視聴完了率50%超を記録。トヨタ・コニック・プロ動画広告への生成AI活用

「トヨタ・コニック・プロ、生成AIを利用した動画広告の視聴完了率が50%超えを記録」背景は登壇者の集合写真。左から根石 康行氏、植村 智明、喜代田 有香、福島 ゆかり

生成AIによる動画制作への関心が高まる一方、広告配信に耐えうるクオリティの確保、権利処理、セキュリティなどの観点から、実用化へのハードルは依然として高いのが実情です。こうした中、電通デジタルはトヨタ・コニック・プロ、KDDIアイレットの2社とともに、広告配信を目的とした動画生成AIのPoC(概念実証)を実施しました。実際の広告配信における課題をどのように乗り越えたのか。プロジェクトメンバーに聞きました。

広告領域での動画生成AIは、なぜ実用化が難しいのか

――動画生成AIを「広告配信に使えるレベル」で活用しようとすると、どのようなハードルがあるのでしょうか?

植村 智明(電通デジタル):まず技術的な制約として、現状のモデルでは一度に生成できる動画が数秒程度と短く、生成のたびに結果が変わる確率的な仕組みのため品質が安定しません。たとえば、ドライブの途中で運転手が別人に変わってしまったり、日中なのにヘッドライトが点灯していたりと、人間の目には明らかな矛盾が生じることもあります。広告配信に使うには、こうした問題に対処するための設計が別途必要というのが現実です。

喜代田 有香(電通デジタル):広告を運用するアカウントプランナーの立場から補足すると、クライアントごとに詳細なレギュレーションが存在します。特にトヨタ・コニック・プロの場合は、車体の歪みや光の当たり方、走りの表現といった、一般の人には気づかないような差異まで厳しく管理されています。生成AIで作ったものを広告として配信するには、「技術的に生成できる」という次の段階として、「広告に使えるクオリティかどうかを判断できる人間の目線」が必ず必要です。

――トヨタ・コニック・プロから相談を受けた経緯を教えてください。

福島 ゆかり(電通デジタル):最初に、トヨタ・コニック・プロからKDDIアイレットに、生成AIで広告を制作する環境の安全性に関して相談があったそうです。KDDIアイレットはセキュアな環境構築の専門会社ですが、「マーケティングのために作る」という観点で電通デジタルの力を借りたいとのことで、3社での取り組みに発展しました。そこから議論を重ね、最終的にPoCのスコープは「動画の短尺化・バリエーション作成」に絞り込んでいきました。

写真:福島 ゆかり
福島 ゆかり(株式会社電通デジタル AIトランスフォーメーション部門 マネージャー)

――PoCのスコープを「動画の短尺化・バリエーション作成」に絞った背景を教えてください。

福島:トヨタ・コニック・プロからご要望を網羅した一覧表をご提示いただいたのですが、数カ月では実現できる規模ではありませんでした。そこでヒアリングを重ね、「一度制作した動画広告素材を再編集する際、工程を短縮したい」というコアな課題が見えてきました。動画は静止画と比べて再編集のコストと工数が大きく、まずその解決を優先してスコープを絞りました。

加えて、生成AIの利用にあたり、LLMがインターネット上の商用利用可否の不明瞭なあらゆる素材を学習して生成することへの抵抗感がトヨタ・コニック・プロには強くありました。そこで、自社の素材を学習させ再構成するという方向性を軸に据えたことで、権利リスクも回避できる現実的なスコープが見えてきました。このセキュアな環境づくりの部分は、KDDIアイレットに担っていただくことがプロジェクト成立の重要な要件でもありました。

――動画素材を再構成する編集AIとして、今回はGoogleのViGenAiRを採用されたとのことですが、その理由を教えてください。

植村:採用の理由は、トヨタ・コニック・プロの要件とViGenAiRの特性が一致していたことに尽きます。ViGenAiRは、既存の動画素材を解析して再構成する編集AIです。権利リスクや意図しない映像が混入する問題を抑えられます。また、ViGenAiRはGoogleがオープンソースとして公開しているツールなので、ゼロから開発する場合と比べて工数を大幅に短縮でき、PoC規模での実現可能性という観点でも適していました。


