第一三共ヘルスケアは2024年4月にコーポレートサイトを全面リニューアル。そのウェブアクセシビリティ向上に関して、電通デジタルがサポートしました。取り組み内容について、同社広報部デジタルコミュニケーショングループの加藤美輪子氏と、電通デジタル ウェブアクセシビリティコンサルタントの千葉順子に聞きました。
想定ユーザーにとっての使いやすさを重視
――電通デジタルをパートナーに決めた経緯と理由について教えていただけますか?
加藤美輪子氏(第一三共ヘルスケア):第一三共ヘルスケアは、より多くの生活者にとって見やすく使いやすいコーポレートサイトを目指し、2023年よりリニューアルに取り組んでいます。そのスタートにあたって、理想的なウェブサイトを実現するためのパートナー企業を検討しました。
リニューアルは大規模に行う予定で、さまざまな部門との連携やパートを管理する体制の厚さを意識して選定した結果、電通さん・電通デジタルさんにお願いすることに決めました。また、今回のリニューアルではウェブアクセシビリティの向上を重要な課題としていて、プロジェクト体制を非常に重視していました。そのため、電通デジタルさんがウェブアクセシビリティに対して専門家であるインフォアクシアの植木真さんとワンチームで取り組んでいたことも、決定に大きな影響を与えました。
――電通デジタルが行ったウェブアクセシビリティ改善施策について、具体的な内容を教えてください。
千葉順子(電通デジタル):「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)2.2」のレベルAAを目標としたウェブアクセシビリティ対応方針の策定や画面設計・デザイン・実装の各工程でのチェックを含めたクオリティ管理を担当しました。リニューアル後は、さらなるウェブアクセシビリティ向上のための取り組みとして、障害当事者とのユーザビリティテストや第一三共ヘルスケア様向けに社内勉強会を行いました。
――ウェブアクセシビリティ施策に関して、特に意識したことはありましたか?
千葉:ガイドラインの達成基準を満たした上で、本当に使いやすいかどうか、さまざまなユーザーを想定してウェブアクセシビリティ向上に取り組むことを意識しました。
――苦労した点はありましたか?
千葉:各工程にウェブアクセシビリティのチェックが入ることで、通常のリニューアルよりも確認と修正に時間がかかってしまうため、特に序盤はスケジュール管理が難しく、我々というよりプロジェクトマネージャーの皆さんが調整に苦労したと思います。ただ、加藤さんをはじめとする第一三共ヘルスケア様や制作会社の皆さんが非常に協力的で、ウェブアクセシビリティ向上に強い熱意を持って取り組んでくださったため、中盤以降は全員で協力し合い進めることができました。
――今回のウェブアクセシビリティ改善で、当初掲げた目標は達成できましたか?
加藤:はい、達成できました。特にJIS8341-3:2016およびWCAG2.2の試験では、AA一部準拠という高いレベルで着地することができました。
――全面リニューアル公開から約半年が経ちましたが、社内外からの評価や反響はありましたか?
加藤:リニューアル直後に行った来訪者アンケートでは、使いやすさや関心がスコアアップしましたし、社内からも「使いやすくなったね」との声を口頭でいただきました。また、外部評価では、日経BPコンサルティングの「Webブランド調査」[1]やトライベック「顧客サポート調査2024」のデジタルサポート評価指数ランキング(123社中9位)[2]で高く評価され、担当者として達成感を感じています。
全社的なウェブアクセシビリティ意識向上を目指し、リニューアル後も取り組みを継続
――当事者のユーザビリティテストについて、概要を教えてください。
千葉:今回は実際にウェブサイトへのアクセス数の多いデバイスであるスマートフォンでウェブサイトを閲覧するケースを想定し、目的別に3つのシナリオを設定して弱視(ロービジョン)の方5名、読字障害(ディスレクシア)の方5名の計10名を対象にテストを実施しました。「ゴールにたどり着けるか」「たどり着きやすいか」「たどり着けないときにどこでつまずくのか」など検証しましたが、基本的な利用に関して大きな問題は見つかりませんでした。ただ、もっとこうだったら嬉しい、もっと使いやすい、などさまざまなご意見やご要望をいただくことができたので、今後の改善の示唆としてしっかり受け止めて対応していければと思っています。
加藤:テスト時に当社サイトの感想を聞いたところ、「全体的にとても見やすい」との声をいただき、私たちも非常に嬉しかったです。また、テストと併せて製品の購入や使用時など日常の状況をヒアリングし、実際にどのように情報を取得されているかを見せていただいたことで、今後の取り組みにとても参考になりました。
――勉強会の実施に至った理由や経緯を教えてください。
