2021年06月15日

アドバンストクリエーティブ

コラム

Spikes Asia 2021で2部門グランプリ! プロジェクトメンバーが語る受賞作誕生秘話

※所属・役職は記事公開当時のものです。

電通デジタル、電通、電通ライブの3社共同プロジェクトで社会課題に挑んだ『"名画になった"海 展』が、Spikes Asia 2021の「Digital(デジタル)部門」「Digital Craft(デジタル・クラフト)部門」においてグランプリを受賞しました。

AIテクノロジーを使って社会課題に挑戦した本施策はどのようにして誕生したのか、そして何が評価されたのか、本プロジェクトの主要メンバー3人に話を伺いました。

受賞概要

Spikes Asia 2021 「デジタル部門」「デジタル・クラフト部門」グランプリ

受賞作品:『"名画になった"海 展』 2050年には海洋プラスチックゴミの量は魚の量を超えるという予測データに基づき、AI(人工知能)を用いて、2050年の世界中の海をさまざまな画家のタッチで表現。2019年7月に仙台うみの杜水族館で、美術展「"名画になった"海 展」を開催した。

プロジェクトには、電通デジタルのデータ/AIとクリエーティビティの融合を目指したクリエーティブチーム「アドバンストクリエーティブセンター(ACRC)」が参画している。

クライアント:株式会社横浜八景島

The Ocean: Future Masterpieces
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ACRCのスキルを活かし、課題解決を図る部内コンペで案件化

――『"名画になった"海 展』が、Spikes Asia 2021で「デジタル部門」「デジタル・クラフト部門」の2部門を受賞されました。Spikes Asiaとはどのような賞なのでしょうか?

岸本Spikes Asiaはカンヌライオンズのアジア版で、ADFESTと並ぶアジア最大級の広告祭です。いろいろなメディアや切り口の施策を評価するために、エントリーできるジャンルが細分化されています。一方で『"名画になった"海 展』は、幅広いジャンルにあてはまる施策だったので、私たちはデータビジュアライゼーションという軸、イベントスペースでの展示という軸を中心にエントリーしました。

結果、デジタル部門ではCorporate Purpose & Social Responsibility、デジタル・クラフト部門ではData Storytellingにエントリーして、グランプリをいただくことができました。

――受賞したのは環境問題を扱った施策ですが、どのような背景で企画されたのでしょうか?

案浦私と岸本さんが2020年まで在籍していた、電通デジタルのクリエーティブチームであるアドバンストクリエーティブセンター(以下ACRC)の部内コンペが発端になります。ACRCのスキルを活用して、広告賞を狙いつつ、クライアントや世の中の課題解決になることを案件化する部内コンペがあって、そのために岸本さんと考えた企画です。

近年SDGsが注目されていますが、なかでも海洋プラスチックゴミ問題は大きな解決すべき課題。そこで企画を実施する過程でリサーチしていたときに、未来の海に関して試算した報告書をみつけました。そこには「海洋プラスチックゴミは増加の一途で、2050年には海にいる魚の総量を超える可能性がある」という恐ろしい予測が書かれていました。ただプラスチックゴミ問題といわれてもピンとこないと思うのですが、「魚の量を超える」というとフックになる。それをキーにして伝えていくといいのではないかと、取り組み始めました。

実施場所については、横浜八景島さまに相談したところ、横浜八景島グループの1つである仙台うみの杜水族館が最適ではないかとアドバイスをいただきました。東北・仙台の太平洋側に面する海、さらに周辺の水の環境などを考えて自然の再生をみつめていて、本当に企画とぴったりで、仙台うみの杜水族館で実施させていただくことになりました。

――仙台うみの杜水族館からは、何か要望がありましたか?

案浦これはやめてほしいといったご要望はなかったのですが、来場してくださった方に楽しんでいただける、エンタメ性のある展示内容にすることは、水族館の方も私たちも意識しました。水族館にはレジャーとして来ている人がほとんどだと思いますので、その楽しい気持ちのまま自然にプラスチックゴミ問題を知ることができようにしたいと思ったんです。

そこで、「館内全体を展示空間にした方が良い」という話になり、2050年の海を表したメイン展示室のアート以外でも、館内の随所に設置されている魚の説明用モニターで、AI技術を使いました。その魚がいる地域ゆかりの画家のタッチにして、「この海をこの画家が愛したんだよ」という展示をしたんです。こうした工夫は、Spikes Asia応募項目には入れていないのですが、来場者の方に水族館全体で一体感のある展示として喜んでいただけたようです。

案浦芙美(電通)

案浦芙美(電通)

さまざまな才能が集まったチームを結成

――電通デジタル、電通、電通ライブの共同制作でしたが、プロジェクトメンバーはどのように集まったのでしょうか?

