AI×人流データで観光客の心をつかむ。“通過を滞在に変える”北海道上川町の挑戦

北海道上川町

北海道上川町が実証実験で挑んだのは、“通過される町”から“滞在したくなる町”への転換。AI×人流データという最先端手法で見えなかった観光客やニーズを明らかにし、地域の新たな観光施策へ。リピーターやファミリー層など多様な来訪者をデータから解き明かす、電通デジタルと共に取り組んだこれまでにない未来志向のプロジェクトの舞台裏を紹介します。

大規模データ分析を「地方創生」に生かすための実証実験がスタート

──北海道上川町が抱える地域課題や観光振興の現状について教えてください。

三谷航平氏(北海道上川町):上川町は現在、人口約3000人と最盛期から80%減という深刻な人口減少に直面しています。層雲峡温泉や大雪山国立公園などの観光資源は豊富ですが、来訪者の滞在時間が短く「通過型観光」となりがちで、経済効果の拡大が課題でした。また、若年層やファミリー層への訴求やリピーターの獲得にも苦戦しており、勘や経験に頼るだけでないデータに基づく戦略が必要だと感じていました。しかし、手元のデータは古く、十分に活用できていない状況でした。

写真:北海道上川町

──電通デジタルとの連携はどのような経緯だったのでしょうか?

三谷:地方創生分野で信頼する方からの紹介がきっかけです。電通デジタルさんはデータ提供や分析だけでなく具体的な施策の提案まで伴走してくれると聞き、ぜひ実証実験をご一緒したいと思いました。私は「上川町に面白い人を呼ぶこと」をミッションにしており、今回も未知数な部分はありましたが、電通デジタルさんとならスピーディーに進められると感じました。

写真:三谷
三谷 航平氏(北海道上川町 東京事務所 ゼネラルマネージャー)

──大規模データにはどのような期待がありましたか?

三谷:まず、「いつ・どこに・どのくらいの人がいるのか」という人流データの活用に大きな期待がありました。新たに移住した方がオープンしたお店に人が来ているかどうかなど、町の変化をリアルタイムで把握できればと考えました。

安東咲(電通デジタル):このプロジェクトは「大規模データを社会のために役立てたい」という思いからスタートしました。さまざまなテーマがある中で「地域創生」はデータ活用の意義が大きいと考え、実証実験の第一弾として上川町とご一緒することになりました。

人口減少が進む地方で「関係人口」、つまり観光や仕事などで地域と関わる人を増やすために、データが有効な橋渡し役になれるのではと期待していました。今回、人流データや趣味嗜好データなど、多種多様なデータを組み合わせることで、リピーターやポテンシャル層の可視化など新たな視点で地域の可能性を探ることができるのではと考えていました。

写真:安東
安東 咲(電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 プロダクトプランニング事業部)

川原真哉(電通デジタル):自治体の皆さまは、入手できるデータが限られていたり、あっても使い方に悩まれたりするケースが多いと感じています。「データがあること」と「それを実際に観光施策に生かすこと」は別の課題として存在しています。

今回は、人流データに他のデータを掛け合わせ、観光分野で具体的なマーケティング施策へとつなげられるか―という視点で実証実験に取り組みました。データ分析の結果から見えてきた新しい発見や、これまで気づかなかった地域の魅力にも期待していました。

写真:川原
川原 真哉(電通デジタル トランスフォーメーションストラテジー部門 トランスフォーメーションストラテジー第1事業部 事業部長)

約3500万人のデータ分析で浮かび上がった2つのペルソナ

──実証実験ではどのようなデータを分析し、どのような手順を踏みましたか?

