2020年02月25日

デジタルトランスフォーメーション

コラム

僕らが5社協業を開始した理由「カスタマーサクセスで

最近、耳にする機会が増えた「カスタマーサクセス」という言葉。これは単なるブームではなく、世の中が変化する中で生まれた、新しいコンセプト。なぜなら、デジタル時代にはあらゆる業種のサービスが「売って終わり」ではなく、「いかに使い続けてもらうか」を重視するように変わっていくからです。

しかし、その重要性を理解しつつも、実際に事業に取り入れる難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。このシリーズでは、カスタマーサクセスを推進する識者の皆さまにお話を伺い、そのヒントを探ります。

第7回を迎える今回は、企業のリテンションマーケティングを支援するサービス「カスタマーサクセス・プロトタイピング」で協業する5社(電通デジタル、トレジャーデータ、パーソルプロセス&テクノロジー、アンダーワークス、NODE)を代表する7人のメンバーによる座談会が実現。
「カスタマーサクセス実装のKPIは何か」「なぜコールセンター改革に帰着するのか」など、話題が縦横無尽に行き交ったディスカッションの模様をお伝えします。

カスタマーサクセスは、市場の成熟によって生まれた

魚住高志(以下、魚住)今回の対談で、ぜひ話題にしたいことがあります。それは、「カスタマーサクセスとは何か」を今一度考えたいということなんです。

今までのマーケティングは、物やサービスをお客さまにより良く買ってもらうための活動だった。しかし、これからは購入していただいたものをより良く使ってもらって、お客さまとの「信頼のベース」を築くための活動に変わる。
そして、そのためのサークル活動(下図参照)がカスタマーサクセスであると、私は今のところ理解して、クライアント企業にもご説明しています。

サークル活動

市原大輔(以下、市原)そうですね、我々も、自社でカスタマーサクセスの組織を立ち上げていますが、まさに同じ構造を目指しています。リファラル(顧客による紹介や推薦)が発生したり、ユーザーコミュニティが生まれたり。まさにサークルを作る活動が、カスタマーサクセスであるという理解です。

市原大輔氏(トレジャーデータ)

市原大輔氏(トレジャーデータ)

竹内崇也(以下、竹内)私も、過去に所属していた会社でカスタマーサクセス組織を立ち上げた経験があります。立ち上げのきっかけは、サービスの料金体系を従量課金に変更したことで、よりサービスを深く使ってもらう必要が出たことと、サービスの規模が大きくなって、新規顧客獲得と同じかそれ以上に、既存顧客の解約率の低減が重要になったことでした。
今は、市場が成熟してきて、既存顧客に対する提供価値を高めるフェーズに変わってきている事業が多い。その中で、カスタマーサクセスの重要度が上がってきていると思うんです。

一方で、昨日お会いした企業の役員の方からは、「うちは新規顧客獲得のほうがまだ重要。今はカスタマーサクセスのフェーズじゃないんだよ」と伺いました。なので、カスタマーサクセスの必要性は、事業のフェーズにもよるとは思います。

田島 学(以下、田島)そうですね、僕もみなさんのお話の通りだと思います。カスタマーサクセスは、市場が成熟したことによる事業モデルの抜本的刷新であって、単にポストセールスのオペレーションを改善することではないんですね。ただ、カスタマーサクセスがバズワードになりつつある中、本質的な意味を誤解されているクライアント企業が多くなっている、とも感じます。

クライアント企業にカスタマーサクセスのお話をすると、「それって、ポストセールスの話ですか?」と言われることが多いんです。プレセールスとポストセールスの二元論で考えてしまうと、先ほどのサークルの話が噛み合わない。「カスタマーサクセスは円であり、お客さまとのエンゲージメントをもとにした継続的なお取引の輪である」という話と、なかなかつながらない。

田島 学氏(アンダーワークス)

田島 学氏(アンダーワークス)

泉 忠治(以下、泉)いざサークルを回そうとすると、組織を超えなくちゃいけないですからね。組織があまりに縦割りなために、円を円でなくしてしまっている。そして、今できるところから着手しようとすると、どうしてもポストセールスの改善という、職掌組織内でできそうなところに帰着してしまう。でも、本当に成果を出すためには、全社連携しなくてはいけないんです。

最初にやりきるべきは「KPIの再設計」

八木克全(以下、八木)各企業は、業務プロセスを切って、そこで事業を進めていくことが組織化されてしまっていますからね。その中で、お客さまの体験を持続的にマネジメントしていこうと思うと、組織の枠組みを超えなくてはならないのは、まったくその通りだと思います。

