販売チャネルの垣根を越えた顧客体験価値の向上を目指し、取り組みを進めているポーラ。電通デジタルが実施する早稲田大学の寄附講座では、同社が支援するポーラのマーケティングDXの取り組みが紹介された。登壇したポーラの顧客戦略部 部長である中村俊之氏と、電通デジタルの桑山晃一氏が、講義を行った早稲田大学にて改めて対談した。
※「日経ビジネス電子版Special」(2024年8月5日公開)に掲載された広告を転載
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顧客と深いつながりを持つポーラの強みを生かす
電通デジタル・桑山晃一氏(以下、桑山):大手化粧品メーカーとして知られるポーラで、中村さんは顧客戦略部を統括されています。この部門では、どのようなミッションを掲げているのでしょうか。
ポーラ・中村俊之氏(以下、中村):まさに、国内事業の顧客戦略ならびに販売戦略の企画・運用を担う部門となります。当社は、ポーラのお店(サロン)・百貨店様のポーラコーナー・ECという3つの販売チャネルを国内に持っていますが、こうした販売チャネルを横断して、いかにお客様により良い顧客体験を提供していくかが、我々のミッションです。それを実現する手段として、OMO(Online Merges with Offline)発想でのマーケティング推進や、マーケティング領域のDXなどが業務の中に含まれています。
桑山: 単にデジタルマーケティングやDXを遂行するだけでなく、複数のチャネルを統合した顧客体験の構想や実現を担う組織ということですね。中村さんは、化粧品とは全く畑の違う業界からポーラに入社されたとお聞きしました。なぜ、ポーラを選ばれたのでしょうか。
中村: ポーラには「Science. Art. Love.」というブランドメッセージがあります。商品力が高いだけでなく、ブランドとしての強い信念を持っており、そのフィロソフィーに共感しました。そして、お店を通じたダイレクト販売によって、お客様との深い関係性が脈々と築かれているのも大きな魅力でした。これらを起点に、デジタルが当たり前の世界でマーケティングを進化させていけば、独自性が高く、かつ理想的なOne to Oneマーケティングが実現できるのではないかと思ったのが入社のきっかけです。
中村 俊之氏(株式会社ポーラ 顧客戦略部 部長)
新卒でコニカミノルタに入社。計測機器事業の営業、販売企画、新規事業立ち上げを経て、企業ブランディングとグローバルのウェブ統括を担当。2018年にポーラ入社。CRM推進、EC事業管掌を経て、現在は国内横断での事業・顧客戦略を担当し、事業モデルの変革に取り組んでいる。19年より日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の代表幹事、23年より日本アドバタイザーズ協会 理事に就任。
桑山: 確かにポーラの持つお客様との強いつながりは、One to Oneマーケティングを実践する上で、非常に魅力的です。そうした中でデジタル化を進めるにあたり、どのようなチャレンジすべき課題があったのでしょうか。
中村: 国内にポーラのお店は約2700カ所あり、また全国有名百貨店様など83店舗でポーラコーナーを展開しています。こうしたダイレクトビジネスとECがある中で、デジタルを生かしてできることは、非常に伸びしろがあると考えています。ただ、EC専業ではない分、データの整合性をどう取るのか、業務のオペレーションをどう変えるのかなども含めて、現状のシステムの改変には大きなハードルがありました。
デジタルが当たり前の世界で、我々が事業や部門を超えて1つとなり、一貫した顧客体験をいかに紡いでいくか。これが現在も進行中の大きなチャレンジだと言えるでしょう。
我々は、こうした新たなブランド体験を「One POLAモデル」と呼んでいます。これを実現するために立ち上げたサービスが、お客様のIDを1つに集約する「ポーラ プレミアム パス」です。
「ポーラ プレミアム パス」で新たな顧客体験を創出
桑山: まさに、リアル接点とデジタル接点の融合であるOMOを実践されようとしているということですね。多様な接点において一貫性のあるコミュニケーションや顧客体験を実現していく上で、一人ひとりのお客様を特定し判別していくことが重要になります。
そのアプローチとしてお客様のIDを統合する「ポーラ プレミアム パス」は、非常に大きな変革だと見ています。「One POLAモデル」では具体的にどのような体験価値をお客様に提供していくのでしょうか。
中村: お客様とお会いしたり、対話したり、ウェブやアプリをお使いいただいたり、すべての接点の積み重ねを「ナラティブ(物語)」にしていくというのがベースの考え方になります。
販売チャネルごとで分かれていたIDが共通化されることで、お客様理解の解像度が変わってきます。例えば、ECサイトで商品を購入する際に、お客様に通っていただいているお店のイベント情報なども併せて表示するようにしました。これまで分断されていたオンラインとオフラインの導線をつなげたいと考えたのです。
また、1回目はECサイトで購入し、お店で2回目の購入をした場合でも、その方は2回目だと判断できるので、「いつもありがとうございます」という姿勢でコミュニケーションができます。こうした丁寧さを心がけた取り組みを少しずつ始めています。
桑山:これらの「One POLAモデル」の実現に向けた取り組みの一つとしてOMOプラットフォームの構築があります。本プラットフォーム構築の際に、ご苦労された点があれば教えてください。
中村: システム開発を進める上では、プロジェクト憲章で理想を掲げていても、システム都合や開発効率性に流されそうになるケースが往々にしてあります。今回もその危惧がありました。
