2020.04.28

ソーシャル&オウンドメディアの役割とコンテクストを考慮したコミュニケーション設計とは

インターネットの世界では、ユーザーが状況に応じて参照するメディアを使い分けるのは、ごく当たり前の行為です。ではいったい、どのような基準で使い分けているのか? それを知らないことには、企業はユーザーと適切なコミュニケーションを取ることはできません。

使い分けのカギとなっているのはメディアの「役割」と「コンテクスト」。コミュニケーションを最適化するには、メディアごとの役割を知り、コンテクストを考慮したコミュニケーションを設計する必要があります。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

オウンドメディアクリエーティブ事業部
マーケティングプランナー

兵頭 憲太

企業の運用担当者を取り巻く問題

ソーシャルメディアやオウンドメディアを取り巻く環境は、現在、領域多岐の時代です。

マーケティングのために企業が運用しておいたほうがいいメディアは、ソーシャルメディアだけでもバラエティーに富み、さらにはオウンドメディア用にもさまざまなツールや技術が登場。運用担当者は常にそのキャッチアップや習熟、運用に時間をとられています。

特に他業務との兼務や、少人数で担当することも珍しくない企業の担当者にとっては、非常に大変な状況だと言えます。

こういった環境下で、下記のような問題を抱えている企業は少なくないのではないでしょうか。

  • 領域が増えすぎてしまい、担当者の専門知識が追い付かない
  • メディアごとに担当者はいるものの、属人化されており、連携もできない
  • 新しいメディアやツールを使うこと自体が目的化しており、その先の展開がない

ユーザーが能動的に動かなくても、ありとあらゆる情報がインターネットメディアから流れ込んできます。たとえ大企業や有名ブランドといえども、企業が伝えたい情報を一方的に発信するだけでは、誰にも気づかれずに埋もれてしまうでしょう。

そうならないためには、きちんと個々のメディアの役割を理解し、そのコンテクストに合わせて情報を発信する必要があるのです。


メディアにはそれぞれ役割とコンテクストがある

一般的に企業がコミュニケーションに使えるトリプルメディアのうち、オウンドメディアとソーシャルメディア(アーンドメディア)の2つが持つ役割とコンテクストは大きく違います。

リアルの世界に例えるなら、

  • オウンドメディア=店舗
  • ソーシャルメディア=広場

とイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。

Zoom

店舗には店名があり、商品があり、店のオーナーがいます。店に入ってきた人は、商品に興味があるはずですから、その人たちに商品のアピールをするのは、ごく自然な行為です。

では、広場はどうでしょうか。広場に来る人たちには、それぞれいろいろなコンテクストがあります。散歩したい人、キャッチボールしたい人、のんびり昼寝をしたい人などなど。そうした人たちにいきなり商品をアピールすると、ほとんどの人はあまり良い気はしないでしょう。広場の雰囲気を壊したということで悪いイメージを持たれる可能性もあります。

店舗(オウンドメディア)は企業主体の場ですが、広場(ソーシャルメディア)はユーザー主体の場。これが役割の違いです。

では、広場では商品をアピールしてはいけないのか?いえ、そういうわけではありません。企業は、皆さんが楽しんでいる公共の場所に「お邪魔させていただく存在である」と自覚したうえで、それぞれの広場の特性と訪れている人の「コンテクスト」を考慮したアピールをする。そうすれば、喜んで受け入れられる可能性大です。

例えば、芝生が生い茂る広場で「ちょっと寝っ転がって昼寝したいなあ」という様子の人には、ブルーシートを配ってみてはどうでしょう。

グラウンドが併設されている広場でキャッチボールをしたそうな親子には、ゴムボール。

都心の広場で散歩している人には、ペットボトルのミネラルウォーターを。

それらにちょっと気の利いた形で企業の商品説明が書かれていたとしたら、意外と快く受け止めてくれる人は多いのではないでしょうか。

ユーザーに関心を持ってもらい、情報を理解してもらうためには、その場の役割とユーザーのコンテクストを理解し、それに合わせた形でコミュニケーションをすることが大切なのです。


