電子部品・通信機器の製造など、多角的に事業を展開する京セラは、就活生への認知度を上げるべく、オリジナルアニメのコンテンツ施策を実施。第1弾に続き、第2弾が好評を得て、学生のエントリーが大幅に増加しました。プロジェクトにかける想いと実施内容についてプロジェクトメンバーに聞きました。
2024.02.08
就活生のインサイトと京セラの企業としてのメッセージを両立。大反響を呼んだオリジナルアニメへの挑戦
京セラ株式会社
就活生と京セラの課題感を重ねたアニメコンテンツを提案
――今回は、若年層(就活生)対象のコーポレートブランディングとしての取り組みでした。もともと就活生に対し、どのような課題感をお持ちだったのでしょうか。
京セラ・西野慶也氏:「京セラ」という企業名は知られているのですが、何をする企業なのかという事業内容までは、あまり理解してもらえていないという課題がありました。そのことが、学生の就職意向にも影響しているという関係性も見えていました。今回は、そうした若年層に対して、京セラへの好感度を上げてもらうためのプロジェクトでした。
――そもそも、なぜアニメだったのでしょうか。
電通デジタル・山崎喜貴:私は、オリジナルのアニメコンテンツを制作する電通グループ横断組織である「電通ジャパニメーションスタジオ」※にも所属しています。その立場から京セラ様へ第1弾のアニメの提案をさせてもらったのが最初のきっかけです。京セラが開発を進めている、まだ実現していない未来の技術も、アニメなら表現できると考えました。また、10代、20代は65%〜70%が「アニメが好き」というデータもあるほど、アニメに慣れ親しんでおり、若年層に効果的に届けられるという背景もありました。
※電通グループ各社の横断組織として、2018年発足。ブランドの魅力を高める映像コンテンツをアニメーションで制作する体制を整備した。日本の一流アニメスタジオとのリレーションを構築。国内外問わず幅広い活動を展開している。
西野:この提案が素晴らしく、納得のできるものでした。製造業という固いイメージのある京セラだからこそ、アニメであれば、いい意味でのギャップが生まれるのではないかという期待を持つことができました。
――どのようにアニメのコンセプトを組み立てたのでしょうか。
山崎:今は、情報過多で広告が届きづらい時代です。なので、ターゲット層のインサイトにしっかり寄り添うものにしなければ見てもらえません。そこで、就活生のインサイトと、京セラの企業としてのメッセージを両立させるアイデアが求められました。
第1弾「『あなたを一言で表してください』の質問が苦手だ(#あなひと)」(2022年1月公開)は、就活生が面接でよく聞かれる「あなたを一言で表してください」という質問に対し、どう答えればいいのかと悩む心情と、多角事業を展開する中で、なかなか自社を一言で説明できない京セラの抱える悩みを重ねたものにしました。
また第2弾「私の#(ハッシュタグ)が映えなくて(#タグなく)」(2023年1月公開)では、学生時代にキラキラしたハッシュタグを持つ周囲の人とのギャップに悩む学生と、多くの製品を開発し、どれを全面に押し出すかを決めるのが難しい京セラさんの背景を重ねて提案させてもらいました。
西野:ターゲット層のインサイトと企業のメッセージを合わせた提案に凄みを感じ、非常に驚きました。我々では、これまで見つけられていなかった視点でした。
電通デジタルならではの強みを発揮した3つの軸とは
――アニメの認知・継続したコミュニケーションに向けて、様々な施策を実施しました。①トライブ施策、②プロモーション設計、③周辺コンテンツ施策という3つの軸で、こだわった点を教えてください。
山崎:実写と比較して、アニメは考えなければならない構成要素がたくさんあります。制作スタジオをどこにするか、キャラクターデザインを誰に書いてもらうか、音楽を誰に歌ってもらうか、声優を誰に担当してもらうかです。この4つの視点で、いかに拡散できるかを考えることを「トライブ施策」と呼んでいます。
京セラの未来の技術を描くには、機械のプロダクトデザインに強い制作スタジオにお願いしました。キャラクターデザインは、心理描写に長けた著名な漫画家さんにお願いしています。また音楽は、就活世代と相性のいい若手のネクストブレイクアーティストを起用しました。声優さんは、声優好きのコミュニティの中で誰と誰がキャスティングされたら喜ばれるかという話題性を戦略的に狙った配役を考えました。
