2020年09月15日

データテクノロジー

コラム

西日本シティ銀行でSalesforce Marketing Cloudを導入

※所属・役職は記事公開当時のものです。

西日本シティ銀行は、2020年6月、中期経営計画の基本戦略「お客さま起点の"One to One ソリューション"の提供」の施策の一つとして、「マーケティング自動化プラットフォーム(以下、本プラットフォーム)」の稼働を開始しました。

本プラットフォームでは、MA(Marketing Automation)ツールとしてセールスフォース・ドットコムのSalesforce Marketing Cloud(以下、Marketing Cloud)を採用。その設計・構築を電通デジタルが担当しました。

本稿では、Marketing Cloud導入の背景と目的、ツール選定で考慮したポイント、開発経緯と今後の展望について、西日本シティ銀行 吉村剛氏、尼田雅典氏と電通デジタル 越久村克士にお話を伺いました。

「お客さま起点のOne to Oneソリューション」実現の切り札

――Marketing Cloudを導入した背景についてお聞かせください。

吉村人口減少や異次元の金融緩和など、昨今、金融機関を取り巻く状況は非常に厳しいものがあります。そういった中、多くの銀行が収益力向上を目指して、ビッグデータを活用した個人顧客への対応力強化に力を注いでいます。

当行でも、2020年4月にスタートした中期経営計画「飛翔2023」[1]において、「地域の元気を創造する」というキャッチフレーズを掲げ、それを実現するための原動力として「お客さま起点のOne to Oneソリューション」の推進を宣言しています。

お客さま一人ひとりに対して、ヒューマンタッチとデジタルの両面から、その時々に最適なサービスを提供することで、お客さまの、ひいては地域社会全体の発展に貢献していきたいと考えています。

尼田なぜ今、「お客さま起点のOne to Oneソリューション」に取り組むのかと申し上げますと、これまでの一律的なプロモーションに対する反省があります。

従来のままでは、今後さらに多様化する顧客ニーズにお応えしていくことはできません。お客さまそれぞれに最適なタイミングでアプローチし、長くお付き合いいただけるような信頼関係を醸成するためには、これまでに当行がさまざまなチャネルで収集してきたデータを、適切に蓄積・分析・活用するためのシステムが必要だという認識がありました。

吉村剛氏(西日本シティ銀行)

吉村剛氏(西日本シティ銀行)

――MAの導入を検討されたのは、今回が初めてなのでしょうか。

尼田本格的な検討は今回が初めてです。ここ数年でクラウドシステムが一般化し、コスト的な懸念が低減したことが、本格的なMA導入検討の大きな後押しになっています。

4~5年前に、他の地方銀行との勉強会の中で、先行してMAを導入した事例を知る機会がありました。莫大なコストがかかるケースが多く、われわれも同じようなところを目指したいと思いつつも、なかなか実現に踏み切れなかったというのが正直なところです。

尼田雅典氏(西日本シティ銀行)

尼田雅典氏(西日本シティ銀行)

――Marketing Cloudの導入は「お客さま起点のOne to Oneソリューション」を実現するための切り札と考えていいのでしょうか?

吉村はい、そう捉えています。Marketing Cloud導入のために行ったPoC(Proof of Concept:概念実証)の実施期間が、ちょうど中期経営計画の策定期間にあたっていました。PoCの成果が経営層にも理解され、中期経営計画に反映されたという流れになっています。

ATMではなく、スマホアプリ起点でのシステム構築

――セールスフォース・ドットコムのMarketing Cloudを選定するに至った経緯をお聞かせください。

尼田ツール選定に際しては、さまざまなポイントから検討しました。特に、以下の3つの観点からなる4つのポイントは重点的に検討しました。

観点 ポイント
システム観点 ①クラウドで信頼性のあるサービスか
②行内で利用する「共同MCIFシステム」[注1]とスムーズなデータ連携ができるか
マーケティング観点 ③「西日本シティ銀行アプリ」を中心としたOne to Oneコミュニケーションが実施できるか
運用観点 ④自走で運用を行えるか

本プロジェクトの特徴は、顧客接点のポイントをATMではなく、スマホアプリ「西日本シティ銀行アプリ」においたところにあると思います。「西日本シティ銀行アプリ」は、2015年にリリースし、2020年6月現在、ダウンロード数は70万超あります。

