2020.09.18

ニューノーマルは本当?必要なトランスフォーメーションとは?No.3

顧客、従業員、事業の三つをどう動かせば強い組織になる?

#DX

7月16日、電通、電通デジタル、ビービットの3社がウェビナー「ニューノーマルの時代に求められるトランスフォーメーションとは?」を開催しました。

withコロナの時代、不可逆となった変化を受け入れて、新しい社会や常識をつくっていくことを指す「ニューノーマル」という言葉がよく聞かれます。しかし実際に何がニューノーマルで、何がそうでないのか?

言葉の定義に振り回されることなく、withコロナの時代に企業が何に取り組んでいくべきなのかを、異なる立場で視点を持った3人の有識者が語りました。

最終回は、電通デジタルのDX部門の責任者である八木克全氏が、コロナ禍において企業が目指す組織の在り方を提案します。

(モデレーター:電通デジタル 加形拓也)

※本稿は『ウェブ電通報』の転載記事です
※所属・役職は記事公開当時のものです

株式会社電通デジタル
デジタルトランスフォーメーション領域執行役員

八木 克全

五つの鍵で小さく始めて大きく変革する

企業の目指すべき大きな方向性が見えたところで、最後の登壇者として電通デジタルの八木克全氏が立ちました。

同社でトランスフォーメーションコンサルティング&デザイン組織を立ち上げ、DX領域執行役員を務める人物で、まさに今、日本企業がどのようにDXを実行していかねばならないかを最も知る人材といえます。

そんな彼が掲げた、トランスフォーメーションのためのキーワードは、

「五つの鍵で小さく始めて大きく変革する」

というものでした。

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八木氏は、冒頭、元am/pmの相澤利彦氏から教わったという「七つの資本主義」という書籍について紹介しました。

「資本主義」というのは一見すごくシンプルなコンセプトであるにもかかわらず、国によって使われ方が全く違うということを解き明かした書籍で、どんな素晴らしいコンセプトであっても、国の文化や価値観と折り合いを付けないと機能しないというのです。

本書では、「協力しながら競争する、いわば集団主義と個人主義が矛盾するのが日本の資本主義である」と記してあり、八木氏は「すごく納得感があった」「今のコロナ禍の状況に対して、かなり学ぶことがあった」と述べました。

ここで八木氏は、「鈴木氏の言う"四方よし"を進めていくに当たって、五つの鍵がある」と提議しました。

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  • 鍵1 顧客が使い続ける提供サービス
  • 鍵2 従業員が楽しく自走するサービス提供プロセス
  • 鍵3 社会にとって意義のある存在
  • 鍵4 デジタルプラットフォームと「四方よし」をつなぐストーリー
  • 鍵5 社内外の必要なところにヒト・モノ・カネを最適に配置できる組織

これら一つ一つの鍵は小さなところからスタートして、最終的にブランドとして成長するというのがニューノーマル時代のトランスフォーメーションということです。


サザンオールスターズに見た新時代の"四方よし"

具体例として八木氏がまず挙げたのが、藤井氏の話にもあったサザンオールスターズの特別ライブです。

横浜アリーナで、最大収容人数が1万7000人で、1人9500円のチケット代金だとすると1億6000万円の売り上げになります。しかし、サザンが今回デジタルで有料配信したことで、50万人が同時視聴し、6億4800万円ぐらいの売り上げがあったのではともいわれています。

「やっぱり、今、売る側にとってデジタルプラットフォームが機能していて、例えばソーシャルの中で盛り上がったものを刈り取っていく"見逃し配信"だったり、Spotifyがすぐに当日のセットリストを再現したプレイリストを公開したり。一過性のイベントというよりも、より音楽を楽しむ、それも本質的に質の高いものを楽しむというところまで消化した案件だと思っています」

続いて八木氏は、二つ目以降の「鍵」についても言及しました。

「コロナの影響でスタッフが職をなくすということがけっこうあった。そこに400人のライブスタッフを投入して、高品質なコンテンツを通常通りつくり、配信するという。それを追いかけて報道する記事が出てきたりして、それを見たファンはますますサザンを応援したくなるし、こういうイベントをつくり上げてくれている裏方のスタッフも応援したくなる。そういうことが社会に対して発信され、バズっていった事例なんです」

ここでサザンの事例を、八木氏が最初の「五つの鍵」に整理してくれました。

  • 鍵1.顧客がサービスを使うというときに、質の高いリアルタイム体験が提供された他、見逃し配信・プレイリスト配信といった補完するオンライン施策がよく機能した。
  • 鍵2.新型コロナウイルスによって活躍の場所がなくなっていたライブスタッフに活躍の場を提供した。
  • 鍵3.本来、おカネを払う価値があるというのは、リアルな大規模会場で実際にやるものを見るというところに基本はあった。でもそれだけじゃなくて、お客さん側に「コロナ禍対策で、お金を払って貢献したい」というモチベーションが出てきた。さらに、こうした事態全てが、報道含めて社会で比較的好意的に共有されたのは、意味合いとして大きい。
  • 鍵4.バリューチェーンが機能していた。高品質な有料配信無観客ライブというものにもともと投資していたアミューズがまずいて、そこにデジタル配信プラットフォームが乗っかってくる。こういうバリューチェーンをしっかり埋めたのが今回は大きかった。
  • 鍵5.こういう鍵1~4がある中で、日本の一大行事として受け止められ、感染拡大を阻止しながらの本格的なエンターテインメントとしてうまく機能した。
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このような例を通じ、鈴木氏の提唱した「四方よし」を実現していけるのではないかと八木氏は語ります。また、特に最初の四つの鍵を考えながら施策をつくっていくと効果が出やすいとも改めて語りました。


DX加速のために「顧客」「従業員」「事業」をどう動かす?

