2025.06.12

電通デジタルが挑む「AI × クリエイティブ」最前線

生成AI時代に求められる真のプロフェッショナルとは

人とAIが一緒になって、新しい価値を生み出していくーー。それが、電通グループが掲げるビジョン「AI For Growth」に込められた思いです。2025年5月には、これをさらに進化させた「AI For Growth 2.0」を発表。電通グループならではの強みを生かしたAIの開発を通じて、人とAIエージェントとの共創をさらに加速させていく計画です。

このビジョンの実現に向け、電通デジタルはどのような役割を果たすのか。AIネイティブクリエイターが多数在籍する電通デジタルの可能性と未来について、 dentsu Japan グロースオフィサー/エグゼクティブクリエイティブディレクター/主席AIマスター の並河進と、電通デジタル 執行役員/データ&AI部門長の山田健が語り合いました。

AI×クリエイティブで新たなクリエイターを創出

山田:並河さんは、2025年1月からdentsu Japanのグロースオフィサーに就任されました。現在、どのような役割を担っているのでしょうか?

並河:dentsu Japanは、国内電通グループの事業全体の戦略を策定しつつ、電通や電通デジタル、電通総研など、グループ各社を支援する立場にあります。そのなかで私は、特にAIとクリエイティブをさらに推進させるための旗振り役だと思っています。

電通デジタルでは、「∞AI(ムゲンエーアイ)」のような独自のソリューションを開発し、AIビジネスを急速に展開していますが、一方で、まだAI活用の余地がある部署もあると思うんです。なので、国内電通グループが一体となって、「AIって面白いよね」というムーブメントが生まれてくるといいなと思っています。もちろん、社内だけでなくクライアント企業の皆さんと一緒に、そうした動きを作っていきたいですね。

山田:クリエイティブとAIというスキルセットが並ぶのは、まさに電通グループならではだと思います。そうしたプレイヤーが電通グループ内には多いですし、並河さんはその先頭を行っていますよね。並河さんのキャリアはクリエイターからスタートしているとのことですが、AIに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

並河:もともと僕は、大学時代は理系でプログラミングをしていたんです。でも社会に出てからは、長い間その領域からは離れていました。AIに興味を持ち始めたのは2015年ごろ、デジタルマーケティングが急速に進化し始めた時期です。

当時のクリエイティブは、デジタルを活用しようという感じではなくて、人間の力で作っていくような世界でした。一方で、マーケティングの現場では、デジタルテクノロジーがどんどん進化していきます。そのギャップがもったいないと感じたんですよね。マーケティングの流れの中で分断のようなものが見つかると、そこがつながればもっと面白いことが起きるんじゃないかと思っていたんです。

そうした思いもあって2017年に電通デジタルに出向し、デジタルマーケティングの中にAIをどう組み込んでいくか、という取り組みを本格的に始め、「アドバンストクリエイティブセンター(ACRC)」を立ち上げました。

ACRCをスタートさせた背景には、「データ」と「AI」と「クリエイティブ」を融合することで、新しいタイプのクリエイターが生まれてきてほしいという狙いがありました。ただ、当時はデータ分析とクリエイティビティの掛け合わせのようなことはできていましたが、生成AIが登場する前だったので、今のような高度なことはできていませんでした。

でも今は、生成AIによって、まさに「生成」することができるようになりました。クリエイティビティとの掛け算の効果は計り知れないものがあります。だからこそ、ACRCの構想が本当に生きてくるのは、「まさに今」だと感じています。ACRCがさらに進化していくことで、新しいタイプのクリエイターが次々と生まれてくるんじゃないかと思っているんです。

並河進(dentsu Japan グロースオフィサー/エグゼクティブクリエイティブディレクター/主席AIマスター )
2021年1月に発足した電通 CXクリエーティブ・センターのセンター長を務めたのち、2025年1月より、dentsu Japanのグロースオフィサーに就任。国内電通グループのAI×クリエイティブ推進の旗振り役を担う


デジタル時代に求められるクリエイティビティとは

山田:私自身としても、その魂をしっかり受け継ぎながら、ACRCをより進化させていきたいと思っています。ただ、マスのクリエイティブ制作を中心としたクリエイターにとっては、テクノロジーやデータといった領域に、少し抵抗を感じることもあるかもしれませんね。

並河:今の現場には、データに基づいてどんどんクリエイティブを生み出していく力があるクリエイターと、ブランドの世界観やパーパスなどを大事にしながら、全体の体験を作ることが得意なクリエイターがいます。面白いのは、どちらのクリエイターでも突き詰めている人同士はちゃんとリスペクトがあるということ。自分の持っているものとは違う価値だからこそ、より強いリスペクトが生まれるということはあるのだと思います。