従来、銀行が持つ最大のコンタクト・ポイントと言えばATMでした。他の銀行でMAを導入した際、多くはATMを中心としたシステムを構築しています。

これに対し、当行では、スマホが生活者のライフスタイルに幅広く浸透し始めていること、また今後キャッシュレス化への流れが強まることを見据えて、スマホアプリ起点のシステムを構築することにしました。コロナ禍以前の決断ではありましたが、今回のコロナの影響で、アプリの口座登録数は前年比の2.5倍(2020年6月時点)となっており、アプリに対するお客さまニーズの高まりを肌で感じています。

システム観点では、MCIFシステムとの連携のしやすさも、大事な選定ポイントのひとつでした。当行は、2013年より、他の地方銀行10行(2020年6月時点)と共同でビッグデータを集約・蓄積し、分析を行う「共同MCIFセンター」[注2]というサービスに参加しています。

これまで、そこで得られるMCIFデータを活用して、お客さまのセグメンテーションに関するさまざまなノウハウを溜めてきました。今後、このデータと、Marketing Cloud導入によって得られるお客さまの行動データを組み合わせて、さらに詳細なセグメンテーションを実施していくためには、MCIFシステムとの連携のしやすさが不可欠でした。

さらには安全性。銀行のコンタクト・ポイントは多岐にわたっています。店舗や法人営業、コールセンター、そしてデジタル上のお客さまの行動データなど、将来的にはお客さまの情報を一元化し、1つのシステムの中でしっかり管理していきたい。そのためにも、安全性は最重要ポイントです。そのうえで拡張性に優れている点も含めて、セールスフォース・ドットコムの製品に大きなメリットを感じました。

――ツール選定に関して、電通デジタルから具体的な提案はしましたか?

越久村今回のツール選定は、MAツールベンダー数社に提案を依頼し、その中から、西日本シティ銀行様にお選びいただきました。電通デジタルは、その際、ご判断いただくために必要な情報を取りまとめ、ご提供しました。

越久村克士(電通デジタル)

越久村克士(電通デジタル)

――電通デジタルは今回のプロジェクトでどんな役割を担っていますか?

越久村以下の3領域をご支援しています。弊社からプロジェクト全体の計画を提案し、採用いただきました。ともに課題に向き合いながら歩んでいくパートナーとして、取り組ませていただいています。

領域 支援内容
マーケティング領域
  • マーケティング戦略の立案

  • シナリオコンセプトの策定

  • シナリオ運用のフレームワーク化

テクニカル領域
  • ツール(Marketing Cloud)の導入・構築

  • マーケティングシナリオの設計・実装

PMO領域
  • プロジェクトマネジメント全般

――戦略策定からシステム構築まで、期間はどれぐらいかかりましたか?

越久村PoCを経てから、戦略策定、システム構築となったため、全体で約1年ほどです。戦略策定に時間をかけて重点的に行ったことや、関係システムが多数に上ったこともあり、時間的には、一般的な導入事例よりも少し長くかかっています。ただ、導入前にしっかりと目前の課題解決から中長期的な戦略プランまで検討されていたため、全体で見ると非常にスムーズなプロジェクト進行となりました。

――プロジェクトにおいて、もっとも難しかったことは何ですか?

尼田マーケティングシナリオの策定です。これまでは、単発のキャンペーンなど、施策単位での実施が多く、連続性を持った施策として検討する経験がほとんどありませんでした。

しかし今回、電通デジタルと一緒にマーケティングシナリオを作っていく中で、商品・サービスに興味関心のあるお客さまを絞り込んでいきながら、その時々に必要な情報を、適切なタイミングでお届けして、しっかりナーチャリングしていく、という流れを理解できたのは、本当に勉強になりました。

システムスタート時には7つのセグメントを作り、現在は5本のシナリオを走らせています。最終的にはセグメントを30程度まで増やしたいと思っています。

越久村通常のMarketing Cloud導入の際も、既存システムとの連携はプロジェクトの難所の一つですが、今回はAPIで各システムと連携する方法を採用したため、通常とは異なる難しさがありました。無事に構築できたのは、西日本シティ銀行様との緊密な連携のおかげだと思っています。

One to Oneマーケティングを高度化し、地域企業の成長支援へ

――今後は、Marketing Cloudを活かして、どのようにOne to Oneマーケティングを進めていく予定ですか?

