2025.11.25

三井住友銀行が挑む、顧客基点を貫くアジャイル組織と共創の実践

株式会社三井住友銀行

デジタル化により銀行の顧客接点や店舗の役割が変化する中、三井住友銀行はユーザー起点でのOliveの顧客接点変革に挑戦しています。デジタルとリアルを横断するアジャイル組織「Oliveブランドスクアッド」が、顧客基点の体験づくりを推進。本記事では、電通デジタルの服部嶺が、スクアッドを率いる三井住友銀行の米本滉貴氏に、組織変革や共創の裏側をインタビュー。事業変革に役立つビジネスバリュープロデュース事業部の支援メニューも併せて紹介します。

  • デジタル化が進み顧客接点の役割が変化する中で求められる、デジタルとリアルを横断した一貫性のあるブランド体験
  • 部署横断の連携強化と自律的な運営を加速させる、スクアッドでの事業推進
  • Oliveの急成長に伴い重要性が高まる、合意形成や組織の共通言語につなげるKPI設計

  • UI/UX・マーケティングプランニング、OMO体験の設計・実装支援
  • クライアントの組織の一員として常駐伴走する事業変革支援
  • 成果創出に向けた事業推進のKPIやステージゲートの設計・管理の支援

650万アカウントの学びから生まれた、Oliveブランドスクアッドのミッション

服部嶺(電通デジタル):スクアッドとはどういった体制か、簡単にご説明いただけますか。

米本滉貴氏(三井住友銀行):スクアッドは、特定のテーマやミッションに対して必要な専門性を持つメンバーを、会社や部署の枠を超えて集める、柔軟でアジャイルなチーム体制のことです。Oliveプロジェクトでは、このスクアッド体制のもと、共通のミッションやKPIを掲げたメンバーが集まり、顧客ニーズや課題に対応しながら企画・開発を行っています。

服部:Oliveブランドスクアッドは、どのような課題や目的で立ち上がったのでしょうか。

米本:デジタル化の進展により、さまざまな業界でリアル店舗の役割が変化しています。Oliveは2023年3月の提供開始以降、650万アカウントを突破しており(2025年10月時点)、多くの方にご利用いただいています。こうした経験を通じて、顧客接点をあらためてユーザー起点で見直すことになり、昨年度リーダーを務めていたチームの領域を拡張するかたちで、Oliveブランドスクアッドを立ち上げました。

米本 滉貴氏(三井住友銀行 リテールIT戦略部 戦略企画グループ デザインチーム 部長代理)

服部:電通デジタルは、三井住友フィナンシャルグループと電通グループの合弁会社であるSMBCデジタルマーケティングからの業務委託により、三井住友銀行のリテールIT戦略部などに常駐しています。当社がOliveブランドスクアッドに伴走することになった経緯を教えてください。

米本:昨年度から継続して私のチームで複数のプロジェクトを進める中で、内部リソースだけでは実現が難しいと判断しました。そこで電通デジタルの知見を取り入れ、組織の枠を超えて新しい顧客価値を共創する体制を整えました。

服部:ご依頼を受け、2024年からは私をはじめとする電通デジタルのメンバーがOliveブランドスクアッドに常駐し、「デジタルでの接点であるOlive」と「リアル店舗での接点であるOlive LOUNGE」におけるお客さまとのつながりを設計し、価値ある体験を創り出すことを、OMOチームの一員として支援しています。

Oliveの利用が多くのお客さまに広がり、三井住友フィナンシャルグループ内外の協業も進む中で、Oliveを通じてお客さまや社会に新しい価値を生み出せることは、当社にとっても非常に意義のある取り組みだと感じています。

共通目的と心理的安全性で壁を越えるスクアッドの組織運営

服部:スクアッドでさまざまなプロジェクトを推進する際、部署横断の連携を図りつつ、意思決定のスピードを保つのは難しいと思います。その難しさをどのように乗り越えてこられましたか。

服部 嶺(電通デジタル エクスペリエンス&プロダクト部門 ビジネスバリュープロデュース事業部)