山田:電通デジタルには、データやテクノロジーから新しい表現を生み出す手法を考えるというような、これまでとは違うアプローチを持っているクリエイターが多いと感じています。並河さんは現在、電通デジタルを離れた立場にいらっしゃいますが、俯瞰して見たとき、あらためて電通デジタルのクリエイティブの強みはどこにあると思いますか。

並河:やはり「電通デジタル」という名前の通り、デジタルネイティブでありAIネイティブであるという意識の高さが、何よりの強みだと思っています。電通のクリエイティブとはまた少し違った方向性ですが、こうした違いがあること自体は、電通グループ全体にとっては非常に良いことですよね。

もともとクリエイティビティとは、「再現性がないまったく新しいものを作っていくこと」を意味していました。マス広告の世界では、一つの表現を多くの人に届ける必要があります。その一つの表現に、再現性のないクリエイティビティを生み出していくことが、これまでの文化としてあったと思います。

しかし、社会全体がデジタル化していく中で、消費者とのコンタクトポイントが増え、一人ひとりに違う表現を届けることも「おもてなし」として大事になってきました。個人のコンテクストに合わせて、無数のコンテンツを届けていくとなったときに、クリエイティビティはたった一つのものを作るだけではなくなってきたんですね。いろいろなバリエーションやパターンを作って、いろいろな人に届けていく。あるいは、データからある再現性を持って実現できるようにする。これらをどうやって生み出していくかという、別のタイプのクリエイティビティが、デジタルの時代には求められるようになってきているのだと思います。


電通グループのAIビジョンを推進する「指揮者型クリエイター」

山田:届けるメディアもアプローチの手法も広がって、ターゲットの幅も細分化されてきている今、クリエイターの見るべき範囲が一気に広がりました。だからこそ、自分が持っていないスキルや視点を、AIで補っていけるという考え方もあるわけですね。

並河:そうですね。これまでのクリエイターが、「超絶うまいギター奏者」「超絶うまいボーカリスト」というようなものだとしたら、電通デジタルのクリエイターは、オーケストラを率いて音楽を奏でていく「指揮者」のようなイメージがあります。AIをうまく活用しながら、多くの要素を指揮していくというようなダイナミズムがある。どちらの良さも、すごく大事ですよね。

山田:最近では、「AIエージェント」という概念が出てきています。AIがAIをオーケストレーションするような未来も近いでしょう。当然、そこにも人間のスキルや判断が必要になってくるわけですが、こうした流れを踏まえた上で、電通グループとしてのAI方針について、あらためてお話いただけますでしょうか。

並河:国内電通グループでは、「AI For Growth」というビジョンを掲げました。AIというと業務効率化ばかりに目が行きがちですが、それにプラスして「人とAIが一緒になって、新しい価値を生み出して高め合っていく」という意味がこのビジョンには込められています。

また、今年5月には、さらにこれを一歩進めた「AI For Growth 2.0」を発表しました。大規模調査データや社内の専門人財知見などといった、電通グループが持つ独自のAIアセットを生かしてAIに学習させ、電通ならではの強みを持つAIを開発していきます。そしてそのAIを「AIエージェント」化し、人間と共にマーケティングのリサーチプランニングから実施までを実現していく。そんな未来像を描いています。

山田:電通ならではの強みをもつAIとは、他のAIとどこが違ってくるのでしょうか?

並河:生成AIを使えば、未経験の人でも、75点ぐらいのアウトプットがすぐに出てきますよね。たとえば、コピーライターじゃない人がAIを使ってコピーを書いてみたり、絵が描けない人が画像生成AIで絵を描いてみたりするなどです。つまり、参入障壁が一気に下がって、新しいことにチャレンジしやすくなるということを意味します。これは企業にとっても大きなチャンスになりますし、今後さらにダイナミックな動きが起きてくるはずです。

一方で、汎用的なLLMをそのまま使ってぱっとできる程度のレベルでマーケティングをしていても、そこに差別化は生まれません。重要なのは、「ブランドの魂」や「自社が本当に捉えたい顧客の心理」をいかに深く理解し、その精度を高めていけるか。そういった意味で、電通グループは長年にわたってクライアント企業に寄り添いながら、マーケティングを支援してきました。この強みこそが、電通グループにしか作れないAIにつながっていくのだと思います。

また、電通グループ全体として見れば、マーケティング以外でも専門性を持つ領域はたくさんあるので、そことAIとを掛け合わせた強みも発揮していきたいですね。そして、生成AIによって参入障壁が下がった領域に関しては、より果敢にチャレンジしていきたいと思っています。

山田健(電通デジタル 執行役員/データ&AI部門長)


AIネイティブクリエイターが活躍する「先発隊」としての電通デジタル

山田:電通デジタルには、AIエンジニアやデータサイエンティストが100人以上在籍していますし、モンゴルにはAIの開発拠点もあります。さらに、「∞AI(ムゲンエーアイ)」といったプロダクト群の提供も行っています。プラットフォーマーからは生成AIのマーケティングパートナーとしての認定も受けています。こうした電通デジタルのアセットは、電通グループ全体におけるAI開発において、どのような位置づけになるとお考えですか?

