2020.03.10

スモールサクセスをし続けることで変わる、これからの日本の"おもてなし"

“実践論”としてのカスタマーサクセス。『Success4』開催記念対談 Vol.9

あらゆる業種のサービスが「売って終わり」ではなく、「いかに使い続けてもらうか」を重視するように変わっていく。そんな時代に現れた新しいコンセプト、「カスタマーサクセス」。しかし、実際に事業に取り入れる難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。本連載は、カスタマーサクセスを推進する識者にお話を伺い、そのヒントを探るシリーズです。

第9回の本コラムでは、カスタマーサクセスのバイブルである『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』(英治出版、2018年)、通称青本を翻訳して日本に広めたバーチャレクス・コンサルティングのおふたりと、電通デジタルでカスタマーサクセスを実践するふたりが、それぞれ1名ずつ、2部構成で対談をした様子をレポートします。前半は、「両社がカスタマーサクセスへ取り組む意義」を、そして後半は、「実践の現場で感じている"壁"について」を語り合います。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

バーチャレクス・コンサルティング株式会社
取締役 常務執行役員

奥村 祥太郎

執行役員
デジタルトランスフォーメーション領域

八木 克全

バーチャレクス・コンサルティング株式会社
執行役員

森田 智史

サービスプロセスデザイン事業部
事業部長

魚住 高志

単発でなく継続するのがサクセッション

奥村祥太郎(以下、奥村) : まずは簡単に自己紹介をさせてください。われわれの企業名は、「バーチャレクス」というのですが、「バーチャル」が「黒子」であり「本質的」、「エックス」が「価値最大化」。それらを足し合わせて、クライアント企業と一緒になって、その提供価値を最大化していく存在という意味で名付けました。

昨年(2019年)に創業20周年を迎えたリブランディングで、タグラインを「Succession with You」としました。一度きりの成功の「Success」ではなく、連続する成功という意味の「Succession」。それを、「for You」ではなく、伴走するという意味で「with You」していく。そんな風に、顧客価値を最大化し続けることを、クライアント企業に伴走しながら実現していきたいと思っている会社です。

奥村祥太郎氏(バーチャレクス・コンサルティング)

八木克全(以下、八木) : すてきなタグラインですね。

奥村 : ありがとうございます。事業はコンサルティングとソリューションテクノロジー、そしてBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)をおこなっています。

BPOで出てきた課題を自社製品に活かし、クライアント企業に実際に使っていただいたり、課題をコンサルティングにまで広げたり。単発のお仕事にとどまらず、継続的にクライアント企業に伴走してビジネスを作っていくことをやっています。

八木 : まさに、企業としてカスタマーサクセスを実践していらっしゃる。

奥村 : はい。それでいきますと、2016年にアメリカで発行された『カスタマーサクセス』の原著(Customer Success: How Innovative Companies Are Reducing Churn and Growing Recurring Revenue)に、偶然にも向こうで出会いまして。

ちょうどその考え方が、わが社の思想と一致するということで、われわれが翻訳をさせていただき、2018年6月に出版をしました。それを機に、われわれも社内でカスタマーサクセスを改めて学び、世の中に啓発していく活動を始めています。

『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客成功」10の原則』英治出版より2018年6月発行

八木 : すばらしいですね。わが社も今まさに、お得意さまの事業の「共創パートナー」でありたいということを、企業方針で語っています。

事業を一緒に作っていくパートナーとなると、商品やサービスを顧客に買ってもらうより、使ってもらう期間のほうがはるかに長いので、そちらに関われないといけない。そういう観点で、やはりカスタマーサクセスにたどり着きました。

八木克全(電通デジタル)

奥村 : わかります。

八木 : カスタマーサクセスには、大きくふたつあると思っています。

まずは、企業の軸足が、商品の購入から継続的な利用に移っていく中で、顧客の声を反映して、提供するモノ自体をどんどん変えていく必要性が出てきている。そこで、それに合った事業や組織構造体に変えていくための仕組み作りです。

