2021年10月26日

デジタル広告

コラム

電通デジタルのData Clean Roomソリューション(第3回)

※所属は記事公開当時のものです。

広告プラットフォーム事業者の提供する次世代型レポーティングの仕組みであるData Clean Roomについて解説する連載の第3回。今回は電通デジタルで開発しているData Clean Roomソリューションについて紹介していきたい。

前回までに見てきたようにData Clean Roomはあくまで分析のインフラであり、導入をすること自体が目的ではない。また導入してからも適切な検証テーマを立てなければ価値のある結果を得ることはできない。言い換えれば、Data Clean Roomという基盤の上でどういった検証テーマを立て、どういった課題を解決するためのソリューション群として組み立てるか、という設計が重要になってくる。

こうした課題意識を踏まえ、電通デジタルではいくつかの課題を設定し、それに対するソリューションとしてData Clean Room基盤の分析パッケージをご用意している。

本連載の第2回までは、一般論としてのData Clean Roomについて語ってきたが、第3回・第4回についてはより具体的な内容について、Googleの提供するData Clean RoomであるAds Data Hubを例にとってご説明したい。

※本記事は2021年7月時点での情報をもとに作成しています。本記事の内容は公開情報を元にした電通デジタルの解釈に基づくものであり、プラットフォーム事業者が公式見解として内容を保証するものではありません。あらかじめご了承ください。

Data Clean Roomをベースとした電通デジタルのソリューション群

Ads Data Hubを例にとるのは、電通デジタルとしてアカウントを開設したのが2017年10月ともっとも早く、4年近くの開発とクライアント広告主へのご提供の実績があるため、他Data Clean Roomにおけるソリューション開発のある種の「雛形」となっているためである。

裏を返せば、他のData Clean Roomでもディテールは違えど同様のソリューションを開発しているため、他広告プラットフォームで同様の分析を行いたい場合はお問い合わせいただければと思う。

なお、以下に記載する内容はあくまで電通デジタルとしての調査と解釈に基づく内容であり、Googleの公式の見解ではない。また内容の正しさの保証や使い方としての推奨をGoogleとして行っているものではないことは前提としてご留意いただきたい。

以下が電通デジタルで設定している課題と、Data Clean Roomによって実現している分析ソリューションの一覧である。

Data Clean Room基盤を活用することで解決する課題の一覧

それぞれの検証テーマからよくある課題を抽出し、Data Clean Roomを活用したソリューション群として開発した。それが図にもある、以下の4つだ。

  • STADIA(スタジア)分析

  • Affinity Visualizer

  • Trigger to Action

  • Budget Allocator

マス×デジタルの統合分析:STADIA分析

最初にご紹介するソリューションは、テレビCMとYouTubeの統合分析を実現するSTADIA分析だ。

電通グループでは、テレビの実視聴データに基づくデジタル広告配信・効果検証の統合マーケティングプラットフォームである「STADIA」データを提供している[1]。このテレビ視聴データとYouTube 広告配信ログデータをData Clean Room上で掛け合わせて分析することで、従来のタグベースの計測に依存することなくマス×デジタルの統合分析を実現したのがSTADIA分析だ。

重複リーチの分析

具体的な分析内容としては、まずは重複リーチの分析がある。例えばYouTubeのTrueView広告接触者との重複リーチの場合は以下のようになる。

図のように、STADIAデータに含まれるユーザーを世の中全体の縮図(擬似的なパネル)として見立て、この中での「テレビCM接触者」と「TrV(TrueView)接触者」を分析して、重複リーチ(共通する接触者)を集計する。

次に、TrV接触者から重複リーチを除くことで、「TrVでしかリーチできないユーザー」が算出される。

ここで、「TrVでしかリーチできないユーザー」をTrVの追加リーチとして定義し、この追加リーチが大きいYouTubeの配信セグメントは何か?を評価していくイメージだ。

追加リーチの分析

さらに、Data Clean Roomならではの「後からの分割ができる」という特性を活かして、「TrVの追加リーチをテレビ視聴量に応じて分けて見る」という分析も提供している。

仮説として、「普段テレビを見ないユーザーほどTrVでしかリーチできない割合は高いのでは?」と考えてみた。テレビを普段見ない"テレビライトビューアー"層は、多くテレビを見る"テレビヘビービューアー"層に比べてTrVでの追加リーチが大きいかどうかを検証しようという取り組みである。

