2021.11.09

UXインテリジェンス協会の活動計画を、事務局担当者に聞く

2021年5月に発足した「UXインテリジェンス協会(以下、UXIA)」は、企業のDX推進を後押しするための専門組織として、電通デジタルと株式会社ビービットが共同発起人となって立ち上げた社団法人です。

UXIAでは、本質的なDXを推進するためにはユーザーエクスペリエンス(以下、UX)の正しい理解が欠かせないとして、その実現に必要な能力と精神を「UXインテリジェンス」と定義。多くの方々にDXの本質を理解してもらい、「善いUX」が溢れる世の中になるよう、啓蒙活動を進めることを目的の一つにしています。

前回のUXIA理事長の遠藤直紀氏(株式会社ビービット 代表取締役)、同副理事長の小林大介(電通デジタル 副社長執行役員)による対談に続き、今回はUXIA事務局 副事務局長を務める小浪宏信と、同じく事務局の参与を務める桑山晃一が、UXIAの活動予定とその内容について詳しく紹介します。

※所属は記事公開当時のものです。

CXトランスフォーメーション部門
部門長

小浪 宏信

CXトランスフォーメーション部門
CX/UXデザイン事業部
事業部長

桑山 晃一

なぜCXではなくUXなのか?

――UXIAにおいて、UXとCX(カスタマーエクスペリエンス)の違いをどのように認識しているのか、教えてください。

小浪 UXはCXを内包する、CXより広い概念です。CXのCは「カスタマー(顧客)」ですが、UXのU(ユーザー)には、「カスタマー(顧客)」だけでなく、従業員、パートナー、場合によっては生活者、市民までをも含んでいます。つまり、企業の製品/サービスに関わる、あらゆる人間の体験を意味する概念がUXです。

Zoom

UXの構築と更新を目的とした環境づくりがDXの本質

――UXとDXはどのような関係にありますか?

小浪 UXIAが考えるDXの本質とは、ユーザーにとって最適なUXを構築し、それを最適な状態に更新し続けること。そして、その目的が達成できるように、業務プロセスやデジタル環境を最適な状態に変革することです。

ひと言で言えば、DXとは、ユーザー視点で最適なUXの実現とアップデートのための手段です。

Zoom

多くの企業がDXに取り組んでいますが、データを取得しやすいようにシステムを作り替えたり、最新技術を導入して使いやすさを向上させたりといった表層的なDXに、違和感を持つ企業も増えてきたのではないかと感じています。

多種多様なユーザーデータの取得や、最新デジタル技術の導入は重要な要素ですが、DXの本質ではありません。大事なのは、何のためにそれらのデータを使うのか、です。

企業としては、ユーザーから集めたデータを直接的にマーケティングや販促活動に利用して、売り上げ向上につながるような施策・打ち手を導入したくなりがちです。

そうではなく、データをユーザーの体験に還元して接点の改善に活かし、ユーザー自身がより自由で豊かな選択をできるようなUX、すなわち「善いUX」を実現し、更新し続けていく。こうした循環によって製品/サービスが、ユーザーから選ばれ続けるようになっていきます。

ユーザーから預かったデータを正しくユーザーに還元して、「善いUX」実現のためのプロセスとシステムを構築すること。それがUXIAの考えるDXの本質です。


善いUX、善い社会をつくるために必要なUXインテリジェンスとは

――協会の名前にもなっている「UXインテリジェンス」とは何ですか?

小浪 「UXインテリジェンス」というキーワードは、2019年に刊行された『アフターデジタル』(藤井保文/尾原和啓 著)の内容を踏まえて、藤井氏と中島克彦氏(株式会社ビービット 取締役副社長)が考え出した概念です。

デジタル前提時代により善い社会をつくるためには、「善いUX(より自由で豊かなUX)」が必要です。それを企画する「能力」と「精神」を総称して「UXインテリジェンス」と名付けました。

Zoom

「能力」とは、UXを企画し実装するための実務的なスキルのことです。データテクノロジーを活用し、定量・定性のさまざまなデータをもとにUXを企画し、実装し、改善していくことができる力です。

