2021.03.25

DXのその先へ!データから次の一手を見出すには

~データを「成績表」ではなく「コンパス」にするための行動分析~

DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増え、さまざまなデジタルデータが社内に蓄積されるようになりました。しかしながら、蓄積したデータをどのように活用すべきかが今後の成長を左右する課題となっています。

本稿では、その1つの答えとして、新しい分析手法である「行動分析」のもつ大きな可能性、効果について取り上げます。

行動分析で強みをもつ3社がそれぞれ、「行動分析とは何か?」(電通デジタル)、「DX推進の次の一手」(Amplitude)、「事業グロース伸び悩みの処方箋」(ビービット)と題し、行動分析の概要や効果、具体的手法や事例を紹介します。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

株式会社電通デジタル
サービスマーケティング事業部
プランニングマネージャー

押山 裕之

Amplitude .inc
日本カントリーマネージャー

米田 匡克

株式会社ビービット
UXインテリジェンス事業部

佐藤 駿

行動分析とは何か?

電通デジタル 押山 まずは「行動分析とは何か」について、次の4点にわたって解説します。

  • 行動分析の概要
  • 行動分析の必要性
  • 行動分析データの特徴
  • 行動分析の活用ポイント

行動分析の概要

「行動分析」にはさまざまな意味がありますが、本稿では「顧客のインサイトを得るための分析手法の1つ」と定義しました。具体例として、次の図を見てください。

Zoom

通常のアプローチ設計で考えると、「TOP訪問」から「商品購入」まで、チャネルごとに順番に進むことを前提に顧客の動きを把握してしまいがちです。しかし実際の顧客行動は、「TOP訪問」から「詳細訪問」を経ずに「CPN閲覧」に到達するなど、複雑に進むことが多くあります。それを踏まえて、「チャネルごとに閉じることなく、商品・サービスの接点における実際のユーザー行動結果を捉えることができるもの」が行動分析なのです。

上記のように行動分析はユーザー行動の経路や経過を把握できるため、「顧客体験の分析」と表現することもできます。

行動分析の必要性

では、行動分析はなぜ必要なのでしょうか?それは、「顧客体験とその継続的改善がビジネスに成果をもたらす」と考えられるからです。このことを示すソースとして、次の2つを紹介しましょう。

エクスペリエンス投資がビジネスに及ぼすインパクト

Forrester Consultingが顧客体験の効果を調査したホワイトペーパー(2018.4 Forrester Consulting Thought Leadership Paper)によると、顧客体験型ビジネスは従来型ビジネスと比較して1.6~1.9倍の向上が見られるとあります。

アフターデジタル2[注1]

ビービットの藤井保文氏が書かれた書籍『アフターデジタル2』では、継続的な顧客体験の改善サイクルをつくることが成功の最も重要なポイントだと書かれています。

行動分析データの特徴

行動分析データには、大きく3つの特徴があると考えられます。

  1. データの性質として「定性・定量の性質」
    一般的にデータは定性、定量のいずれかに分類され、それぞれに目的・役割をもっていますが、行動分析データは両方の性質をもっています。
    たとえば、行動分析データである「行動観察」「ヒアリング」「ビッグデータ」「アクセスログ」を用いれば、ユーザー行動の背景を探索し、発生事象を正確に把握することができます。
  2. データの使用用途の範囲として「使用用途の広さ」
    一般的なマーケティングプロセスでは、①戦略・調査・企画、②提供・実行、③検証・分析・予測というように進みます。このプロセスに、先にあげた行動分析データをあてはめると、戦略から検証までのプロセス全般に使用可能だとわかります。
  3. データ活用のタイミングとして「企画・実行と連携」
    データ活用のタイミングを考えてみると、行動分析データは広告のような即時性の高い施策や、UX企画でのユーザー行動結果を読み解くためにも使用できるなど、幅広いタイミングで活用できることも特徴の1つです。

行動分析の活用ポイント

では、顧客体験(CX)を進化させるために、行動分析を活用するポイントは何でしょうか? 顧客体験設計の手法としては、「CXリサーチ」と「CXデザイン」を実施するダブルダイヤモンドが知られています。しかし、このプロセスが循環せず、一方通行のまま終わってしまうケースが多い点に、グロースの課題があるのではないかと考えられます。

