「いかに自分の策にはめていくか」

武器は“型”と“戦術” 車いすフェンシング選手・角田成の勝ち方

固定された車いすの上で戦う車いすフェンシングは、手の長さや、腕を伸ばした時に相手に届くリーチの長さが有利になります。オートバイの事故により下半身に麻痺が残った角田成選手は、競技を始めた当初、身体能力など「状態の良い選手の方が強いに決まっている」と思っていたと言います。その考えが180度変わったのは、二つの武器を手に入れたことと、先輩パラアスリートからのある言葉がありました。 

車いすフェンシング 

車いすを固定した状態で競技を実施。一般のフェンシングと同じ剣や防具を使用し、ルールも一般の競技規則と同じ。胴体のみを突く「フルーレ」、上半身を突く「エペ」、上半身を突き、斬る「サーブル」の3種目がある。障がいのレベルによって分けられるクラスはAとBの2つのみで、角田選手は障がいが重いカテゴリーBに所属。 


突然の障がい、大切な家族のために励んだリハビリ 

オートバイが好きな角田成選手は、高校時代からオートバイに乗っていました。社会人になってからはオートバイ通勤をしていた中、23歳の時に帰宅中に自動車と衝突。コンクリートの路面に胸椎を強打し、脊椎損傷によって下半身に麻痺が残り、胸から下を自由に動かすことができなくなりました。
脊椎の再生医療を受け、長時間のリハビリをするも、歩行機能は戻ることはありませんでしたが、角田選手はリハビリをしたことをポジティブに捉えています。

「結果的に身体面では効果はありませんでしたが、リハビリを通して様々な人に出会いました。何より、最善を尽くしていないのに『歩けません』と言いたくありませんでした」

角田選手には、当時交際をしていた女性がいました。障がいを負ってもそばで支えてくれた彼女との結婚を考えていたため、彼女の両親に誠意を見せたかったともいいます。

「彼女のご両親が、障がい者の自分との結婚に躊躇されるだろうと思いました。そのため、車いす生活になった理由、そして、歩けるようになるために最善を尽くしたことを伝えたいと思い全力でリハビリに挑みました」

朝から晩までひたすら歩く練習をしたこともあり、その熱意が女性の両親に伝わったこともあり結婚を認めてもらえたといいます。


「強くなりたい」と再び思った

事故後、胸から下を自由に動かすことができなくなった角田選手は、その感覚を「常にバランスボールの上に乗っているようなアンバランスな状態」と表現します。

高校時代にはボクシングをしていて、元々身体能力が高かったこともあり、単純に「何か楽しめるものがあったらいいな」と、スポーツに挑戦してみることを考え始めたといいます。

数あるスポーツの中で興味をもったのは、車いすフェンシングでした。その理由を、「1番しっくり来た」のと、「相手と直接戦えるコンタクトスポーツが好きで、負けた時に誰かのせいにしたくない競技が性に合っているから」と話します。

さっそく車いすフェンシングの体験会に行くことに。ボクシングの経験を生かせるかもしれないと思っていた予想は、見事に裏切られました。初めて体験してみた感想は「以前の身体と比べ、自分がイメージしていたよりもはるかに動くことができないことと、力任せに剣を振っても相手に対応されてしまうことに驚きました」と振り返ります。

もっと競技のことを知りたいと思ったのと、ボクシングをしていた時に思っていた「強くなりたい」という思いが再び芽生え、車いすフェンシングを始めることにしました。


対戦相手とのハンデをどう乗り越えるか

車いすフェンシングは、固定された車いすの上で戦う競技です。世界的に競技人口が多くはないため、障がいによるクラス分けはAとBの2つのみ。角田選手は、障がいの重い方のカテゴリーBに所属しています。ただ、同じカテゴリー内でも障がいの程度の幅は広く、角田選手はBの中でも障がいが重い部類に入ります。

「僕は腹筋が使えないのですが、同じカテゴリーBの選手の中には腹筋が使える人もいます。それに、欧米選手は体格が大きい人が多く、総じて腕が長い。そういったハンデをどう乗り越えるかを考えた時、重要になってくるのは『型』と『戦術』だと思いました」

型とは、「単純に真っ直ぐ突くことや、守備のポジションなどの基礎的な動作です」と角田選手。

「例えば、対戦相手が強めに突いてきたら、とっさに避けてしまったり、大きく剣を振ってしまったりする反応をしてしまいがちなのですが、それではダメ。相手がどう攻めてこようが、自分の型が確立できていたら柔軟に対応できます」

そして戦術とは、「相手をいかに自分の策にはめていくかという考え」と角田選手は言います。そのために、試行錯誤しながら何十パターンもの戦術を身につけ、対戦相手によって巧みにその術を使い分けています。

「戦術を身につける前は、『結局、(身体能力や障がいの程度の)状態の良い選手の方が強いに決まっている』と思っていました。でも、そうじゃなかった。自分より障がいが軽い選手や、体格の大きい選手との対戦に手応えを感じるようになってからは、試合が楽しみになっていきました」


失った機能が大きいほど、頭を使うことが大切 

角田選手は競技を始めてから2年後には国際大会に出場するようになりました。外国人選手から話かけられる機会が増えるにつれ、徐々に認められているように感じ「もっと頑張ろう」と励みになっているそう。

角田選手には体幹がないため、車いすに座った際は左右どちらかにグラグラします。それでも、試合中は胸の真ん中に力が入るイメージをしていると話します。

「イメージをすることは大事。そして、本当に自分自身の全てを出せているのかを常に自問自答しています。剣を突くために必要な筋肉はどこかを分解し、試合で最善を尽くせるように、日々逆算をして必要な筋肉を鍛えています」

電通デジタルには、所属のパラアスリートが他にもいます。その内のひとり、ボッチャの有田正行選手に言われた言葉が印象深く残っていると角田選手は言います。

「『パラスポーツは身体機能を失った人たちがするもので、失った機能が大きければ大きいほど頭で考えることが大切』と言われました。それを聞いた時、パラスポーツは決して身体能力だけがものをいうのではないことに気づきました。今は、無いものを悲しむより、無いものをどう克服していくかを考える方が楽しいです」

パラリンピック出場を目指している角田選手ですが、競技をするうえでの一番の原動力になっているのは、当初から抱いている「強くなりたい」という思いです。“無いものをどう克服していくか”、角田選手はそれを常に考えながら「型」と「戦術」を武器に世界に挑みます。

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