とあるプロジェクトで普段はシステム案件に関わらない部門や、マーケティング案件との関わりが少ないシステム担当者が参加する案件があったのですが、最初のグランドデザインのところで電通デジタルさんにお手伝いいただき、システム開発の先にある、お客様とのコミュニケーションやシステムの手触り感などの部分も含めて、全体の設計を見てもらいました。リアリティのある質感のゴール設定が必要だったのです。
それにより仕様の決め方が変わったのはもちろんのこと、参加しているメンバーの目線が上がったのを感じました。目指すべき「One POLAモデル」の解像度が高まったことで、メンバー同士の目線が合ってきたのです。その後のプロジェクトでの働き方が全く変わりましたね。
桑山: ありがとうございます。我々電通デジタルのメンバーも同様に、あのプロジェクトが「One POLAモデル」に対する理解が深まる大きな転機になりました。顧客に対するインサイトや理想の体験を起点に、各コンタクトポイントのオーケストレーションやそれらを裏で支えるオペレーション、システムやデータの在り方を構想することは、我々が大切にしているアプローチです。
今、多くの企業がOMOやDXを標榜していますが、ポーラには独自の考え方があるように見えます。それを言語化するとなると、どのようになりますか。
桑山 晃一(株式会社電通デジタル トランスフォーメーション部門 エグゼクティブディレクター)
メーカーのマーケティング部門にて新規事業開発に携わった後、電通イーマーケティングワン(現、電通デジタル)入社。幅広い分野で、ITマーケティング・コンサルティングに従事。2015年よりUX/UIデザインの専門チームを立ち上げ現在に至る。一般社団法人UXインテリジェンス協会参与。
中村: 全国にお店を持ちながらダイレクトビジネスを展開し、リアルを含めたブランド体験を紡ぎつつ、お客様のナラティブに反映していけるのが、ポーラの独自性だと思います。また、化粧品というプロダクトを作る製造業だけでなく、エステといった美容サービスを展開していることも当社の強みです。リアルの場で長時間にわたってお客様とご一緒させていただき、深い関係性を築くことができます。
桑山: そうした多様な販売チャネルがある中で、一貫した顧客体験を組織横断で提供していくことは、非常に難しいことだと思います。それを、どのように乗り越えていったのでしょうか。
中村: 確かに難しい面もありましたが、ポーラのブランド理念が社員に浸透していることもあり、組織の役割の違いや分断を飛び越えていけたのだと思います。
桑山: その際、電通デジタルでは、共通の利益が目指せるような場を作るご支援ができればと考え、他部署の皆さんが対話を深めるワークショップのお手伝いをさせていただきました。
中村: 部署ごとの、視点の違いや意見の食い違いなどは、なるべくたくさん吐き出してほしいと思っていました。そうした多様な意見を広くとらえた先に、大きな価値が生まれると考えているからです。そのための場として、ワークショップは非常に大事だと思っています。
プロジェクトを前に進めるには、こうしたコミュニケーションを通して、ステークホルダーに「腹落ち感」を持ってもらうことが非常に大切です。その際に、電通デジタルさんのような第三者的な視点をいただけたのは、とても助かりました。
デジタルとクリエイティビティの知見を融合。理想のチームを目指す
桑山: 顧客戦略部が起点となって新たなプロジェクトを多く立ち上げており、今まさに動き出したところだと思います。この先、どのようなチャレンジをしていきたいとお考えでしょうか。
中村: デジタルが当たり前の世界で、ポーラの強みを生かしながら、より良い顧客体験を提供していくという観点から見れば、まだ最初の一歩にも達していないという認識です。やっとスタートラインに立てたというところでしょう。
今まで見えていなかった伸びしろが見えてきたり、今まで発想できていなかったことが生まれてきたりしています。これらを実現し、顧客体験やブランド体験につなげていくことが、今まさにチャレンジしていきたいことです。
あらゆる垣根を越えて新しい発想を生み出しながら、より良い顧客体験を届けるブランドであり続けたいと話すポーラの中村氏。桑山氏は、電通デジタルの強みであるデジタルとクリエイティブを融合させた支援で、期待に応えていきたいと語る
桑山: デジタル基盤が整ってきた中で、実際にお客様とどういったコミュニケーションを取っていくかという点では、クリエイティビティも非常に大事になってくると思います。
中村: 今回の取り組みでは、IT/デジタルの知見も欠かせませんし、マーケティング領域で求められるクリエイティビティや発想力も当然必要です。この両者を融合した形で作っていけるかがとても大事になります。
そこで、電通デジタルさんのように、幅広い業種のコミュニケーションに関わられている皆さんとご一緒できるのは、新たな発想のヒントにつながると実感しています。私たちポーラは、業界や業種、国・地域を超えて新しい発想を生み出しながら、より良いおもてなし体験をお客様にお届けできるブランドであり続け、常に進化していきたいと思っています。そういった意味でのご支援をいただけるとありがたいです。
桑山: ご期待いただきありがとうございます。今までお話しいただいたような、ポーラ様のチャネルや事業を横断したマーケティング活動をご支援する体制として、電通デジタルとしてもトランスフォーメーション部門だけでなく、広告部門と共に幅広い対応力を持つ横断チームを組成しました。このチームでは「One POLAモデル」に対する共通理解の下、プロジェクトごとに広告、マーケティング/CRM、UX、AI、テクノロジーなど異なるスペシャリティーを持ったメンバーをアサインしています。こうした多様性あるチーム編成は、我々の価値を最大限に発揮できる理想の形の一つであると感じています。
これから実際にどういった顧客体験を生み出していけるのか、我々も試されていると思っていますし、非常にやりがいを感じています。ご期待に添えられるよう頑張っていきたいと思います。
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