2021.09.16

顧客の声から事業を変革する。次世代カスタマーセンター構築の要件とは

デジタルを活用した価値創造に一貫してこだわり、顧客基点でのマーケティングの高度化やデータを活かす仕組み作りに取り組んできた電通デジタル。2021年6月21~25日には、「今こそ求められる、"顧客中心のサービス企業"への変革 ビジネストランスフォーメーションに向けた実践知」と題した「BXウェビナーWEEK」を開催しました。

最終日となる6月25日の1回目は、ビジネストランスフォーメーション部門 事業部長の松井崇司が登場。企業のコンタクトセンターを数多くサポートする株式会社デジタルシフトウェーブ/株式会社NeoContactの出水啓一朗氏をゲストに迎え、次世代のカスタマーセンター構築にあたっての組織の心構え、最も重視すべきポイントは何かについて事例を交えながらご紹介します。

※所属・役職はウェビナー開催当時のものです。

電通デジタル
ビジネストランスフォーメーション部門
事業部長

松井 崇司

株式会社デジタルシフトウェーブ パートナー
株式会社NeoContact 代表

出水 啓一朗

電通デジタルに寄せられる各企業のカスタマーセンターの課題感

松井は冒頭、ビジネスモデルの変化と電通デジタルに寄せられるカスタマーセンターの課題について触れました。

ビジネスモデルの変化とは、従来の製品販売型のバリューチェーンから大きく転換し、顧客の声を聞きながらプロダクトやサービスを売るようになったことです。特に大きな転換は、情報の流れが変わったこと。以前の情報は「メーカー→販売者→顧客」と一方通行の流れでしたが、これからの情報の流れは「顧客→販売者→メーカー」となり、さらにD2Cなどに代表されるような「メーカー↔顧客」といった双方向のやり取りが行われるようになります。

その上で、松井は従来のカスタマーセンターの位置付けを顧客基点で見ると、購入・契約を境に営業とカスタマーセンターが分断されていると指摘します。営業担当は能動的なアクションを行う一方、カスタマーサポートの担当者は受動的なアクションに終始しているのです。ビジネスプロセス、顧客体験は一体であるにもかかわらず、営業とカスタマーセンターの間で分断されている。これが、多くの企業の抱える問題点なのです。

ここからは、電通デジタルに寄せられたカスタマーセンターに関する各社の悩みごとを具体的に紹介しましょう。

1例目【金融会社】

悩みサイロ化した組織の中で一貫した顧客体験を提供したいが、組織統制が取れずにプロジェクトが進まない
依頼内容既存コールセンターについて、経営資源としてのさらなる活用・最適配分を検討したい。コストセンターからプロフィットセンターへの転換を模索したい
現状部署ごとにカスタマーセンターを持ち、ITソリューションも部署によってバラバラに導入している状況。スキル、教育、KPI管理などのナレッジも複数部署に点在するため、センター人員の配置転換が難しく、アウトソーサー任せになりやすい

2例目【自動車会社】

悩み顧客志向で立ち上げるサービスに合わせて、カスタマーセンターに最新テクノロジーを導入したが、正しく活用ができていない
依頼内容従来の車販売に留まらない、ビジネスモデルの変化に合わせた顧客対応を行いたい
現状「車販売」「車の維持」「車の活用」で、顧客体験が完全に分断されている。顧客体験と同様に、組織機能も分かれてしまっている状況。ビジネスユニットごとの顧客コミュニケーションに、現状は留まっている。一貫した顧客体験が提供できていないケース

3例目【保険会社】

悩みCX(カスタマーエクスペリエンス)重視の経営要求に対して、カスタマーセンターをどのように位置付けて設立すべきなのかが分からない
依頼内容企業基点での最適化はできている(=マネジメント層で顧客価値を規定できている)が、顧客基点での組織づくりができていないため、構想策定や承認後の実行フェーズで多くの課題が残り、プロジェクトが難航している
現状コールセンター機能が特定部署に集約しているため、コンタクトセンター化に向けた各部署との交渉に時間がかかる。さらにIT部署が独立し、既存システムの更改状況や投資判断を個別に検討している状況。企画部署がコンタクトセンター化に向けた構想策定を行うものの、実行に向けてはIT部署との合意形成という障壁が残ったまま。よって、構想承認後のプロジェクトワークグループでも各論で意見が衝突し、プロジェクトがスタックしている

