三菱地所は2022年10月、DX人材育成プログラム「MEDiA(MEC Digital Academy)」を開設し、グループ会社を含む全従業員約1万人を対象にデジタル領域の研修を開始しました。基礎編、実践編、発展編から構成される本プログラムの発展編にあたる「ブートキャンプ」について、電通デジタルがカリキュラム設計と研修実施を担当し、今年の6~8月にかけてPoCを実施しました。この研修の目的と実施内容について、三菱地所と電通デジタルの担当者に聞きました。
外部とのやりとり能力を向上させ、発注を最適化したかった
――DX人材育成プログラム「MEDiA」とはどのような取り組みですか?
岩谷:三菱地所は、2023年4月に開始した「長期経営計画2030」において、「国内アセット事業」「海外アセット事業」「ノンアセット事業」の3つ領域で成長の実現を目指しています。
アセット事業とは、オフィスビル・商業施設・マンション・建売住宅といった不動産の開発・賃貸・売買・管理によって収益を上げるビジネスモデルで、ノンアセット事業とは、サービスやコンテンツなどの提供を通じて収益を上げるビジネスモデルです。
ノンアセット事業の売上を伸ばしていくには、私たちDX推進部だけではなく、各部署やグループ各社と連携してデータ活用を行っていく必要があります。
そこで、グループ会社を含む全従業員のデジタルリテラシー向上のため、従来のデジタルマーケティング研修をアップデートし、「MEDiA」として内容を体系化したのです。
――「MEDiA」の発展編にあたる「ブートキャンプ」のカリキュラム設計と研修実施について、電通デジタルに依頼した理由はなんでしょうか?
岩谷:電通デジタルにお願いした理由は2つあります。
2022年10月に開始した「MEDiA」の基礎編・実践編プログラムにおいて、電通デジタルにはデジタルマーケティング研修の実践編を担当していただきました。その評価が社内で高かったことが1つ目の理由です。
2つ目は、今回企画したブートキャンプの内容を実現できる会社がほとんどなかったことです。さまざまな会社に打診してみたのですが、一番協力的なお返事をいただいたのが電通デジタルでした。
――ブートキャンプを企画した背景・課題を教えていただけますか?
岩谷:私は2022年、三菱地所に転職してきまして、現在はDX推進部に所属し、社内各部署のデジタルマーケティング領域のプロジェクトを支援しています。それ以前は、社内に専任でデジタルマーケティングを管轄する人間がいなかったこともあり、外部ベンダーに対して、適正な発注ができていないケースや、目的どおりの成果が上げられていないケースが多々見受けられました。そこで、外部とのやりとり能力を向上させ、発注を最適化したいと考えたことが、今回ブートキャンプの企画を考えたきっかけです。
体系的かつ実践的に、デジタルマーケティング領域全般の知識とスキルを学べる内容に
――ブートキャンプの目的はどのようなものでしょうか?
岩谷:デジタルマーケティングのプロジェクトを推進する際に、各担当者がRFP(提案依頼書)を作成し、発注先を選定し、適正な価格で発注し、しっかりと数値として成果がだせるようなプロジェクト推進ができるようになることがゴールです。
そのために、座学の講義だけではなくて、実際におこなわれた三菱地所のデジタル領域でのプロジェクトを題材として、プロジェクトを推進していく上で留意すべきポイントを体系的かつ実践的に学んでもらえるような企画にしたいと考えました。
この「体系的かつ実践的」というスタイルが、この研修の一番のポイントです。頭と身体の両方を使って、汗を流しながら学ぶ雰囲気が「ビリーズブートキャンプ」のように感じられましたので、「ブートキャンプ」と命名しました。
――ブートキャンプはどのような内容ですか?
岩谷:デジタルマーケティングの領域は、大きく5つの領域にわかれると考えています。戦略/制作/集客/データやマーケテイングツール活用/PDCAです。これらを全般的に学べるよう、6つの講義に分割しました。①戦略立案、②方針設計、③Web制作、④PDCAサイクルの構築、⑤集客、⑥MAツール活用です。各工程を1回(講義1.5時間+演習1.5時間、または講義2~3時間)とし、まずは各領域を浅く広く網羅できるカリキュラムを編成してもらい、PoCを実施しました。
①戦略立案
コミュニケーション戦略を中心に、オーソドックスな戦略フレームを学ぶ
②方針設計
一般的な事例を用いて、課題抽出や方針設計を学ぶ
③Web制作
ワイヤーフレームやRFPの作成方法を学ぶ
④PDCAサイクルの構築
一般的な事例や、グループ会社の事例を用いて、PDCAサイクルを回すためのポイントを学ぶ
⑤集客
一般的な広告手法と最新トレンドを学びつつ、オンライン・オフラインの集客戦略の構築方法と実践方法を学ぶ
⑥MAツール活用
顧客体験を向上させる上でのMAツールの強み、活用方法、セグメント分けやシナリオ設定を学ぶ
――今回のブートキャンプで、特に工夫した点は何ですか?