そして、もうひとつは顧客の声を常に聞き続けて、困りごとをなくしたり、より満足度を上げていったり、より良く使ってもらうサイクルを、小さくても継続して回していくこと。

今はこの大きな仕組みの構築と、小さな成功サイクルを、両輪でやっていこうと思っています。


成功体験が、協働プロジェクトを生み出す

奥村 : われわれはどちらかと言えば後者で、小さな実験ラボを作って、そこで成功体験を小さく積み上げていって、その成功体験を全体に展開していただくというのを、ずっとやってきています。

貴社が5社協業で取り組まれている、「カスタマーサクセス・プロトタイピング」の考え方とも非常に近くて、何かしら相互補完していけたらと思っていました。

八木 : それは、ぜひ。カスタマーサクセス領域に取り組むにあたって、わが社は顧客の思いをくんで、「こうすると好きになってもらえる」とか、「こうするとより良く使ってもらえる」とかを考えるのが、わりと得意なんですね。データから人の気持ちを復元して、企画して、試作を開発して、をひと回りでやっていく。貴社はいかがですか?

奥村 : うちの得意分野は顧客の声を定量化したデータに基づいて、まず、実験してみることでしょうか。小さい会社ながら、コンサルタントと、エンジニアと、オペレーターが社内にそろっているので、トライアルのスピードは速いんです。パイロット版で一定の成功体験を出すところまではできていると自負しています。

あとは、自社プロダクトを持っているので、そこから実際に顧客の声をピックアップできるのも、強みだと思っていますね。

八木 : それは心強いですね。

とはいえ、小さく始めると、事業全体に展開するときの難しさはあるかと思います。そこに関しては、どう思われますか?

奥村 : トライアルで成功した価値に対して、企業内での合意形成をどう作っていくかは、非常に重要な問題と感じています。言い換えれば、企業文化をどう変えていくかですよね。エバンジェリストを育てることもそうですけれど、結果を誰がどう評価するのかなど、ロードマップを作っていく必要があると思います。

八木 : それでいくと、僕らは折り合いのつきにくいビジネスサイド、ユーザーサイド、ITサイドにそれぞれメンバーをアサインして、お互いのプロジェクトを褒め合うということをするんです。それをクライアント企業と一緒に取り組むことで、協働プロジェクトが組成されていく。そのときにやはり重要なのは、顧客視点でおこなった施策が成功して結果を残した、その成果です。これは誰も否定できないので、その成果をクライアント企業内で拡張していく。それが、プロジェクトがどんどん広がるひとつのきっかけになっていきます。

奥村 : なるほど。勉強になります。

私たちは、カスタマーサクセスで成果を上げるためには、日本でよく言われる、「お客さまは神さまだ」という考えは誤りだと思っているんです。ベンダーかどうかの立場を超えて、対等に並走してクライアント企業をサポートしていく。または半歩先を見据えて伴走していく。これからも、そうやって成果を創出していきたいと思います。


ハイタッチ至上主義の日本

森田智史氏(バーチャレクス・コンサルティング)

森田智史(以下、森田) : 私自身はBtoB企業をご支援することが多いので、主にBtoBの企業がカスタマーサクセスに取り組む際にぶつかる「壁」を、資料にまとめました。それに関して、ぜひ魚住さんの担当されているBtoCの観点ではどうかを教えていただきたいです。

こちらはまず、「ハイタッチ至上主義の壁」と言っているものです。

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商品やサービスが、「売り切りモデル」から、「サブスクモデル(継続利用)」に変わっていくビジネス環境の中で、今まで営業担当を中心にハイタッチ※1で対応できていた企業も、それだけではロングテールに対応できなくなってくる。そこで、ロータッチ※2やテックタッチ※3との組み合わせが重要になるという、カスタマーサクセスの基本のお話です。

    ※人の手で個別にフレキシブルな対応を顧客に行うこと

    ※人の手で、ある程度集団的にデザインした対応を顧客に行うこと

    ※テクノロジーにより、広範囲に同時対応を顧客に行うこと

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    その背景を日米で比較すると、アメリカは国土が広く、多民族国家なので、もともと共通言語化が必要です。また足で稼ぐことに限界があるので、方法論やテクノロジーが進んできたように思うんです。一方の日本は島国なので、これまで「よしなに」で通じるハイタッチ至上主義の文化があったと思います。

    BtoCの世界でも、共通点を感じられますか?

