「SMBCダイレクト」や「三井住友銀行アプリ」など、リテールビジネスに力を入れ、2023年にはデジタル時代に最適化された総合金融サービス「Olive」をスタートさせた三井住友銀行。同行 リテールIT戦略部長の中村裕信氏を迎え、電通デジタル 副社長執行役員の小林大介氏が、三井住友銀行のDX推進やデジタル人材育成について聞いた。
2025.01.30
デジタルで「ユーザーの想像を超えるサービス」を実現 三井住友銀行のリテールIT戦略部が目指す銀行の新たな姿とは
株式会社三井住友銀行
デジタルとリアルの融合で顧客体験の向上を目指す
電通デジタル・小林大介(以下、小林):三井住友銀行さんとは、2021年に三井住友フィナンシャルグループと電通グループがSMBCデジタルマーケティングという会社を設立し、そのご縁でデジタルマーケティングの実践的なスキルを持つ電通デジタルがDX推進をご支援させていただいている関係です。今日は御行のデジタル活用について話をお聞きしますが、まず中村さんが部長を務めるリテールIT戦略部は、どういった組織なのでしょうか。
三井住友銀行・中村裕信氏(以下、中村):三井住友銀行のリテールビジネスにおいて、デジタル戦略やDX全般を担当しており、システム管理やアプリ開発などの業務を6チーム、総勢120人体制で行っています。
小林:御行では、DXによって何を目指されているのか、とくにリテールの観点から教えてください。
中村:デジタルとリアルの融合を通じた顧客体験の向上を目指しています。この組織ができた背景も、社会環境やテクノロジーの変化に伴い多様化するユーザーニーズに対して、デジタルコミュニケーションをリッチにしていく必要があると考えたからです。
例えば、インターネットバンキングについて考えると、もともと店頭取引の代替手段だったものが、より顧客体験を重視したアプローチに変化し、事業者側の都合でプロダクトアウトするのではなく、お客様のライフスタイルや好みに合わせてサービスを提供していくカスタマーインの形に変わってきています。
中村 裕信氏(株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部長)
三井住友銀行入行後、支店で法人・個人営業を経験。2001年から主にリテールビジネスの企画・管理業務に従事。ITやデータ活用による業務フロー変革、外部事業者との提携事業、グループ事業戦略の策定、キャッシュレス推進、DX推進プロジェクトなどを担当。21年より現職。
小林:銀行業務はデジタルが当たり前になってきていますが、単にお金の出し入れや送金だけではなく、困ったときに相談するようなケースもありますよね。このあたりのデジタルとリアルの連携についてはどのようにお考えですか。
中村:二者択一ではなく、デジタルとリアルを融合させ、お客様のご要望に合わせてカスタマイズすることが重要だと考えています。
弊行では、2023年から個人向けモバイル総合金融サービス「Olive」の提供を開始しましたが、今年度には、実店舗を運営する部署との横断的な共創プロジェクトとして、渋谷と下高井戸に他社さんと協働でコーヒーショップやシェアラウンジを併設し、加えて従来の銀行店舗とは一味違ったスタイリッシュなテーブル席やカウンターを設置した「Olive LOUNGE」を開設しました。
単に「店舗」を用意するだけではなく、その場での従来の銀行店舗とは異なる体験を通じ、デジタルサービスとの融合を体感いただく、さらにはお客様とのデジタルとリアル両面でのコミュニケーションを通じて常にサービスをアップデートしていくといったチャレンジを始めています。「Olive LOUNGE」のコンセプトは“「a place to go」から「a place to be」へ”で、銀行の店舗を「行く場所」から「いる場所」に、そんな風にお客様に感じてもらいたいと考えています。
小林:銀行というと、まずは部署間で調整してからでないと取り組みが進まない印象がありますが、御行の場合は、部署横断でアジャイル的な業務推進をされているのですね。続いて、こうしたチャレンジを可能にするデジタル人材育成などについてもお聞きしていきたいと思います。
新たな金融サービスの進化に向けてデジタル人材の育成に注力
小林:御行は、「SMBCダイレクト」や「三井住友銀行アプリ」といったユーザーファーストでのリテールサービスを提供されてきましたが、1年半ほど前から「金融サービスのニュースタンダード」として「Olive」を展開されていますね。
中村:クレジットや証券、保険といった金融機能を1つのアプリでシームレスに提供できるのが「Olive」の特長です。金融サービスのニュースタンダードとして「ユーザーの想像を超える顧客体験」を目指していますが、いつでも、どこでもお客様のライフスタイルに合わせて様々な利用シーンを提供できることがデジタルサービスの強みだと考えています。
小林:契約数はすでに350万口座を超えられたとお聞きしていますが、どのような点が受け入れられているとお考えでしょうか。
中村:「Olive」を知っていただくきっかけとして大きいのはVポイントだと思います。ポイント還元率の高さや、継続利用することによるポイントプログラムが好評で、Vポイントの利用しやすさを含め、日常生活の中での「Olive」の利用をイメージしやすいのだと思います。ただ、「Olive」の強みは単にお得であることだけにとどまりません。
