生活者のライフスタイル・価値観の変化に伴い、旧態依然とした地域互助意識の希薄化やシステム(自治会・町内会)の機能不全が進行しています。2018年のリビングくらしHOW研究所の調査では、自治会・町内会が必要だと思う人の割合は約半数。自治会・町内会に加入しているにも関わらず、参加経験がない人も約23%という結果が出ていました。[1]。
2021.09.07
自社が向き合うべき"Social Pain"の方角を見つけよう!
第3回:地方・地域/情報/経済/ダイバーシティに関する “Social Pain
社会的不満が多様化する現代において、"いかに社会的不満を解決し、社会を豊かにする顧客体験を創造できるか?"が、企業に強く求められる時代となりました。本連載では、自社・生活者・社会の"三方良し"とする顧客体験創造のために、向き合うべき"社会不満"の方角を見つけることを支援する「Social Pain Compass」チームが、今注目しておきたい社会課題を4回にわたりご紹介しています。
第3回である今回は、「社会」に関する"Social Pain"にフォーカスを当てていきます。
「社会」の方角では、「地方・地域」「情報」「経済」「ダイバーシティ」の4つの"Social Pain"探査テーマごとに、"Social Pain"と"Social Pain Keyword"をご紹介します。
※所属は記事公開当時のものです。
テーマ「地方・地域」で注目の"Social Pain":地域コミュニティの衰退
「地方・地域」の"Social Pain"探査テーマでは、「過疎・荒廃」「働き手不足」「子どもたちの"居場所"不足」などに関する社会不満が見えてきました。その中から、考え方や行動様式が多様化した現代において課題視されるようになった「地域コミュニティの衰退」に関する"Social Pain Keyword"を紹介します。
Keyword No.059「地域互助意識・システムの希薄化」
また、ある調査によると、現役子育て世代の半数近くが「新型コロナウイルスの影響で子育て中の孤立や孤独が増加した」と回答しており[2]、子育て世代の孤立・孤独感は、コロナ禍で加速しています。同調査では、近隣住民や行政のサービスに頼りたいと考えているにも関わらず、頼ることができていない実態も明らかになっているように、子育て世代を社会全体で支え合う仕組みがないことも課題のひとつです。
こうした地域互助意識の希薄化やシステムの機能不全は、子育て世代だけの問題ではありません。災害時の地域連携不足による被害増加や、孤独死の発見が遅れる等のリスクの高まりも懸念されます。
そんな中、ご近所さん同士が自然に、心地よい距離感でつながれるための草の根的システムの構築で、住民の交流を促進する動きもあります。
例えば、地域の掲示板をデジタル化した「ご近所SNS」や、スキマ時間を活用し家事・育児の負担を支え合う互助サービス、個人資産を地域全体で活用する「個人間シェアリングエコノミー」など、デジタルを活用したサポートも増えています。
コロナ禍の外出自粛やテレワークの普及により、生活の重心は徐々に自宅・近所へシフトしています。子育てでも地域社会での"共育て"機運が高まるなど、近隣地域コミュニティが再び評価される中、アナログとデジタルの両面からサポートすることで、地域互助意識・システムの再生・構築が求められています。
テーマ「情報」で注目の"Social Pain":高まるネット犯罪リスク
「情報」の"Social Pain"探査テーマでは、「デジタル社会格差」「進化するネットモラル」などに関する"Social Pain"が見えてきました。その中から、デジタルデバイス/サービスの急速な普及により課題視されるようになってきた「高まるネット犯罪リスク」に関する"Social Pain Keyword"を紹介します。
Keyword No.073「SNS晒されチルドレン」
みだりに自身の個人情報をネットに公開してしまうのは、Z世代だけの傾向と思われがちですが、実はそうではありません。個人情報に関わるトピックとして、近年看過できない問題と各所で指摘されているのが、保護者の手によって、写真を中心とした個人情報をSNS上に投稿される「SNS晒されチルドレン」問題です。
些細な問題に見えますが、実際は、本人が望まない個人情報公開によるストーカー被害や、将来のいじめリスク増大につながりかねない問題行動です。子どもの肖像権については、親のリテラシーや価値観によるところが大きく、親自身が注意していたとしても、ママ友・パパ友によって、自身の子どもの写真が無断アップロードされてしまうリスクもあります。これを防ぐためには、親世代全体の情報リテラシー向上が求められています。