各社共通するのは「全社で統一した顧客体験を提供したい」という思いです。そのような思いがある一方で、実行フェーズで個別の機能提供や部署ごとのコミュニケーションに陥ってしまい、顧客基点での体験設計を構築できないでいると、松井は指摘します。

実際に各企業でコンタクトセンター推進を手掛ける、デジタルシフトウェーブの出水氏は、金融会社の1例目で出てきた「コストセンターからプロフィットセンターへ」とのキーワードに着目しました。この言葉が意味する内容は、センターそのものの形が変わるだけでなく、扱う情報のエリアがコストセンターとプロフィットセンターでは全く違うことだ。そのように出水氏は言います。

かつてコールセンターは、社内のコストセンターであり、企業のバックヤードのような印象でした。よって、お問い合わせに応じているだけのコールセンターに多くを投資しても採算が見合わないし、社としても重要な部署ではないという位置付けでした。
そのコールセンターがプロフィットセンターなどと重要視されるようになった理由は、センターがオンラインとオフラインの両方をカバーしなければならないからです。オンラインとオフラインをカバーすることで、松井が上記で触れた一貫した顧客体験であるCXに行きつく。顧客体験を価値あるものにするとなると、カスタマーセンターはかつての役割とこれからの役割で大きく変わらざるを得ないのです。


カスタマーセンターを取り巻く環境と次世代カスタマーセンター構築の秘訣

出水氏はさらに掘り下げます。

かつてコストセンターと呼ばれたカスタマーセンターが、企業にとって重要なセンターに変わった現在、お客様接点で大切にしたいことは以下の3つに絞られると出水氏は語ります。

  1. お客様の時間を大切に
  2. お客様の期待を大切に
  3. お客様の気持ちを大切に

センターを構築する時、またはセンターをリデザインする際、上記の3ワードを念頭に置くと、問題点の答えが見つかりやすいと出水氏は言います。

それでは2021年の今、コンタクトセンターを取り巻く環境について解説しましょう。大きく分けて6つのファクターがあります。

2021年 コンタクトセンターを取り巻く環境
Zoom

1つ目は人手不足です。コロナ禍でコンタクトセンターの需要が一時的に増えていますが、長期的には人手不足に変わりはありません。

2つ目は、コンタクトポイントの増加。コミュニケーションチャネルのLINEが約10年前に誕生し現在では世の中に浸透したように、明日また新しいチャネルが出てくるかもしれません。セルフ、ノンヴォイスなど、新たなチャネルが加わる可能性があります。

3つ目はシステムの老朽化です。社内のリプレイスをいつ行うのか、どうやって行うのか。

4つ目は、オペレーションの複雑化です。お客様へお届けするプロダクトが入り組んでいるため、かなり複雑なオペレーションをしないと的確にご要望に応えられない状態です。

5つ目は、特に重要なDX(デジタルトランスフォーメーション)。新しいテクノロジーが出てくると、センターでどのように使うのかという問題が出てきます。

最後はCX重視への経営要請です。CXを行うには、具体的に社内をどうつなげていくかが大きな課題です。

企業間で労働生産性が非常に問われる中、「コストを抑えるための業務見直し」から「デジタル投資によって生産性の維持、拡大」というテーマが出現しました。ところが2020年からコロナ禍となり、三密職場的なコンタクトセンターをどうしていくのかという新たなテーマがさらに加わってしまいました。非対面のお客様対応の重要性が、コロナ禍で加速したのです。よって、新たな場のデザインが必要になってきた。これが現在の状況です。

下記の図は、「コンタクトセンターを取り巻くビジネスモデルの変化」です。

コンタクトセンターを取り巻くビジネスモデルの変化
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左が新規獲得のためのファネルです。モノの売り切りモデル、ハンティングモデルとも言います。右は、既存顧客管理のためのファネルです。お客様を育成し、顧客との関係を作るモデルに変化しています。ロイヤルカスタマー化されたお客様の発信情報が、大きな意味を持つモデルに変わってきているのです。

