幸せのありかたを見える化し、地域創生とウェルビーイングの未来を拓く――トヨタ・コニック「しあわせプロジェクト」

トヨタ・コニック株式会社

企業や地域の未来を「幸せ」から考える——。トヨタ・コニックと電通デジタルは、「幸せの量産」という理念のもと、対話を通じて幸せのありかたを可視化し、地域や企業が自らそれを育む取り組みを進めています。「しあわせのものさし」開発や地域ワークショップなど、兵庫県での実践を例に、指標だけでは測れない新しい幸せづくりの可能性について、両社のプロジェクトメンバーに伺いました。

企業と地域が目指す新しい幸せのかたち

――「しあわせプロジェクト」に取り組むことになった背景や、社会的な課題意識、また御社のミッションについて教えてください。

西内律子氏(トヨタ・コニック):このプロジェクトの原点は、「幸せの量産」という考え方にあります。これは親会社であるトヨタ自動車のミッションであり、この理念を新しい経営指標としてどう具現化するかが出発点でした。販売台数や売上といった数値の先に、どのように「幸せ」を測る物差しを作るのか、という発想からプロジェクトが始まっています。

西内 律子氏(トヨタ・コニック株式会社 トヨタGブランディング戦略本部 本部長)
西内 律子氏(トヨタ・コニック株式会社 トヨタGブランディング戦略本部 本部長)

――企業や地域が「幸せ」を考えることの意義については、どのようにお考えですか?

西内:幸せのかたちは人それぞれ非常に多様です。私たちは「幸せを誰かに届ける」といった一方通行の発想ではなく、「一人ひとりとともに考えること」から始めたいと考えています。

その中でも、特に大切にしているキーワードが「対話」です。幸せについて共に考え、共に悩む。そのプロセスを通して、一人ひとりの幸せの選択肢が自然と広がり、その人が本来持つ力が十分に発揮できる場所が生まれていきます。

このプロジェクトを通じて、対話を軸に企業や地域の方々と一緒に幸せのあり方を模索し、かたちにしていく、そんな存在でありたいと考えています。

――電通デジタルがこのプロジェクトに参画するようになった経緯について教えてください。

伊藤仁志(電通デジタル):私自身、これまでトヨタ・コニック様とは様々なプロジェクトでご一緒させていただく機会がありました。ある別の取り組みを進める中で、「しあわせプロジェクト」とシナジーを持ってできることがあるのではと感じ、初めてこのプロジェクトに触れ、その理念に強く共感しました。

その後、ごく自然な流れで「一緒にこのプロジェクトを広げたい」と感じ、現在のようなかたちで関わることになりました。

――プロジェクトにおける電通デジタルの役割について教えてください。

伊藤:当初はプロジェクトマネージャーとして全体推進の役割を担っていました。プロジェクトのあり方・形が変わっていく中で、現在はワークショップの設計や実施、新しいプロダクトの開発など、プロジェクト拡大の取り組みをトヨタ・コニック様と共創する役割を担っています。


幸せの多様性を引き出す“ものさし”とワークショップの実践

――「しあわせのものさし」とは、どのようなものですか?

藤岡宏嗣(トヨタ・コニック):私たちは、「幸せとは何か」という根本的な調査・研究からスタートしました。調査を重ねる中で、世界で指標として用いられている幸福度の点数だけでは捉えきれない「人それぞれの幸せの形」があることが見えてきました。

そこで、私たちは幸せのかたちを8つに分類し、個々の価値観に合わせて捉えられるようにしたのが「しあわせのものさし」です。それぞれが自分の幸せを見つめ、共有し、対話を通じて未来を考える。そのための基盤となるツールとして「しあわせのものさし」を活用し、ワークショップの設計を行っています。

藤岡 宏嗣氏(トヨタ・コニック株式会社 トヨタGブランディング戦略本部 BANQ&LINQユニット ユニットリーダー)
藤岡 宏嗣氏(トヨタ・コニック株式会社 トヨタGブランディング戦略本部 BANQ&LINQユニット ユニットリーダー)

――兵庫県で実施したワークショップについて教えてください。

藤岡:兵庫ダイハツ販売様と地元企業・団体、大学関係の方々が『若者が兵庫県に根付き生涯を過ごせる地域』というテーマで開催されている“ひょうご創生研鑽会”にて、ワークショップを実施させていただきました。