フランスでは個人情報保護に関する法律に基づいて、たとえ親といえども、子どもの肖像権侵害は懲役・罰金の対象となる可能性がある[3]など、ヨーロッパを中心に、「SNS晒されチルドレン」の問題を犯罪として厳格に対処する国が増えつつあります。 一方で、日本での認知度は相対的に低いのが現状ですが、最近では著名人の間で子どもの肖像権を保護する動きが見られるようになってきました。
子どもの肖像権を守るには、親自身だけでなく幅広い関係者の理解・協力が必要不可欠ですが、保護者同士では言いにくいことを踏まえ、学校や保育園・幼稚園といった第三者が注意喚起を行うなどの工夫がなされています。 また、海外では「SNS晒されチルドレン」自らが、プライバシーを訴えるキャンペーンを展開する[4]など、子ども目線でのメッセージングにより、問題の深刻さを伝えています。
まずは、親子が集まりやすいコミュニティにおいて、SNSに子どもの情報を載せることにリスクが潜んでいるという認知促進や啓蒙活動を行うことで、親世代、さらには子世代において是非が議論されるようになります。リスクを認識したうえでの判断ができるようになるよう支援をすることで、子どもの今と将来を守りながら、親世代が交流できるネット社会になることが望まれます。
テーマ「経済」で注目の"Social Pain":女性の貧困
「経済」の"Social Pain"探査テーマには、「広がる経済力格差」「子どもの貧困」「学生の貧困」などに関する"Social Pain"が見えてきました。その中から、コロナ禍で深刻化した「女性の貧困」に関する"Social Pain Keyword"を紹介します。
Keyword No.047「生理の貧困」
女性が支払う生理関連の費用は1回につき約4,500円、生涯で合計約200万円以上になるとの試算もあり[5]、経済的に余裕のない若年層やシングルマザーを中心に大きな負担となっていることが、従来から問題視されてきました。そこにコロナ不況の打撃を受け、経済的な理由で生理用品の購入を制限せざるを得ない状況は悪化し、社会問題として露呈することとなりました。
任意団体「#みんなの生理」による、高校生以上の学生を対象にしたアンケート調査では、約5人に1人が経済的な理由で生理用品を買うのに苦労したと答えたほか、約5割が生理で生活に支障が出たと回答。約10%が経済的な理由等で痛み止めや低用量ピルなどを買えなかったという調査結果[6]が出ています。
また、大王製紙による生理に関する意識調査では、生理休暇を整備している企業に勤めながらも取得したことがないと回答した人が87.2%、生理について周囲に言えず困った経験があると回答した人が39.1%ありました[7]。今なお残る「生理痛は我慢するもの」「生理は隠すもの」という生理のタブー視や男性の理解不足とともに、生理用品が消費税増税の対象となったことも、生理の貧困という問題の解決を遠ざけています。
ヨーロッパでは、長年にわたる粘り強い活動や署名運動などによって、生理用品の減税・無償化が実現する国が相次いでおり、解決に向けた取り組みが進んでいます。
例えば、自治体による生理用ナプキンの無償配布や、使い捨て生理用ナプキンに代わる「生理用吸水ショーツ」の開発によるコスト面でのサポート。日常で生理用品が目に触れる機会を増やし、タブー視の払拭を目指した「生理用品コンセプトストア」による社会の空気作りの支援などです。
貧困や生理に関しては当事者が声を上げにくく、他者が介入しにくい問題でもあります。困っているときに自然と救いを求められるよう、公的機関が中心となって物的ケアを拡大するともに、商品やサービスの開発を通じて話しにくさを払拭するような考え方や意識醸成を促進することが望まれています。貧困が招く"他者に言いだしづらい悩み"にも、察知と気の利いた救いの手を差し出せる社会になっていくことが期待されます。
テーマ「ダイバーシティ」で注目の"Social Pain":進まないマイノリティ理解
「ダイバーシティ」の"Social Pain"探査テーマでは、「広がるジェンダー問題」「婚姻における不自由」「日常にはびこる無意識の差別」などに関する社会不満が見えてきました。その中から、人生100年時代に必要とされる「進まないマイノリティ理解」に関する"Social Pain Keyword"を紹介します。
Keyword No.082「障がい者の"小さな不便"への配慮不足」
社会のバリアフリー化が進み、障がい者が困らない日常生活を送るうえでの最低限の配慮は進みつつある一方で、暮らしをより楽しむための配慮には、まだまだ不足が多いのが現状です。
例えば、洋服や下着を選ぶ際に、健常者と同じように楽しめるほどの選択肢がなかったり、ショッピングをする際に、障がい者にとって必要な情報がきちんと表示されていないショップがあったりと、商品とサービスの両面で不便さが生じています。
