2021.11.16

電通デジタルのAds Data Hub戦略

Googleの提供する次世代型レポーティングの仕組みであるAds Data Hub。電通デジタルがAds Data Hubに着目したのは、2016年にまでさかのぼります。

GDPRやCCPA、Cookieの利用制限、Data Clean Roomが登場する以前から、プライバシー保護の流れが強まることを予測し、将来の広告会社の役割を検討してきました。Ads Data Hubの導入によって、代理店はどのように変わっていくのか。電通デジタルの三谷壮平と荻島裕樹に話を聞きました。

※本記事は2021年7月時点での情報をもとに作成しています。公開情報を元にした電通デジタルの解釈に基づくものであり、プラットフォーム事業者が公式見解として内容を保証するものではありません。あらかじめご了承ください。

※所属は記事公開当時のものです。

プラットフォーム部門
ソリューション戦略部

三谷 壮平

プラットフォーム部門
プラットフォーム1部
事業部長

荻島 裕樹

Ads Data Hubならセキュアな環境下で分析できる

――GDPRやCCPAの施行によってCookieの利用制限が広がり、メガプラットフォームのWalled Garden化が進んでいます。これまでの方法や価値観が通用しなくなる中で、広告会社はどのような方向転換をしていくべきだと考えていますか?

三谷 デジタルマーケティングにおいて、広告会社がクライアント企業に提供できる付加価値は、「運用」「入稿」「分析」の3つの領域に分けられます。

  • 運用 : 予算や入札額の管理、掲載面やターゲットの管理、スケジュール管理
  • 入稿 : クリエーティブ(テキスト、画像、動画など)の入稿
  • 分析 : 目標値と実績値を比較し、乖離があれば原因を追究する。改善施策の作成

これまではこの3領域の三位一体を付加価値として提供してきましたが、今後は、「運用」や「入稿」の領域で価値を底上げするのは難しくなっていきます。残った「分析」を強化していくことで、これまでと同レベルの付加価値を提供していく必要があると思っています。

――「運用」や「入稿」の領域で付加価値を出すのは難しいですか?

三谷 「運用」については、すでにAIによる自動化が相当進んでおり、他社との差異化はできない状況です。「入稿」についても、その業務の本質は労働集約型作業なので、最終的に人件費の問題になってきますし、やはり他社との違いを出すのが難しい領域です。

そこで、残った「分析」領域で、大きな付加価値を出すために、われわれが期待しているのが、これまで4回にわたって説明してきたAds Data Hubなのです。プライバシー保護の流れの中で、従来の方法を使ったデータ分析はできなくなってきています。しかし、Ads Data Hubを使うことで、これまで同様の分析が可能となります。現時点で、日本国内でAds Data Hubの利用については、電通デジタルが最先端を行っていると自負しています。そこに大きな付加価値を出せると思っています。

また、電通デジタルは、GCP(Google Cloud Platform)の認定ベンダーであり、セールスフォース・ドットコムのパートナーです。広告とソリューションの両輪が揃っている広告会社というところが強みで、Googleからもその点が評価されています。フルパッケージのラインナップを揃えているというのは、クライアント企業にとってもプラットフォームにとっても、信頼できる存在として見ていただくポイントになるのではないかと思っています。

三谷 壮平(電通デジタル)

Ads Data Hubを知ったのは2016年

――Ads Data Hub導入の経緯を教えてください

三谷 Ads Data Hubの存在を知ったのは、2016年にサンフランシスコで行われた当時のDentsu Aegis Network(現Dentsu International)とGoogleのトップカンファレンスに同席したときです。そのときは社内開発コードネーム「Full Circle」という名前でした。

当時はまだ、Data Clean Room(データクリーンルーム)という言葉も、それに類するサービスもありませんでしたが、説明を聞いてすぐに、「分析」のパーツとして絶対必要なソリューションだと直感しました。その場でこれはぜひ日本でも使いたいとお伝えし、帰国後も日本のGoogleチームに、継続的にアカウントの発行をお願いしていました。

その後、Google Marketing Live 2017に参加した際に、Ads Data Hubのプロダクトチームの方に会いました。それがきっかけとなり、2017年10月、電通デジタルとして、APAC初のAds Data Hubのアカウントを開くことができました。

荻島 その翌年の、Google Marketing Live 2018には、私も参加しました。Ads Data Hubのセッションや、セミナーに参加したり、Ads Data Hubのプロダクトマネージャーを出待ちして立ち話したり、なんてことも一緒にしましたね。

――アカウント開設後はすぐに実用レベルで使えたのでしょうか?