米本:各部署がそれぞれ異なるミッションや優先課題を持っているため、調整の難しさを感じる場面も多くありました。そうしたときには、まず「お客さまにより良いサービスを提供したい」という共通の目的に立ち返ることを意識しました。上位の目的で合意を取ったうえで、どの部分で意見がずれているのかを丁寧にファシリテートし、建設的な議論につなげていきました。

服部:チーム運営では、どのような難しさがありましたか。

米本:OliveブランドスクアッドにはリテールIT戦略部をはじめ、リテールマーケティング部、チャネル戦略部、三井住友カード株式会社など、さまざまな部署から多様なバックグラウンドを持つメンバーが参加しています。チームの約9割が中途入社者で、デジタル、デザイン、マーケティングといった専門性も多岐にわたります。多様性はイノベーションの源泉である一方、価値観の違いから摩擦が生じることもあります。

そのため、チーム運営では「心理的安全性」を何より重視しました。意見を言いやすい雰囲気づくりを心がけ、メンバー同士がリスペクトし合いながら率直に意見を交わせる環境づくりに取り組んでいます。共有したい価値観として「リスペクト」と「越境」を掲げ、自分の専門領域にとらわれず、互いの強みを生かしながら積極的にコラボレーションすることを推奨しています。

服部:多様なメンバーの皆さまが、非常に高い熱量で越境しながら、多くのプロジェクトに次々と挑戦し、実行に移している様子には、当社としても強く共感しています。一方で、新たな取り組みだからこそ、事業への貢献度や投資対効果がシビアに問われる場面も多いと実感しています。最近のグローバルなクリエイティビティの評価基準でも、単なる新しさや社会的意義だけでなく、「ビジネスインパクト」が重視される傾向が強まっています。Olive ブランドスクアッドも、こうした視点を大切にしながらチャレンジされていると感じています。

私たちビジネスバリュープロデュース事業部でも、「成果からの逆算」や「アウトプットではなくアウトカムにコミットする」という考え方を掲げ、クライアントの事業成長に寄与する支援を行っています。新規事業を推進する際には、必要な人材要件を明確に定義することを重視し、人財確保のためには社員のスキル育成・キャリア採用や新卒デジタル採用・パートナー企業との連携など複数の手段を組み合わせながら、中長期の視点で事業成長を支える伴走体制を整えています。

策定プロセスを浸透の第一歩に、Oliveブランドの言語化と実装

服部:Oliveブランドを社内外に浸透させるにあたり、どのようなプロセスを意識し、どのように言語化してきましたか。

米本:単にブランドメッセージを発信するだけでなく、「策定プロセスそのものが浸透活動の第一歩」という意識を持ち、関係者が自分ごととして納得できるプロセスを何より大切にしてきました。少人数で方針を決めて後から伝えるのではなく、策定段階から関係者を巻き込み、議論を通じて方向性を共につくることを意識しています。

一方で、方針や考え方は一度定めて終わりではなく、状況や関係者の関心に応じて変化していく「体温」のようなものだと捉えています。そのため、日々プロジェクトの進捗や社内外の反応を見ながら、適切なタイミングで適切な情報を共有するようにしています。

言語化の面では、「これまで」「現在」「これから」という時間軸を意識し、この3段階で整理することで、立場の異なるメンバー間でも建設的に議論しやすくなります。

服部:体験設計に関してはいかがでしょうか?

米本:体験設計の観点では、常に「お客さまにとってどうか」を問い続けています。オフィスにこもるのではなく、実際に現場や店舗に足を運び、生活者やお客さまのリアルな反応を肌で感じることを大切にしてきました。こうした姿勢が、ブランドを「社内で語られる概念」ではなく、「実際に体験として感じられる価値」として浸透させる鍵になっていると思います。

服部:ブランドの浸透や体現という観点で、米本さんやOliveブランドスクアッドのメンバーが常に「お客さま起点」「社会価値起点」で議論されている点が印象的です。ビジネス上の成果や社内承認プロセスを重視しつつも、「人を中心にした価値づくり」という軸をぶらさずに活動されていると感じます。

また、ブランドの理想像を定義し、その戦略を体験設計から実装・効果検証まで一貫して推進している点、実現するためにスクアッドのように組織を変革している点も、ビジネスバリュープロデュース事業部が支援してきた事業変革・組織変革のプロセスに通じます。Oliveや店舗における顧客接点の変革は、単なる業務効率化にとどまらず、「アセットドリブン」で新たな事業価値そのものを生み出す方向へとシフトしており、強く共感し、手応えを感じています。

