いてAIに指示を与えないといけないと感じました。
望月:機材費や撮影費などの制作コストは抑えられる一方で、試行錯誤にかかるコストは膨大に増えたと思っています。精度を高めていくには、適切なプロンプトを出すための「言語化力」がすごく大事だと感じました。AIを活用するからこそ、そこにしっかり時間をかけて、手を抜かずに向き合う必要があります。
竹内:「世界に連れ出してみた篇」は、ハリウッドやカンヌなど、世界各地にアクスタを連れ出していくという動画です。こうした世界中を飛び回るような動画を実写で作ろうとすると、コストもスケジュールもかかり、難しかったでしょう。しかし、AIの導入はコスト削減とスケジュールの短縮を同時に実現し、従来の課題を克服する鍵となりました。制作のハードルが下がったことで、今後はより幅広いクリエイティブ表現への挑戦が可能になると感じています。
竹内:大きくは3つのステップで構成されています。トライブ分析、動画制作、そして事前評価です。
共通の興味関心を持つ集団(トライブ)の特性を分析するために、電通デジタル独自のInstagramユーザー分析ソリューション「Tribe Driven Marketing for Instagram」を活用しました。今回は「#推し活」などのハッシュタグでよく投稿している"推し活トライブ"にあたる人達を分析し、普段どのような関心やインサイトを持っているかを読み解きました。
「IG AI Creative Studio」では、こうした分析結果をもとに動画制作と事前評価を行います。分析したトライブの特徴をAIペルソナ化し、制作した動画を評価させることで、配信前に反応を把握できる点が特徴です。この3ステップを人とAIで分担することで、より効率的に、届けるべき相手に届く動画を制作できます。
藤本:最初は人間同士でミーティングしながら、推し活のAIペルソナにいろいろな企画を当てていきました。「このトライブに刺さるクリエイティブとは何だろう」と、ペルソナとずっと対話しながら探っていきます。
望月:各トライブのAIペルソナに企画を送ると、ランキング付けをした上で意見を返してくれます。「このペルソナには、この視点が刺さる」と分かるので、企画のブラッシュアップにかなり役立ちました。
藤本:トライブごとに企画の好みがしっかり分かれたのも面白かったです。これは、企画の作り分けが正しくできているということでもあるんですよね。たまたま複数のトライブに同じ企画が刺さることもありますが、皆が好きなクリエイティブは当たり障りのないものになりがちです。
竹内:最初はコンバージョン目的で配信を始めました。テレビ東京様の「テレ東本舗」アカウントにアクセスしたり、いいねをしたりした人をターゲティングして広告を配信していたのですが、アカウントのオーガニック投稿に対するエンゲージメントも良い反応が出ていました。そこで、途中からエンゲージメント目的に切り替え、最後はオールターゲットにして、幅広い層に反応してもらうことを狙いました。結果としてエンゲージメント単価はプラン比27%と大きく改善しました。
桑原:短期的なグッズ売上のCPA(顧客獲得単価)で見ると、グッズのラインナップをシンプルに紹介する訴求の方が良いことも多いです。ただ、そうではなく、今回はグッズの楽しみ方を提案する動画にしたからこそ、より広いユーザーに届けることができました。
藤本:ドラマのファンの方からポジティブなコメントがついていたのは、本当にホッとしました。AIによるグッズのクリエイティブ制作において、今後の道しるべが見えたと個人的には思っています。
受け入れてもらえた理由は、大きく2つあると思います。ひとつは、AIで制作したことを開示したことで、 AIに対する違和感や嫌悪感につながり得る要素を「ドラマチームが楽しみながら新しい表現にチャレンジしている」と受け止めてもらいやすくできたこと。もうひとつは、ユーザーの「あったらいいな」という心理に寄り添ったクリエイティブを作れたことです。
印象的だったのは「ドラマ陣も楽しんでいる」というコメントです。ファンの方も、制作側の遊び心を受け取り、一緒に楽しんでくれたのだと感じました。
桑原:私も、共感してもらえたことがすごく大きかったと思っています。AI動画では、自分の頭の中にあるものをどんどん形にできるので、作り手側の目線になりがちです。今回はそうではなく、ファンの皆さんが「こんな世界があったらいいな」と思うものを、AIで見える化できた。ファンの方に喜んでもらえる世界観を、AIで実現できたことが良かったのだと思います。
「テレ東ありがとう」というコメントは、とても嬉しかったですね。普段、視聴者の方から「ありがとう」と言われる機会はなかなかないので、SNSならではの良さを実感しました。
桑原:クリエイティブ面では、物理的な制限だけでなく、現実さえも飛び越えられる点が強みだと実感しました。今後も様々なSNSコンテンツを展開していく中で、スパイスとして有効活用していきたいですね。
また、マーケティング面でも、AIペルソナによるユーザーインタビューには非常に興味を持ちました。未来の人や過去の人など、現実には存在しないような相手からも定性的な意見を得られる。AIによって効率性を高めるだけではなく、新たな表現を作り出すチャレンジにもつながると思います。
藤本:これまでは、「この予算とスケジュールで何ができるか」を考えるところからスタートしていました。でもこれからは、「何を伝えるべきか」という、より本質的な問いから始められます。さまざまな商材において、クリエイティブの作り方が変わってくると感じています。
多種多様な価値観を持つAIペルソナにインタビューできるようになることで、今後は、それぞれに合ったメッセージを届けることがより重要になっていくと思います。その人にとって意味のあるメッセージを伝えられるような広告を作っていきたいですね。
望月:今後、一般的な人物はAIでどんどん作れるようになる一方で、タレントさんはその肖像自体の価値が上がっていくと思います。その肖像を使わせていただきながら、本人の稼働を抑えるといった活用は、今後増えていくのではないでしょうか。
もう一つの可能性は、人間ではないものへのAI活用です。AIが生成する動物は、かなり違和感がなくなってきています。また今回のグッズのような、モノを動かす映像でも、AIは効果的だと思いました。AIで誰でもクリエイティブを作れる時代に、なぜ私たちがやる意味があるのか。そこを言語化していくことが大切だと感じています。今回は、人間による企画力と、ファンダムの文脈を読む力が重要なポイントでした。私たちだからこそできることへの解像度を高め、さらに進化させていかなければと思っています。
竹内:今後、AIの活用は避けては通れないものだと思います。その中で大切なのは、人間にしか理解できない感性や機微を、AIによっていかに精度高く具現化できるか。その融合こそが、次世代のマーケティングを勝ち抜く鍵になると思っています。
藤本:AIによってクリエイティブが代替されるといった脅威論も世の中では言われていますが、今回の取り組みで学んだのは、AIがクリエイティブのすべてを置き換えるわけではないということです。我々が伝えたいことをより良くしてくれる、より多くの人に届けられるようにしてくれるものだと強く感じました。AIとうまく共存しながら、より良い広告やマーケティングに生かしていければと思っています。
望月:今のAI活用は、コストダウンに重きを置いて議論されがちですが、そうではなく、もっとAIだからこそできるクリエイティブ表現にチャレンジしていきたいです。例えば、AIでしか撮れないアングルだったり、現実にはできない演出だったりが、まだまだあるはずです。実写の代替ではない、AIならではの企画を実現していきたいですね。
桑原:ファンの皆さんの熱量を維持し、拡大していくことが、テレビ東京としては非常に大事です。番組を放送して終わりではない時代に、AIによってできることが増えたという手応えを今回は掴めたと感じています。
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