2022.10.14
DX領域でのキャリアの創り方(大学寄附講座)
電通デジタルは日本のデジタル人材育成のために、2022年4月より複数の大学で、DXをテーマにした寄附講座を開設しています[1]。
全15回からなる本講座は、電通デジタルが持つ豊富なDX知見、ナレッジをベースに、最新トレンドや手法を学べる実践的な内容となっています。
この記事では、大阪大学経済学部で行われた本講座の第15回、取締役副社長執行役員 後藤好孝、執行役員 石川圭介、ビジネストランスフォーメーション部門 前里穂子(大阪大学OG)、CXトランスフォーメーション部門 有川昂佑(大阪大学OB)によるデジタル時代に必要なスキル・キャリアの考え方についての講義をダイジェストでお届けします。
※所属・役職は記事公開当時のものです
働くとは?
後藤好孝(以下、後藤) DX時代のキャリアの創り方を考えるにあたり、まずは働くことの本質について考えるところから始めたいと思います。
「働く」とはどういうことでしょうか? 例えば、「仕事を通じて世の中に貢献すること」「仕事を通じて自分の夢を実現すること」「お金を稼ぐこと」など、人によりさまざまな答えがあります。
さらに一歩踏み込んで、「会社で働く」というのはどういうことでしょうか? 例えば、「企業人/会社員/ビジネスパーソンになること」「会社と雇用契約を結び、対価として給料をもらうこと」など、こちらもいろいろな答えがあります。
現代は、将来の予測が不可能で変化がとても早い時代です。そんな時代をこれから40年近く、社会で働いて生きていくうえで、大事なことは何でしょうか?
まずは「楽しむこと」です。疲れない生き方、疲れない心の持ちようを身につけて、予測不可能な時代を乗り切っていただきたいと思っています。
「相手の立場になって考えられること」も大事です。就職し、会社で働くようになると、会社の中の人をはじめ、自社の顧客、取引先企業の人など、それまでとは比べものにならないぐらい、多種多様な人と触れ合うことになります。そうした中で大事なのは、相手の視点になって、どれだけ真剣に考えられるかということです。相手が何に困っているのか、相手が求めているものは何か、それに対して自分ができることは何なのか。働くというのは、自分以外の人の問題や課題を解決することです。そのためには前提として、相手の立場に立ち、問題や課題をリアルに想像する能力が必要不可欠です。
それから「学び続けること」です。学びには終わりがありません。最近はよく「T型人材になるべきだ」と言われています。特定の分野の専門知識とスキルを軸に、専門外の幅広い分野の知見も併せ持つ人材のことです。しかし、これからの時代、専門分野は1つでは足りません。得意領域が2つ以上は欲しいです。学ぶことに貪欲に、専門領域を2つ以上持てるように学び続けてほしいと思います。
働くとはどういうことか、何が大事なのか。その答えは簡単に見つかりません。実のところ、多くの人は答えが見つからない中で、考え、思い続け、やり続け、必死に答えを探して、日々働いています。
予想外、想定外のことも起こります。そういうときに頼れるのは、自分の価値観と感性です。判断材料としてデータはもちろん大切ですが、データから判断するのは人です。自分で考え、判断し、答えを出すときには自分の価値観と感性が、最後は本当に大事になってくるというのを、頭の片隅に入れておいていただければと思います。
キャリア形成とは?
