2025.12.17

顧客を360度ビューで見る――スヴェンソンが挑んだ組織横断のデータ統合プロジェクト

株式会社スヴェンソン

スヴェンソン メンズ事業部では、オンラインと実店舗の情報を結びつけ、顧客を360度ビューで把握することが重要な課題となっていました。本記事では、スヴェンソン メンズ事業部が電通デジタルと連携し、どのようにデータ統合に取り組んだのか、そして、部署を越えてプロジェクトを推進したプロセスとその成果についてご紹介します。

  • オンラインと店舗の顧客データが分断され、一貫した顧客把握が困難だった
  • 部門間(店舗・マーケティング・情報システム)で課題認識や理想像が統一されていなかった
  • 導入していたMAツールの活用が定着せず、PDCAがうまく回っていなかった

  • Marketing Architecture Studioによる現状(As-Is)と理想像(To-Be)の可視化、部門横断の目線合わせ
  • Snowflakeを活用したCDP(顧客データ統合基盤)構築と店舗・オンラインデータの統合
  • 実務に直結したカスタマージャーニーマップとマーケティング業務フローを整備

  • 顧客データ統合の第1段階が完了し、主要事業でのデータ活用がスタート
  • 部門横断で「自分ごと化」が進み、全社的な施策議論と改善が活性化
  • カスタマージャーニーマップなどの「共通言語」が定着し、現場主導での施策推進が進んだ

自社のビジョンと共鳴した提案で進む顧客理解の深化

――お客様の典型的なカスタマージャーニーは、どのような流れなのでしょうか?

北島寛之氏(スヴェンソン):最も多いのは、当社の主力サービス「スヴェンソン式増毛法」にご興味を持ってくださったお客様が、オンラインからご来店をお申し込みいただくケースです。その後、実店舗にご来店いただき、ご要望を伺いながらお客様のニーズに合わせた製品をご紹介し、ご納得いただければご契約いただくという流れが一般的です。

――顧客接点において、どのような課題がありましたか?

北島:最大の課題は、「どのタイミングでスヴェンソン式増毛法に興味を持っていただけているか」がお客様ごとにまったく異なるという点です。薄毛は、ご本人が「気になる」と感じた瞬間が出発点になります。そのため、「お悩みや課題を分類しながら、どのように接点を持つべきか」を定義することが難しく、長年大きな課題となっていました。

北島 寛之氏(株式会社スヴェンソン メンズ事業部 マーケティング部 マネージャー)

――電通デジタルへ相談・依頼することになった経緯を教えてください。

高沢冬樹氏(スヴェンソン):情報システム部では、2022年から「データ基盤導入プロジェクト」を進めてきました。その背景には、「ITが収益や利益の拡大に貢献しなければ意味がない」という考え方があります。

一方、メンズ事業部でも2023年ごろから、マーケティング領域の課題解決に向け、「オンラインと実店舗のデータを一気通貫でつなぎ、より精緻な顧客分析を実現したい」という構想を描いていました。

ちょうど新しい取り組みを始めようとしていたタイミングで、メンズ事業部を通じて電通デジタルの提案書を拝見し、その内容が我々の方向性と一致していたため、ぜひ詳しく話を聞いてみようという運びとなりました。

高沢 冬樹氏(株式会社スヴェンソン 情報システム部 部長)

――スヴェンソンではシステムを自社で開発されることも多いそうですね。そうした中、今回あえて外部パートナーと協業しようと思われた理由は何でしょうか?

高沢:当時、情報システム部ではSnowflakeを用いたデータ基盤の導入プロジェクトを進めていました。この段階までは私たちだけで十分に対応できていましたが、マーケティング領域に踏み込むと話はまったく別です。

見込み顧客のモデル化や検討段階の可視化など、いわゆるマーケターとデータをつなぐパイプは、情報システム部にない専門的な知見が不可欠です。そこで、その部分を補完してもらうために、外部の会社に支援を求めたいと考えました。

――Snowflakeを扱う企業や、マーケティングを支援する会社は多い中で、最終的に電通デジタルを選ばれた決め手は何でしたか?