井桁大悟(電通デジタル):このテーマに応えるために、今回開発したものが、「しあわせマップ」と「しあわせモデルキャンバス」です。

「しあわせマップ」を用いて、まず地域の“今”と“これから”の幸せを掘り下げていく。そこで見えた内容を未来の幸せビジョンとしてまとめ、その実現に向けた施策アイデアを検討していきます。最終日はたくさんのアイデアで埋まった「しあわせマップ」からチームごとにアクションを具体化し、「しあわせモデルキャンバス」にまとめました。学生や地域の若者、地元企業が一緒に、兵庫県の未来を考える場となりました。

設計で工夫したポイントは2つあります。一つはゴール設定。「幸せな地域をつくるアイデアを出して終わり」では、その後の実践につながりにくい。今回は「幸せ」を基点に、地方創生の「施策の種」まで落とし込むことをゴールとしました。

もう一つは、そのプロセス設計です。「未来の幸せ」から逆算し、「幸せ×地方創生」を導くには何が必要か。参加者が前向きかつ楽しく取り組めるには、どんな体験をどんな順番で設計すれば良いか──こうした点を試行錯誤しながら進めました。

結果として、参加者が新たな視点で地方創生を考えられる独自のフレームワークを生み出すことができました。

――ワークショップ参加者の感想はいかがでしたか?

井桁:アイスブレイク用のゲーム「ぴたハピ」がしっかり場を和ませてくれました。誰でもマーケティングのプロセスが分かる設計を心がけたことで、参加者のみなさんもスムーズに、そして楽しみながら取り組んでくれたのが印象的でした。

――「ぴたハピ」を開発したきっかけを教えてください。

藤岡:ワークショップを重ねるうち、日本人は「幸せを語ること」が少し苦手だと感じました。そこで、自分の幸せについて話すきっかけとなるアイスブレイク用のゲームとして、電通デジタルの皆様と議論の末に開発したのが「ぴたハピ」です。ワークショップツールとして非常に良いものができたと感じています。

「ぴたハピ」コンセプト
「ぴたハピ」コンセプト

――ワークショップや調査を通じて見えてきた、地域や参加者が感じる「幸せ」には、どんな特徴や傾向がありましたか?

藤岡:特に印象深かったのは、「外部から見る街の良さ」と「その地域で暮らす人が感じる良さ」が大きく違うということです。一般的に神戸は「異国情緒のあるオシャレな街」と見られがちですが、実際に暮らす人たちには歴史を含めた深い愛着があった。やはり、地域の「幸せ」は、その地域の人自身が考えることがとても大切だと改めて実感しました。

クライアントの声

ダイハツは「お客様に寄り添い、暮らしを豊かにする」ことを使命に地域で活動していますが、人口問題は販売会社の採用や経営にも影響を及ぼし、変革は避けられない状況です。今回、その課題に向き合うにあたり活用した「しあわせのものさし」は、地域で暮らす人々の価値観や企業が地域で活動する意義を見つめ直す大変優れたプログラムであり、ダイハツが将来にわたり地域に必要とされる姿を考える重要な手がかりとなりました。

吉田 恒幸氏
吉田 恒幸氏(ダイハツ工業株式会社 営業開発部 MaaS推進室 室長)

「しあわせ」を軸にしたパートナーシップの進化

――電通デジタルとして、今回のプロジェクトで特に発揮できた強みや独自性は何でしょうか?

伊藤:私たちの部署は、普段からコミュニケーション設計や顧客体験の向上に向けたプロジェクトを多く担当しています。「人と人の関わりをどう設計すれば、より良い体験が生まれるか」という視点は常に意識してきました。今回のワークショップ設計でも、その知見を生かすことができ、結果的に「ぴたハピ」を含めたアウトプットにつなげることができたと感じています。

伊藤 仁志(株式会社電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部 シニアコンサルタント)
伊藤 仁志(株式会社電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部 シニアコンサルタント)

井桁:電通デジタル全体の強みは、「企業視点ではなく、徹底した顧客視点でプランニングできる力」です。私たちはCX/UXデザインを専門としており、「人がどう感じるか」「どう理解するか」を重視して設計しています。

今回のワークショップの参加者は、マーケティング経験のない方が多かったため、直感的に理解できるよう、ハードルの低い設計が求められました。「何を・どこまで・いつまでにやれば良いのか」が一目で分かる設計を心掛け、まさに顧客視点が試された場だったと考えています。

井桁 大悟(株式会社電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部)
井桁 大悟(株式会社電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部)

――トヨタ・コニックからご覧になって、電通デジタルの貢献で印象的だった点はありますか?