上記の環境下でコンタクトセンターが果たしていく役割は、次のような図になります。

コンタクトセンターの役割の変化
Zoom

営業にせよサービスにせよ、対面で接客をしているのが上の図の左側です。右側はお客様が自ら動いて企業にサービスや製品の提供を求めています。この両極に対応しているのが、コンタクトセンターです。

お客様は対面で疑問があると、コンタクトセンターにアクセスしてきます。セルフツールの場合は、ツール上で分からないことがあると、コンタクトセンターに連絡をします。よって松井が前述したように、ビジネスモデルの変化によりオフラインとオンラインのサポートが広がってきたのです。

出水氏によると、現状日本にあるコールセンター、コンタクトセンターは、以下の4つに大別できると言います。

コンタクトセンターの進化モデル
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日本で多いのは、ステージ2のパターンです。ステージ1、ステージ2の企業に早くステージ3まで上がっていただきたい。そしてステージ3はかなり高度な企業で、日本においても多くない。そう、出水氏は語ります。最終的にどの企業もステージ4を目指すべきです。

それではステージ1から順番に見ていきましょう。

【ステージ1】1980年代から続いているコールセンターモデル

キーワード少ない人数で何でもこなす。暗黙知の塊
現場のコールセンターの状況
  • オペレーターの経験が頼り
  • 現場経験がないため、確認作業が常に発生
  • 解決に時間がかかる
  • 社内のお客様対応はフロントに依存
  • 部門ごとの要望をフロントに伝える
  • 企業としての一貫性がない

続いてはステージ2です。沖縄や北海道などにカスタマーセンターが大量発生したのは、全てこのモデル。日本で一番多いモデルで、松井が詳説した企業3例もこちらに当たります。

【ステージ2】機能別大型センターモデル(2000〜2020年)

キーワード個別最適型。アウトソース。人海戦術。管理者の負担大
現場のコールセンターの状況
  • コールセンターが社内にも社外にもある。いくつも存在する
  • 社内の部門がバラバラに機能。都度、要望を個別に伝えてくる
  • お客様情報が一元化されておらず、センターの人間が全体の情報を知らない
  • お客様のたらい回しや折返しが多い

次は、全ての顧客ニーズに対応する統合型コンタクトセンターであるステージ3です。

【ステージ3】マルチチャネル・マルチスキルCX実現型センター

キーワードHQ(ヘッドクォーター)主導の運営。共通ナレッジ:KPI、QA(クオリティアシュランス)、TR(テクニカルレポート)
現場のコールセンターの状況
  • ヘッドクォーター主導で運営
  • ヘッドクォーター主導の共通ナレッジが統一化され、標準化されている
  • 情報は必ずヘッドクォーターから流れてくる
  • お客様の情報もヘッドクォーターがまとめて各部門に流す。よってVOC(ヴォイスオブカスタマー)分析もできる

最後はステージ4です。

【ステージ4】新時代のコンタクトセンター

キーワードデジタルの力をどのくらい使うか。センターの中心はAI-BoT。一次対応はBoT。二次対応以降を人間に
現場のコールセンターの状況
  • AI-BoTが24時間対応により汎用的な要件を解決、人間はより高度な案件を知識で埋める
  • センターは在宅・小規模のインハウス、アウトソース両方のハイブリッド型
  • ヘッドクォーター主導の共通ナレッジがあるため、どこに着信してもほぼ同じ回答が得られる
  • 企業姿勢や専門性の高い領域の答えは社員が行う
  • 仕組みはクラウドベース上に。在宅でもどこにいてもアクセスが可能

出水氏はウェビナー参加者の経営層に向けて、ITツールを入れたからと言って、たちどころにDX推進は進まないと呼びかけます。IT投資は飽くまでもお客様の課題を解決し、働きやすい環境を作るためのツールという前提を忘れてはいけません。IT技術を活かすには、社内の基盤を整備しないといけないのです。