非エンジニアでも安全に動画生成AIが使える環境設計

――本プロジェクトでKDDIアイレットが担った役割と、生成AIを広告領域で「安全に使える状態」にするための設計について教えてください。

根石 康行氏(KDDIアイレット):今回弊社は、トヨタ・コニック・プロのGoogle Cloud環境へのViGenAiRのPoC実行環境構築を担当しました。具体的には、デプロイ・IAMロール設定・基本動作確認を実施したほか、英語のみだったUIの固定文言を日本語化し、社内検証で使いやすい環境に整えました。

ただ一点、想定外の対応がありました。当初は弊社側でクライアント環境に直接デプロイする予定でしたが、ViGenAiRのフロントエンドがGoogle Apps Scriptで構築されており、公開範囲をトヨタ・コニック・プロのドメインに限定するにはトヨタ・コニック・プロのGoogleアカウントでのデプロイが必要と判明しました。そこで、エンジニアではない担当者の方でも手順どおりに進められるよう、画面キャプチャ付きの詳細な手順書を作成し、ウェブ会議でフォローしながら対応しました。

写真:根石 康行氏
根石 康行氏(KDDIアイレット株式会社 クラウドイノベーション本部 DX開発事業部)

――電通デジタルとして、トヨタ・コニック・プロとの信頼関係を維持しながら品質を担保するために、どのような工夫をしましたか?

喜代田:要件定義を進めている最中に、新しくGoogleの動画生成モデル(Veo) がリリースされ、トヨタ・コニック・プロから「本当にViGenAiRで進めてよいのか」というご懸念をいただきました。Veoの生成精度は非常に優れているのですが、今回求められた要件とは合致しませんでした。ツールの説明にとどまらず、実際にトヨタ・コニック・プロのご担当者と一緒に操作しながら比較検証を見ていただいたことが、ご納得とその後の信頼関係の維持につながったと考えています。

写真:喜代田 有香
喜代田 有香(株式会社電通デジタル アカウントプランニング部門 ※プロジェクト担当当時)

――実際に広告に使えるクオリティかどうかの判断基準、検証はどのように行ったのでしょうか?

喜代田:まずアカウントプランナーとしての経験を基に判断基準を明文化し、事前にトヨタ・コニック・プロとすり合わせました。検証項目は、広告尺(1分・30秒・15秒)への短縮、音声・音楽の自然なつながり、動画のストーリー性の担保、縦型・正方形への編集対応、ロゴや注意事項といったマスト要素の扱いなど幅広く設定しました。2カ月間かけて一つ一つ潰し込んだ上で、最終的に半日をかけたユーザーテストに臨み、トヨタ・コニック・プロの担当者ご自身に納得いただいた上で完了とする形を取ったことで、品質への信頼をしっかり担保できたと考えています。

植村:技術面では、プロンプトの入力方法についてサンプルとテンプレートをまとめ、トヨタ・コニック・プロにお渡ししました。ViGenAiRは誰でも扱えることが前提のツールですが、プロンプトの書き方次第で結果が大きく変わります。広告担当者がエンジニアの助けなしに使いこなせる状態を作ることも、今回のPoCの重要なゴールの一つでした。

写真:植村 智明
植村 智明(株式会社電通デジタル データ&AIソリューションセンター AIイノベーション事業部)

視聴完了率50%超。予想を超えた成果と座組の強み

――PoCの最後には、成果物を実際の広告配信に使用したそうですが、どのような成果が出ましたか?