藤岡:まず、このお二人の存在が本当に素晴らしかったというのが率直な感想です。

私たちトヨタ・コニックには、「データで“ありがとう”をつくりたい」という想いがあります。デジタルと向き合いながら、人とのつながりや幸せをどう実現するか——これが「しあわせプロジェクト」の大きなテーマです。

電通デジタルは、オンラインとオフラインをまたいだコミュニケーション設計に長けているだけでなく、新しい視点を常に提示してくれる、心強いパートナーでした。共に成長できる存在として、今後も一緒に挑戦していきたいと感じています。

――プロジェクトを通じて得た一番大きな学びや気づきは何でしたか?

西内:私たちの根底にあるのは、「対話」というアプローチです。対話を通して自分を深く知り、それを相手に伝えることで、相互理解が深まる——そのプロセスがあらゆる場面で大切だと改めて感じました。

今後は、ワークショップだけでなく、空間づくりや人と人とのコミュニケーション設計など、さまざまな発展が見込まれます。しかし、どの取り組みにおいても「一緒に対話する姿勢」が何より重要だと考えています。

人と人が互いを知り合い、違いも認識しながら、同じ未来に向かって共に進む。「しあわせプロジェクト」の根底はそこにあり、この姿勢をこれからも大切にしたいと思っています。

――今後、「幸せ基点のソリューション」が社会にもたらす未来像について、どんな可能性を感じていますか?

藤岡:私は「モノづくりの時代」から「コトづくりの時代」、さらに「しあわせづくりの時代」へと進んでいくのではないかと考えています。ただ、幸せは人それぞれ異なり、単純な指標では測れません。これまでの対話を通じて、さまざまな幸せのかたちが見えてきました。この考え方が広がれば、社会が少し温かくなるような未来に貢献できるのではないかと思います。

西内:企業も地域も、「幸せを基点に行動する」ことで、その場がどんどん元気になり、自分たちの未来を前向きに考えられる雰囲気が育まれる。それが何より大切だと感じています。これは、よくいわれる少子高齢化や地方過疎化といった課題ありきで発想するのではなく、未来から自分たちがやるべきことを探り、結果、課題解決にもつながると考えます。

地域ごとに幸せを基点としたモデルをつくり、発信していくことで世界に注目され、国や地域同士の対話や連携も加速する。それが循環していく未来を目指したいと思っています。

――トヨタ・コニックの展望を受けて、電通デジタルとして今後どう取り組みたいですか?最後に読者へのメッセージをお願いします。

伊藤:「しあわせプロジェクト」では指標づくりやプロダクト開発など、形あるものとして社会に届ける活動を一緒に進めてきました。しっかりと価値が伝わることが、プロジェクトの目的実現には重要だと思っています。今後もその部分で電通デジタルが力になれるよう、取り組みを続けていきたいです。

井桁:プロジェクトを通じて、「しあわせの量産」というビジョンに心から共感しました。だからこそ、高い熱量で取り組み、成果にもつながったと感じています。

今後は、ワークショップや「ぴたハピ」をさらに拡張していきたいです。ワークショップは地方創生だけでなく企業の人材開発へ、「ぴたハピ」は独立したプロダクトとしての展開も視野に入れています。

より多くの方に活動を知ってもらい、体験していただくことが「しあわせの輪」を広げる第一歩になると考えています。今後の展開にもぜひご注目ください。

PROFILE

プロフィール

伊藤 仁志

エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部

事業会社にてUXデザイナーとしてUXリサーチ・UI/UX設計業務に従事し、2019年電通デジタルに入社。 入社後は通信・製薬・金融・メーカーなど、業界問わずUX設計のプロジェクトに携わる。 UXに関する幅広い知識を有し、UXコンサルティング全般(戦略立案、企画策定、定量・定性リサーチ、IA/UI設計など)、様々な案件の経験を持つ。 直近は新規プロダクト開発やPMO業務などのプロジェクト支援に従事。

伊藤 仁志

井桁 大悟

エクスペリエンス&プロダクト部門 CX/UXデザイン事業部

電通デジタルに新卒入社後、自動車・保険・金融・不動産・製薬業界など多岐にわたる業界のUI/UXデザイン・コンサルティング業務に携わる。 調査設計から体験設計、情報設計、ユーザビリティ検証によるUI/UX改善までエクスペリエンスデザインに関する幅広い業務に従事。 直近はCX領域とAIを掛け合わせたソリューションの開発および導入支援活動に従事。

井桁 大悟

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