次に「精神」とは、「能力」を正しく活用するための心得、常識です。取得したデータをマネジメントしていく際、活用の仕方によっては、企業側があえて自社に都合のいいようにユーザーをコントロールする使い方をしてしまう危険性があります。そうした過ちは正しい理解や知識のないところから起こります。

ユーザーのデータ主権を尊重する精神。ユーザーのUX選択の自由を尊重する精神。この2つの精神をもって、自由のアップデートに挑戦する勇気を持つことが、UXの企画・実装に携わる人間には必要です。

こうした本質的な理解に基づくUX、すなわち「善いUX」が社会に浸透することで、ユーザーがその時々で、自身が望むエクスペリエンス(体験)を自由に選択できるような社会の実現に向けて、UXIAは活動したいと考えています。

一方で、UX構築を目的としたDXを実施するには、その目的を正しく理解し、企画・実装できる人材が必要です。昨今、DX人材の不足はどの企業でも深刻な問題となっており、人材の確保や育成が経営課題になっている企業も多いと思います。

UXIAは、UXインテリジェンスの普及や研鑽を通じて、正しいDXを担える人材育成に貢献することを活動の大きな柱に据えています。


UXIAの活動内容、4つの方針と3つの取り組み

――UXIAの活動内容を教えてください。

桑山 UXIAでは、以下の4つの方針の下に活動していく予定です。

  • UXインテリジェンスの啓蒙と普及促進
  • 高品質UX事例の発掘と共有
  • UXインテリジェンスの標準化
  • UXインテリジェンスの実践知習得に向けた学習環境の整備

具体的な取り組みとしては3つ考えています。

1つ目は、分科会(ワーキンググループ)の設置。現在、4つの分科会の立ち上げを準備しています。分科会でのアウトプットは各企業に持ち帰っていただけるものにしたいと考えており、定期的に情報発信をしていく予定です。詳細は未定ですが、その頻度や濃度には期待していただきたいです。

2つ目は、最先端のUXを提供する専門家や実務担当者による講習の実施。その内容を踏まえてUXインテリジェンスを標準化していく中で、資格制度も整備する予定です。

3つ目は、高品質UX事例のご紹介を通じて、ベストオブUXのような形で定期的に発信していく予定です。将来的には、表彰制度を制定し、「善いUX」の具体的な例を明示したいと考えています。

これらの取り組みは、事務局である、電通デジタル CXトランスフォーメーション部門に所属するメンバーが中心となって現在準備を行っています。

協会の運営は、理事6名、幹事1名、事務局が行います。

理事長遠藤直紀
(株式会社ビービット 代表取締役)
副理事長小林大介
(電通デジタル 副社長執行役員)
理事白坂成功
(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授)
理事篠原稔和
(ソシオメディア株式会社代表取締役/NPO法人 人間中心設計推進機構[HCD-Net]理事長/豊橋技術科学大学 客員教授)
理事葉村真樹
(ボストン・コンサルティング・グループ パートナー&アソシエイトディレクター/東京都市大学総合研究所 教授)
理事深津貴之
(株式会社THE GUILD 代表取締役)
事務局長藤井保文
(株式会社ビービット 執行役員CCO 兼 東アジア営業責任者)
副事務局長小浪宏信
(株式会社電通デジタル CXトランスフォーメーション部門 部門長)

UX、DXに深い見識を持つメンバーばかりで、著書や講演などでご存じの方も多いと思います。こうしたメンバーの意見も踏まえて、UXIAを運営していきます。


UXIAに入会することで企業が得られる価値は?

桑山 UXIAでは、2021年10月から本格稼働を開始しますが、随時会員を募集しています。

会員区分には、正会員Silverと正会員Goldの2つがあります。現在は企業単位での募集のみですが、将来的には個人会員の募集も予定しています。

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正会員Silverと正会員Goldの違いは、年会費と、協会運営の重要事項を決定するための社員総会(年1回)における議決権の有無です。それ以外では、会議体参加枠の数やオンライン無料研修枠の数のほか(Silver5枠、Gold20枠)、有料イベントに関しても差を設ける可能性があります。

また、正会員とは別に特別会員と有識者会員という区分を設ける予定です。学識経験者や、すでに最先端のUX事例を持っている企業の担当者を想定しており、基本的には理事や正会員からの推薦によってご入会いただく形を想定しています。

――UXIAに入会することで、企業はどのような価値を得られますか?

