顧客を360度ビューで見る――スヴェンソンが挑んだ組織横断のデータ統合プロジェクト
株式会社スヴェンソン
株式会社阪神タイガース
2022年度では、グッズの売り上げ増加に向けたSalesforce Marketing Cloud Engagement活用によるEC強化に取り組み、成果を上げた阪神タイガース。リーグ優勝と日本一を成し遂げた2023年度は、引き続き電通デジタルと共に幅広いデータ活用や、新たにLINEを活用することでの顧客接点の強化といった施策をスタートさせた。その取り組みに迫る。
阪神タイガース・湯川知子氏(以下、湯川):2022年度の施策では、ライト層も含む会員全体向け、コア層向け、“推し”選手を応援するファン向けといった、ターゲットを分けた3つのシナリオを実行して一定の効果を上げることができました。
ただ、そのころデータとして活用していたのはオンラインショップ「T-SHOP」のECデータのみだったのですが、さらにグッズ店舗やチケット購入、ファンクラブといった球団が保有する多様なデータを活用した施策をご提案いただけないか、電通デジタルさんに相談しました。
電通デジタル・佐藤彩香(以下、佐藤):新たにグッズ店舗やチケット購入のデータがSalesforce Marketing Cloud Engagementへ連携され、幅広いデータを活用することが可能になったので、2022年度の施策と比較しても、よりお客様が欲しいタイミングで欲しい情報を提供できるよう、パーソナライズした施策をご提案しました。
湯川:私たちとしては、幅広いデータを活用することで、より幅広くお客様とコミュニケーションを図りたい、グッズ店舗や球場に来たお客様をECへと流入させたいといった考えがありました。
佐藤:2022年度の施策では、顧客の購買行動データに基づく「ストロングCRM®」と呼ばれる手法を活用しましたが、2023年度はこれに加えて、購買行動前の潜在顧客との関係を築く「マイルドCRM®」を掛け合わせる方向を探りました。私の所属しているテクノロジートランスフォーメーション部門で担当しているストロングCRM®では、多様なデータを活用して施策の強化を進め、お客様とのコミュニケーション接点を増やしたり、グッズ店舗・EC・球場観戦の相互流入を図ったりしました。
電通デジタル・越野翔太(以下、越野):私はコマースマーケティング部門に所属しており、主にLINEを中心としたCRMをご支援しています。2023年度施策では新たにマイルドCRM®を担当させていただき、LINEを活用したアンケート施策など、ライト層へのアプローチ強化に取り組みました。
佐藤:ストロングCRM®では、大きく分けて2つのシナリオを実施しました。1つはチケット購入者を対象としたもので、観戦する試合の2週間前からグッズやお土産のご案内をし、体験価値を高めていただく施策です。
もう1つは、グッズ店舗での購入者を対象としたもので、形としてはサンクスメールですが、グッズなどの購入でためられる「虎ポイント」の付与状況の案内も兼ねており、お客様のポイント活用を促す意図がありました。新たなデータ活用で、よりパーソナライズしたアプローチが可能となっています。
湯川:虎ポイントでいうと、チケット購入者向けシナリオ検討時に合わせて追加した「連勝ポイント」の実施をお知らせする、という施策はとくに大きな効果がありました。これは阪神タイガースの連勝に応じて虎ポイントの倍率が期間限定で変動するというもので、2023年度の阪神タイガースはおかげさまで日本一を獲得しましたが、シーズン序盤から順調に勝利を重ねていたため「連勝ポイント」の発動機会が多く、このタイミングで導入できたことはとても効果的だったと思います。
越野:LINEを活用したマイルドCRM®では、ストロングCRM®ではアプローチできていなかった層(顧客情報を持たないライト層)とつながり続け、よりタイガースを好きになってもらうことができるような施策を実施しました。具体的にはアンケート回答者への壁紙プレゼント施策を通じた属性分析や、分析結果を生かした定期的な配信、開幕前にかけて実施した「推し虎選手診断」などです。