安東:今回は当社のパートナー企業が保有する大規模データを活用しました。約1億人分の会員データのうち、位置情報が取得できる約3500万人分を対象に、2024年4月から2025年3月まで1年間の動きを分析しています。

性別・年齢・居住地などの属性だけでなく、人流データ、購買履歴や利用アプリなどの趣味嗜好データも組み合わせ、上川町にどんな人が・いつ訪れているか、リピーターはどんな特徴があるかを導き出しました。

また、上川町を“通過”する人についても、前後の日にどこを訪れているかを可視化するなど、様々な視点から分析しました。

画像:分析の概要図
分析の概要:上川町にリピート来訪をしている人は「どんな人」で「単発関与の人とリピーターの差分は何なのか」を明らかにし、リピート来訪を増やすための戦略(方向性)と戦術(具体的な施策)を提案

──データからどのようなペルソナが見えてきたのでしょうか?

安東:三谷さんから「リピーター」と「ファミリー層」について知りたいというご要望をいただき、この2つに注目して分析しました。

まずリピーター像は「趣味に没頭する50代アクティブ男性」。リピート回数が多いほど50〜60代男性が多く、車やバイクでの長距離移動、アウトドアや温泉、登山といった趣味を持っています。

ファミリー層は、小学生や未就学児がいる30〜40代の男女。世帯年収がやや高く、教育への関心も高いことが特徴でした。特に長期休暇では、教育的価値のある体験が求められるのではと考えています。また体験型のレジャーに価値を感じ、一般的な旅行先よりコアな場所を選びやすいのではないかと捉えました。


データ分析と現場施策が一致、活動継続の大きな後押しに

三谷:ちょうど分析結果が出た時期に開催されたバイクイベントが大成功し、データでも「アクティブな50代男性」が多いことが裏付けられ、大変驚きました。外部企業主催のイベントでしたが、今回の分析がイベント施策の方向性にも自信を与えてくれ、来年の開催も決定しています。

また、札幌の子ども向けイベントで上川町のマスコットキャラクター・かみっきーを活用したプロモーションも、実際に来場者が上川町を訪れていることがデータで可視化されました。想像以上の人が町を訪れてくれたという結果は、今まで以上に実感を持って施策の効果を評価できるようになったと感じています。従来難しかったイベントの効果測定にも、的確な分析とプロセス設計が大きく寄与しました。

──リピーター創出に寄与しているスポットや施策はありましたか?

三谷:データから、景観だけでなく非日常的な体験や教育的要素が大事だと再認識しました。例えば、数年前から修学旅行誘致に力を入れ、PBL(課題解決型学習)を前面に出した結果、体験型の修学旅行で来訪が増加。都会ではできない体験が、リピーターづくりの要素になっています。今回のデータは、これまでの施策が間違っていなかったことも裏付けてくれました。

上川町では「感動人口一億人」を目指しており、住む人・訪れる人すべてに心を動かす体験を届けたいと考えています。今後も的確な分析と実践を重ねながら、さらに納得感のある施策を展開できると感じています。

──実証実験を通じた現場や関係者の反応はどうでしたか?

三谷:一緒に進めていたメンバーからも、「想像以上の分析結果が出た」と驚きの声や、これまでの施策への自信が強まったという反応がありました。また、「今まで見えていなかった発見があった」という実感も大きく、今後さらに検証や改善を重ねていきたいという意欲が高まっています。


データ分析と施策提案が強み、AI活用による自走支援も視野に

──今回のプロジェクトで、「特によかった」と感じた点はありますか?

三谷:これまで電通デジタルさんは大企業向けのイメージがありましたが、今回、上川町のような地域にも寄り添いながら、伴走して一緒に課題解決に取り組んでくれる姿勢がとても新鮮で、ありがたく感じました。

人口減少が進み、人の暮らし方や働き方がどんどん多様化していく時代には、場所にとらわれずに魅力を発信し続ける力が自治体にも求められると思います。そういった中で、AIや大規模データ分析を活用したプロモーションやマーケティングが、今後ますます重要になると強く感じています。

今回のプロジェクトを通じて、データが持つ力や新たな可能性を実感できただけでなく、その分析結果を基に具体的な施策提案までサポートしてもらえた点が特に心強かったです。このノウハウや支援がほかの地域にも広がっていけば、全国各地でさまざまな可能性が生まれるのではないかと期待しています。

