顧客を360度ビューで見る――スヴェンソンが挑んだ組織横断のデータ統合プロジェクト
株式会社スヴェンソン
株式会社かんぽ生命保険
株式会社かんぽ生命保険(以下、かんぽ生命)は、中期経営計画の中で「お客さま体験価値を最優先とするビジネスモデルへ転換する」と明記した。これを受けて現在、同社では、新たなお客さまとの接点としてカスタマーセンターの構築に取り組んでいる。CXを最優先とするビジネスモデルへの転換を目指すために、電通デジタルと協働しながらどのようにプロジェクトを進めていったのだろうか。
かんぽ生命・田代康基氏(以下、田代) カスタマーセンター構築は、中期経営計画に掲げる「お客さま体験価値を最優先とするビジネスモデル」の実現に向け、柱となる施策の一つです。
現在もコールセンターなどで、お客さまからのお問い合わせに対して手続き方法のご案内は行っていますが、手続き自体は郵便局にお越しいただく必要があるなど、お客さまのご用件をその場で解決できないケースが多くあります。そこで、リアルとデジタルを織り交ぜて、お客さまとの接点を広げてサポートするとともに、その場で手続きが完結する仕組み作りを進めることで、より良いお客さま体験価値を提供したいということが背景にありました。
課題感としては、複数のサービスメニューを立ち上げるための業務設計、人材育成、業務運行までを同時並行で進める必要があったため、プロジェクト管理や社内外との調整の難易度が高いと感じていました。
電通デジタル・伊藤麻由子(以下、伊藤) 顧客基点を持って CX向上を目指す中で、それを実際の業務に落とし込むことが非常に難しいのが実情です。ただ単に、CX推進に向けたDXによる生産性向上や業務効率化を行うだけなら、どの企業も取り組んでいることであり、支援する立場においては我々でなくても良かったかもしれません。そうではなく、お客さま体験価値を最優先としたCX向上を目指すということであれば、当社の強みが生かせると思いました。
CX向上は、働いている社員の皆さまのやりがいやモチベーションが基点となります。これがあるからこそ、そこから生まれる顧客体験が良くなっていく循環ができると考えています。その循環を生み出すためには、システムで仕組み化する必要があり、それこそがDXなのです。従業員、顧客体験、システムの3つが組み合わさって循環していく体制を、今回のカスタマーセンターで作り上げていきましょうというご提案をさせていただきました。
お客さまの声が従業員のモチベーションアップに効果を発揮し、その声によりコミュニケーターや社内が変化していくと考えています。プロジェクト自体のご支援から、このような組織の変化を世の中の皆さまに知ってもらうプロモーション施策まで、一貫して電通グループでご支援できるのではないかと考えました。
田代 電通デジタルさんと一緒にプロジェクトを進めることで、我々もいろいろなノウハウが吸収でき、成長できると思える提案内容だったのが決め手となりました。実際、あるべき姿の策定といった上流工程から、現場の業務の運行支援まで、一気通貫で伴走してもらっている感覚があります。我々が困るであろうポイントに適材適所で人をアサインしていただき、本当に助かっています。
かんぽ生命・目黒智子氏(以下、目黒) まずは、お客さまのご用件をその場で解決できることが大切だと思っています。同時に、どの接点でお問い合わせいただいても、同じ品質でご案内することも重要です。コールセンターでのご案内と、郵便局でのご案内が異なってしまうことは、お客さまにとってマイナスの体験になってしまいます。新しくチャットサポートも始めましたが、こちらでも同じ回答ができるよう業務を組み立てています。
目黒 当社では、全社員にCXを浸透・醸成させるため、CXとは何か、CXの重要性について理解を深めるための動画説明会を定期的に実施しています。そして、各拠点でCX向上に向けて社員をけん引する担当者として「CXリーダー・サブリーダー」を設置し、自拠点の社員に対しCX向上に資する情報発信等を行ってもらっています。
また、実際にお客さまサービスを企画・設計するCXリーダーには、ペルソナ設定やカスタマージャーニー等の手法を用いた企画・設計を習得するためのワークショップを開催しました。 最初は、CXという言葉自体になじみがなく、よく分からないという社員も多かった印象ですが、回を重ねるごとに社員の理解度が深まってきていると感じています。
伊藤 コンタクトセンター設計専門コンサルタント (株式会社NeoContact 代表取締役:出水啓一朗氏)にも参加してもらい、そもそもカスタマーセンターはどうあるべきかという全体像の議論を、かんぽ生命の皆さまと何度も行っています。具体的な立ち上げでは、「業務を考えるチーム」「品質を考えるチーム」「運用を考えるチーム」「システムを考えるチーム」の4つのチーム体制を構築。この4つのラインが連携しながら議論して作り上げていくという形で進めていきましたね。