もう1つの特長は、お客様起点でのUX/UIの追求です。弊行は2016年からインハウスデザイナーを採用し、現在10人を超えるデザイナーが在籍しており、サービス企画の上流段階から、企画担当者・デザイナー・エンジニアが一体となって顧客体験を創り出す体制となっています。「Olive」はそんな体制下、アプリ上での顧客体験に強いこだわりをもって開発しており、お客様に高く評価いただいているほか、継続的にグッドデザイン賞も受賞しています。
小林:まさに「ユーザーの想像を超えるサービス」として評価されているわけですね。こうしたサービスを生み出すためには優れたデジタル人材が必須ですが、人材育成についてはいかがお考えですか。
小林 大介(株式会社電通デジタル 副社長執行役員)
電通国際情報サービス、電通イーマーケティングワンを経て、2016年より電通デジタル 執行役員。21年より副社長執行役員に就任し、現在はトランスフォーメーション領域、グローバル部門、関西部門などを管掌。一般社団法人「UXインテリジェンス協会」の副理事長を務める。
中村:新しいサービスを創出するという点では、指示待ちではなく自律的に動ける人材を育成する必要性を感じていますし、採用においてもそういう方にチームに加わってほしいと思います。
今年はリテールIT戦略部に9人の新卒が入りましたが、デジタルで銀行サービスを刷新したいという思いを持ったメンバーばかりで頼もしく感じています。もちろん専門性を持った中途採用者や、行内でジョブローテーションを経験した上でデジタルをやるために異動してくる人もいて、多様な人材がミックスされていることも我々の強みになっていると思います。
小林:リテールIT戦略部は新しい価値を創出するミッションを担う部署になるため、自分の思いを持つことが求められますが、それができる環境ということですね。御行の人材育成においては、電通デジタル社員が御行の現場に入り、OJTによるご支援などをさせていただいております。
中村:デジタルのプロフェッショナルという立場で我々が見落としている部分を示唆していただいています。伴走いただいた結果として、そこで得た経験やスキルを我々がしっかり受け止められるような体制を作っていきたいと考えています。
小林:我々もご支援する中で、プロジェクトで成果を出すのはもちろんですが、御行のメンバーがスキルアップやステップアップをするという点についてもしっかり言語化し、コミットしていければと思います。
もう1点、当社は産学連携の一環として「大学寄附講座」に取り組んでいます。これはまさに日本のデジタル人材育成を目的に実施しているもので、学生の皆さんにとっても貴重なインプットになればと思っているのですが、このたび御行からも講師としてご参加いただきました。
中村:弊行としてもDX推進企業として学生さんに業務内容やデジタルサービスに込めた想いを知っていただけますし、民間とアカデミアが共創し、社会全体でデジタル人材を育成していくことが肝要かと思います。
データを活用することでお客様に付加価値を提供
小林:御行の中期経営計画「Plan for Fulfilled Growth」では、重点戦略領域の一つとして「デジタルを軸にしたリテールビジネス構築」を挙げておられます。その中核を担う「Olive」の契約数を今後5年間で1200万口座まで増やしていくという目標を掲げられていますが、手応えはいかがでしょうか。
中村:数値目標も重要ではありますが、本質的な軸はお客様により質の高いサービスを提供することです。ベースはあくまでも金融サービスですが、将来的には金融を起点に非金融サービスと連携することも考えていきたいと思います。それこそがデジタルサービスならではの新たな付加価値だと考えます。
「Olive」を使っていただければその便利さが伝わると思いますし、お客様が毎日1回アプリを開いていただけるような状況を創り出すことができれば、その接点から得たデータをサービスのアップデートや提案の精度向上に活用できます。また、今後は生成AIも使いつつ、時間や場所を問わずお客様の相談に多様な接点で応じることができるようになれば、お客様とより密接な関係性が構築でき、結果として「Olive」ユーザーも増えていくのではと考えています。
小林:先ほどは人材育成についてのご要望をお聞きしましたが、ご支援全体の中で電通デジタルに期待する点があれば教えてください。
中村:銀行の場合、例えば金融商品の販売など、守らないといけないルールの他に過去からの商習慣が存在し、UX/UIの面では今となってはベストとは言えない顧客体験を提供し続けているといった構造的な課題があります。これは長期的にみれば社会的な損失、すなわちお客様にとってのベストなソリューションではない可能性があるため、リスクを慎重に見定めた上で、お客様に受け入れられるような新しい付加価値を創出すべきだと考えています。
ただ、そのために必要な経験やノウハウについて、弊行が保有するのは金融業界に限ったものになっているという自覚はあるので、他業界や海外事例を含め専門性や客観性といった面からぜひ伴走いただけると助かります。
小林:御行だからこそできる素晴らしいチャレンジだと思います。今後の顧客体験の向上、デジタル人材の育成、さらにはリテール領域での中長期的なサービス拡大に貢献できればと思います。
EXPERTS
エキスパート
ご案内
FOR MORE INFO