情緒的価値をどう測るかを探るOliveのKPI設計と進捗管理

服部:これまでにない事業を推進するにあたり、KPI設計や進捗管理はどのように行いましたか。

米本:KPI設計は試行錯誤の連続です。設計の一部については服部さんにもご協力いただき、特に「情緒的価値」など数値化が難しい領域については、他社の事例も参考にしながら、さまざまな態度変容スコアを検討してきました。現在も議論を重ねており、唯一の正解を求めるのではなく、プロジェクトごとに最適な指標を模索するようにしています。

進捗管理については、リーダークラスに一定の裁量を持たせつつ、全員で集まる定例は最小限にしています。基本的には、私が自ら情報を取りに行くスタイルでマネジメントしています。メンバーごとに勤務場所や勤務時間が異なるため、非同期のテキストコミュニケーションを前提にしており、その結果、情報の可視化が進み、効率的に全員で進捗を把握できる体制を整えています。

服部: Oliveブランドスクアッドの取り組みを通じて、あらためて「指標をどう構造化するか」が鍵になると感じました。今回は、まず組織としての活動目的やお客さまの体験価値を起点に、評価すべきデータと参考として活用するデータを明確に整理しました。Oliveブランドスクアッドの場合は、すでに事業やマーケティング活動の中で多くのデータが取得できていたため、体験と指標の関係性を構造化し、メンバー全員が「共通の地図」を持てるようにすることを意識しました。

ビジネスバリュープロデュース事業部では、キーリソースとなるデータそのものを取得することやダッシュボードとして整備する支援としてNEST the Businessなどのソリューションもあります。また、事業推進の観点では、成長フェーズごとに「どこで何を評価するか」というゲートを設定することも重要です。新規事業の構想段階から1~2年、3~5年といったスパンで成長を見据え、各ステージで必要な指標や評価基準を設定します。そうした「ステージゲート」の設計と運用を通じて、長期的な視点でのKPIマネジメントの支援もしています。

内外の壁を越えて同じ火を囲む関係性が価値創出を加速

服部:最後に、組織や人材の面で、今後挑戦したいことがあれば教えてください。

米本:今後、チーム運営を行う機会があれば、多様なメンバーが集い、それぞれの強みを生かしながら、お客さまのために最高のサービスを共創できる組織を築いてみたいと考えています。

私はよく、理想のチーム像を「キャンプファイヤー型」と表現します。そこでは、踊っている人も、薪をくべている人も、話している人も、食べている人も、それぞれが自分のやりたいことを自由に行っていて良い。ただし、全員が一つの火を囲み、同じ時間を共有している。その一体感こそが、組織の力になると考えています。

役割や関わり方が違っていても、共通の目的を見つめながら、お互いを尊重し合い、自然と協力し合える関係を築く。そうした関係性が、しなやかで強固な組織を生み出し、最終的には社会に貢献できるサービスを創り出す原動力になると思っています。

服部:私が皆さまと協働してきた中で特に印象的なのは、メンバー全員が互いにリスペクトし合い、努力やリーダーシップをきちんと認め合っている点です。その関係性が、しなやかで強い組織をつくる大きな原動力になっていると実感しています。

当社も、外部の支援者という立場にとどまらず、内部パートナーとして同じ目的を共有しながら伴走することを大切にしています。単なるコンサルティングではなく、課題の特定から戦略立案、実行までを一貫して支援することで、事業をより高い軌道に乗せていく「High-Track」な進め方を意識しています。

構想~グロースに渡る「空中/地上戦の両立伴走力」をもって、クライアントの事業・組織を『高い軌道』へ導く。長期間の支援機会を創出し、「良き隣人」として事業の具体成果の創出までコミットメント

「社会への価値創出」においては、Oliveのように事業そのものが成長し、社会に新たな価値やポジティブな変化をもたらしていくことが、当社にとっても何よりの喜びです。今後も皆さまとともに、より深く、より広い領域で協働を進めながら、社会的な価値やインパクトをさらに拡大していきたいと考えています。

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