──特に発揮できた強みを教えてください。

安東:三谷さんにもおっしゃっていただいた通り、これまで企業向けにコンサルティングを行ってきた実績があり、伴走型支援と具体的な施策提案が強みです。単なるデータ分析にとどまらず、そこから地域ごとの課題に即したアクションプランを提案できました。

また、現場で蓄積されてきた「経験値」を「実感値」に変換できたことも大きな成果だと考えています。

画像:データ分析の内容から施策策定までの考え方
データ分析の内容から施策策定までの考え方。北海道在住者の「リピーター」「冬に来往する人」「ファミリー層」の特徴値を出し、同様のペルソナ(具体的な人物像)を想定した施策を検討・実行

川原:今回活用した大規模データに限らず、政府が提供するオープンデータなど、自治体が活用できるデータは多様にありますが、“どう分析し、どのように課題解決に結びつけるか”が悩みどころです。

数あるデータをいかに読み解き、地域の課題解決につながる施策へと変換していくか――。これは私たちが日頃から企業に向けて実施していることですが、それを地域に対して提供できたことに、大きな意味があると思います。

──今後の展望を教えてください。

三谷:これまで観光施策は勘や経験に頼りがちでしたが、データに裏付けられた判断ができるようになったことは大きな収穫です。データ分析は丁寧に行えば本当に欲しかった答えに近づくと実感しました。今後は、自ら持続可能な施策を展開できるよう、データ活用人財の育成も進めていきたいと考えています。

──他の自治体・観光業界へのメッセージをお願いします。

川原:今回は、データ分析と施策のご提案までが主な取り組みでしたが、私たちはこれを一つのはじまりと考えています。これからは自治体の皆さま自身がデータを活用し、地域ならではの施策を自ら生み出せるよう、さらにサポートしていきたいと思っています。

そのために、データを活用し、地域独自の観光客の人格を持つAI(観光客AIペルソナ)の構築・提供を計画中しています。実際のデータを基に生成したAIを活用することで、観光客のインサイトの深掘りや施策のアイデアの創出・検討、カスタマージャーニーなども自律的に作成できる仕組みを整えていきます。これにより、現場ごとに最適な提案ができる体制づくりを目指しています。

また、今回活用した大規模データは全国各地を対象としており、観光分野だけでなく、生活やまちづくり、政策など幅広い分野へ応用が可能です。私たちは、これからも地域に寄り添いながら、多様なデータ活用や新しいテクノロジーを通じて、各地の発展に貢献できればと考えています。

安東:AI時代だからこそ、リアルな体験や身体的な価値を言語化し、具体的な施策につなげることが重要だと考えています。電通デジタルは、データ分析やAIといったテクノロジーを活用し、そこから実際の体験・価値につながる施策まで一気通貫で実現できるのが強みです。これからも新しい価値創出を目指し、地域や企業の発展に貢献していきます。

PROFILE

プロフィール

川原 真哉

トランスフォーメーションストラテジー部門 トランスフォーメーションストラテジー第1事業部 事業部長/ディレクター

Web制作ベンチャーにてサイトの開発・運用・ディレクションを一気通貫で経験した後、電通デジタルでは、不動産や通信会社等のオウンドメディアを中心にUI/UX設計、サイト構築/改善、運用ディレクション業務などを担当。2015年よりUI/UXデザインの専門チームにて、UXコンサルティング/調査、UI設計業務に従事。直近では、企業様へ常駐をしながら伴走型でDX推進、事業のグロース支援を行っている。

川原 真哉

安東 咲

エクスペリエンス&プロダクト部門 プロダクトプランニング事業部

広告クリエイティブ設計、サイト・アプリのUI設計、SNS戦略、キャンペーン設計などを経験。電通デジタルでは、CX、UXのアプローチからサービス開発などに従事。

安東 咲

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