この仮説に基づいて実際に分析した結果が下の図だ。

配信結果全体におけるTrVでの追加リーチを100としたときに、"テレビライトビューアー"層は331.8と、じつに3倍以上のリーチとなっている。仮説どおり、「普段テレビを見ないユーザーほど、TrVでのリーチの伸びしろは大きい」ということがわかった。

このように、パネル調査という限られたサンプルの中の話ではなく、Googleの広告配信ログ全体を使った実数による効果検証により、精度の高いマス×デジタルの統合分析ができることが、Data Clean Roomを用いた分析の魅力である。

サンプル数が多いため、たとえばテレビCMとTrVのそれぞれのフリクエンシー(クロス・フリクエンシー)別でのサイト来訪率など、通常のパネル調査ではサンプル数が足りずに難しい分析も可能となっている。

広告プラットフォーム保有属性での属性分析:Affinity Visualizer

続いてのソリューションは、Data Clean Roomの持つ広告プラットフォームの属性データをフル活用した分析システム「Affinity Visualizer」だ。

ここまで見てきたように、Data Clean Roomでは広告プラットフォームの属性データに一定の条件下でアクセスできる。GoogleのAds Data Hubも同様で、Googleの属性データとして、デモグラフィック情報のほかに、興味関心を示すアフィニティ属性と、購買意向の強いオーディエンスを示すIn-marketセグメントへのアクセスが可能だ。

Googleのこうした属性データに基づいた配信の与件は、多くのクライアントから通常のキャンペーンの際にも多くいただいており、非リターゲティングでは最大級のシェアと信頼性を持つ属性情報と言えるだろう。

Affinity Visualizerは、過去のGoogle 広告の配信結果ログを分析し、どの属性の配信が多く、また反応率が高かったか?を可視化できるソリューションとして開発した。

たとえばブロードリーチやデモグラフィック配信など広いターゲットに対して配信したとしても、結果的にどのアフィニティやIn-marketのシェアが高く、またCTRなどの反応率が高かったか?を後から分析ができるのだ。

アウトプットイメージとしては以下のような形となっている。

Affinity Visualizerのアウトプットイメージ

Affinity Visualizerのアウトプットイメージ

選択したキャンペーンや広告グループに対して、アフィニティやIn-marketの内訳が出るとともに、各内訳別のCTRなど反応率指標も一覧で見ることができる仕様だ。

この分析レポートについては、頻度高くさまざまな切り口で見ることで発見がある性質のものなので、APIを活用した自動化のパイプラインを構築済みだ。

管理画面から分析対象のキャンペーン/広告グループと、分析対象の期間などの必要事項を記載し、申し込みを行っておけば、バッジ処理で分析が走り、翌日には自動的に上図(Affinity Visualizerのアウトプットイメージ)のようなアウトプットがダッシュボードツール"EASI Monitoring"上に表示されるようになっている。個別案件の担当者でも自由に分析ができるほか、クライアントに画面を提供することも可能で、好評をいただいている。

実際にご利用いただいた案件での打ち手としては、SDC(スマートディスプレイキャンペーン)など自動ターゲティング系で内訳が見られない配信について、どういった属性の反応が良いかを分析してターゲティングを切り出したり、反応の良い属性を特定しその属性向けのクリエーティブを開発したり、といったものがあり、実際に成果も上がっている。

Googleの提供する類似の分析との比較についても触れておきたい。Google アナリティクスについてはサイト来訪者のアフィニティ属性が分析できるが、あくまでサイト来訪者の分析だけで、広告接触だけのユーザーは分析対象に含められない。

Google 広告の管理画面上では、オーディエンス分析タブから関連性の高いオーディエンス分析が可能だが、分析対象にできるのがマークリストとして設定したものだけで自由度が低く、また上位10セグメントしか出せないという点で使い勝手が劣る。

Affinity Visualizerはこうした既存分析では代替できない、優位性のあるソリューションだと自負している。

デジタル動画の新しいKPI:Trigger to Action

3つ目にご紹介するのは、アトリビューション評価の新しい形である。

動画広告はもともと、潜在層向けの施策ということもあって行動指標での評価は難しかった。まだ商品に対する関与度が十分ではないユーザーに対しての需要喚起が目的の広告なので、いきなりコンバージョンする可能性は低く、行動指標での評価よりはブランドリフト調査のような心理指標での評価が中心となりがちだった。