そして、何が問題かと言えば、結局「組織横断で取り組んだ成果は、どの部門の成果かということがわからなくなる」ことだと思うんですよ。成果シートが書けなくなる、と言いますか。
それで、KPIを再設計しなければならなくなる。でもKPI設計は現場ではできないので、止まってしまう。そういうことだと思うんですよね。

竹内そうなんです。私もカスタマーサクセス組織を立ち上げたときは、KPI設計にすごく苦労しました。やっぱり、営業利益をウォッチしていくと、カスタマーサクセスはすごくやりにくいんですよ。サポートの手間が大きくなるので、短期的には営業利益率は悪くなる傾向がある。でもそこをやりきって、お客さまの信頼をしっかり勝ち得ると、従量課金は増えるし、後々にアップセルやクロスセルを行う基盤が整う。

当時、私は組織横断で施策を進められる立場だったのでやれましたが、各組織長が個別にやろうとすると、かなり難しいと思います。
例えば、売り上げ数倍を目指すのは、今の延長線上では無理だけれど、カスタマーサクセスを実現した先にはいずれ到達し得る。そういう戦略を描いて、事業として推進していくしかない。同時に経営としては、今の営業利益も追っていかなければならないので、短期的な売り上げと長期的な成長をどうマネジメントするか、経営レベルで意思決定しながら進めていく必要が出てくると思います。

八木そうですね。

竹内中でも、営業人材評価のKPIは、特に設定しにくいです。これまでは新規獲得なので、何件受注したかの成果指標。それがNPS※1等にシフトしていけば、営業効率は悪くなるけれど、売り上げはすぐに上がらない。NPS向上による良い影響は解約率の減少なので、短期では数字にも響いてこない。じゃあ半年後、1年後に現れてくる成果のために、今、労力が掛けられるか。既存モデルとの乖離を乗り越えるだけのマネジメントの意思がないと、難しいところです。

結局、別組織をスモールで立ち上げるのが良いのではと思います。既存事業と切り分けたカスタマーサクセス部門を作って、別指標をKPIに設定する。既存の枠組みの中で折り合いをつけながら進めるのは難しい、というのが正直なところですね。

魚住その場合、別組織のKPIはどう定義を?

金 均(以下、金)NPS、解約率、LTV※2が、三種の神器だと思います。

竹内そう、最初はNPSしかなくて、顧客の満足度しか測れない。でも満足度を測っていくと、いずれ解約率も測れるようになり、やがてクロスセルできるようになって、売り上げにヒットしてくる。フェーズごとに、目標値は変えていく必要があると思います。

  1. Net Promoter Scoreの略。顧客ロイヤルティを数値化した指標。
  2. Life Time Valueの略。顧客生涯価値。顧客が特定期間に商品やサービスを購入した金額の合計。

大きなカスタマーサクセスと、小さなカスタマーサクセスを両輪で

こう話していると改めて、「カスタマーサクセスとは何か」という問いは難しいですね。
でも私がクライアント企業と話していると、みなさん、「カスタマーサクセス」というフレーズを使って、2つの異なることを示しているように聞こえます。

1つ目は、お客さまに気持ちよく商品やサービスを使い続けてもらうための考え方、理念としてのカスタマーサクセス。事業状況に鑑みると、今後はLTVモデルへの移行が必要なので、そのために「顧客志向の企業に変わるため」とメッセージを発して、全社変革を進める。その大義名分というか、目的を貫くために使われるカスタマーサクセス。

2つ目は、データとデジタルを組み合わせた、効率的オペレーションとしてのカスタマーサクセス。要は、「施策を打ったらお客さまの反応を見て、施策を改善する」という当たり前のPDCAサイクルなのですが、それがデジタルの進化で可視化され、より速く回せるようになった。そして、お客さまの反応をより丹念に分析しながら、お客さまに寄り添っていく、そのオペレーションの進め方を、カスタマーサクセスと呼んでいるもの。

金 均氏(NODE)

金 均氏(NODE)

ビジネス的に言えば、成熟した市場に対して、LTVを上げる方向で事業転換していきたいのだと思うんです。ただそのような全社変革を進めるには、社内で意識を統一する理念が必要だから、理念としての「カスタマーサクセス」という用語が用いられる。一方で、オペレーションはどう変わるかと聞かれると、それはデジタルを組み合わせてPDCA型で進んでいくんだ、ということで、オペレーションとしてのカスタマーサクセスという用語が出てくる。

