2021.08.31

新事業開発を妄想に終わらせない!"実現する"事業構想 Desire Path Programとは

2021年6月21日~25日に開催された電通デジタルの「BXウェビナーWEEK」。今回は「今こそ求められる、"顧客中心のサービス企業"への変革 ビジネストランスフォーメーションに向けた実践知」とのタイトルで、8つのウェビナーを行いました。

3日目となる6月24日の1回目は、「新事業開発を妄想に終わらせない!"実現する"事業構想 Desire Path Programとは」と銘打ち、ビジネストランスフォーメーション部門 サービスイノベーションデザイン事業部 事業部長の加形拓也、佐々木星児、中溝由里絵が登場。3人は「電通デジタル 未来デザインチーム」の一員として、半歩先の未来を捉えた事業構想を進めてきました。本来であれば、膨大な時間がかかるプロセスを短期間でやりきる、担当者ならではの現場感あふれる推進レポートを紹介しました。

※所属・役職はウェビナー開催当時のものです。

ビジネストランスフォーメーション部門
サービスイノベーションデザイン事業部
事業部長

加形 拓也

ビジネストランスフォーメーション部門
サービスイノベーションデザイン事業部

佐々木 星児

ビジネストランスフォーメーション部門
サービスイノベーションデザイン事業部

中溝 由里絵

「電通デジタル 未来デザインチーム」が手掛けた3つのサポート事例と得意領域

メンバー各人に研究領域がある「電通デジタル 未来デザインチーム」。登壇した佐々木はリサーチ、デザイン、プロトタイピングに強みを、加形は都市と地域の関係性、パーパス、食品関係にアピールポイントを、また中溝は消費財やビューティー、データ分析に研究領域を持っています。

「未来デザインチーム」の得意領域は、外部環境やクライアント企業の分析などを通してビジネスの戦略を組み立て、ユーザー中心かつクリエイティブな視点で具体策を構想・実装すること。また、それらを世の中にリリースするためのプロジェクトマネジメントおよび社内推進支援をすることです。

各々が手掛けたサポート事例を3人が自ら紹介しました。

1つ目は加形の「電鉄系不動産ディベロッパー」事例です。これは「事業のサービス化推進」「サービスの構想」について支援し、未来社会の変化を先取りした都市の新事業創出プロジェクトでした。企業が抱える課題感は下記の通りです。

課題感

  • 電鉄系ディベロッパーだけに社内ビジネスの規模が1つひとつ大きい。それゆえに組織の縦割りも進んでいた。
  • 事業共創プロジェクトは各部署単位での事業検討にとどまっていた。
  • 新領域における事業開発を行うアプローチではなかったため、既存事業の枠組みから抜け出せないアイデアばかりであった。

そこで加形らは、「組織が何を行うか」ではなく「社会がどう変化するか」といった未来のまちづくり予測を起点にプロジェクトを開始。中長期の社会変化を見据えたアイデアや、自社資産にとらわれないサービス発想を行い、270のアイデアから15のサービスコンセプトの策定を支援しました。現在、プロジェクトとともに、デジタル活用と縦割り組織の打破を進行中です。

2つ目は中溝の「保険会社」事例。1例目同様「事業のサービス化推進」「サービスの構想」を支援し、既存の事業ドメインに閉じない新規事業・サービス開発プロジェクトでした。課題感は、顧客との接点頻度とデータの利活用です。

中溝らは、近未来のあらゆるリスクを幅広く捉え、モビリティ、ヘルスケア、デジタルネイティブなどのトレンドリサーチや生活者リサーチを行いました。145のアイデアから6のサービスコンセプトを策定したのは約1ヶ月。クイックな支援案件でした。

3つ目は佐々木の「嗜好品メーカー」事例です。これは「事業のサービス化推進」「サービスの構想」に加え「サービスの実装」についても支援した新規D2C・サブスクリプションサービス開発プロジェクトでした。課題感は以下の通りです。

課題感

  • 顧客と直接つながり続け、データをどう利活用すればよいかがわからない。社内にデジタルサービスの知見がないため、構想から先に進めない。
  • PoCまでを見据えたプロダクトサービスの設計・立ち上げ・運営全般に関する実行をサポートしてほしい。

そこで佐々木らは、ユーザーの食嗜好や健康課題に関するパーソナルデータを元にしたレコメンドサービスを立ち上げました。タスクとしては「サービスデザイン領域」「ビジネスデザイン」「エンジニアリングデザイン」の3つに分けられ、これらを約1年にわたり推進。実証実験には約3ヶ月を要し、現在β版の段階で本開発に向けて準備中です。