ところが、近年ではTrueViewアクション(TrueView for Action)のように行動につながるYouTube 広告も登場しており、動画であっても行動につなげる目的の出稿も増えてきている。こうした広告の成果評価指標として開発したのが、「Trigger to Action」だ。

動画広告の効果測定に関する課題

従来の指標に対する課題意識として、他の獲得系ディスプレイ広告と同様にラストクリックベースで評価してしまうと、どうしても動画広告は不利になる点があった。そこで、ラストクリックの前に動画広告があったとしても、それを広告の効果として評価する、ということを考える。

これは、ラストクリックより前の貢献効果についても適切に評価する、いわゆるアトリビューション分析と呼ばれる考え方だ。こうすればラストクリックでは評価から抜け落ちる効果も評価できる。

しかし、このように評価したとしても、いわゆる獲得系の広告と比較すると、実際には動画広告の評価が劣るケースが多い。潜在層向けの広告であるがゆえに、ゴールが申し込みCV(コンバージョン)など深い地点となると、どうしても不利になってしまうためだ。

そのため、発想を転換して目的となる地点をもうすこし浅くすることを考える。具体的には、商品に対する関与度が低いユーザーが、商品に興味を持ってもらえれば目的が達成されたと言えるので、申し込みCVではなく、サイト来訪までで評価するというのがわかりやすいだろう。

"Trigger媒体"を起点とした評価

加えて、評価の視点についても工夫を加えている。

従来のアトリビューション分析は、ゴールとなる指標の前に存在する広告接触履歴に対して、一定のルールに則って貢献効果を配分するというアプローチだった。

これは評価ロジックとしては明確な一方で、最終的なアウトプットはあくまで各媒体を横並びに並べたときのアトリビューションスコアとなるため、マクロ的な視点となってしまい解釈が難しいケースが多い。

この課題に対して、Trigger to Actionでは、あくまで動画広告などの"Trigger媒体"を起点とした評価にフォーカスを絞っており、ミクロの視点で解釈につなげやすいアウトプットを標榜している。

動画の貢献効果を定量的に把握できるTrigger to Action

概念的な話が長くなってしまったが、具体的にどういったアウトプットになるかを見ていこう。

まずすべての起点となるのが、Trigger媒体となる動画接触だ。この動画接触者を起点として、その後にサイト上のファネルの各地点に来訪したユーザーが何人いるかを可視化する。また、単に件数を把握するだけではなく、各地点の来訪者全体のうち動画接触後に来訪した数はどれくらいか?も含めて評価することで、動画の貢献効果を定量的に把握できるのも特徴だ。

もう1つの工夫のポイントが、各地点への来訪者が最終的に何の広告を経由して来訪しているのかの、最終流入経路別のブレイクダウンにも対応していることだ。

動画広告が検索広告に効いているのか、SEOに効いているのか、はたまた他の獲得系広告に効いているのかを、動画非接触者や、動画接触者の中でのターゲティング別や素材別などとの比較によって可視化ができる。

加えて、APIを活用することで、これらの指標を定点観測できることもTrigger to Actionソリューションの強みだ。

今まで見てきたような指標は、Campaign Managerの管理画面上でも工夫すれば得ることができる。しかし、これらの結果を定点観測していくのは、切り口が増えれば増えるほど、手間の観点から現実的ではなくなる。

一方でData Clean Roomであれば、一度設定さえしてしまえば期間を変えて定点観測していく設計が容易なので、PDCAに必要な粒度でデータを抽出できるし、ダッシュボードツールへの搭載もお手の物だ。

非コンバージョンユーザーも分析できるTrigger to Action Assist

もう1点補足として、Data Clean Roomならではの分析をご紹介しよう。

現状のCampaign Managerのパス分析レポートは、あくまでコンバージョンに至ったユーザーが対象なので、コンバージョンをしていないユーザーは分析の対象外となっている。一方で、Data Clean Roomでは、非コンバージョンユーザーのログも含めて分析することができる。

この特性を活かして、「コンバージョンまで至らなくても動画の貢献効果があったか?」を検証するのが、「Trigger to Action Assist」という分析だ。Triggerとなる媒体は動画広告であることに変わりはないが、Actionとして定義している内容が「サイト来訪」ではなく、「獲得系広告のクリック」になる。

