2021.06.04

カスタマーサクセスを実現する「データの使い方」とは?

トレジャーデータと電通が駆動させる、DXのエンジン #7

さまざまなビジネスでいま注目されているカスタマーサクセス。顧客に成功体験を提供するためには何が必要なのでしょうか。

電通デジタルでDX支援を担当する阿部智史氏と、顧客データ基盤を提供するトレジャーデータでカスタマーサクセスを担当する重原洋祐氏の対談から、カスタマーサクセスとデータの関係が見えてきました。

※所属・役職は記事公開当時のものです

トレジャーデータ株式会社
カスタマーサクセスディレクター

重原 洋祐

株式会社電通デジタル
ビジネストランスフォーメーション部門
グループマネージャー

阿部 智史

カスタマーサクセスはビジネスの閉塞感を打ち破れるか

阿部 私は電通デジタルでDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。中でも、カスタマーサクセス領域の支援をしています。

クライアントには、いわゆる大企業の方々も多くいらっしゃいますが、話をしていると、どの企業も現状に対して大きな危機意識を持っていると感じます。

重原 どのような危機感ですか?

阿部 大きな視点で、人口減少や市場変化といった日本経済の先行きへの危機感ですね。そのためにさまざまな意味での変革を考えていらっしゃいます。

重原 大きい組織になればなるほど、今までのビジネスの形を変えるのは簡単なことではないですよね。

阿部 特に「目先の売上」や「新規顧客の獲得」に重きを置いたKPIを設定してきた企業が、現在の社会状況の変化に苦しんでいらっしゃると感じています。つまり、「今の時代は目先の売上ではなく、LTV(顧客生涯価値)を上げていかなくてはいけない」という危機感は皆さん持っているのですが、具体的にどうすればいいのかが分からないという課題も抱えているのです。

重原 そうした企業の課題を解決するために、カスタマーサクセスの取り組みを始められたのですね。

阿部 はい。もともとカスタマーサクセスは、BtoBビジネスの世界から始まった考え方でしたが、この2年間ほどはBtoCも含め、さまざまな業種・業態のクライアントのカスタマーサクセスを支援してきました。支援の内容は先ほど述べたように、「顧客にモノやサービスを売る」ビジネスから「顧客体験の向上により、LTVを上げる」ビジネスへのシフト。いわゆる「売らないマーケティング」ともいえる手法を用いた、長期で顧客との関係性や信頼を築くための支援です。

その中で見えてきたのが、顧客体験の設計における「データ」の重要性です。トレジャーデータと協業体制をとったのも必然でした。今回、そのトレジャーデータでカスタマーサクセスを担当されている重原さんと対談できることを非常にうれしく感じています。

重原ありがとうございます。トレジャーデータで私が率いているチームでは、主にクライアント企業に対して、当社が顧客データ基盤として提供する「Treasure Data CDP」を活用し、ビジネスを推進する支援を行っています。最近ではDXの文脈で、Treasure Data CDPという1ツールの範疇を超えたサポートを求められることも増えてきて、私たちのカスタマーサクセス自体も変化しているところです。


データ活用を推進できる企業とできない企業の差はどこにあるか?

阿部 重原さんは、カスタマーサクセスへのデータ活用について、どういう捉え方をしていますか?

重原 私はこの10年、データビジネスの領域で仕事をしてきましたが、その感覚からいうと、生活者にサービスを提供する企業にとってのカスタマーサクセスとは、広義で「レコメンドの延長」だと思っています。

これまで、インターネット上の接点にレコメンドエンジンを活用していたような施策が、リアルの行動データなどもつなげることで、より広範に顧客へのレコメンドができるようになったのが、近年の大きな変化です。つまり、ウェブブラウザの閲覧履歴といった「オンラインデータ」だけでなく、「オフラインデータ」を組み合わせて分析できるようになった。

阿部 以前は扱うことができなかったオフラインのデータも活用して、顧客をより深く理解することで、「より良い体験を提供する=カスタマーサクセス」へとつながっていくわけですね。

重原 Treasure Data CDPでできることは、データを「収集・格納」し、Treasure Data CDP内で「統合・分析」を行い、「施策に反映」すること。この3つで、非常にシンプルです。シンプルゆえどのようなケースにも応用が効くのですが、それだけに「何をやりたいか」を整理しなければなりません。

特に、生活者にサービスを提供する企業にとっては、「顧客を理解しより良い体験を提供するために、どんなデータを、どうつなげていくか」という全体設計が重要です。

阿部 重要なのはツールの使い方ということですね。Treasure Data CDPの導入も増えてきた中で、データをうまく使えている企業とそうではない企業がいらっしゃると思うのですが、どのような違いがあるのでしょうか?