やはり肝となるのは、CXを具現化するための業務設計や研修カリキュラム作り、お客さまとの会話にどう落とし込んでいくかなどを、一緒に検討し実施していった点です。当社には、それぞれの得意分野を持つメンバーがいますので、そのノウハウや知見を生かして進められたところが、やはり当社の強みだったと思います。
目黒 これまで事務処理を行っていた社員が、新たなマインドを持って経験したことのないお客さま対応業務を行うというのは、1回きりの研修だけでは難しく、継続的に発信する必要があると思いました。ただ、実際にお客さま対応をやってみたら意外とできたと感じている社員もいて、社員の意識は少しずつ変わってきていると感じています。
田代 我々は保険会社なので、入院や死亡といったつらい、悲しい出来事に直面したお客さまに寄り添う、グリーフケアの対応が求められます。お見舞いやお悔やみの気持ちは、やはり言葉にしないと伝わりません。その瞬間に、経験の浅いコミュニケーターでも、きちんとそれらの言葉を添えられるように、ナレッジを蓄積して、システムできちんとサポートできる仕組み作りを進めています。
伊藤 CXマインドを醸成した上でその先を考えられるようなリーダーを育てていくには時間がかかるため、中長期的な育成計画、定期研修カリキュラムやスキルに合わせたフォローアップを実施していくことが重要です。
研修のテキストも、教科書に書いてあるようなことをそのまま教えるのではなく、お客さまが良いと感じる体験のポイントを散りばめていき、なるべく自然に浸透していくよう工夫をしました。トークスクリプトでも、なぜこの言葉が必要なのか納得して理解できるようにイメージしました。これがどんどん進んでいき、社員の皆さまの中で、「こう変えた方がお客さまにとって気持ちが良いのではないか」というような会話が生まれてくると良いなと思っています。
田代 こうしたプロジェクトでは、あらゆる場面、あらゆるフェーズでいろいろな問題や困りごとが起こります。そうしたときでも、ここはあの人に相談しよう、これはあの人だなと、必ず相談する人の顔が浮かぶのです。これはすごくありがたかったですね。
目黒 電通デジタルさんは、他の業界にも精通しているので、外部からの目線でアドバイスをもらえるのはとても良かったです。同時に、我々の現場を理解した上でのコメントがもらえたのも、とても助かりました。
伊藤 どの企業にも文化やルールはあると思います。それを考慮しつつも、やはり我々は、他業界での事例も提示しながら「お客さまにとって良い体験か、お客さまの期待に応えられているか」を問う役割だと思うのです。その中で、かんぽ生命さんのCX向上につながればと思っていたので、とてもうれしいですね。
田代 今回のプロジェクトで、CXの前提にEXがあることを改めて実感しました。まずは、カスタマーセンターでお客さまに接する社員が安心して業務に入れるよう、より分かりやすいナレッジや研修を準備したいですし、やりがいや誇りを持って幸せを感じられる仕事の環境を作っていきたいです。そうした幸せ感を持っている社員がお客さまに接することによって、さらなるCXの向上が実現できるのだと思います。
また、お客さま対応の仕組み作りも、もっと進めていきたいですね。時間と場所にとらわれずに働ける環境も作りたいですし、すべてのお客さま接点でナレッジを共有できるシステム構築も大きなテーマだと思っています。
会社全体では、いただいたお客さまの声を、業務プロセスや商品サービスの改善に役立てる、クローズドループの構築に取り組んでいますので、現場レベルの改善サイクル、会社全体での改善サイクル、両方を回して、CX向上につなげていきたいです。
伊藤 顧客基点になるためには、企業の組織風土を変える必要があります。結局、積もり積もった会社のルールや事業部の事情で業務をしている場合が多いのです。つまり、それを壊し、大きな変革を起こさなければなりません。
そのためには、本当に顧客基点に企業を変えたいという強い思いを持つリーダーが必要です。今回は田代さんや目黒さんがより良いお客さま体験を提供したいという強い思いをお持ちの方々だったからこそ、良いご支援ができたのだと思います。そういう方々と一緒になって、組織の風土や文化を変革し、顧客基点を実現していく。そこを、当社はサポートできればと考えています。
プロフィール
2012年、電通イーマーケティングワン(電通デジタルの前身)に新卒で入社。クライアント企業の抱えている課題を分析し、事業戦略などを考えるビジネスコンサルティングに携わる。金融業界や自動車業界のプロジェクト実績が豊富で、大規模プロジェクトのPMO業務も得意とする。
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