高沢:私たちが求めていたのは、戦略構築から設計、実装、運用まで、一貫して高いレベルで伴走してくれるパートナーです。その点、電通デジタルはマーケティング領域で業界内でも高い専門性と実績を持っており、Snowflakeに関しても導入・実装事例が豊富で、技術力の高さにも信頼がありました。戦略と実装の両方を高いレベルで実現できる点が、大きな決め手でした。

また、私たちは「発注側・受注側」という枠にとらわれず、共に作り上げ、不足している部分を埋めてくれる、背中を押してくれるパートナーを求めていました。実際にお話しした際に、その姿勢を強く感じられたことが、最も大きな決め手だったと思います。

As-Is分析で進める、360度顧客理解の実現

――最初の提案内容について教えてください。

竹川健貴(電通デジタル): スヴェンソン様の課題を解決するためには、顧客データを統合させて一貫した顧客体験を実現させる必要がありました。

SnowflakeをCDPとして活用すること自体が目的ではなく、いかにしてマーケティング活動に活用し、成果につなげていくかを重視しました。そのため、まずはデジタル上のあるべき顧客体験をマーケター視点で描き、それを実現・運用するためのロードマップをご提案の主軸としました。いわゆる戦略策定フェーズを、最初のご提案内容としています。

また、これだけでは絵に描いた餅になってしまうので、活用方針の策定から、伴走支援・エンハンス(機能拡張)まで、電通デジタルの幅広いケイパビリティも合わせてご提案しました。

そして、まずは戦略を策定しロードマップを決定するフェーズからご発注いただき、プロジェクトがスタートしました。

――プロジェクト開始時に重視したポイントは何でしょうか?

竹川:この取り組みで最も重視したのは、「現状を正しく把握すること」でした。まずAs-Is(現状)の洗い出しと、To-Be(あるべき姿)の整理を行い、そのギャップを明確にした上で「Fit&Gap分析」により課題を抽出しました。

その過程で、課題を整理しながら「どこから着手すべきか」「何を優先すべきか」の優先順位づけを行い、戦略を練りました。また、顧客データ統合の第一フェーズとして、2025年3月までに初期リリースを目指すロードマップを策定し、プロジェクトを進行しました。

高沢:To-Beを描く前に、As-Isの洗い出しを丁寧にやってくれたのは本当にありがたかったです。社内だけではここまで俯瞰的に整理できませんでしたが、第三者的な立場で全体をファシリテートしていただいたことで、関係者全員が共通認識を持てました。全体の目的が明確になったことで、意思決定のスピードも格段に上がりました。これは本プロジェクトにおける非常に大きな成果だと感じています。

――プロジェクトは順調に進行したのでしょうか?

竹川:厳しい場面や紆余曲折は多々ありました。個別に運用されているデータを統合するためには、それぞれの仕様理解やオペレーションなど、ある意味ブラックボックス化されているものを紐解きながら構築を行なってきました。スヴェンソン様が目指す「360度ビュー」、すなわち各種接点や利用データ、行動履歴まですべてを統合的に捉える世界には、まだ道半ばですが、着実に近づいています。今後はさらに範囲を広げ、改善を重ねていくフェーズです。

さらに、最初のご提案から派生して新しいプロジェクトも複数立ち上がっています。たとえば顧客体験の最適化、マーケティング施策ごとの効果改善を目的としたKARTEの伴走支援や、Webサイトのリニューアル、顧客理解のための可視化プロジェクトなど、「伴走型」の支援が広がりつつあります。

どのプロジェクトもCDPを活用しながら、顧客の360度ビューを目指しています。

竹川 健貴(株式会社電通デジタル データ&エンゲージメント部門 CXMストラテジー事業部)

ワークショップが生んだ部門横断の共感と自分ごと化

――こうした取り組みについて、マーケティング部の立場からはどのように感じられましたか?

北島:さまざまな施策を通して、「マーケティング実践のあり方」や「取り組み姿勢」といった文化的な基盤も社内に根づいてきたと感じています。今では、一部のメンバーが自らプロモーション施策を自走できるようになりました。

考え方から実践まで総合的に支援していただいたことで、「どうすればお客様に価値を届けられるか」という本質的課題に、しっかり向き合えるようになりました。こうした変化は、まさに伴走型支援の成果だと思います。

――情報システム部として、今回のプロジェクトをどう評価されていますか?