メディアごとに「What to say」「How to say」を使い分け

メディアのコンテクストを踏まえた情報発信については、「What to say」「How to say」を強く意識することも大事なポイントです。

  • 「What to say」とは「『何』を伝えたいのか」
  • 「How to say」とは「『どうやって』伝えるのか」

「What to say」は各メディア共通でも問題ありませんが、「How to say」はメディアの役割やコンテクストに合わせて変えていかなければなりません。

例えば、ある企業が「新商品が発売されました」という情報をユーザーに伝えたいとしましょう。このとき、すべてのメディアに、同じテキストと画像を使った同一のコンテンツを流すのはNGです。あるメディアには最適かもしれませんが、別のメディアにはミスマッチを起こし、エンゲージメントの低下を招く可能性があります。

「How to say」とは、メディアの役割やコンテクストに応じて情報の伝え方を変えること。言い換えれば、そのメディアに最適なコンテンツ設計を行うことです。


コンテンツ設計は「文脈」と「目的」を明確に決める

「How to say」の考え方を踏まえ各メディアに最適なコンテンツ設計をするには、「文脈」と「目的」を事前に定め、何のための施策なのかを意識したプランニングを行うことが必要です。

ここで言う「文脈」とは、ターゲットとしたユーザーのバックグラウンドを示します。どういった属性で、どういった経路で訪れてきたのか、どういったモチベーションを持っているのか、などを内包します。

「目的」とは、そのユーザーに起こしてもらいたいアクションとは何なのか、ということ。

この2点をあらかじめ明確にすることで、ブレのないコンテンツ設計を行うことができます。


メディアの役割に応じたコミュニケーション設計

私が所属するエクスペリエンス部門では、オフラインメディアも含めたいろいろなタッチポイントを、横連携しながら運用しています。今回は、ある輸入車メーカーでの「新モデルの認知拡大/販売促進」施策で行ったコミュニケーション設計を例に、各メディアにどういった役割とコンテクストを設定しているか、ご紹介します。

なお、ここで大事なことは、単に個々のメディアを運用するのではなく、マーケティング課題に応じて適切なメディアを選定し、各メディアでの「How to say」を考慮した上で全体のカスタマージャーニーを描き、連携し施策を行うということです。

メディアごとに役割とコンテクストを設定することで、マーケティングの課題解決も、メディア単位でピンポイントに施策を実行できます。

このように明確に優先順位をつけて実施できるのは、限られた予算の中で最適化するためにも、大きなメリットです。

以下に、各メディアの役割とコンテクスト、どのようなアプローチをとったのかを順に説明します。企業視点の一方的な情報発信ではなく、メディアごとに役割を規定しコンテクストに沿ったユーザーオリエンテッドなアプローチが重要です。

【ソーシャルメディア】

Instagram(憧れを発信する外向きの場)

役割:ブランド、商品への憧れを醸成する
コンテクスト:憧れのシーンを見たい、真似したい

ビジュアル重視のメディアなので、視覚的な美しさで商品の魅力を発信します。ARなど最新のテクノロジーを活用して、ブランドの世界観をモバイル上で体験できるコンテンツを制作することで、「ブランドへの憧れ」を醸成させました。

Facebook(実名利用のフォーマルな場)

役割:濃度の濃い情報により理解を深める
コンテクスト:一歩突っ込んだ情報が見たい

「ここでしか見られない情報」を発信することで、もともと商品に興味のあるユーザーが、より理解を深めるためのメディアとして設定しています。他のメディアにはない深い情報を投稿することで、長期間のアテンション維持にも貢献しました。

Twitter(匿名利用のカジュアルな場)

役割:ユーザーとのコミュニケーションをとる
コンテクスト:今を楽しみたい、旬の話題に参加したい

ユーザーとの距離感が近いメディアなので、しっかりとコミュニケーションをとるという役割を設定しています。モーメントの共有と参加性の高いコンテンツを制作することで、フォロワーと一緒にプロモーションを盛り上げました。

LINE(生活に根差したサービス提供の場)