これも具体的なアウトプットのイメージを見た方が理解が早いだろう。下記の結果イメージのように、リターゲティング(リタゲ)広告の接触者全体を分析対象としたときに、事前に動画広告に接触しているかどうかによって、リタゲ広告のクリック率が変わるかを分析している。

この例では、動画広告に接触することでリタゲ広告のクリック率を後押しするという結果が見て取れる。

こうしたさまざまな観点からの分析を行うことで、動画広告の従来見落とされてきた貢献効果を可視化するのが、Trigger to Action分析の目指すところである。

メニュー別の最適予算配分:Budget Allocator

最後にご紹介するのが、各配信メニューの最適な予算配分を分析するBudget Allocatorだ。

課題意識としては、広告のコスト効率が鈍化することを加味した、適切な予算配分へのニーズがある。

一般に、ターゲティングでリーチできるユーザーの数は限られている。ひととおりリーチしきってしまうと同じユーザーへの配信が多くなり、新規ユーザーへの追加リーチ効率は鈍化していく。同じコストをかけても、リーチできる新規ユーザーの数は少なくなっていくのだ。

例を挙げて説明しよう。ここに、

  • ターゲティングA(リーチ単価10円)

  • ターゲティングB(リーチ単価8円)

  • ターゲティングC(リーチ単価12円)

という3つの広告キャンペーンがあり、追加予算100万円をどこに投資するかを検討しているとする。

一見するとリーチ単価がもっとも安価なターゲティングBに追加予算を投資するのがもっともコスト効率が良さそうだが、下図を見てほしい。各ターゲティングのリーチとコストの相関関係を表したグラフだ(線上の丸は現時点を表している)。コスト効率が良いとグラフの傾きは急になる。

グラフからは、ターゲティングAとBは、現時点以降はリーチ効率が鈍化すると見られる。追加リーチに対するコスト効率の観点からは、ターゲティングCの方が効率が良い。

「新規ユーザーへの追加リーチ効率は鈍化する」ことを踏まえて実際に分析してみると、このような結果が出ることは十分にありうる。

こうした課題に対して、Data Clean Roomで過去実績をプロットして鈍化カーブを算出するのがBudget Allocatorである。

アカウント接続後のログが自動で蓄積され、任意の期間での集計が容易なData Clean Roomの特長を活かして、過去実績を適切な粒度でプロットすることで、こうしたリーチカーブを算出することができる。

たとえば、ターゲティングAとターゲティングBについて、Data Clean Roomを使って過去実績をプロットしてみると、それぞれ下図のようなリーチカーブの結果を得た。

次に、それぞれのリーチカーブの式(y=......)を用いて、下図のように、ターゲティングAとターゲティングBへの予算配分を、「0%:100%」から「100%:0%」まで、4%刻みでシミュレーションした。

するとこの例では、予算の84%をターゲティングAへ、16%をターゲティングBへ配分するのが最適という結果が出た。

Budget Allocatorを使えば、このようにして、リーチ単価がもっとも安くなる最適な予算配分を算出することができる。

この例では、折れ線グラフの縦軸の単位はリーチ単価だが、サンプル数次第ではクリック数やコンバージョン、外部データを接続して来店や購買などをゴールとして同様の分析ができることも、Data Clean Roomならではの柔軟性の高さだ。

また、こちらもサンプル数次第ではあるが、Data Clean Roomの持つ属性情報を掛け合わせることで、たとえばアフィニティごとの効率鈍化カーブを導出することも可能である。

このようにBudget Allocatorは、Affinity Visualizerと掛け合わせることで、ターゲット発掘だけでなく最適な予算配分まで含めてセットで構築していく、というハイブリッド型のソリューションも考えられる、発展性の高いソリューションとなっている。

◇ ◇ ◇

以上が、電通デジタルですでにご用意しているData Clean Room上のソリューションの"型"だ。

与件に応じて、これらの"型"をカスタマイズして対応可能なほか、ここでは割愛したがさらにさまざまなデータを掛け合わせたり、より正確なレポートができるように補正をしたり、といった工夫も行っている。

ご興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせをいただければ幸いです。

脚注

出典

1. ^ "電通、統合マーケティングプラットフォーム「STADIA」の正式版を4月から提供開始". 電通.(2017年3月31日)2021年10月12日閲覧。