高沢:これまで以上にPDCAがきちんと回るようになり、どんな施策のどんな手応えがあったかを現場メンバー自身で振り返り、改善できるようになりました。これは大きな前進で、確実に成果が出ています。

情報システム部としても、そうした活用を促進し、効率化を進めるための環境整備を行っています。例えば、「何が不足しているか」「どの部分の可視化が必要か」といったデータに関する具体的な要望や議論も活発になりました。

結果、「やりたいこと」「やるべきこと」が次々と現場から出てきて、仕事は増えましたが(笑)、それはプロジェクトがしっかり回っている証拠。全体として良い方向に進んでいるのを実感しています。

――今回の協業で、とくに良かったと感じる点はありますか?

高沢:特に良かったのは、カスタマージャーニーマップです。マーケティング部と情報システム部のメンバーが一緒に参加し、竹川さんのリードで議論して作り上げるプロセス自体を体験できました。この「プロセスの見える化」が社内文化として根付いたことは、とても大きな収穫です。

竹川:複数の部署が関わるプロジェクトでは、ワークショップ形式で「お互いを理解する」ことを大切にしています。たとえばマーケティング部が店舗業務のフローを学び、店舗側もマーケティングのプロセスを知る。そこから、オンラインとオフラインを融合した施策のアイデアも自然に生まれてきます。

北島:今回はマーケティング部・情報システム部だけでなく、店舗担当部門やマネジメント層も含めて全体が議論に参加しました。各立場からビジネス上の課題、顧客データ統合での課題、顧客体験の課題など、幅広い意見を出し合えたのはとても大きな成果でした。

このような横断的な議論が促されたという点で、ワークショップ形式は本当に良かったです。部門を超えて「自分ごと」として議論できたことこそ、このプロジェクトで得られた最も大きな成果だと感じています。

伴走型コミュニケーションで事業成長を支える

――今後乗り越えていくべき課題、目指していく方向性について、どのように考えていますか?

高沢:オーソドックスな表現ですが、「PDCAをしっかり回す」ことが最も大切です。企画、実行、その結果の評価、そして改善まで——このサイクルを自分たちの力で確実に回せる組織を目指しています。

そのうえで「では次にどうするか」を考える力を身につけていく必要があります。短期的な改善であれば、PDCAを丁寧に回すことで一定の成果は得られますが、それだけではやがて限界が来ます。次の一手を打つ発想力——既存の延長線ではなく、新しい方向に勇気を持って挑戦する柔軟性こそが、これからの課題だと感じています。

そして最終的には、すべての顧客接点や行動情報をつなぐことで「360度ビューによる顧客理解」を実現し、全社でより深いお客様理解を目指していきたいと思っています。

――電通デジタルに期待することを教えてください。

高沢:引き続き、パートナーとして伴走してもらいたいです。私たち自身も自走化に取り組み、できることを増やしていきますが、すべてを内製化するのは現実的ではありません。時には背中を押してくれる存在や、行くべき方向を示してくれるアドバイザー、コーチを必要とします。

具体的な手法や経験に裏打ちされた知見を提供してもらうことで、学びや成長のスピードをさらに高めていきたい。そんな伴走的な関わりを、これからも期待しています。

――その期待に対し、どのように応えていきますか?

竹川:私たちは、お客様の要望をただ実現するだけでなく、目的や手段について「なぜ?」と問い続けるパートナーでありたいと考えています。それが「伴走型コミュニケーション」であり、事業の成長をご一緒に目指す関係性です。

クライアントの成長を一緒に考え、一緒につくり、時に背中を押す存在でありたい。これからも、さまざまな形で共創パートナーとして関わっていきたいと思っています。

――データ活用に課題を感じている企業担当者に向けてメッセージをお願いします。

竹川:「データ活用がうまくいかない」「マーケティング活動を活発化させたいが、部門間の連携が取りづらい」といった課題感があるなら、まずは現状を一緒に整理するところから始めてみませんか。

データのサイロ化や部署間の分断はどの企業でも起こっています。しかし、マーケティング部門と情報システム部門、その他事業に関連する部門間連携ができれば、確実に新しいシナジーが生まれます。

「何から始めればいいかわからない」「社内だけでは進まない」と悩んでいる方は、ぜひ以下資料もご覧ください。最初の一歩のヒントが見つかる手助けになるかと思います。

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