このように、人が直接接触できる接点がなくても、「デジタル・ハイタッチ」が加速していく予感があり、八木氏としても

「われわれが企業のDXを加速させることが、社会をより早く幸せにする。取り組む意義がある領域」

と使命感を覗かせました。

そして、こうした取り組みを通常の事業推進に活用するため、"動かしたい三つのモノ"として、「顧客」「従業員」「事業」を挙げました。

「お客さまと従業員を動かすことで事業を動かすというところにヒントがあるのではないか」と八木氏。

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まず顧客を動かすことについては、お客さんの心を震わせて、それを頭で理解してもらい、体で行動して納得してもらう必要があり、「それこそが生活に定着したり、周囲も理解するということで、買い続けたり使い続けたりすることにつながるんです」と述べました。

一方で従業員を動かすというのは、企業がミッションや組織をつくり、環境整備をして、その中に従業員を入れてKPIを設定し、その枠組みの中で事業を推進していくということ。事業がうまくいっていることで従業員も腹落ちして、意気に感じて、自律的に動く。そこまでやって「従業員を動かす」といえるだろうと八木氏は語ります。

つまり、顧客を動かすには「感性」「理性」「環境」の順番で。従業員を動かすには、その逆で。事業を動かす立場の人は「こういう順番で動くんだ」ということを前提に考えなければ、と。

従って、事業の構想と計画を立てるときは、まず顧客の心を動かし、従業員の環境を整えることが必要ですが、これだけではうまくいかず、実際に良い状況を生むには、お客さまと従業員に腹落ちさせ、意気に感じて自律的に動く状況を目指す必要があり、ここをつくるのが一番難しいのだと八木氏は述べました。

特に難しいのは、従業員。お客さまにはカスタマージャーニーがあり、ファネルの最上流で興味を持って使い続ける流れがあるのに対し、従業員側は商品開発からアライアンスまで分かれて存在しており、違う人が一人のお客さまに向き合うことになるので、「顧客と従業員」をセットで考えるのが難しくなります。

では、どうすればうまくいくのか。八木氏は成功事例を二つ紹介しました。

「一つは、損保会社です。自動車オーナーが『明日は5年に1度の大雪らしい。車に何かあったらどうしよう?』と思ったときに、企業側はどうするか。『明日、お車を運転するご予定がありますか』『万が一、雪や雹による損害が発生した場合に、ご加入いただいている車両保険の適用が可能です』とメッセージを送るんですね。加入者の顧客情報をちゃんと見ることで、チャットやメールやコールセンターが必要なタイミングで必要な情報をアウトバウンドできる。このようなアプローチが事業に貢献していることがデータとして証明されています」

もう一つの事例は、生保会社です。

「商談時は営業担当が気合を入れて事情を聞きますが、何かあってコールセンターに電話をすると、またもう1回全部イチから説明しなきゃいけない。それがきっかけで解約していくお客さまが多いんですね。最初の商談の情報をデータベースに書き込んでデータ連携すれば、適切な担当者が対応できるようになります。また、例えば子どもがいるお客さまであれば、同じくらいの子どものいるオペレーターが対応することで、同じママ同士なので話しやすくなり、やはり解約率を下げる効果が出ています」

さらに、海外のファッションブランドの事例では、顧客の目線と従業員の目線を持ったインフルエンサー、いわばプロ顧客のような従業員を使い、SNSなども活用して顧客に影響を与えている事例を紹介しました。

さて、顧客と従業員を動かしたら、いよいよ「事業を動かす」フェーズです。八木氏は、中国の美団点評(メイチュアン・ディエンピン)という、アリババ、テンセントに次ぐ第3位グループのプラットフォーマーの話を紹介しました。

「この会社はウーバーイーツ+食べログのような、フードデリバリーと口コミサービスを主とした事業者です。まずは高頻度に利用されているフードサービスを通じてユーザーを獲得し、そのユーザーコミュニティーを隣接する低頻度のサービス、つまりホテルとかお店への送客や予約獲得につなぐことに成功しています。プラットフォームとしての実力を証明し、収益がすごく上がっているんですね」

八木氏は、この事例を引いて「このように中国では、お客さまと従業員の間でやりとりされるデータを使いながら、新たな事業に広げていき、成功している会社が次々と出てきています。日本でそれを解釈し直して、どう展開するか。われわれは考えねばなりません」と決意を語りました。


これから日本企業が目指すべき三つの変革の方向性

ウェビナーのまとめとして、八木氏は日本企業に三つの変革の方向性を提案しました。

「一つ目は、顧客と従業員を分けて考えずに、一緒に協力することで企業活動の助けにすること。ブランドにアドバイスをするプロ顧客として、もう一方ではブランドの良さを伝えるプロ従業員として、そういう人たちが本音でぶつかり合えるコミュニティーをたくさんつくり、社会に開放する。そのことで、日本的な『協力と競争』を企業やブランドが社会に提供できるのではないか」

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「二つ目は、そうしたコミュニティーにたまるデータを判断基準に使って、自社のサービスのバリューチェーンをどう伸ばしていくのか。事業提携のような形も活用しながら、強固なバリューチェーンをつくっていく。データはそうした意思決定のヒントになります」

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「最後に三つ目ですが、こういう形で顧客や従業員がバリューチェーンを社会につないでいくということを、多くの会社がやろうとしています。その際は『自社のユニークな存在意義』をしっかりと見つけて、それを顧客や従業員の声も聴きながら推進していく。この三つの方向性で、社会の中で機能する強い組織をつくっていけると思います」

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