つまり、企業が本当に顧客志向に転換しようとすると、企業理念とオペレーションの2つの変革が必要なんです。けれども、それらが混在することによって、どの部門が何を直していくのかで混乱してしまう。

だから、私は、その2つを区分するようクライアント企業にお話をして、それぞれの取り組みを両輪で実行する交通整理をすることが多いです。

八木そうですよね。私も、「大きいカスタマーサクセス」と「小さいカスタマーサクセス」とで、分けて使っています。顧客の価値創造という、理念や目的に近い「大きいカスタマーサクセス」と、そこで生まれる価値をどうデリバリーしていくかという、オペレーションとしての「小さいカスタマーサクセス」。その連合体で回っていく、ということですよね。

まずは小さく始めて、最後は組織横断で

そうなんです。そして、それを両輪で実行するには、クライアント企業の社内は、経営から現場まで、商品開発や営業からカスタマーサポート、IT部門までを連携しないと実行できない。そして、クライアント企業を支援しているパートナー企業も、経営コンサルティングから、商品クリエーティブ、営業支援、コールセンター、ITベンダーまでが連携しないと実行できないんです。

田島それが日本の企業が、中国やアメリカと比べてデジタルトランスフォーメーションが遅れている大きな要因でもありますね。

はい。ただ、悲観する必要はないとも思っていて。日本企業は、これまでも、おもてなしや顧客サービスを重視してきていて、理念レベルではカスタマーサクセス思考の企業が多いとも感じているんです。
なので、その理念を活かしつつ、新しいサービスモデル、オペレーションモデルを、社内組織から各ソリューションプロバイダーまで、みんなで連携して、いかに実現していくか。そこが実践上のポイントだと思います。

魚住とはいえ、最初から大きな変革はやりにくい、というのも実情ではあります。

おっしゃる通りです。
なので、大きな理念を認識しながらも、ファーストステップは、成果の出しやすいところを選ぶべきです。既存CRMの改善から始めるのが、王道だと思います。

市原「じゃあ、どこから」となると、やっぱりCRMになりますよね。でも、最後は大きな変革につなげていく必要がある。

接合点

竹内そう。だから、クライアント企業の変革を支援するソリューションパートナーとしては、その両方をやれることが肝心。
大きい理念だけ語っていても仕方がないし、もったいない。現場のこともできる人たちが、大きな目的に向かってやっている、それが重要だと思うんです。

そうですね。当社はクライアント企業からは、「顧客との関係性が見えていないので、可視化してほしい」というオーダーを受けることが多いんです。ただ、可視化した後にどういう世界観をかなえるのが一番いいのかを考えながら、「こういう要素も要りますよね」と現場でコミュニケーションしている。そのうちに、自然と大きな意味も出てくるのかな、って。

なので実際は、「最初に少しやってみる」から、すべては始まるんじゃないか、とも思うんです。

泉 忠治氏(パーソルプロセス&テクノロジー)

泉 忠治氏(パーソルプロセス&テクノロジー)

コールセンター改革か、経営モデル変革か

魚住実際に、今カスタマーサクセスのご相談を受けると、オペレーションであるコールセンターの変革へと向かうことが多いんです。

おそらく現状で唯一、お客さまと直接向き合っている組織はコールセンターだということで、クライアント企業としても、そこから始めるのが変革の手応え感があるのだと思います。

お手伝いしている、あるクライアント企業では、これまではコールセンターが解約率を下げていたけれど、今後はデジタルマーケティング組織も統合して、潜在顧客獲得のアウトバウンドにも取り組むコンタクトセンターにしましょう、と。

魚住高志(電通デジタル)

魚住高志(電通デジタル)

八木ただコールセンター側から入ったときは、それで本当にマネジメント体質が変わるのか、という懸念がある。とはいえ、逆に経営側から入ったときは、小さく始めたものを大規模に移行できるのかの問題にぶち当たります。

私の場合は、後者の経営モデル変革から入ることが多いのですが、結果的にコールセンターの変革になる場合もあります。

個人的には、コールセンター変革論から入ってもいいし、経営モデル変革論から入ってもいい。
ただ共通して重要なことは、いずれから入ったとしても、いつかは経営とオペレーションを融合する必要があると強く認識しながら、プロジェクトを進めることだと思っています。

