少子化が進み、大学を取り巻く環境が大きく変わりつつあります。大学は、どのように受験生との接点を作り、「第一志望率」を高めていけばいいのでしょうか。神田外語大学が電通デジタルと取り組んでいる学生募集を中心とした入試戦略について、神田外語大学・須賀大悟氏と電通デジタル・杉尾直高に聞きました。
2025.04.23
大学情報メディアに頼らず入学志願者を増やす方法とは? 神田外語大学が取り組む入試広報DX
学校法人佐野学園 神田外語大学
大学の抱える課題とは? 18歳人口減少時代の戦略的アプローチ
――入試広報担当としてどのような課題を感じていらっしゃいますか?
須賀大悟氏(神田外語大学):1992年に約205万人いた日本の18歳人口は、2024年に約106万人まで減り、2030年以降この数字はさらに減少すると見られています。私たちの大学は主に日本の受験生を対象としているため、この変化が大学の経営に大きな影響を及ぼすことは避けられません。しかし、18歳人口の推移は比較的正確に予測できるので、前向きに捉えると、事前に戦略を準備することができます。
ですが、「具体的に何をすべきか」「どのように動くべきか」という点については、課題の大きさからどこから手をつけるべきか悩んでいました。
――入試広報の観点では、志願者数を増やすことが主な目的になりますか?
須賀:志願者数は重要な指標ですが、単に増やせば良いというわけではありません。本学は学生数約4200人の小~中規模校で、国際・語学分野に特化した大学です。そのため、「この分野を学びたい」という明確な目的を持ち、志望動機の強い受験生の割合、すなわち「第一志望率」を向上させることが重要です。入学後のデータ分析でも、モチベーションの高さがその後の成長と一定の関連がある事が見えています。入学後のミスマッチを防ぎ、充実した学生生活をおくることで、卒業後も良好な関係を維持できるでしょう。
第一志望で入学してもらうためには、高校生が進路を決める前に、本学の魅力を知ってもらうことが欠かせません。限られた予算で多くの受験生に認知してもらい、「神田外語大学を好きになってもらう」ための効果的な取り組みが必要です。
杉尾直高(電通デジタル):大学選びに最も重要なのは受験生本人の意思です。しかしその裏には、受験生本人だけでなく、保護者や学校の先生など、多様なステークホルダーの意向が本人の意思に影響を与えます。また学生にもよりますが、大学選びは2〜3年を要する場合もありこうした複雑性は、BtoBマーケティングの「BANT(予算、決裁権、ニーズ、購入時期)」にも酷似しています。
大学選びという長いタイムラインの中で、どのように受験生の気持ちを深く理解し、継続的なコミュニケーションを通して、神田外語大学の魅力を伝えられるかが、課題解決のカギになると考えました。
電通デジタルは、大学受験生向けマーケティングを専門にはしていませんが、BtoCマーケティングとBtoBマーケティング双方の豊富な知見を持っています。その強みを生かし、受験生という顧客に対して最適なアプローチを提供できるよう努めました。
受験生との接点強化から出願までのプロセスを再構築! SNSやオウンドメディアの役割
――近年の受験生の出願傾向に変化はありますか?
須賀:これまでは、大学パンフレットを資料請求いただき、オープンキャンパスに参加・出願の王道ルートが一般的でした。一方で、それぞれの接点と地道な広報活動で得た受験生データはあったものの、有効活用ができていませんでした。
しかし近年は、王道ルートを通らずデジタルでの情報収集からステルス的に出願する受験生も増えてきています。デジタル上での接点を構築・強化し、神田外語大学への興味醸成と出願モチベーションを維持してもらえるようなコミュニケーションを取れるかが重要だと考え、受験生との接点を再定義することとしました。
――その中でまずはSNS施策を実施されたとのことですが、その目的や内容を教えてください。
杉尾: BtoB的なアプローチを行うためには様々な課題を解決していく必要がありました。リードジェネレーションに該当するSNSもそのうちのひとつになり、当時、学内の担当者や学生が運用していた各種SNSアカウントをさらに効果的に活用していただくために、投稿ガイドラインを新たに作成しました。このガイドラインには、適切な投稿ルールや表現方法、禁止事項、投稿頻度、レスポンス対応方法などを盛り込んでいます。
SNSの運用は継続が重要です。そのため、我々が運用を代行するのではなく、大学内部の方々が自分たちの言葉で発信し、受験生と直接コミュニケーションをとることを提案しました。これにより、受験生にとってより身近で魅力的な情報発信ができ、体験価値の向上につながると考えています。
SNSの運用と並行して、コミュニケーションの中心となるのは、オウンドメディア(Webサイト)です。従来の大学サイトは、主に入試や大学に関する情報提供の場としての役割が強かったですが、今後はリアルな体験への入り口となることが重要です。
――オウンドメディアの役割をどのように捉えていますか?