桑山 具体的な価値は、抱える課題や問題意識によって、企業ごとに異なると思いますが、われわれとしては以下の4点をご提供できると考えています。

  • 他会員企業、理事とのネットワーキング
    分科会での活発な議論や、UXIAが主催するイベントを通じて、UXやDX推進に関して意識の高い他の会員企業の担当者や、理事たちと交流の機会を持てる
  • 組織戦略への示唆
    UXインテリジェンスというケイパビリティを組織に浸透させていくための組織形態や、ビジネスプロセスに落とし込んでガバナンスをかけていく方法などを学べる
  • 社内人材育成への活用
    UXインテリジェンスに関する資格(提供は2022年以降)を取得するための学習プログラムを、社内UX人材の育成に活用できる
  • 先進UX事例の共有
    国内外のUX先進事例を、分科会や会員向けの情報発信の中で共有することで、グローバルでの最先端のUXデザイン、UXリサーチの方法論、成功事例を習得できる

また正会員は、UXIAのWebサイト上にて、企業ロゴ入りで紹介する予定です。会員企業がどれだけ力を入れてUXに取り組んでいるかを、各社の顧客にアピールできるような見せ方にしたいと考えています。

現在は、お問い合わせいただいた企業の皆様に順次、個別にご説明しています。「入会するかどうか検討中なので、とりあえず話を聞いてみたい」というご担当者向けには、随時オンライン説明会の開催を予定しています。

小浪 入会に際して1業種1社といった制限をする予定はありません。UXを中心とした事業変革を起こしていくためには、社会そのものが変わっていく必要があります。同じ業界からも複数の企業にご参加いただくことで、UXに関する課題感や解決策を共有するといったネットワーキングの構築も期待しています。こうした多様性によって、UXIAの価値も上がると考えています。


電通デジタルとビービットの関係性

――電通デジタルのクライアントには、ビービットのことをよくご存じでない方もいるかと思います。ビービットというのは、電通デジタルから見てどのような特長を持っている会社ですか?また、電通デジタルとはどのような関係にありますか?

桑山 UXに特化したコンサルティングファームという点で国内随一の会社です。電通デジタルも、UX領域においては、前身の電通イーマーケティングワンの時代から、彼らを意識しながら取り組んでいました。

2017年に業務提携[1]して以降は、UX領域で連携・協業する機会がぐっと増えました。その過程において、ビジネスにどうUXを取り込んでいくかという点で、両社は同じような課題意識を持っていることがわかってきました。また、ビービットは長らくUX領域にこだわって取り組んできた自負から来る独特のカルチャーを持っています。われわれにとってはそれが非常に新鮮で、さまざまなことを学ばせていただきながら、協業を進めてきました。

2020年には業務提携領域を拡大し、併せて電通グループとの資本業務提携も結んだこともあって[2]、今後も通常業務の中で一緒にデリバリーする機会は増えていくと思います。

すでに、電通デジタルでも、ビービットが開発したUSERGRAM(ユーザーグラム)というSaaSプロダクトを活用しています。今後はUX領域だけでなく、データテクノロジー領域でも協業の機会は増えていくのかなと考えています。

小浪 ビービットと業務提携してからも、電通デジタルは、さまざまな企業のDX案件をお手伝いしてきました。その過程で、「DXに取り組む多くの企業には、共通する本質的な課題がある。それを解決するためパーツの一つがUXではないだろうか」という両社に共通する思いがありました。UXIAの設立は、この思いを具現化した取り組みです。

UXIAの活動を通じて、多くの企業に向けてUXインテリジェンスを普及させていくと同時に、電通デジタル自体も引き続きUXに関する経験を積み、知識を深めることで、クライアント企業に伴走しつつ、あらゆるDX課題を解決できるパートナーになりたいと思っています。


脚注

出典

1. ^ "ビービットと業務提携". 電通デジタル.(2017年03月29日)2021年11月2日閲覧。
2. ^ "ビービットとの業務提携領域を拡大". 電通デジタル.(2020年7月27日)2021年11月2日閲覧。

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