尼田シナリオとプラットフォーム、両方の高度化をそれぞれ進めていきます。前者に関しては、お客様の理解を深めつつマーケティングシナリオの拡充を行い、PDCAを回す。後者は、コールセンター、店舗などのCRMや、紙DMとの連携を予定しています。

最終的には、グループ会社の九州カード、西日本シティTT証券のほか、外部の持つ3rdパーティデータなど幅広いデータと連携することで、さらなるマーケティングの高度化を目指していきたいと考えています。

吉村まずは、個人のお客さまを対象にスタートしますが、来年度以降は、法人、個人の事業者のお客さまへも同様にOne to Oneマーケティングを実践していく予定です。そのための接点として、各種法人向けサービスをワンストップで提供する「法人版プラットフォーム」の開発を進めています。そこを起点にMarketing Cloudを活用し、どういった経営ニーズがあるのかを把握しながら、お客さまに応じたソリューションメニューを提案する仕組みを作り上げていきます。

地域金融機関は地元の中小法人、あるいは個人の事業者とのお取り引きが多いですが、今回のコロナ禍によって、そのほとんどが大なり小なり影響を受けていらっしゃいます。そんな中、われわれは、資金繰り支援と合わせて、事業者の皆さまそれぞれに最適なアドバイスやサポートをしていく責務があります。Marketing Cloudの導入はその仕組みを支える中核でもあるのです。

最終的には、「西日本シティ銀行アプリ」「法人版プラットフォーム」を媒介に、事業者、個人のお客さまをつなぐビジネスができないか、しっかり研究して、実現していきたいと思っています。

――マーケティングの高度化・効率化に関して、電通デジタルとして、今後どのような提案を行う予定ですか?

越久村Marketing Cloud導入の柱の一つに「運用は完全自走で行う」とあります、まずは、西日本シティ銀行様自身が、きちんと自社でマーケティングプランを作って回すための支援プランをご提示していく予定です。

具体的には、マーケティング領域では、われわれのマーケティングシナリオプランニングにおけるフレームワークや各種ツールを用い、環境・進め方にあった「型」作りのご支援をさせていただく。また、テクニカル領域では、自走するためのスキルトランスファーをはじめ、Marketing Cloudを使いこなすため各種サポートのご提案を予定しています。

尼田行内では、Marketing Cloud導入から3年以内に完全自走できる体制を目指すと宣言しています。本気で取り組む覚悟を示したことで、人員等の体制強化についても経営層の理解を得ることができました。2020年4月1日付けの組織改正で新設されたデジタル戦略部の中の、マーケティンググループが担当します。

越久村克士(電通デジタル)

わかりやすいフレームワークが大いに役立った

――本プロジェクトを通して、電通デジタルの対応に対してはどのような感想を持ちましたか?

尼田フレームワークが素晴らしかったです。プロジェクトのステップごとに、わかりやすいフレームワークを用意していただき、チーム内の理解を深めることができるだけでなく、経営レベルへの説明の際にも役立ちました。

今回のプロジェクトでは、システムの導入という理系的側面の他、コミュニケーション設計といういわゆる文系的側面の両方が求められるものでしたが、双方ともに一貫してきめ細かい支援をしていただき、全体として大変満足しています。プロジェクト管理や課題管理も的確でしたし、コンサルティング面においても、当行単独では気がつきにくいお客さま目線の示唆が多く、今後に向けても大いに参考になりました。

吉村成果はこれからですが、予定していた6月スタートを実現していただきました。ご支援いただいたお陰で、営業部門を中心に、お客さまにとって本当に良いことをやろうとしているんだという、自信とやりがいを持って取り組んでいます。

今回培われた、連続性を持った施策を立てるための考え方は、ヒューマンタッチにおいても企画の起点になるものです。その意味で、われわれの営業部門、ひいては当行全体のレベルを引き上げてくださったという意味でも、本当に感謝しています。これからも、パートナーとしてご協力、サポートいただければありがたいと思います。

越久村非常にありがたいお言葉を頂戴しました。御行のビジネス課題を共有しながら、今後もパートナーとしてさまざまな領域でお手伝いできればと考えています。ありがとうございました。

脚注

注釈

1. ^ Marketing Customer Information File(マーケティング用顧客情報データベース)の略で、一般に「エムシフ」と呼ぶ。銀行、証券会社、カード会社など、主に金融系企業で使われる情報系システムの中核をなすデータのこと。

2. ^ 株式会社NTTデータが構築・運営する地域金融機関向け共同利用型マーケティングサービス。2013年に地銀6行の共同プロジェクトとして発足し、2020年6月現在、10行が参加。参加行のデータを蓄積・分析する「共同MCIFシステム」と、マーケティング分析を行う「ナレッジ・ラボ」の2つのサービスからなる。

出典

1. ^ "中期経営計画「飛翔2023~地域の元気を創造する~」". 西日本シティ銀行.2020年8月3日閲覧。