次図のように「行動分析」を加えて、顧客体験の検証からUXの企画立案までをつなげることで、顧客体験設計の好循環サイクルをつくることができます。つまり行動分析は、顧客体験をベースとしたサービスモデル作成のうえで、今後キーとなる有効な手法だといえます。

Zoom

DX推進の次の一手

Amplitude 米田 グローバルにおけるDX課題と次の一手としての「行動分析」について、次の4点にわたって解説します。

  • グローバルにおけるDX課題
  • DX推進で実現できるようになったこと
  • DXのよくある課題
  • ユーザー行動分析が注目されている理由

グローバルにおけるDX課題

2020年、Amplitudeは社員数100人以上のグローバル企業350社(米/英/加/豪/印)に対して、「DX推進における課題に関するアンケート調査」を行いました。その結果からみえてきたことが、次の3点です。

  1. 9割強が、ユーザー行動の把握への優先度が高いと認識
    DX推進における今後の優先事項は何かという質問に対して、上位3つの回答は「UXの向上97%」「ユーザー行動分析94%」「ユーザー継続率92%」。
  2. 実際にユーザー行動分析を実現できている企業は20%と少ない
    利用している分析基盤は何かという質問への上位3回答が「Google Analytics 57%」「BI(Business Intelligence)32%」「自社分析基盤SQL 22%」。次が「ユーザー行動分析20%」。
  3. ユーザー行動分析環境を整備できた企業は高い成長率を実現
    ユーザー行動分析が実現できている20%の企業に、前年度売上比率(2019年と2020年を比較)を聞いたところ、「25%以上の売上向上をした企業は44%」。

DX推進で実現できるようになったこと

では、DX推進で可能になったことは何でしょうか? 多くの企業が「過去のパフォーマンス集計が瞬時にできるようになった」ことをあげています。たとえば、過去6ヵ月間のアクティブユーザー数の推移や、そのなかで購入ユーザーがどれだけなのかといったことです。

そして、こうした過去パフォーマンスの集計ができることで、「課題の抽出」を行えるようになりました。たとえば次の図をみると、ブルーの箇所は過去6ヵ月間のユニークユーザーのアクティブ率(100%)で、それに対して右のピンクの箇所はアクティブユーザーのなかで31.1%が購入していることを示しています。

購入ユーザーが31.1%ということは、残りの68.9%が伸びしろです。この伸びしろをどうやってビジネスチャンスに結びつけるのか、エンゲージメントを高めるのかが課題だとわかります。

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DXのよくある課題

先の例では、購入ユーザーの比率を上げる具体策を見出す必要があることがわかりましたが、実はこの「改善の示唆出し」こそがDXの課題だと考えられます。というのも、ビッグデータでさまざまなインテリジェンスを集めたとしても、ここからはマーケター、データサイエンティストといった「属人的な力量に依存する企業が多い」からです。

たとえば、「購入ユーザーは、うちのコンテンツにエンゲージメントが高い人たちだろう」「毎日3回以上来ている人たちを、エンゲージメントが高いとみていいだろう」と仮説を立てたとします。そしてその仮説をもとに、いきなりSQLを叩いて示唆出しを行う企業が多いのです。せっかくマーケティングオートメーション(MA)を導入しているにも関わらず、です。

ユーザー行動分析が注目されている理由

こうした示唆出しに対して、ユーザー行動分析は有効です。最も購入率が高い人たちがどのような行動をした人たちか、といったことがビッグデータから統計的に見つけることができるからです。

次の図の例のように、ランキングを見たユーザーが「多くの人が買っているなら私も買おう」と思って購入率が上がるかもしれない、といった示唆が見えてくるのです。

Zoom

これを別の言い方では「マジックナンバー」といいます。Facebookが活用していることで有名で、「Facebookの新規ユーザーが10日間で7人の友だちをつくると、エンゲージが高まって長い間使ってくれるパワーユーザーになる可能性が高い」という示唆が出ています。