岸本コアなメンバーは7人くらいで、電通デジタルでは私と案浦さん、川田琢磨さん、小峠良太さんです。最初に案浦さんと2人で企画を考え始めて、川田さんはコピーライター兼クライアントとのつなぎ役として加わってくれました。川田さんが入ったことで、部内コンペの段階で、仙台うみの杜水族館館長にヒアリングしながら進められたことは大きかったですね。小峠さんにはプロデューサーとして予算やスケジュールの管理を担当していただきました。

部内コンペに残ってからは、イベントや空間演出に長けている電通ライブの尾崎賢司さんに入っていただいて、その尾崎さんとかつて一緒に仕事をしたことがある若手のコピーライターの東成樹さんやPR担当の相馬快星さんにも参加していただきました。

案浦テクノロジーを使いつつ、展示空間を作ることを考えていたので、ACRCの石川隆一さんにもプログラマーとして入っていただくなど、どんどん声をかけていってチームができました。

石川隆一(電通デジタル)

石川隆一(電通デジタル)

試行錯誤を重ね、説教くさくならない工夫を

――AIテクノロジーはどのように使われたのでしょうか?

岸本未来の海の絵を有名画家のタッチで描くために、「スタイルトランスファー」という筆致を移す手法を使いました。たとえば、風景の写真とゴッホの絵画の画像をそれぞれAIに学習させると、元の風景の絵がゴッホ風に描かれて出力されます。

このスタイルトランスファーにはいくつかバリエーションがあって、石川さんや当時常駐されていたエンジニアの鈴木真一朗さんにも協力してもらいながら、各画家に合ったものを探ったり、タッチを高めたり弱めたり、いろいろ試しながら作成していきました。

スタイルトランスファーによって変換したフィンセント・ファン・ゴッホの絵画。プラスチックに染まる海をゴッホ風のタッチで表現している

石川アウトプットの精度をあげるために、どれくらいの質感を転写させるのかを岸本さん、鈴木さんと試行錯誤して、チームの皆に申し訳ないくらい時間をかけましたね。それと、スタイルトランスファーを少し試すだけなら200×300ピクセルくらいの小さな画像が普通ですが、原寸大の5,000×7,000ピクセルで出力するにはコンピューターにかなりの負荷がかかってしまうため、画像を分割しながら進めました。分割された1枚の絵を出力するのに数十分〜数時間かかることもありました。

案浦技術に溺れすぎずに、良いバランスでアウトプットすることは大変なことだと感じました。それから、スタイルトランスファーと相性の良い絵画もあれば、相性が良くないタッチの絵画がありますし、だれもが知っている有名な画家さんを選ばないといけませんから、絵画の選定にも苦労しました。

また、仙台うみの杜水族館はアフリカ、アメリカ、オセアニア...といった地域ごとに構成されていて、その地域にゆかりのある画家を選ぶことにしたことで、選定の難易度は一層上がりました。そこで、アートに造詣が深い電通の東成樹さんにも入ってもらい、画家のバックグラウンドを踏まえて丁寧に絵画を選定していきました。

画家といえば、系列の横浜・八景島シーパラダイスに作品を寄贈されていたクリスチャン・ラッセン氏にも直接コンタクトをとって、快諾していただきました。普段の仕事だと、そういった経験はあまり無かったので、自主提案ならではの大変さだったなと思います。

スタイルトランスファーによって変換したクリスチャン・ラッセン氏の絵画
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スタイルトランスファーによって変換したクリスチャン・ラッセン氏の絵画

――作品の精度をあげるために、ご苦労されたんですね。

案浦水族館はファミリーやカップル、友だちと一緒に楽しい気持ちで訪れる所なので、海洋問題を扱いながらも、説教くさくならないようにしたいと思っていました。なので、やりたいことはわかるけれど見栄えがしない、というものにはしたくなかったんです。ACRC客員ECDの中村洋基さんからも「インパクトは強く残しつつも、エンタメ性を大事にするように」とアドバイスがあり、その点は心掛けました。

来場者が水族館内で見て歩く順路も意識して、展示空間デザインを行いました。たとえば、実際のイルカを見た後に、展示空間で2050年のプラスチックゴミだらけの海にいるイルカの絵を見たら、「さっき見たイルカがかわいそう」という気持ちに自然となって、共感しやすいのではないかと考え設計しました。