電通デジタル・清水真珠子:私は新卒2年目のタイミングで転職して電通デジタルに入社しました。なので、就活の頃の気持ちが明確に残っている状態でプロモーション設計に携わらせてもらいました。アニメのストーリーにも共感できる部分が多かったですね。Cookie規制などでデジタルターゲティングが難しくなってきている今の時代に、どうすれば就活生にきちんと届けられるかを強く意識しました。
自分が就活の時に見ていたサイトや情報を思い出しながら、ターゲティングにはかなりこだわりました。また、ブランドセーフティの観点から、広告配信をしないサイトを京セラさんと丁寧に細かく指定していきました。
電通デジタル・崎尾翔:アニメの世界観だけではなく、よりリアルな京セラを就活生に深く知ってもらうために、アニメ以外の周辺コンテンツの制作を担当しました。Webメディアで京セラの社員の方に日々の働き方などを聞くインタビュー動画を配信したり、Xのイラスト・漫画型特化型ソリューション「Twillust」を利用して、アニメのスピンオフ漫画を配信したりするなどしました。実際に京セラで働く人の実態を、就活生に分かりやすい形で知ってもらうべく展開した施策になります。
就活人気企業ランキングで京セラが急上昇。就活生のエントリーも増加
――今回のプロジェクトで、どのような効果が得られたのでしょうか。
西野:データ上では、就職意向の向上、好感度の向上が見られました。さらには事業理解の因子も向上していて、エントリー自体が大幅に増加しました。
京セラ・篠原花音氏:京セラの新入社員にアンケートを取ったところ、多くの人がアニメを見たと回答してくれました。自由回答では「京セラが作ろうとしている世界を、アニメで知ることができてワクワクしました」や、「アニメを見てエントリーシートを出すことを決めました」という声もあり、新入社員にとっても、いいアニメだったのだと思います。
山崎:「好意」「共感」「就職意向」など、多くの指標で向上が見られたのですが、第1弾、第2段どちらにも接触した人はそのスコアがより高まる傾向も見えました。やはり、継続が大事なのだと感じています。また、新卒就職口コミサイト「楽天みん就」の「2023年卒新卒就職人気企業ランキング」※1では、前年92位だったのが14位にまで上昇しました(2023年卒)。このアニメ施策だけの効果だとは言い切れませんが、嬉しい結果でしたね。
西野:過去に遡っても、このポジションまで来たことはなく非常に驚きました。社内でも声をかけてくれる人が多く、反響は大きかったです。年に1回ある社長特別賞もいただきました。京セラグループ全体の約8万人の中から、面白い取り組みだと評価してもらえたのは、すごく良かったですね。
――優れたアニメ×異業種の取り組みに贈られる「京都アニものづくりアワード2023」では、第2弾「#タグなく」がアニメーションCM部門で銅賞を獲得しました。
篠原:とても光栄だと感じています。京セラのアニメの取り組みを、さらに広く知ってもらう、いい機会をいただけました。
Z世代を意図的にチームに配置。実体験を生かしてプロジェクトを進行
――1年ほどの時間をかけて第2弾施策を進められてきました。印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。
西野:電通/電通デジタルチームの提案力の高さが印象に残っています。私たちの方で、まだ煮えきっていない段階で相談しても、その先を考えて提案してくれるのです。アニメは公開までの仕込みの時間がすごく長いのですが、毎週の定例会を通して電通デジタルと取り組んでこられたこと自体が私にとっての大きなエピソードですね。
篠原:Z世代のインサイトと京セラのメッセージを絡めたコンセプトを提案してもらった時が一番衝撃的でした。こんな考え方があるのかとびっくりしたのを覚えています。電通デジタルの皆さんには毎週丁寧にご提案いただいて、誰もが納得する形で完成まで持っていけたことに、とても感謝しています。
山崎:今回、アニメにとどまらず、立体的なコミュニケーションを設計するにあたっては、電通デジタルだけでなく電通との合同チームで京セラさんと向き合ってきました。様々な施策のスペシャリストをスポットでアサインして、毎週提案させていただきました。それに対して、京セラさんから迅速な意思決定とフィードバックをいただけたので、全体として有機的に連動して成功に至ることができたのだと思います。