    魚住高志(以下、魚住) : そうですね。やはり顧客の数が莫大なので、ハイタッチにすればするほど、効率が落ちることは避けられない。なので、BtoC領域でハイタッチの議論は、安易には切り出せないとは思います。

    魚住高志(電通デジタル)

    森田 : 『Success4』のセッションで、NODEの金均さんが生命保険会社での成功事例をお話しされていたように、BtoCの世界でも高関与商材がタッチモデルをどうするか、ハイタッチをどうするかの議論の対象になりやすいのではないかと認識しています。

    高関与商材は、バイネームで担当者がわかるような個別対応がビジネスの成否を分けるので、BtoB的なカスタマーサクセスとの相性が良いと言うか、類似性が高いのではないかなと。

    魚住 : そうですよね。toCでは、やはり高関与商材からカスタマーサクセスは動いていくと思います。ただ、高関与であれ、低関与であれ、ある程度ヒューマンタッチと言いますか、ハイタッチが企業の武器になることは間違いない。さらに言えば、toCでもtoBでも、本当は求めるものは変わらない。そこには対面のおもてなしを大切にする日本人の気質があると感じています。

    その中で、効率的にハイタッチをする方法論として、デジタルマーケティングが広がってきた側面が大きいと思うんです。ただ、カスタマーサクセスは、モノを売る思想ではないので、ハイタッチの目標設定も新しい概念で語られるべきだとは思っています。

    森田 : 金言ですね。その文脈で言うと、ハイタッチはこれまでと変わらずとても大事だけれど、お客さまとのそもそもの付き合い方を変えていかなくてはいけないということですよね。

    例えば店舗来訪などの対面はもとより、コールセンターやコンタクトセンターにも電話をしたくない人もいる。そのあたりはお客さまの感覚がだいぶ変わってきている気もしているんですが。

    魚住 : デジタルネイティブの世代の話ですね。彼らはデジタルでの人間関係の作り方に慣れているので、世代で分類して整理するのも面白いかもしれませんね。

    ちなみに森田さんは、コールセンターはハイタッチとお考えですか?

    森田 : 基本はロータッチの手法に位置付けられますが、ロイヤルカスタマーを分けて対応したり、お客さまの特性や購買履歴も踏まえて対応したりしている点では、ハイとローの使い分けをしている、とも言えるかと思います。

    魚住 : なるほど。このハイタッチとロータッチのお話は、やはり方法論だと思うんですね。toBではカスタマーサクセスのKPIが明確なので、最適化の議論がしやすい。しかし、toCにおいてはまだ、顧客の成功が決めきれていないので、KPI議論も深まっておらず、方法論にもたどり着いていない。それが、toC領域でのカスタマーサクセスの現状だと思っています。


    スモールサクセスから始まる、おもてなし改革

    森田 : なるほど、そうかもしれないですね。

    あとtoCにも関連するところで言うと、カスタマーサクセスの実践には、日本ならではの「おもてなし文化の壁」もあると思っています。

    言わずもがなではありますが、日本のお客さまのサービスレベルへの期待値は非常に高い。ホテルのコンシェルジュサービスや再配達サービスが無料の日本においては、お客さまを満足させるには、欧米のお客さまに「感動(=Wow!)」を届けるくらいの企業努力が必要という話をよく耳にします。