加藤:私たちから勉強会の実施をお願いしました。デジタルコミュニケーショングループでは、2023年のサイトリニューアルから継続して24年もウェブアクセシビリティの推進を掲げており、その一環としてウェブアクセシビリティに対する理解を向上させるため、勉強会を開催したいと考えました。
――勉強会の内容を教えてください。
千葉:勉強会は2回実施しました。1回目は、全社員を対象にまずは興味を持ってもらうことを目的として身近なウェブアクセシビリティの例や当事者が感じる困りごとについてなどを紹介しました。2回目は、ウェブサイトを担当されている方を対象にロービジョン体験キットを使ってウェブサイトを見てもらう擬似体験や、植木氏を講師として少し専門的な話を交え、ウェブアクセシビリティの理解を深めてもらえる内容にしました。
加藤:1回目は全社から希望者を募り、2回目はデジタルに関する業務を担当する部門を中心に声をかけて、それぞれ約30人が参加しました。いずれも事後アンケートでは、満足度、今後の参加意向ともにほぼ100%と、非常に良い結果となりました。勉強会は今後も継続して実施していく予定です。
千葉:我々も、皆さまの理解向上と実際の業務へのフィードバックの最大化に向けて、引き続きサポートをさせていただく予定です。
ウェブアクセシビリティの確保は、すべての人に必要な対応
――電通デジタルと取り組んで、良かったと思う点を教えてください。
加藤:ウェブサイトリニューアルを経て、WCAG2.2のAA一部準拠を達成できたことですね。この成果は電通デジタルさんに粘り強く対応いただいたお陰です。対応後の内容をチェックする際においても、画像のalt(代替テキスト)が場所によって指定の仕方が異なる理由など、障害のある方が利用する目線で教えていただくなど勉強になりました。
また、当事者の方とのユーザビリティテストを実施できたことも大きかったです。当事者の方の生の声を聞くことができたので、さまざまな気づきがありました。それを一緒に認識し発見できたことで、単なる発注者と受注者の関係ではなく、課題を解決するパートナーとして改善の取り組みを進められました。この関係がしっかりと成果につながっていると実感しています。ガイドラインの基準を達成するだけでなく、当事者にとって本当に良いことは何か、本質的に何をすべきか、という視点からの率直なアドバイスは非常にありがたかったです。
――ウェブアクセシビリティ向上という観点で、今後のコーポレートサイトの目標は何ですか?
加藤:当グループは、会社全体のウェブガバナンスの一環としてウェブアクセシビリティを推進していきますが、最終的にはウェブサイト制作を行う際には自然にウェブアクセシビリティを意識できる社内文化の醸成を目指しています。
取り組みのレベルを上げることも大事ですが、まずは全員が障害のある方の困りごとを詳しく知り、ウェブアクセシビリティの基礎知識を持ち、自発的に取り組みを推進できる状態を作るため、勉強会などを通じて少しずつ実践していきたいと思っています。
――電通デジタルに期待することは何ですか?
加藤:先ほどお話したように、ウェブアクセシビリティにまつわる課題について本質的にすべきことを一緒に取り組んでいくパートナーとして期待しています。このウェブアクセシビリティへの取り組みは、「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」という第一三共グループのパーパスやI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)の考え方にもつながります。
障害当事者がどのような困りごとを抱えているのか、当事者を含め我々も考える機会を持つことが重要だと思いますので、取り組みをバージョンアップし、今後もさまざまな取り組みを一緒に実施していきたいと思います。
――それに対して、電通デジタルはどのように応えていきますか?
千葉:ウェブアクセシビリティ対応は障害者の方だけのものではありません。現在健康な人でも病気、けが、加齢といった状況により、障害を持つ状態に陥ることがあります。つまり、ウェブアクセシビリティの確保は特定の人のためだけでなく、すべての人に必要な取り組みです。第一三共ヘルスケア様がこの理念に共感し、取り組んでいただけていることに深く感謝しています。勉強会をはじめ、今後もさまざまな取り組みを実施し、先例がないが試す価値のある取り組みなども積極的に提案したいと考えています。
――ウェブアクセシビリティ向上を含むサイトリニューアルを検討している企業担当者へメッセージをお願いします。
千葉:ガイドラインの基準をクリアすることはウェブアクセシビリティ向上の工程の一つであり、それが目的ではありません。私たちは、ウェブアクセシビリティを起点にして一緒に課題を発見し、ウェブサイトを改善していくお手伝いをします。漠然とした課題や困りごとがある段階でまず相談していただいてもいいですし、明確な課題があれば一緒に解決するお手伝いをしたいと思っていますので、ぜひご相談ください。
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