そんな不便さから、ファッションやショッピングを楽しむことを諦めてしまい、さらには、そうしたこと自体をおっくうに感じてしまう障がい者も少なくありません。
そんな不便さを解消し、心から日常生活を楽しんでもらうための、インクルーシブな視点を持ったサポートが増えています。例えば、視覚障がい者のアクセシビリティに対応したECサイトや、位置情報を把握し、歩行者を誘導する「AIスーツケース」、視覚障がい者でも簡単にメイクを実践できる方法「ガイドメイク」の開発など、装う楽しさ、出かける楽しさをサポートするための、様々なサービスがリリースされています。
今後、あらゆるカテゴリーが、障がい者の目線を理解し直し、インクルーシブな視点を持ったUI/UX設計者の育成を強化しながら「小さな便利」、ひいては「あたりまえの楽しい」を1つずつ増やしていける社会になることが、期待されます。
自社・生活者・社会の"三方良し"なDX・CX変革を起こしていく
生活者、そして社会に真に望まれる変革を起こすためには、「その変革によって、自社がどんな社会課題を解決し、社会に対してどのような存在意義(パーパス)を発揮できるのか?」を考えることこそが重要だとFu-man insight lab®は考え、企業が、自社・生活者・社会の「三方良し」なDX/CX変革を起こしていくための支援をさらに強化していきます。
今回は「社会」に関する、4つの"Social Pain Keyword"について簡単に紹介しましたが、それ以外の"Social Pain Keyword"も含めて編集された情報ツール"Social Pain Keyword Book"では、"Social Pain Keyword"ごとに「ペインの概況」と「ペイン解消に向けた動き」について、"Social Pain"の実態を詳細にまとめています。
さらに、15個の"Social Pain"探査テーマごとに、"社会的不満"のカテゴリーを分類・整理した【1】Social Pain Category Mapシート、各カテゴリーに含まれる社会的不満キーワードを示す【2】Social Pain Keyword Mapシート、各キーワードに関連するワードの総ツイート数をランキング化した【3】Social Pain Rankingシートも用意しています。
これらの情報シートを用いながら、スピード感をもって、企業の業種やターゲット層と関連性の高い"社会的不満"の探索を支援いたします。
「Social Pain Compass」を活用したサービスの詳細情報はこちら
「Social Pain Compass」の紹介資料DLお申し込み
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「Social Pain Compass」に関する、より詳細な情報については下記までお問い合わせください。
お問い合わせ先:social_pain_compass@group.dentsu.co.jp
関連リンク
- 自社が向き合うべき"Social Pain"の方角を見つけよう!
- "ヒューマンの不満"に迫る、Fu-man insight lab ®とは
脚注
出典
1. ^ 働く女性と自治会・町内会についてのアンケート". リビングくらしHOW研究所(2018年7月6日)2021年9月1日閲覧。
2. ^ 【ピアッザ統計調査】"子育て中の孤立や孤独に関する調査"1,067名より回答。67%が孤立や孤独を経験、女性は74%が経験有". PIAZZA.(2020年10月22日)2021年9月1日閲覧。
3. ^ French Parents Could Go To Jail For Posting Their Children's Picture On Facebook". HUFFPOST(2016年2月3日)2021年8月2日閲覧。
4. ^ 子供のプライバシーを守れ!親による"我が子の写真の投稿"を考え直してもらうハッシュタグプロジェクト". PREDGE(2018年4月10日)2021年8月2日閲覧。
5. ^ 生理にかかるお金、一生でいくらになる? 計算してみたら......". ハフポスト.(2017年03月27日)2021年8月19日閲覧。
6. ^ 「日本の若者の生理に関するアンケート調査」最終結果". #みんなの生理 Official.(2021年7月16日)2021年8月19日閲覧。
7. ^ 「令和」の生理に対する意識の実態とは". 大王製紙.(2020年1月27日)2021年8月19日閲覧。
8. ^ 生理用品に軽減税率の適用を". 共同通信.(2021年7月16日)2021年8月19日閲覧。
9. ^ 女性の活躍促進". 内閣府男女共同参画局. 2021年8月19日閲覧。
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