「Desire Path」の発見と実現

ここからは「事業のサービス化推進」「サービスの構想」「サービスの実装」の支援領域のうち、リサーチやアイデア創出からビジネスモデリング、フィジビリティ検証までの「事業のサービス化推進」「サービスの構想」に焦点を絞り、中溝を中心に解説します。

中溝は事業・サービス構想において、各企業の担当者から「アイデアがいくつか出てきたものの、未来の生活者が本当に求めるものなのか、自信がない」などの悩みを耳にした際、ある例え話をすると言います。

それが「Desire Path」です。「Desire Path」とは「生活者が潜在的に求めることを可視化した道」のこと。具体的には団地などで舗装された道があるにもかかわらず、皆が近道になり得る芝生の上を歩き、けもの道化したような道を指します。「早く目的地に着きたい」という生活者の心の声こそが、潜在的に求めている「Desire Path」だと中溝は指摘します。

Desire Pathは半歩先の未来理解と3つのデザインでカタチにする
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「Desire Path」の発見と実現は、半歩先の未来理解と3つのデザインで思考を深めつつ進めていきます。「Desire Path」の種を発見したら「それは本当に自社が注目すべき未来か?」と半歩先の未来視点で事業について考えた上で、さらに「それは本当に人々に求められるか?」と生活者視点を加え、人間中心設計の手法で事業の構想をします。この2つのアプローチで「Desire Path」を見定めたら、「それは本当にビジネスとして成り立つか」というビジネスデザインの視点、「それは本当に作れるか?」とのエンジニアリングデザインの見方で検討しつつ、「Desire Path」を満たすサービスや事業を実現させていくのです。

上記の内容をDesire Path Programの全体像で、さらに詳しく説明しましょう。

Desire Path Programの全体像
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プログラムは前述した「半歩先の未来理解」からスタートさせ、まず未来の変化に自社の資産を照らし合わせます。自社の資産が活きる未来の変化、つまり半歩先のチャンスを発見したならば、生活者へのインタビューを通して「生活者はこう変化しそうだ」「この価値は未来でも受け入れられそうだ」などの仮説を構築。そこから「Desire Path」を導き出します。

「Desire Path」を見つけたら、質より量でアイデアを出すアイディエーションを行い、それらを絞り込むビジネスデザイン、エンジニアリングデザインのフェーズに移行。ビジネス、エンジニア視点で実現可能性を評価した後、アイデアの受容性を定性・定量調査で評価。ここまで来ると、「儲かりそう」「実現しそう」「ターゲットの反応も良さそう」な「Desire Path」を実現できるアイデアが完成します。


「Desire Path Program」の詳説と食品会社の実例

それでは、Desire Path Programをさらに細かく見ていきましょう。

プログラム開始前 -未来環境をスピード俯瞰-
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電通デジタルはDesire Path Programのスタートである「半歩先の未来理解」にあたり、独自のツールを用います。それが「未来曼荼羅」です。3〜5年先の近未来に起きると予測されるトレンドを72テーマに分け、生活者インサイトにまで踏み込んで網羅的に記した未来予測集です。

未来曼荼羅の構成要素は2つ。「どのようなことが未来に起こるか」という裏付けデータや事例ニュースをまとめたゾーンと、「人々の価値観や行動はどう変わっていくか」といった未来へのヒントを提示するゾーンです。このような内容が人口・世帯、社会・経済、まち・自然、科学・技術の4領域、72テーマに分類され、各企業担当者とワークショップ形式の未来洞察セッションを行います。事前にピックアップしたトピックの課題意識を発表していただき、見立てた未来社会の大きな課題を共有し合います。

またDesire Path Programの「未来の変化に自社の資産を照らし合わせる」段階で、電通デジタルは「自社資産の見える化」のため、企業のカジュアルインタビューを実施しています。理由は組織が縦割りのため、同じ課題でも部署によって課題の捉え方も変わることが多々あり、アイデアを実現する際に「実はできない」「認識が違った」という認識の齟齬をきたさないようにするためです。インタビュー対象者は、様々な部署の役職者。雑談形式のインタビューにより、会話の端々から企業の強みや課題を洗い出します。

さらに未来洞察セッションや社内インタビューを経て、企業を取り巻く「未来環境の見える化」を敢行。有識者によるリサーチを交えながら議論を繰り返し、未来変化と自社資産から「半歩先のチャンス」を発見します。中溝は、自らが担当した食品メーカーA社の例で上記の流れを紹介しました。