湯川:プロ野球はファンの皆様との関係構築が大きなポイントになるため、手軽につながることができるマイルドCRM®の手法は有効だったと思います。また、時期的にも2023年度の頭からではなく、シーズン後半のリーグ優勝が決まる直前のスタートで、阪神タイガースに興味を持っていただける方が増えたタイミングと重なったこともあり、LINEの友だち数はマイルドCRM®実施前から大きく増やすことができ、今では約55万人となっております。離脱率やブロック率も低く、ファンの皆様に受け入れられていると感じています。
佐藤:阪神タイガース様が日本一を獲得されたタイミングだったので、純粋に自分たちの施策の効果だけではないと思いますが、前年度比で比較すると数字的にも成果が出ているのは実感しています。多様なデータが活用できるようになり、分析や仮説からスタートして効果検証や試行錯誤を重ねた上で実装した施策だったので、良い結果が出てほっとしています。
越野:マイルドCRM®の場合、登録までの動線作りや価値提供が肝となります。その点は湯川様とも密にディスカッションをさせていただきながら、最適な手法を探りました。アンケート結果より、LINE公式アカウントの友だちの中にはファンクラブ未加入者が多くいることが判明するなど、ストロングCRM®側で接点が持てていなかった顧客像を可視化できたことと、その層へのアプローチを強化できたことは大きな意義があったと感じています。
湯川:ストロングCRM®では、幅広いデータ活用により効果の見込める施策がさらに打てるようになりましたし、マイルドCRM®では、これまでつながれていなかったライトな層のデモグラフィックデータがアンケートを通して獲得でき、お客様に対する解像度が上がりました。先ほど佐藤さんから「自分たちの施策の効果だけではない」とのお話がありましたが、チームの日本一というこれ以上ないタイミングで後押ししていただき、効果の最大化が図れたと思っています。
湯川:活用できるデータの幅が広がり、適切な情報を適切なタイミングでメルマガ配信することができたり、またLINEのようなチャネル展開を行ったりなど、できることは広がってきました。ただ、例えばLINEでつながったライト層をコア層につなげていくといった取り組みについては、これからとなるため、データを活用しながらそれぞれのファンに対して顧客体験の最適化につながるアプローチができる土台を築きたいと考えています。
その一環として、データを可視化するために2024年からTableauを導入することになりました。こちらも電通デジタルさんに伴走していただけるので、今後もデータ分析やシナリオ、施策といった面でご支援をお願いできればと思います。
佐藤:Tableauでデータを深掘りできるようになれば、新たな施策につながるいい流れを作れるのではないかと期待しています。引き続き、EC、球場観戦、ファンクラブの3軸でファンの皆様との接点を底上げできるよう、ご支援させていただければと思います。
越野:マイルドCRM®はまだ始まったばかりなので、今後はさらに新規顧客獲得やライト層の定着に向けたアプローチを強化したいと考えています。まずはストロングCRM®で効果の出ているものをLINEで展開したり、ストロングCRM®のシナリオ精度を高めるためにLINEで収集したデータを活用したりといったことにも挑戦したいと思います。
越野:電通デジタルの強みは、多種多様な専門知識を持つメンバーが、部門の垣根を越えてワンチームで一気通貫のご支援ができることだと思っています。今回の阪神タイガース様の施策でも、ストロングCRM®とマイルドCRM®の各チームが定期的にミーティングを行うなど連携していたことで、企画のヒントとなるような情報を得ることができました。顧客体験を重視しながら全体設計ができる強みを生かして、企業の課題解決に貢献したいと考えています。
佐藤:近年はCXM(Customer Experience Management)という概念が重視されてきていますが、顧客体験を向上させていくためには、コミュニケーションのあり方やデータ活用も含めた戦略が必要です。電通デジタルには幅広い支援領域があり、支援実績も豊富です。CRMの手法も今回の阪神タイガース様のように最適な組み合わせで提案することが可能ですので、データ活用にお悩みの際はぜひご相談ください。
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