もう一つ強調したいのが、各チームにZ世代のメンバーを意図的に配置したことです。彼らの経験にもなりますし、彼らの就活の経験をプロジェクトに生かすことができたのも大きかったと感じています。
清水:デジタル広告配信では、いざ掲載が開始してそれで終わりではなく、ちゃんと思っていた人に届けられているのかを日々チェックし細かく調整するなど、気が抜けない毎日を過ごしたことが心に残っています。私は生まれが京セラ本社の近くで、今回のプロジェクトには個人的に強い思い入れがありました。アニメが就活生に届いて、嬉しいコメントをたくさんもらったり、テレビ番組にも取り上げられたりなど、自分の仕事が社会に影響を与えられたと実感できたのは、今でも励みにもなっています。
崎尾:実は我々がデジタル広告を配信するのは、1カ月ほどの短い期間だけなのです。1年かけて皆さんが準備した素材を配信する。リレーで言うとアンカーのようなもので、ここで想定外のターゲットに広告を配信してしまったら大問題です。だからこそ、日々数字をチェックし続けた配信中が印象に残っていますね。広告配信の設計は、ターゲティングのキーワードや予算の配分など、本当に細かい部分を決めていかなければなりません。京セラさんもそうした一つひとつをきちんと見ていただいて、フィードバックをいただけたのは、我々としてはとてもありがたかったですね。
――Z世代の本当のインサイトを捉えるのは、簡単ではなかったと思います。
山崎:やはり、生の声を聞けたというのは大きかったです。上の世代が、Z世代の真似事をするとうまくいかないと言われています。それを分かった上で意図的にZ世代を各チームに配置したので、彼らも意見を言いやすかったのではないでしょうか。
西野:毎年フレッシュなメンバーが電通/電通デジタルチームからアサインされて、彼ら自身が新しい視点で直接提案をしてくれるので、私たちもすごく刺激になりました。
清水:私も若い世代として参加させてもらいましたが、自分なりに考えたプロモーション設計の結果として、きちんと就活生に届けられたのは自信につながっています。自分の感じたことを反映してもらえたのも、すごく楽しかったですね。
電通デジタルの寄り添う力と、電通グループの総合力
――今回のプロジェクトを通して、電通デジタルと協業したメリットをどのように感じていますか。
西野:電通デジタルは各広告配信プラットフォームと密に連携をとっているので、最新情報を常に提供いただけるのは、他社ではなかなかできないことだと思います。また、デジタルだからドライかというとまったくそうではなくて、私たちと一緒の方向を見て、その先まで考えて寄り添っていただいているとすごく感じます。そして、各施策のスペシャリストが適切なタイミングで出てきていただけるという、電通グループ全体の総合力が素晴らしいなと思いました。
――第3弾の施策も進行中ですが、どのような構想になっているのでしょうか。
篠原:第3弾では、私がアニメの制作リーダーを担当させてもらっています。今回は、就活の早期化に伴って、大学2年生に向けてメッセージを発信していけるようなストーリーを考えているところです。また、京セラの知名度が関東では関西ほどまだ高くないという課題感があるので、これに対してもアニメ以外の施策を展開しようと考えています。
西野:就活生の悩みや不安に寄り添い、関係を深めていくようなコミュニケーションをしていきたいと思っています。京セラの創業者である稲盛和夫の言葉に「利他の心」というものがあります。京セラのこの根幹の考え方を就活生に伝わりやすいメッセージに変換するような作業を、電通デジタルとやっていきたいですね。
――今後の展望に向けて、電通デジタルに期待することをお聞かせください。
西野:デジタルにとどまらず、新しいコミュニケーションを創造する取り組みを一緒にやっていきたいです。業界的にも先進的で面白い施策にチャレンジしていきたいと思っています。
山崎:今、第3弾に取り組み中ですが、第1弾、第2弾と連動させて、また次の1年間のコミュニケーションを構築していく計画です。西野さん、篠原さんをはじめとした京セラのプロジェクトメンバーの皆さんと密に連携をしながら、素敵なプロジェクトにしていければと思っています。
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