重原 私は「組織」が重要なポイントだと思います。全社的にデータを活用して自社ビジネスを変えていこうとする意思がある組織はうまく進んでいる印象がありますね。一方、縦割りの組織で取り組んでいる場合はうまくいかないことが多いなとも思います。要は横の部門の協力関係の有無ですね。

例えば、必ずあるはずのデータが隣の部署の管轄だから使えず、結局オンラインのデータしか使えないとか。ITやマーケティングを含めてさまざまな部署が連携し、協調する必要があります。

阿部 なるほど、私も同感です。組織の壁が一番大きい。

重原 もちろん、きちんとDXを推進していこうという企業は増えてきていますので、導入の前段階から「組織」という観点も踏まえてお話しすることが多くなりましたね。


クライアントを成功に導くための4つの変化

阿部 ここまでは、「生活者にサービスを提供する企業」にとってのカスタマーサクセスについて話してきました。ここからは、トレジャーデータ自体がクライアントに提供するカスタマーサクセスの取り組みについてうかがいます。まず、どれくらい前からカスタマーサクセスに取り組まれていますか?

重原 私が加わる前ですが、チーム自体は5~6年くらい前からあります。

阿部 5~6年前だと、カスタマーサクセスという概念自体があまり浸透していない時期ですよね。トレジャーデータにとってのカスタマーサクセスとは、どういうものなのでしょうか。

重原 トレジャーデータのようなSaaSのビジネスにおけるカスタマーサクセスの定義って難しいのですが、本質的にはやはり「顧客の満足度をどう上げるか」「どうやって成功体験をつくるお手伝いをするか」ということです。一部ではカスタマーサクセスはポストセールスが目的ともいわれますが、そのようには考えていません。

トレジャーデータにカスタマーサクセスのチームができた当初は、メンバー1人で非常にたくさんのクライアントを担当することもあったようです。正直、負担が大きいですよね。そんななか、私は2019年からトレジャーデータに加わり、その半年後にはカスタマーサクセスを担当するようになりました。

阿部 今ではチームの人数もかなり増えたそうですね。

重原 以前は10人ほどでしたが、現在は40人を超えるチームです。1年半くらいかけて、よりクライアントのビジネスを成功に導くためのチームに変化させてきました。

私がまず取り組んだのは、カスタマーサクセスからポストセールスの役割を完全にカットし、クライアントのサポートに注力しようということです。当時カスタマーサクセスはセールスチームに属していたので、ポストセールスの意識が強かったのです。

阿部 重原さんが加わる前は、カスタマーサクセスの重視するポイントがまだ固まっていなかったのですね。

重原 はい。「それってカスタマーサクセスなんだっけ?」という。ポストセールスの役割をカットしたのは、本質的にクライアントを成功に導くために必要な変更でした。

次に取り組んだことが「顧客満足度評価」の導入です。以前からアンケートとして指標はあったのですが、2020年からは、実際にTreasure Data CDPを運用されていたり、意思決定されていたりするクライアントの担当者に対して、より定期的・定量的に、CDPへの満足度についての調査を行っています。担当者の評価やプロダクトへのフィードバックをいただき、サービスや機能の改善につなげています。

3点目は、「クライアントがTreasure Data CDPをどう使っているのか」を、データとして可視化しました。もちろん私たちは「クライアントがどのようなデータを取り扱っているか」ということは見られないシステムになっていますので、セキュリティー面は安心いただけます。

ここでいう可視化とは、「クライアントがどれくらいのデータ量をインポートして、どういった処理を回しているのか」といったことです。つまりベンダーとしての観点で、データの統合やダッシュボード化、またサードパーティー製のプラットフォームやマーケティング活動との"つなぎこみ"を行い、必要なときに必要なサポートができるようなシステムを構築しました。要は、Treasure Data CDPの活用状況から、クライアントが何に困っているかを分析し、私たちのサポート活動を最適化できるようにしました。

阿部 クライアント自身の声を聞くことと、クライアントのCDPの運用状況を見ること、2つの手法でリサーチすることで、「どうすればカスタマーサクセスを実現できるか」を分析できるようにしたのですね。

重原 そして4点目は、クライアントへのナレッジの提供です。CDPを使っていただくクライアントは企業であって、個人での契約はありません。そのため、個人でも使われるようなAmazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform (GCP)といったツールと比べると、ウェブ検索で出てくるナレッジというのがほとんどないんですよね。

そこで、トレジャーデータでは2020年4月から、「Treasure Academy for CDP Masters」というCDPのトレーニングサービスを提供開始しました。また、契約者限定でログインできるウェブサイトにカスタマーサクセスチームが記事を投稿し、ナレッジの拡充に努めているところです。


カスタマーサクセスに求められるKPIとは?