実は現在のMA技術では、マジックナンバーを見つけ、効果検証をし、有効な施策につなげるという、ビッグデータからの改善示唆の抽出もオートメーション化されています。


事業グロース伸び悩みの処方箋

beBit 佐藤 私からは、定性的なところに焦点をあて、「質的データ」を用いた行動分析を紹介します。主な内容は次の4点です。

  • ローンチ後の伸び悩み課題
  • ローンチ後の改善プロセスと落とし穴
  • 課題解決の処方箋
  • 質的データ分析の導入事例

ローンチ後の伸び悩み課題

DXを推進している企業に話を聞くと、「アプリやWebサービスのローンチ後の伸び悩み」が課題だとよく伺います。

立上げ後しばらくは「目に見える課題」を解決することで着実に成長をしていきますが、半年ほどで目に見える課題が減ります。そして、どのような方向性でプロダクトを育てるべきかが見えにくくなってきて、グロースの傾きが鈍くなっていくのです。

ローンチ後の改善プロセスと落とし穴

では、サービスローンチ後の改善をどのように行えばよいでしょうか? 次の図のように、データを分析して改善の示唆を導き出し、具体的なアイデアに落とし込んで、優先度をつけて実験していくというプロセスが一般的です。

Zoom

グロースハックの王道と言われている業務では、「分析」フェーズにおいて、「量的データと質的データ、つまり定量データと定性データの両方を使って改善の示唆出しをしよう」とされています。しかし、日本では、「量的なデータのみが正義である」「改善数こそが正義である」といった傾向があり、質的なユーザー分析がないがしろにされたまま企画に移行してしまうことが多くあります。

そうなると、次のような問題が生じます。

  • チーム内で課題に関する認識がそろわず、アイデアが散らばってしまう。
  • 解くべき課題を精緻に理解する天才はほとんどいないため、大きな成果が得られる改善案が生まれない。
  • ユーザー状況の観点から施策の振り返りができず、個別最適の改善ばかりが進んでしまう。

課題解決の処方箋

そこで、「ビジネス分析」と「ユーザー分析」の2つに分けて推進することをお勧めします。

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ビジネス分析では、量的データを使って何が起きているかを可視化します。たとえばコンバージョンファネルのどこで離脱する傾向があるのか、といった全体を俯瞰した特徴を見出すような分析手法です。

一方、ユーザー分析では、質的データを使ってなぜ起きているかを可視化します。ビジネス分析で見つけた特徴や実態がなぜ起きているのか、相関と因果をしっかりデータから捉えるわけです。

質的データ分析の導入事例

では具体的に、質的データ分析を導入して成果を創出した「カラーコンタクト(カラコン)の販売アプリ」の事例を紹介します。このサービスのメインターゲットは10代から20代の女性で、すでにビジネス分析を行っていました。

購買データからの分析によって、「特定の期間に初回起動したユーザーはライフタイムバリューが高い」「購入ユーザーは、同じ色のカラコンを買い続ける」といった傾向がわかっていたわけです。

しかし全体の成果は伸び悩んでいたため、買い替えのタイミングで青のカラコン購入者には「青のカラコンをまた買いませんか?」といったプッシュ通知を試そうとしていました。

一方で、質的データを用いたユーザー分析結果では、青のカラコンを買い続けるお客様も、黄色や紫のページや口コミを見ていることがわかりました。「他の色にも興味があるけれど、勇気が出ない」といったユーザー心理が見えてきたのです。

定量データの背景にある理由や原因を、質的データを用いて理解していくと、サービスの成長に役立つと考えられます。


本稿では、企業内に蓄積されたデータの活用法として、「行動分析(顧客体験の分析)」の重要性を紹介してきました。顧客体験を継続的に改善していくことがビジネスに成果をもたらすからです。

たとえば行動分析では、定量要素によってコンバージョンファネルのどアクションの部分で離脱する傾向があるかといった「特徴」を見出し、定性要素を用いることでゴールに到達するまでの道筋における「理由」を理解して改善示唆を得ることができます。ビッグデータから改善示唆を得るまでのプロセスを取り入れた「行動分析」が、事業をグロースさせていく次の一手になるといえるでしょう。

(本記事は、2021年1月12日に開催されたウェビナーの内容を再構成したものです)


脚注

出典

1. ^ 藤井保文(著)『アフターデジタル2 UXと自由』日経BP、2020年

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