神田外語大学は、幕張(千葉県)に素晴らしいキャンパスがあります。そこでの充実した学生生活が、最終的に大学への深い愛着を育むと考えています。また、神田(東京都)には関連する神田外語学院があり、それぞれが特色を持ちながら教育を行っています。
まず、SNSを通じて大学に興味を持ってもらい、次にオウンドサイトでさらに理解を深めてもらう。そして、継続的かつパーソナルなコミュニケーションを続ける中で、実際に大学を訪れてもらい、より深い共感や理解、愛着につなげていく。志望校選びという長く、かつ決められた時間軸の中でデジタルコンテンツとリアルな体験を組み合わせることで、大学への理解を促し、魅力をより強く伝えることが、私たちの取り組みの目的です。
須賀:オウンドメディアの重要性は、経営企画部で中期経営計画を担当していたときにも強く実感していました。その際、「Students' Success:学生の成功」という考え方に基づき、大学での4年間の体験価値を最大化する方法を検討しました。その中で、デジタルとリアルの体験をどう組み合わせるかが非常に重要なポイントであることを何度も痛感しました。
杉尾さんもおっしゃったように、受験生の大学入学には多くのステークホルダーが関与します。たとえ受験生向けにSNSを強化しても、それだけでは不十分です。学生本人だけでなく、保護者、進路指導の先生、塾の担当者、卒業生、企業の採用担当者など様々な人がオウンドメディアを訪れます。その際、彼らの関心を引き、「神田外語大学は面白い大学だ」と思ってもらえるためには、他者を圧倒する魅力的なコンテンツが必要です。
そのため、現在は高校生を「大学0年生」として捉え、育成していくようなオウンドメディアの構築に注力し、リソースの99%を投じています。まずはこれをしっかり機能させ、改めてSNS施策にも力を入れていきたいと考えています。
杉尾:SNSもCRMも、発信するコンテンツがなければ意味がありません。単発のキャンペーンやインセンティブ施策では、一時的な効果は得られても、継続的なファンを育てることは難しいです。
神田外語大学は、卒業後も活用できる実践的な学びを提供している素晴らしい場です。しかし、その魅力はSNSやオウンドメディアだけで十分に伝えることはできません。実際に大学を訪れ、説明を受けることで初めて理解できる部分も多くあります。そのため、入学前から大学の価値を感じ、「オープンキャンパスに行ってみたい」と自然に思ってもらえるようなコンテンツを提供することが理想です。
単なるイベント情報や入試情報の発信に留まらず、何度も訪れたくなるような学びの場となるようなオウンドメディアが必要になりますし、オウンドメディアに訪れるきっかけを与える意味でも継続的でパーソナルなコミュニケーションが重要になります。
須賀:そのためには多くのコンテンツが必要ですが、幸い大学には優れた教員が揃っており、貴重な知識が蓄積されています。国内外で多様な活動をしている学生も多くいます。それをオウンドメディア上でコンテンツとして可視化し、継続的に発信し志願者に届けていくことが重要です。コンテンツのソースは豊富にあるため、今後はそれをどう整理し、効果的に志願者に届けるかが課題となっています。
異業種の知見を生かしたパートナー選びの重要性
――電通デジタルをパートナーに選んだ経緯を教えていただけますか?
須賀:杉尾さんが登壇されていた2021年開催のCookieレスに関するウェビナーに参加したことがきっかけでした。杉尾さんの講演内容は非常に素晴らしく、セミナー終了後にレポートを作成し、部内全員に共有しました。その後、電通デジタルの営業担当の方からフォローアップのメールをいただき、私たちが抱える課題について相談したことが、今回の取り組みの始まりでした。
もともと、デジタルマーケティングに関しては、教育業界に特化した企業ではなく、異業種の視点を持つ企業と組みたいと考えていました。私たちの課題の解決策が、すでに一般企業で実践されている取り組みにあるのではないかと考えていたためです。他業種の成功事例を大学向けに応用し、効果的な施策を展開できる企業と組みたいと考え、建設的な提案をしてくれるパートナーを探していました。
――電通デジタルとの協業で、良かった点は何でしょうか?
須賀:最初の相談は、正直漠然としたものでした。しかし、その時点から現在に至るまで、非常に真摯な対応をしていただいています。私たちの話を丁寧に聞き、課題を把握した上で、目先の志願者の獲得案ではなく、広い視点から多様な提案をしていただける点が素晴らしいと感じています。杉尾さんの細やかなヒアリングや私たちが思いもよらなかった切り口からのソリューション提案により、毎回新たな気づきを得ています。
もちろん、電通デジタルは豊富な外部の知見を持っていますが、私たちとの関わりを通じて大学への理解を深める中で生まれるシナジーは、教育業界に特化した企業ではなかなか出せないものだと実感しています。何より我々教職員が刺激的なディスカッションと貴重な経験をさせていただいており、職員力アップにも効果的です。今後も電通デジタルが他の大学とも連携を広げ、さらにナレッジを蓄積していくことも期待しています。
大学の魅力を伝え、共感を得るために必要なこととは
――神田外語大学のような課題を抱えている大学は、日本全国に多くあると思います。そうした大学に向けて、電通デジタルとしてどのような支援を考えていますか?
杉尾:大切なのは、それぞれの大学が持っている独自の魅力を正しく認識し、適切な手段で受験生に届け共感を得ることです。そして、今の時代、それを実現するにはデジタルの活用が不可欠です。私たちは多様な手段を持っており、それを最適な方法で提供できることが強みです。
大学紹介サイトで、他の大学と並んで情報発信をするのも一つの方法ですが、その中では差別化が難しく、元々のブランド力や偏差値の高低が強く影響してしまいます。そうした中で、必ずしもブランド力が強くない大学が一歩先へ進み、「この大学は自分の目的に合っている」と感じる受験生を増やすためには、企業がファーストパーティデータ(1st Party Data)を活用し、顧客との直接的なコミュニケーションからファンへと育成するのと同様な考え方が求められます。これは私たちの得意とする分野であり、受験生に自学の価値を伝えたい大学にとっても有効な手法だと考えています。
差別化を図り、受験生に魅力を伝える方法を模索している入試担当者の方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。電通デジタルでは、それぞれの大学の特徴や強みを生かした戦略を策定し、実行可能なアプローチを提案します。大学の強みを最大限に引き出し、受験生との共感を深めるために、私たちの経験とノウハウをぜひご活用ください。
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