人の価値をサポートするIT基盤整備の前提は、下記の4段階があります。

段階内容必要ツール
1【KPIの可視化。全センターの稼働コントロール】
  • パフォーマンスを可視化。AHT(アベレージハンドリングタイム)、ATT(アベレージトークタイム)、ACW(アフターコールワーク)
  • 稼働コントロール
  • PBX(CMS)

2 【オペレーターのマルチスキル化。複数のタスクに対応】

  • 難易度を含むスキル再設定、ブーリング化、ID管理
  • PBX(CMS〈コンテンツマネジメントシステム〉)
  • CTI(コンピュータテレフォニーインテグレーション)連携
3【HQによるサービス設計。ナレッジの整理】
  • サービス設計は業務フローで標準化
  • トークスクリプト整備
  • CRM
  • ナレッジ作成ツール
  • スクリプト・概要・FAQ

4【人材育成&品質チェック。全センター統一の基準】

  • 育成ツールの統一をするため、研修テキストを作成
  • スキルのばらつき解消
  • 品質チェックの仕組み化
  • PBX(CMS)

出水氏は、一番大事なのは1と3だと言います。今までも行ってきた1のKPIの可視化、全センターの稼働コントロールが、今の時代に合った形に整備されているか検証する必要があるでしょう。

次に重要な3。ヘッドクォーターによるサービス設計とナレッジが、極めて重要です。ナレッジのないセンターにどんなに高性能なBoTを入れても活かすことはできません。

自社のサービスはどのようなサービスで、お客様に説明するにはどう説明したらいいか。企業の基礎的な部分が整備されていないと、ITツールの価値が発揮できないのです。1と3が整備されると、2のオペレーターのマルチスキル化につながります。10年選手のオペレーターに依存することなく、全てのお客様に標準的なサービスをお届けするために、2の整備が必要です。4は日本のコールセンターが最も得意としてきた部分です。従来の基盤整備をしっかり行ったうえで、デジタルテクノロジーを活用する道を作るサポートをしたい。出水氏はこのように締めました。


次世代カスタマーセンター構築のためのポイントとは

出水氏はウェビナー参加者に向けて、ポストコロナ時代にどんな用意ができていますか、と問いかけました。コンタクトセンターのモデルチェンジは一夜にしてならず。また、各ビジネスモデルに合ったセンター再構築(BPR)は、1年半〜2年の時間が必要と言います。再構築に必要な4点は以下の通りです。

  1. 企業のビジネスモデルを顧客との関係で見極め、その企業に合った顧客接点モデルをデザインする
  2. 優先順位を明確にし、業務のシンプル化を目指す
  3. 共通の言語、フレームワークを使って変革する
  4. トップが構築にコミットすると共に、関係者が目的を共有してやり抜く(GRIT)

最後に、松井が本ウェビナーのまとめを行いました。

次世代カスタマーセンターを構築する上での重要ポイント
Zoom

ウェビナー冒頭に、購入・契約の際に顧客体験も業務も分断されていたと松井が説明した通り、次世代カスタマーセンターを構築する上での重要ポイントもやはりこの部分がカギとなります。購入前、購入後にかかわらず、顧客に違和感なく最適な顧客体験を提供するための組織を作るには、出水氏が何度も指摘していたヘッドクォーター主導でテクノロジーや仕組み、組織機能を束ね、運営できるかどうかにかかっているのです。

購入や契約の分断されている部分にヘッドクォーター機能とCX組織を立てることで、従来のビジネスモデルから営業担当者への働きかけの部分は、顧客の理解を軸に行っていくことができます。また顧客の成功体験の設計は、CX組織がカスタマーセンターと営業の間に入ることで可能になるでしょう。

さらにカスタマーセンターも受動的なアクションに終始していたところから、ヘッドクォーター機能が営業との間に入ることで、顧客の状態を把握した上で解決策を提示したり、課題解決プロセスの最適化ができたりするようになるはずです。

また松井は、ヘッドクォーター機能を組織の中心に据えることで、カスタマーセンターが現状のサービスを利用するお客様に向けて、プロダクトサービスの活用法の提案やサービス定着化の支援の働きかけもできるのではと指摘し、本ウェビナーを終了しました。

【執筆 横山由希路】

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