三谷 当初はドキュメントもほとんど揃っていなかったですし、入手できても書いてある内容と挙動が違うことが多発して、大変でした。2019年はじめまでは日本の技術コンサルタントの担当の方もおらず、本国に問い合わせができる人を探して、間接的なサポートを受けながら試行錯誤しました。

荻島 2019年4月以降は、三谷さんと私がGoogle本社まで出向き、Ads Data Hubのエンジニアと意見交換をするミーティングを定期的に開催して、今に至るという感じです。

――その状態から徐々に、今回の連載で紹介したような集計クエリの開発を始めたのですね。

三谷 そうです。2019年2月には、Ads Data Hubの挙動がかなり安定してきたので、電通デジタルで運用している全アカウントをつなぐことにしました。そこから出稿した全データが溜まるようになって、それをもとに分析クエリを開発してきました。

――アカウント開設から本格的に運用できるようになるまで1年半ほどかかったことになりますが、社内の評価はいかがでしたか?

三谷 確かに売り上げはまったく立っていませんでしたが、ありがたいことに、今後これは絶対に必要なものだからということで、R&D的なプロジェクトとして温かく見守っていただいたという感じです。


2019年からAds Data Hubソリューションを提供開始

――2019年2月から、クライアント企業にソリューションとして提供し始めたわけですね。

三谷 はい。まずは、現在提供しているプロダクトの元になるプロトタイプを、PoC(Proof of Concept:概念実証)として提供するところから始めました。

荻島 2020年7月には、電通グループ向けにAds Data Hubの社内セミナーを開催しました。電通のBP(ビジネスプロデュース)局や、統合ソリューション局の人たちを中心に、オンラインで300~400人ほどにご参加いただき、直後に30~40件ほど問い合わせが来ています。

荻島 裕樹(電通デジタル)

――今はどのような状況ですか?

三谷 おかげさまで2020年度は、かなりの売り上げを計上しており、2021年度も引き続きご好評いただいています。ご利用いただくクライアント企業の業種も多岐にわたっていますが、いわゆるナショナルクライアントが多い印象です。おそらくですが、Ads Data HubソリューションでSTADIA分析ができるからかなと思っています。

――マス広告をたくさん打っている企業が関心を持っているという感じですか?

三谷 そう思います。そういったことも踏まえて、今後は、テレビ広告の買い付けをアフィニティカテゴリベースで実施するという話にもつなげていきたいと考えています。

GDN(Googleディスプレイネットワーク)のターゲティング属性であるアフィニティカテゴリを、デジタル広告だけに閉じるのではなくて、マーケティング全体の評価基準にまで広げていけたらおもしろいなと思っています。

――他には、どういったポイントに関心を持たれていると感じますか?

三谷 引き合いのきっかけというところで言うと、最近Cookieフリー対応というトピックが話題になっています。Data Clean Room系のソリューションは基本的に媒体の中のデータを使うので、Cookieが使えなくなる影響を受けづらいです。今後ますますニーズは増えてくるはずで、そこに対する対応策という位置づけも強調できると良いかなとは思います。


分析と運用の接続がカギになる

――電通デジタルは今後、Ads Data Hubをどのようなソリューションとして提供していこうと考えていますか。第3回の記事でも触れられていましたが、改めてお聞かせください。

三谷 Data Clean Roomという仕組みへの期待値は、グローバルと日本ではやや異なります。グローバルの場合、アトリビューション分析を今後も続けるためのソリューションという文脈でお話しすることが圧倒的に多いです。しかし、日本の場合、アトリビューション分析へのニーズはグローバルほど高くはありません。ですので、アトリビューションだけにこだわらず、クライアント企業が求めるソリューションを提供していこうと思っています。

そうなったときに、「運用」「入稿」「分析」の話につながります。先ほど、この3領域の中で付加価値をつけられるのは「分析」だけだと言いましたが、実際には「分析」すること自体には価値はありません。そこから打ち手につながって、はじめて価値が生まれます。そう考えると、「分析」の結果をどうやって「運用」へつなげるか、その接続こそが重要だと思っています。

Data Clean Roomの活用によってもたらされる価値の一つに、1st Party Dataをつなげて、横断/統合してデータ分析ができることが挙げられます。それによって、今までタグベースでWebコンバージョンまでしか見ていなかったクライアント企業であっても、たとえば、オフラインでの事業成果や、その後1年間の購買データと、広告の接触履歴を統合して分析することができるわけです。

――電通デジタルでは、2020年7月から、X-Stackというサービスを本格的に開始しています[1]。それとの住み分けに関しては、現時点ではどうお考えですか?