食品メーカーA社の例

未来洞察セッションのトピック...「人工食糧・人工肉」「人工肉は事業になるのか?」

ミニセッション・リサーチ結果
2050年の世界の人口は約100億人。食品の需要と供給のバランスが崩れる領域が出る
2050年は2005年と比較して約2倍のタンパク質の供給量が必要
いずれは食品の持つシズル感に興味を持たない世代が現れる

食品メーカーA社の目指すべき未来の姿

「2030年、食品メーカーA社は世の中に何の価値を提供すべきか」

  1. 人工的で効率的なタンパク質の製造技術を担う存在
  2. 天然肉と人工肉の両方を安定供給できる存在

「半歩先のチャンス」を見出した後の「Desire Path Program」

中溝は、食品メーカーA社の例を続けます。このプロジェクトではメンバーの議論を重ね、未来の社会変化と自社資産から「半歩先のチャンス」を11項目見出すことができました。洗い出した「半歩先のチャンス」は、さらに下記の3つのリサーチで解像度を高めていきます。

  • 生活者インタビュー
    平均的な生活者と、企業が想定していないモノやサービスの使い方や極端な行動パターンをするエクストリームな生活者にインタビュー。必要に応じて、定量調査も実施。
  • 有識者ヒアリング
    都市工学を起点にした将来のライフスタイル予測から地域実証実験まで、企業との共創を推進する東京大学×電通デジタル「共創イノベーションラボ」の教授・研究員などの有識者にヒアリング。
  • 先進事例分析
    提携する有力ベンチャーキャピタルの情報をもとに、最先端のスタートアップの動向と、それに伴う新しいテクノロジーのインプットを行う。

上記3つの中で一番重要なのが、生活者インタビューです。生活者のインサイトを的確に捉えることができれば、自ずと良いアイデアの創出に結びつくからです。生活者インタビューで「言われてみればなるほど!」といった反応が得られれば、生活者自身が潜在的に考えている「Desire Path」の発見につながるでしょう。もちろん生活者インタビューで足りない部分は、有識者ヒアリング、先進事例分析で適宜補っていきます。

「Desire Path」発見後は、アイデア創出のフェーズです。質より量を重視したアイディエーションワークショップを行い、事業・サービスアイデアの種を発想します。そして「注目したい生活者のインサイト」「ビジネスとして成り立つ事業規模」などのアイデア評価チェックリストを用い、確度の高いアイデアをコンセプト化するのです。

アイデアの種を量産...100個以上

アイデアの種の絞り込み
チェックリストの基となるのは、プログラム開始前に議論する、アイデア採用要件。
プログラム開始前に議論するというのがポイントであり、それを行うことで、参加者が何を「良いとしているか」「大切にしているか」の目線を合わせることができます。

目線を合わせることによって、アイデアの絞り込み時に得票数が同じアイデアがあった場合でも「こちらの方が大切にしていらっしゃる方向性に合う気がします」といった議論ができ、効果的なアイディエーションが可能になります。

コンセプト化...10〜20案

次にコンセプト化したアイデアのビジネスモデルを構築します。どのようなビジネスを行うか、市場規模はどれくらいかを試算し、ビジネスとして成立するかを評価。「実は目標値に届かない」「持続的な儲けにならない」といったサービス実装時の問題を、最小限に食い止めるためです。さらに経験豊富なエンジニアからの視点でも、アイデアの実現難易度を評価します。こちらも「実は今の技術ではできない」「できるにはできるが、そんなに簡単ではない」といったサービス実装フェーズで出る軋轢を、「現段階で実現するにはどうしたらいいか」という形で柔らかく提示しながら解消していくのです。

次は「Desire Path Program」のラストパーツ、定性×定量によるアイデアの受容性調査です。定性・定量調査とは主に以下の内容になります。

定性調査
  • そもそもどのような価値観を持つ人か周辺観察
  • 類似サービスはインサイトを満たすことができるか(競合もチェック)
  • ソリューションへのフィードバックや改善点
  • いくら支払う価値を感じるか など
定量調査
  • 設定した課題に対する受容度
  • 課題に対し、セグメントごとの複数ソリューションに対する受容度の差
  • ソリューションに対する価格弾力性 など

上記調査を経て、ビジネス上の見込みもあり、実装もでき、ターゲットに当ててもある程度の反応があれば、「Desire Path」を実現できるサービスアイデアが出来上がったことになります。「Desire Path Program」とは、ここまでのプロセスを指すのです。

最後に中溝は参加者に向けて、「Desire Path Program」は自部署、他部署問わず、プロジェクトオーナーに加え、若手社員や様々な職種のベテラン社員の皆様にご参加いただきたいと呼びかけ、本ウェビナーを締めくくりました。

【執筆 横山由希路】


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