また、空間作りにはメンバーの尾崎さんにリードしてもらい、全体の照明を落とし、絵にスポットをあて、絵画鑑賞するための美術館のようなライティングにしました。海の中にいるような今回のロゴのモチーフの水面のデザインをあしらったり、ブルーを基調にした展示空間にすることも意識して行っています。

ライティングや水面のような床面の工夫を凝らした展示空間
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ライティングや水面のような床面の工夫を凝らした展示空間

――いろいろな才能が集まって、工夫を重ねたんですね。

岸本メンバーは皆、年齢が近かったこともあり、役割分担はあったんですが、だんだんと区分けがなくなって全員野球みたいになって。お互いにコンセプトやコピー、展示内容について意見を言い合ったりして、良い関係でした。

案浦皆で話していて迷ったら、中村さんにも相談しました。集中して作っていると視点が狭まってしまうので、引いた視点での話はありがたかったです。

中村洋基氏コメント

「名画になった 海展」の企画・制作にあたり、プロジェクトメンバーに向けてどんなアドバイスをされましたか?

「AIで画家の筆致をラーニングした展示会を開いたよ!」という見出しで、現代の海を描かせた展示を訪れると、そこはゴミだらけの海だった......。という企画を初めて聞いたとき、すばらしい企画だなと感じました。一方、同時に「出オチ」でもあるなと。その実際にイベントに入ったユーザー体験や、展示の世界に入った時の見せ方、アートディレクションで奥行きを感じられるように、具体的に企画に入りました。(中村洋基氏)

岸本和也(電通)

岸本和也(電通)

強力なストーリーテリングと高いクリエーティビティが評価

――受賞作品への評価・反響はいかがでしたか?

岸本審査員の方から、「ただテクノロジーを使うだけでなく、ストーリーテリングと結びつけて、難しい環境問題に挑戦していた」という旨の講評をいただきました。技術的なところだけではなく、それを絵画、展示に活かして、どう楽しみながら学んでもらうかを評価していただいたのは嬉しいですね。

案浦来場者の方々の反応も嬉しかったです。たとえば、仙台市近郊の海洋ゴミを拾っているNPOにご協力いただいて、海洋ゴミを展示スペースの真ん中に展示したのですが、子どもたちが「わあ、汚い」と素直な反応をしてくれました。お母さんが「ゴミを海に捨てちゃいけないんだよ」と自然に話していたのが印象に残っています。

床の真ん中に海洋ゴミを展示
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床の真ん中に海洋ゴミを展示

「社会課題解決×AI×クリエーティブ」を軸に今後も挑戦

――Spikes Asiaでの受賞は、どのような意味がありましたか?

岸本電通デジタルが内製しているアドテクや制作物は、海外でも評価され得るものなんだと自信を持てました。電通デジタル独自のメニューを掛け合わせて、見せ方を工夫すれば、実はフラットに世界と戦える、世界標準のものを提供できると思ってもいいと感じています。

案浦広告賞への挑戦は、普段の仕事ではルーティンになりがちな部分にも、視点を広げてくれますよね。

――そのように視点を広げる機会を作る「ACRCの部内コンペ」の意義は大きいですね。

岸本部内コンペにはACRCに所属していれば、普段クリエーティブに関わっていなくても誰でも参加できます。ACRCには、電通でテレビなどマスメディアのコミュニケーション施策を手掛けてきた人たち、バナーや検索連動型広告などのインターネット広告を手掛けてきた人たち、AI技術に長けた人たちなどがいます。だからこそ、さまざまなアプローチで課題に挑戦できるのではないかと思います。

案浦部内コンペのプロジェクトは、そうした特性を活かすために、ACRC前部門長の並河進さんと中村さんが発起人として立ち上げてくださったんです。私は電通デジタルに出向して企画を出しましたが、出向してACRCの様々な職種メンバーと一緒に仕事をしていなかったら実現までもっていけなかったと思います。石川さんも翌年異なる企画で応募していますし、続いていることに意義があると思いますし、ぜひ続けて欲しいです。

石川このプロジェクトのアウトプットを見て、見た人がネガティブにならない表現の仕方が大切だと勉強になりました。私はAIにより「指名手配被疑者」の過去の写真から今の姿を予測する「TEHAI」プロジェクトにも参加しましたが、これからも新しいことにトライしたいです。

案浦中村さんも「AIの中でも新しいエンジンを用いたり、テクノロジーとクリエーティブの組み合わせで"これは見たことなかった!"と目からウロコが落ちる表現やソリューションに今後も挑戦したい。ACRCはその2つを兼ね備える人材がいることが何よりのウリです」とおっしゃっていました。これからも、「社会課題解決×AI×クリエーティブ」を軸に、皆がワクワクする施策に挑戦していきたいと思います。