阿部 短期間で多くのチャレンジをされているのがよくわかりました。「顧客の成功体験を提供していく営み」がカスタマーサクセスだということに非常に共感します。ただ、「売上」などの数字をKPIとして背負っている担当者の方と話していると、どうしてもアップセルやクロスセルを勧めるといった話になってしまいがちです。

重原 その点については、KPIの設定が重要ですよね。クライアントのビジネスがBtoBなのかBtoCなのかでもちろん異なるとは思うのですが、KPIとして設定すべきは「顧客満足度を最大化する」ということに尽きるのではないでしょうか。カスタマーサクセスは直訳すると「顧客の成功体験」ですが、成功がなければ満足度は低くなり、当然不要になれば解約されて、結果として売上も下がってしまいますよね。

阿部 私はクライアントに対して、「マイナスを0にする価値と、0をプラスにする価値で分けて考えましょう」とよく話しています。「顧客が商品の使い方を分かっていない」とか、「商品を使うために余計な手間がかかっている」とか、顧客にとってマイナスになっている状態を徹底的に取り除いていく、つまりマイナスから0にする。これ自体は確かに直接お金を生む活動ではないのですが、その努力によって顧客がずっと使い続けてくれれば、長期的には売上にもつながります。一方、「新しい機能を提供する」などは、その先にある「0からプラス」のことです。

重原 「まずはマイナスから0にして、そのあと0からプラスを増やしていく」という考え方は、BtoBとBtoCのどちらのビジネスでも共通して重要でしょうね。

阿部 カスタマーサクセスは「売らないマーケティング」だという言い方がありますが、「マイナスを0にする」ことでも顧客満足度が高まり、「0からプラス」としてのアップセルやクロスセルにつながるのだと思っています。


データをつなぎ、顧客理解を深めることが成功をもたらす

阿部 最後に、「カスタマーサクセスとデータ活用」というテーマをもう少し掘り下げたいと思います。私はカスタマーサクセスを担当していて、いろいろなクライアントから「データはあるけど分析に膨大な時間がかかる」だったり「データの何を見ればいいのか分からない」といった悩みをよく相談されます。こうした悩みが出てくるのは、「企業にとって、自分たちの顧客がどうあれば幸せなのか、成功するのか」をしっかり考えなければならない状況にあるということだと思うのです。

重原 本当にそう思います。そしてそのためには、先ほど言ったように「オフラインとオンラインのデータをつなぎ、顧客理解を深めていくこと」が重要になってきます。実際にTreasure Data CDPをそのように活用していただいているクライアントも多く、事例も増えてきています。

例えばある家電メーカーでは、会員サイトに導線を用意して、顧客に購入製品を登録してもらっています。そしてサイト内には「商品の使い方でつまずきがちなポイントの解決策」などがわかるコンテンツを用意して、その閲覧履歴データなどをもとに、製品開発にフィードバックする、といった使い方をしています。

また、別のクライアントとの取り組みでは、データを活用した「需要予測モデル」を構築しています。顧客の購買履歴などの情報をもとに商品の需要を予測し、供給を最適化することで、来店顧客の満足度を向上させられるわけです。さらに、店舗で働く人材の最適化にもつながります。

阿部 興味深いですね。まさにデータ活用が顧客の成功体験につながる事例だと思います。同じような施策を行いたいと考えるクライアントはたくさん出てくるでしょうね。

重原 そうですね。この需要予測モデルの事例は、オンラインのデータだけでは実行は難しくて、いかにリアルのデータを一意のIDにひもづけて、顧客をより理解できるのかが重要なポイントです。

そこで、電通の推進するカスタマーサクセスと、トレジャーデータのデータソリューションが協業することで、リアルのデータを活用したカスタマーサクセスの動きがより活発になっていくと思います。これからもお互いに強力なパートナーとして、クライアントのビジネスを成功に導くエンジンになっていきたいですね。

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