福島:PoC最終日のユーザーテスト直後、トヨタ・コニック・プロの担当者が「この車種の広告配信で使ってみたい」とおっしゃってくださいました。年末最後の1週間という短い期間でしたが、実際のデジタル動画広告配信にViGenAiRで編集した動画を使っていただきました。

結果は私たちの予想をはるかに超えるものでした。視聴完了率50%超を記録し、2人に1人が最後まで視聴するという結果です。当初は既存施策の視聴完了率が20%で、「3割程度改善できれば」と想定していただけに、私たちも驚く数字でした。その車種の申し込みも増加し、「年末で止めざるを得なかったが、続けていればもっと申し込みが増えたはずだ」というお言葉もいただきました。この成果はGoogleのプライベートイベントでも紹介されました。

植村:ViGenAiRにはGoogleのABCDフレームワーク*に基づいた評価プロンプトがプリセットされており、Geminiがシーンを採点した上で広告効果が高くなる組み合わせを選定する仕組みになっています。YouTubeの長年の視聴データから導き出されたフレームワークが判定式として組み込まれているため、人間の編集では気づきにくい最適解を出せるのだと思います。正直、ここまで効果が出るとは思っていませんでした。

*Googleが提唱する効果的な動画広告を作成するための4原則

――今回、電通デジタルとKDDIアイレットの座組だからこそ実現できたポイントは何ですか?

福島:KDDIアイレットはクラウドセキュリティの構築実績が豊富で、「この設計だから安全です」と根拠を持って言い切れる知見があります。その裏付けがあったからこそ、安心して導入を勧められましたし、プロジェクトをスムーズにスタートできました。それぞれの専門性を持ち寄ったことが、今回の取り組みの土台になっています。

根石:電通デジタルが「広告・マーケティング領域の専門性」を、私たちが「クラウドインフラ・セキュリティの専門性」を持ち寄ることで、「使えるAI環境を安全・迅速に作る」というゴールを達成できました。どちらか一方だけでは、技術はできてもビジネス要件に合わなかったり、逆にビジネス要件は明確でも安全な環境構築が難しかったりしたはずです。それぞれの強みを組み合わせることで、PoCでも十分実用に耐える成果が出せたと感じています。

――最後に、生成AI導入を検討している企業の担当者へのメッセージをお願いします。

植村:AIは思ったより賢いし、思ったより賢くない、ということは念頭に置いた方がいいと思います。実際に動かしてみないとわからないことが多いので、試すための体制づくりが重要です。いきなり大きなものを目指さず、部内やチーム内の小さな用途から試してみて、AIがどう動くのかを現場で体感するところから始めることをおすすめします。

福島:私たちにご相談いただく最大のメリットは、安心してゴールを目指すためのチームを一緒に作るところからお手伝いできることです。何を売りたいのか、どのミッションを達成したいのかというお悩みをご相談いただければ、課題に応じて適切な専門家をアサインできますし、広告のプランニングも一緒に考えられます。「AI導入のためのAI」ではなく「お客様の課題解決のためのAI導入」を支援できるのが私たちの強みです。ぜひご相談ください。


関連サービス

データ・AI

生成AI活用の戦略設計から実装まで。ビジネス課題に即したAIソリューションで、広告クリエイティブ領域を含む事業変革を支援します。

PROFILE

プロフィール

福島 ゆかり

AIトランスフォーメーション部門

大手 SIer(旧第一勧銀DWH基盤PJ) や IT ベンチャー企業(独自開発のWEB解析、DMP、レコメンド)でのシステムエンジニアを経て、2015年電通デジタルの前身ネクステッジ電通に入社。広告運用・担当を経て、データ/テクノロジー領域へ異動し、2019 年よりGoogle Cloud リセリングチーム立ち上げメンバーとして現在の Google Cloud を中心とした WEB データと CRM データとの統合データ基盤構築プロジェクトを PM として複数件遂行。

福島 ゆかり

植村 智明

データ&AIソリューションセンター AIイノベーション事業部

大学院にてデータ工学に関する研究に従事し、博士号(情報学)を取得。その後、電通グループのAI開発会社にてAIエンジニア・プロジェクトマネージャーとして機械学習を中心とした開発を経験し、2023年合併により電通デジタルに入社。引き続きAIのPoC開発を担う部署にて、LLM・AIエージェント領域へ軸足を移し、現在はAIペルソナやマーケティング業務向けAIエージェントの開発を中心に、設計から開発まで含めた複数のPoC案件を遂行。

植村 智明

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