石川圭介(以下、石川) 後藤さんからは「仕事とは?」というテーマでお話がありました。私からはキャリアについてお話しをします。
キャリアとは、人生のゴールに向かっていくプロセス全体のことです。一般的には、現在(左下)から始まり、人生のゴール(右上)に向けて、ステップアップしていくイメージで語られます。
村山昇『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年)によると、キャリア形成には2タイプあります。「登山型のキャリア」と「トレッキング型のキャリア」です。「登山型」は、唯一絶対の目標を立て、脇目も振らず一直線にその達成を目指すタイプ。「トレッキング型」は、さまざまな職種や職場を経験しながら進んでいくタイプです。実際のところは、トレッキング型が圧倒的に多いと言われています。
人生100年時代。人生はあまりにも長く、10年、20年たてば大きく変わるので、花形の職業だって変わります。20年前にはデジタルマーケティングという仕事はありませんでした。社会も変われば自分も変わりますし、変わるのが普通です。20代で目標を定めるのは早すぎます。
とはいうものの、これからどの会社に就職し、どのような仕事をするのかを考えるために、キャリアについて考えなくてはなりません。では、いま何をするのか? 私から2点、紹介します。
まず1点目、「自分の好き嫌いを知ること」です。「好き嫌い」なので、本当に自分の好みで大丈夫です。いろいろなことを経験し、「おもしろかった」「いまいちだった」というようなことを、しっかりと自分の中に蓄積し、価値観を育てていくというのが大事です。
2点目、「世の中を知ること」です。なんとなく興味がある方向、業界でかまいません。その業界でどういうことが起きているのかということを観察し、少し先の世の中はこうなりそうだという「自分なりのビュー」を持っていただければと思います。
キャリアとは、人生のゴールを考えるということです。人生はまだまだ長いので、ゴールはきっと変わります。変わってもいいんです。まずはこの一歩、そして次の一歩を納得いくものにするために、この2点を参考にしてください。
電通デジタル社員が答える! DX領域における仕事・キャリアについて
ここからは、DX領域の仕事内容やキャリア、仕事・就活に関して、本講義を受講している学生の皆様からいただいた質問に、大阪大学OB・OGの若手2人を加え、電通デジタル社員が答えます。
――入社後、若手社員はどのようにして経験を積んでいますか? また、どのように経験を積んでいくと良いでしょうか?
前里穂子(以下、前) 電通デジタルの事業領域はかなり広く、かつ入社時点で個々人のスキルや志向が多種多様なので、代表パターンを挙げるのは難しいかもしれません。例えば、自分のやりたいことがはっきりしている人なら、望むようなかたちで経験を積んでキャリアを伸ばしてもらえる自由さ・おおらかさがあります。
有川昂佑(以下、有川) 携わる業務に関して、好き嫌いの先入観を持たないことが大事です。1年目は実際の業務として自分は何が得意なのか、何が好きなのかはやってみないと分かりません。これまでの「知っている」と「業務としてやってみる」は違います。好き嫌いせず、さまざまな経験をしていく中で自分がワクワクしたことや好きなことを溜めておくと、2年目、3年目、自分がしていきたい仕事や自分の強みを考えるようになったときに、必ず役に立ちます。
――Z世代、デジタルネイティブ世代の強みは何ですか?
有川 私もZ世代(1996年生まれ)なのですが、上の世代よりも流行しているものを日々気軽に試していることが強みだと考えています。「今こういうサービスが流行っているらしい」という伝聞情報ではなく、「私たちはこのサービスをこう使っていて、こんなこと感じています」という実体験は、本やWebサイトで知っていることよりも大きな価値があり、より身近な生活者視点で考えられることこそが、デジタルネイティブ世代だからこその強みではないでしょうか。
――コンサルティング業界に興味を持った理由、きっかけは何ですか? また、コンサルティング業務に取り組む上で苦労したことは何ですか?
前 「インターネットを使っておもしろいことをしたい」と漠然と考えて就職活動をしていたところ、デジタルを活用したマーケティングやコンサルティングの仕事を知りました。一口にインターネットと言ってもWebコンテンツだけでなく技術的な部分にも興味があったので、それらを統合的に使って世の中に働きかける業務を魅力的に感じます。
有川 コンサルティング業務では、クライアントの事業内容、クライアントの顧客(ユーザー)、システムなど、広い範囲での知識が求められます。はじめのうちはその広さゆえ、2年後、3年後を見越したときに、自分が何をやりたいのか、自分は何を強みにすればいいのかが分からず、悩みました。
悩みながら知識を身につけ、経験を積み、今3年目になりました。蓄積してきたことがようやくつながってきて、やりたいことが見えたときに視界が急に開け、自分の強み、自分の武器が見えてきました。悩んだことは、達成感や楽しさにつながるのだということを、今まさに実感しているところです。
――電通デジタルの良いところは?