    その結果、お客さま応対がハイタッチ中心になりがち、とも言えるかもしれません。その価値観の違いを踏まえながら、サクセスの定義や期待値を、きちんと各社で設定しないといけないと思っています。

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    魚住 : やっぱり、「マイナスをゼロに」するほうがわかりやすいですからね。「ゼロをプラスに」までを目指したい気持ちもありますが、顧客の不平不満を改善するほうが、感動を提供するよりも効果的という話もありますし、一概に何が良いとは言えないのかな、とも思っています。

    森田 : 確かに、そうですね。

    魚住 : あと、いざサプライズと考えると、日本人はどうしてもピッカピカの新しい感動体験を考えがちな面がある気がしていて。意外と当たり前なことでも、顧客が期待していない、もしくは競合他社がいっさいやっていないことを提供しさえすれば、感動を与えられることもあるんじゃないかとも思っているんです。

    例として挙げると、某大手ECサイト。普段はレコメンドのメッセージばかりが多い印象があります。しかし、今ネットでバズっているのが、顧客に乳幼児がいるかどうかを行動データから予測して、蜂蜜を買ったときに、「乳児には蜂蜜をあげてはいけないですよ」と、該当者に注意喚起のメッセージを送っているんです、「大丈夫ですか」って。普段の期待値を上げ過ぎず、そして、そこを超えて感動体験を与える。そんなやり方もあるのか!と思いましたね。

    森田 : すごいですね、そのテクニック(笑)。

    魚住 : ただ、いわゆる「コールセンター・コンタクトセンター改革」でも、効率化ではなくて、新しい顧客体験価値を生み出すことへの期待で、わが社にお話をいただくことが多いのも事実です。

    森田 : わが社は、効率化を目的とするほうが多いですかね。でもずっと懇意にしてくださっている、あるクライアント企業は、コンタクトセンターの重要性を強く認識されていて、企業フィロソフィーの体現の場とおっしゃっています。オペレーターへの教育も真剣にやられている。不平不満を解消することは前提ですが、プラスアルファで感動体験をどれだけ提供できるかを大切にされています。

    ところで貴社の場合、トップダウンで改革をやっていらっしゃると思うのですが、一方で、現場を巻き込んでチェンジマネジメントしなければいけない場面も多いのではと想像しますが、いかがですか。

    魚住 : そうですね。ただ新しい価値を生むコンタクトセンターの組織作りには、まだ至っていないんです。カスタマーサクセスを取り入れるには、既存組織のモノを売るためのKPIと異なるKPIが必要なので、概念はご理解いただいても、実行フェーズで悩まれることが多くあります。

    森田 : だからこそ、外部の力が必要ということですね。

    魚住 : ですが、そのときには経営陣のご理解が必要ですし、ボトムアップで改善するのはなかなか難しいと思います。目下の悩みは、現場は重要性を理解しているけれど、それを実行できる組織には変われていない、そのジレンマですね。

    森田 : CS(カスタマーサクセス=顧客満足度)の礎は、ES(エンプロイーサティスファクション=従業員満足度)だと私も思います。両方のチェンジマネジメントが重要ですし、そのためには、やはり経営層の判断が必要ですよね。

    魚住 : ですね。なので、まずは小さく成果を証明していくことから始めて。

    森田 : 先ほどのスモールサクセスのお話ですね。

    魚住 : そうです。ただ今、環境は変わり始めてはいるんです。例えばメーカー企業では、PoUデータ(Points of Usage=製品利用データ)のように、これまでにないデータを持ち得たことで、マーケティングでの活用を考え始めています。そして、そこにはカスタマーサクセスの概念が欠かせないですから。

    森田 : データによって成果が見えるようになるのは、すばらしいことだと思いますし、その変化は、まさに変革のチャンスですね。それが進んでいくと、顧客の不満を解消するのは当然として、もう一段上のサクセスが提供できるようになっていく、そんな未来も想像に難くない。
    われわれもぜひそこを目指して、引き続き、クライアント企業の伴走をし続けていきたいと思います。

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