三谷 X-Stackは、いわゆる通常のWebコンバージョンではなく、さらに深いコンバージョン(ディーパーコンバージョン)である、事業成果を最適化の対象とするソリューションです。Ads Data Hubが持つアフィニティカテゴリをX-Stackのモデリングに活用できれば、さらに精度の高い分析が可能になると考えています。将来的には、そういった分析を基に、広告配信を実施することも可能になるはずです。

X-Stackを介してより高度なモデリングを提供することで、「分析」に閉じない、生きたアクティベーションを実施できるように、Googleにも働きかけていきたいと考えています。例えば、X-StackにはGoogle 広告と連携する機能もありますが、モデリングや配信への接続といった機能をAds Data Hubの中でも使えるような機能を拡充してほしいなど、さまざまなリクエストを出しています。

また、2021年7月には、このX-Stackの持つ各媒体社へのデータアップロード機能を発展的に拡充することで、コンバージョン計測のCookieフリー対応を実現する「X-Stack Connect」も本格提供を開始しました[2]。X-Stack Connectはコンバージョン計測を補完するだけではなく、Data Clean Room上でクライアント企業が自社の1st Party Dataを掛け合わせた分析を行う際に、1st Party Dataをアップロードするための基盤としても活用できます。この点では、住み分けと言うよりもData Clean Room利用のための基盤として位置づけられるかなと思います。

荻島 実は、X-Stackは、2018年のGoogle Marketing LiveでGMP(Google Marketing Platform)の発表を聞いた夜に、参加メンバーみんなで「われわれもこういう組織を作った方がいいよね」とディスカッションしたのをまとめて、上層部に上げたものがベースになっているんです。そう考えると、2018年のGoogle Marketing Liveは、今に至るきっかけになっていたんだなと、改めて思いますし、今後もそういう機会は積極的に活かしたいと思いますね。

三谷 一般に、プロダクト開発の優先順位はユーザーの声によって決まります。当然、使用実績のあるところから優先されると思うので、そのためにも、できるだけ良い事例を積み重ねられるように努めています。フィードバックや改善要望点についてもきちんと伝えるようにしています。

荻島 DI(Dentsu International)や海外の電通グループ会社との情報共有会は半年に1回は開催しています。日本とグローバル、それぞれ状況が異なるので、事例の共有は意外と重要かなと思っています。


より精度の高い分析を行うために

――Ads Data Hubを使ったソリューションの課題は何かありますか?

三谷 Cookieの利用制限や、iOS14以降のIDFA (Identifier for Advertisers)のオプトイン問題などによって、つなげられるキーがどんどん減ってきています。Ads Data HubやData Clean Roomの価値を最大限に活かすためには、よりサステイナブルな接続キーが必要です。

やはりPII(Personally Identifiable Information:個人を特定できる情報)に近い情報が一番サステイナブルなので、そこをうまくつなげていく機能があればいいなと思っています。そうすることで、1st Party Dataの紐付け率も高くなって、分析のサンプル数も増えますし、より精度の高い分析が可能になります。Ads Data Hubは、元来セルフサーブのプロダクトなので、データの紐付けに関しては個々のアカウントが自力でやるべきという考え方なんです。ただ、クロスデバイスの紐付けに関しては、Ads Data Hub側にやってほしいとは思います。

――クロスデバイスと言うと、第三者提供の話になりますよね。Googleが個人を特定できるようなIDを持っていると、広告会社からデータを提供する際は、事前に本人の同意が必要になるのではないでしょうか?

三谷 そこは弁護士によっても見解が違うので、いろいろなところと相談しながら、慎重に検討しています。

荻島 私の社内での役割は、Googleが向かう方向性をいち早く察知して、それを社内にフィードバックすることだと思っています。そういった活動を積み重ねていくことで、現在のX-StackやAds Data Hubに関する取り組みが2018年のイベント参加から始まったように、2年先、3年先につながるような動きができれば良いなと思っています。


脚注

出典

1. ^ "デジタル広告運用において、データ統合×AIで事業成果を最大化する「X-Stack」の本格提供開始". 電通デジタル.(2020年7月6日)2021年11月9日閲覧。
2. ^ "Cookieフリー時代の新計測基盤「X-Stack Connect」を本格提供開始". 電通デジタル.(2021年7月14日)2021年11月9日閲覧。

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