前 とってもカオスだなと思っています。もちろん良い意味で。多様な人材がいて、皆それぞれ専門性を発揮しつつ、融合しながら働いているということです。
有川 入社して配属されたとき、生意気にもグループの上司に、「新卒として甘やかさないでほしい」と伝えました。自分の可能性を狭めたくなかったからです。その分、苦労したこともたくさんありましたが、若手であっても、一人ひとりの仕事へ姿勢を受け止め、サポートしてくれるところにも魅力を感じています。
――日本では大学で学んだことが仕事で生きるということが、特に文系は少ないように感じています。実際はどうですか? 個人的に、大学での学びが生かされた経験があれば教えてください。
後藤 文系の学問でも仕事には役立ちます。今回の講義を行っている経済学部は一般的には文系とされている学部ですが(実際のところ経済学は数学をベースとしており、文系というより理系に近い学問)、経済学部で学んだことは、会社の経営状況を把握したり、経済論理を考えたりするうえですぐに生かせます。私個人ということでは、高校で学んだ簿記や会計の知識はとても役立っていますし、大学で受講した心理学は、商品やサービスの企画を考えたり、人の心を動かしたりすることにとても参考になりました。商品やサービスを使うのは人ですから、文系で学んでいることというのは、じつはいろいろなシーンで生きてくることが多いのではないかと思っています。
石川 学生時代、私は授業よりも部活動に打ち込んでいたのですが、社会に出てからは、どちらで学んだこともいろいろな場面で生きています。そういう意味では、大学で学んだことに無駄だったということは、本当に一つもありません。文系だろうと理系だろうと、すべての経験は必ず生きるので、自信を持っていいと思います。
――面接ではストーリーを重視するのでしょうか?
石川 ストーリーというより、これまで歩んできた道と、この先一歩踏み出そうとしている方向と、その会社の位置づけが合っているか、ということが大事だと思います。それがあまりにも違っていると、大丈夫かな?と思うことはあります。
――面接官との相性が合否を左右するのではないかと感じています。面接をする際の共通認識や評価基準は存在しますか?
後藤 採用を行う前に、「こういう人を採ろう」「こういうところを見てください」といった、共通の指標や評価基準は決めます。ただ、面接官との相性があるかという部分で言いますと、私は間違いなくあると思っています。大事なのは、自分の軸をぶれさせず、自分がどうしてその会社に入りたいかを真正面からぶつけること。それで駄目なら運が悪かったと諦められると思います。相性と運はありますので、それを受け入れる気持ちで臨むのがいいのではないでしょうか。
――仕事の楽しさとは何ですか?
有川 自己実現に向けて、人を巻き込むことに楽しみを感じています。自分が仕事を通して達成したいことは、会社や社会にどのようなメリットがあるのか、どのようにすれば実現できるのか、周りを巻き込んでいくためには何をすればいいのか、さまざまな視点を取り込んで、一種の戦略として取り組むことは、社会人としての新鮮さがあります。
後藤 仕事の楽しさは、仕事の内容やポジションによって変わります。現場で広告の仕事に携わっていた頃は、自分たちが制作した広告で世の中が変わっていくというのを肌で感じることに楽しさがありました。今は経営する立場になり、自分、もしくは経営陣が判断したことで、社員の皆さんが「この会社でよかった」と言ってくれること、そして最終的に利益に貢献することは生きがいですし、楽しいと思っています。
前 私は、自分が楽しいと思う仕事が担当できるような環境を自分で整えるようにしています。割り振られた仕事をこなすのは前提として、さらに興味のある仕事にいつでも飛び込めるよう日ごろからアンテナを張っています。メンバー募集に手を挙げたり、関係者に直接ご連絡したりと積極的に手を広げていき、自分で勝手に楽しくするということをよくやっています。
石川 個人的な好みでもありますが、自分がやったことで人から感謝されたり、役に立ったりすることが何よりも楽しいと感じます。「やって良かったな」「やったことは無駄ではなかったんだな」と心の底から感じられるだけですごく満たされます。そういう意味で、どのような仕事も非常に楽しいです。
最後に
後藤 今回の講義では、働くことについて私たちの考えを述べてきました。しかし、人生100年時代と言われる現在、すべての人が大学卒業と同時に就職をしなくてはならない、というわけではありません。やりたいことが見つからないのであれば、そんなに焦る必要はないと私は思っています。
人生は学びの連続です。働くことから学べることが多いのは事実ですが、やりたいことが見つかるまで、自分が何をしたいのか、悩み、迷い、考えることからも多くの学びが得られるはずです。働くことに自分で納得してからスタートを切るべきだと思います。学ぶことの楽しさを忘れず、ぜひ社会人になっても続けていただければと思います。
脚注(出典)
1. ^ "日本のデジタル人材育成に向け複数の大学にてDX講座をスタート -早稲田大学・大阪大学・神戸大学にて先端的事例を用いた講義-". 電通デジタル.(2022年3月24日)2022年9月26日閲覧。
EVENT & SEMINAR
イベント&セミナー
ご案内
FOR MORE INFO