役割:ユーザーのニーズに合わせた情報を発信する
コンテクスト:「私」にとってお得な情報が知りたい

完全クローズドのメディアで、「お得な情報が知りたい」というモチベーションが高いユーザーが多いです。ユーザーメリットの高いコンテンツを配信することで、実数としての刈り取り目標に寄与しました。

YouTube(目的を持って情報取得する場)

役割:モデルやブランドを疑似体験させる
コンテクスト:リアルな情報を詳しく知りたい

映像メディアという特性を活かして、ブランドの疑似体験をさせるという役割を設定しています。例えば、シークレットイベントのダイジェストムービーを配信することで、ブランドの世界観を体感できるコンテンツを提供しました。

【オウンドメディア】

スペシャルサイト(興味関心を持って訪れる場)

役割:ユーザーの関心のあるコンテンツを当てて態度変容してもらう
コンテクスト:自分に関心のある情報を知りたい

さまざまな流入経路から、さまざまな興味関心をもったユーザーが来訪し、コミュニケーションの起点となるメディアです。流入経路からユーザーのコンテクストを想定し、それに応じたコンテンツを当てて、態度変容してもらうという役割も設定しています。

企業・商品説明サイト(必要な情報を調べるために訪れる場)

役割:商品への理解を促し、納得をさせる
コンテクスト:購入や利用を検討している商品の詳細情報を知りたい

企業・商品説明サイトにやってくるユーザーは、その商品やサービスの購入や利用を前向きに検討しており、検索エンジンなどで自発的に訪れる。そういったユーザーに対して、より詳細な情報を提示し、商品/サービスに対して最終的な納得をしてもらうという役割を設定しています。

ニュースレター/メール(ブランドへの関心が高いユーザーの購読が多い)

役割:ゲートウェイメディアとして情報に触れるきっかけを作る
コンテクスト:自分が気になる情報があるかどうか

ニュースレターには、ユーザーが情報に触れるきっかけを作る、つまり情報のゲートウェイ(入り口)へ導くという役割を設定しています。

ダイレクトメール/紙(開封率が高く行動喚起しやすい)

役割:店舗来店やサイトアクセスなど行動を喚起する
コンテクスト:デザインやメッセージが気になる、中身を見たい

紙のダイレクトメールは行動喚起をしやすいメディアで、ここでの役割も行動喚起です。紙の特性のひとつに、デザイン性の自由度や高さがありますが、それによってブランドの世界観を表現する役割も担っています。

店頭ツール/ノベルティ(購入検討度の高いユーザーの後押しができる)

役割:顧客/見込み客の店舗来場を後押しする
コンテクスト:来場・試乗だけでももらえるならほしい

ノベルティグッズもひとつのメディアとして扱っています。最終的な顧客や見込み客の来店の後押しという役割を担わせています。


今回例として挙げた施策では、各メディアでの適切なアプローチが功を奏し、ユーザーの長期的なアテンションを維持することができたほか、スペシャルサイトを中心に、各メディアからのユーザー流入を促進することに成功。結果として、対象車種の購入見込みリードを数多く獲得することができました。


まとめ:限られた予算でも的確に情報発信をすることはできる

企業がオウンドメディアやソーシャルメディアを運用するに際して、もっとも大事なことは、コンテクストに応じて情報発信していくことです。本稿では、そのための注意点を紹介してきました。そのポイントは以下の4点にまとめられます。

  1. メディアやツールを使うこと自体を目的にしてはいけない
  2. それぞれのメディアの役割を踏まえて情報発信することが重要
  3. 同一コンテンツの流用はNG。「How to say」を意識し、メディアの役割に応じてコンテンツ設計を変える
  4. コンテクストを意識し「誰に」「何を」「どのような目的で」を考慮したコンテンツ設計を行う

メディアの役割を明確にし、コンテクストに合ったコミュニケーションを実施することで、企業視点の一方的な情報発信ではなく、ユーザーオリエンテッドなアプローチに則った最適な情報発信を行うことができるはずです。

※本稿は、2020年2月4日に開催された宣伝会議主催のセミナー「コーポレートブランディングカンファレンス~オウンドメディア&SNS編~」で発表した「顧客満足度と体験価値が向上するオウンドメディア運用のコツ」の内容をもとに執筆したものです。

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