並河:電通デジタルは、AIを理解し活用できる専門人財やクリエイターが電通グループの中でも最も多く集まっている組織です。こういった電通デジタルのAIの専門スキルと、他グループ会社の専門性が掛け合わせながら、グループ全体のAIの進化を牽引する存在だと思っています。

もう一つ注目すべきは、電通デジタルには、新しいことにどんどんチャレンジする企業文化があることです。クライアント企業の方々と一緒にチャレンジすることも多いですよね。生成AIは、進化がものすごく激しい領域です。未知の世界を面白がりながらも、かなり早いスピード感で不確定要素にトライしていくことが必要。電通デジタルは、電通グループの中でも、先頭に立ってAI活用を推進する「先発隊」のようなイメージを持っています。企業の競争力を考えた時に、チャレンジャーとして切り拓いていく力というのは、今後、非常に大事になってくると思います。

山田:私も電通デジタルに入った時、そのスピード感と突破力には驚かされました。情報量もかなり多いですし、とにかく「常に動いている」という感じが強いんですよね。

先ほど、電通デジタルのクリエイティブ人財育成プログラム「DENTSU DIGITAL CREATIVE ACADEMY」で、並河さんに講師をしていただきました。これからAIとクリエイティブを融合させていけるクリエイターをどんどん育てていきたいと思っているのですが、実際にメンバーと接してみて、どのような印象を持ちましたか?

並河:複数のLLMを組み合わせて新しい表現を生み出そうとしているメンバーなど、新たなAIの使い方をどんどん開発していますよね。「AIを使いこなす」から「AIそのものを開発する」そして、さらにその先の「AIを超えていく」というステップを、AIネイティブのクリエイターたちは、当たり前に実践していっているのだなと感じました。こうしたAIネイティブクリエイターが数多くいるのが、電通デジタルの強さだとあらためて感じました。

山田:並河さんは、講義の中で「AIに死生観を教えている」と話していたのがとても印象的でした。すでに並河さんはAIを血の通った生き物のように捉えながら、クリエイティブを一緒に生み出していっています。そうした話に強く共感しているメンバーを見て、やっぱり我々電通デジタルのクリエイターだなと感じました。今後も、もっとマニアックにAIと向き合って、より深く使い込んでいってほしいですね。


生成AI時代に問われる、クリエイターのプロ意識

山田:本当にみんな、AIを使いこなして楽しんでいますよね。ただ、少し懸念している部分もあります。これまでは、現場での経験を積んで徐々にディレクターへと成長していくという流れがありました。しかしこれからは、そうしたプロセスを経ずに、いきなりAIに指示を出してディレクションするということになっていくでしょう。その結果、アイデアの深掘りが浅くなってしまう可能性もあるのではないかと感じています。

並河:AIは、何か指示を出せば、とりあえず何かを返してくれます。確かに、そこで満足してしまうという怖さはあるかもしれません。とはいえ、例えばカメラでも、誰でも簡単に撮れるカメラもあれば、細かく設定が調整できてこだわって撮影できるプロ仕様のカメラもあります。

僕たちは、マーケティングやクリエイティブの現場でAIを扱うプロとして、AIが出力する表現の背後にはどんな思考プロセスがあるべきかを理解しています。その表現の精度に関しても、普通なら3段階くらいしかないものが、我々であれば、100段階くらいにクオリティを調整できる。実際、今のLLMでも、ハック次第でかなり細かく調整できますよね。

なので、AIをプロとして使いこなしていくことが大事なのだと思います。そして将来的には、電通ならではの高度なプロ仕様AIを自分たちで開発していくことも重要になってくるでしょうね。

山田:生成AIによって、誰もがアウトプットを作れる時代になってきました。だからこそ、「クリエイター」と名乗る人は増えていくと思います。でも電通グループには、あるアイデアに対して、執着して深掘りするカルチャーがあります。AIから「面倒なディレクターだな」と思われるぐらいの、しつこいディレクションを、僕らは続けていくべきなんだ思います。

並河さんのおっしゃる通り、我々は、クリエイティブとマーケティングの領域における、本当の意味での「AIのプロフェッショナル」でありたいですね。

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