岩谷:工夫した点は、「体系的かつ実践的」というブートキャンプのコンセプトに集約されています。自社の実際のプロジェクトを題材とし、現場の最前線で活躍している電通デジタルの方々を講師としてアサインしていただき、そうした方々から直接レクチャーを受けて、自ら実践して、フィードバックをもらえるという形式にし「活きた情報を身体にしみこませながら覚えていく」点が大事なポイントになっています。
――電通デジタルは、今回のブートキャンプで苦労した点、工夫した点は何ですか?
中村:岩谷さんがおっしゃったとおり、デジタルマーケティングは領域が広いので、6つの領域すべてをカバーしつつ、各回の研修に収まるような内容に圧縮するのが大変でした。三菱地所の社員の方から岩谷さんに寄せられたご相談をベースに、デジタルマーケティングに関する業務内容、課題、悩み事をヒアリングして、基礎知識を得られつつ、すぐに業務に活かせるカリキュラムになるように工夫しました。
下市:私は講師を務めたのですが、受講者の皆様のデジタルマーケティングに関する知識量が多い方から少ない方までいらっしゃる中で、初心者の方でもわかりやすいように、専門的な用語を最低限にしたり、アルファベットの略語を使うときは必ず意味をお伝えしたり、そのような伝え方の工夫をした上で、実践的なプログラムになるように心がけました。
また、今回はオンラインとオフラインの同時開催でした。オンライン受講者の中にはカメラをオフにしている方もいてリアクションが見えにくく、オフラインで講義している内容が、オンラインの方々にもきちんと伝わっているかどうかがわからなかった点は、苦労がありました。
――デジタルマーケティング研修は、さまざまな会社がプログラムを提供しています。電通デジタルのデジタルマーケティング研修の強み、セールスポイントは何ですか?
中村:電通デジタルは、社内にデジタルマーケティングのあらゆる領域の専門家がいるところが強みだと認識しています。最前線の現場で培った実践的な内容を、最新の事例をベースにお伝えできますので、すぐに受講者の方々の仕事に役立つ研修を行うことが可能です。
あとは、クライアントのご要望と受講者のレベルに合わせて、柔軟にカスタマイズしたカリキュラムをご用意できる点です。今回のように浅く広く、初心者の方にわかりやすくということもできますし、逆にぐっと領域を絞って、狭く深く、専門的な内容でカリキュラムを編成することも可能です。
「実際のプロジェクトで、ベンダーと良いやりとりができた」と現場から評価の声も
――ブートキャンプ全6回のPoCを終えられて、感想はいかがでしょうか?
岩谷:会社からの目標値は掲げられていませんでしたが、個人的には、受講者の満足度評価で、5段階中4以上を目標に置いていました。結果は、全6回の平均値が3.8、各回の平均値が3.3~3.89で、少しだけ目標に届きませんでした。高い目標だったとはいえ、悔しく思っています。
下市:目標をクリアできなかったのは、我々も残念でした。初心者の方にもわかりやすいようにという形で、広く浅く、一般教養的な内容が多かったので、専門性の高い方々、専門的な内容を期待していた方々には少し物足りなかったのかもしれません。
岩谷:ただ、当初目標としていた「実際のプロジェクトに活かす」という点に関しては、ポジディブな感想が寄せられています。各回で、どんなプロジェクトでも使えるフレームワークの資料をいただいたのですが、それを活用してベンダーと良いやりとりができたという声もありました。定量的な数値には表れませんでしたが、定性的にはかなり良い評価でした。
――DX人材の育成に関して、今後の展望をお聞かせください。
岩谷:将来的には、社内のデータサイエンティストを講師にして、データ分析人材を育てるようなプログラムも検討していますが、まずはDX人材育成プログラム「MEDiA」を着実に実施し、三菱地所グループの全従業員1万人のデジタルリテラシー向上を進めます。その中で、デジタルマーケティング領域の研修に関しては私が担当していますので、ブートキャンプは続けていきたいと思います。
――電通デジタルに期待することは何でしょうか?
岩谷:今回ブートキャンプ全6回のPoCを終え、さっそく2回目の実施に向け、準備をしているところです。電通デジタルの皆さんには、引き続き現場で役に立つ実践的な知恵やスキルを提供していただきたいと思っています。
――電通デジタルはどのように支援していきますか?
下市:ご期待いただき、非常にありがたく思います。更なるプロフェッショナル人材をアサインして、引き続きご支援させていただきます。
中村:研修以外にも、デジタルマーケティングに関する実際の業務についてもご支援できたらと思っています。
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