八木経営から見ると、コールセンター変革におけるコールセンターは、ただのコールセンターではなく、今後行うべきデジタルトランスフォーメーションの実証実験の場ですよね。

はい。企業の顧客フロントとしてのコールセンターが、市場との対話を通じて、企業の理念やKPI、マネジメント体質にどのようなフィードバックをもたらすか。そのための、実践的PDCAの場という認識だと思います。

竹内企業は、最終的に「何らかの価値をちゃんとお客さまに届ける」ということが重要ですよね。本来ならば、それ自体を成果にすれば、コールセンターではないソリューションも出てくる気がします。例えば、お客さまが毎日アクセスするポータルがあって、そこの情報を見るだけで、今自分にとって必要なことが明確であれば、満足は得られる。

変化の激しい現代、企業は時々の状況に合わせて最適なチャネルをピックアップし、データを用いて最適なカスタマイズを実現しながら、経営していかなくてはならない。
つまり、変わり続ける企業になれるか。変わり続ける事業運営ができるか。そこが、本質的に問われているのだと思います。それを「コールセンターの場を借りて実験する」という風に、私には聞こえました。

僕たちが5社協業に踏みきった理由

竹内別の切り口になりますが、今、人事が変わってきている。1年後の目標を立てる目標管理制度は機能しなくなり、グローバルでは、1on1の対話によるノーレイティングにシフトしてきているそうです。
他には、MBAも変わってきている。卒業する頃にはもうケース自体が変わることから、ケーススタディから体験型スタディに中心が移ってきている。例えば、ハーバード・ビジネス・スクールMBAプログラムの学生が東北に来て、現場のソリューションを作って学んでいたりするんです。

竹内崇也氏(NODE)

竹内崇也氏(NODE)

田島それは、大きな変化ですね。

竹内はい。つまり言いたいのは、現在進行形で、「事業運営のあり方」が変わってきていると思うんです。だから、カスタマーサクセスの一番のポイントは何かと言えば、「スピーディに状況を変えながら事業運営していくためには、どうすればいいか」。その問いに答えるものが、自分の中ではカスタマーサクセス。

市場が成熟したから、カスタマーサクセスをやっているわけではない。

竹内ではない。

事業運営のPDCAスピードを上げるために。

竹内そう。今までは企業があり、ビジョンがあり、そこに組織があり、その先の成果として、最終的に価値をお客さまに届けていたんですけど、世の中の動きが速くなったことで、そのデリバリーの途中で、すでにお客さまが変化してしまう。
だから、お客さまの変化を把握して、そこから逆算してどうやって事業を変えていくか。そこが今、問われているんだと思います。

八木なるほど、わかります。

竹内あとは事業の優先順位の中で、重要になるのが人であったり、データであったり。
なので、我々が協業していることで、クライアント企業の状況に合わせて、ウエイトを常に変えていけるというメリットがある。

抜本的な改革をしようとすると、理念やマネジメントからオペレーションモデルまで、すべて同時並行で動くので、そこを行ったり来たりもできますしね。

それでいくと、もともとそう考えて、我々は集まったような気もします。

魚住たしかに。アジャイルでデジタルトランスフォーメーションを推進していくには、経営も現場もITも、実践しながら進めていく必要がある。
ただ、電通デジタルだけでは当然、支援できない領域があります。そして、それはアンダーワークスも、NODEも、パーソルプロセス&テクノロジーも、トレジャーデータも、各社が同じ状況だと思うんです。

しかし5社が連携すれば可能になる。そのために我々は、各社の競合意識や利益を超えて、クライアント企業のために連携しなければならない。

八木それこそが、我々が5社協業に踏みきった理念ですよね。そして、カスタマーサクセスの考え方の普及とともに、このような理念をこの5社に限らず、日本のデジタルトランスフォーメーションの業界全体に広げていきたいと思っています。

八木克全(電通デジタル)

八木克全(電通デジタル)

ただ、理念だけでは、クライアント企業も生きてはいけない。まずはきちんと成果創出をしていくことが大事ですよね。そして、競争するよりも連携していくほうが、お客さまも喜ぶし、クライアント企業もパートナー企業も長期的に発展していく、という道筋を示していけたら。

その考え方自体が、カスタマーサクセス的ですよね。成熟社会においては、企業は個社の事情を超えて連携していきながら、社会と長期的なエンゲージメントを結んでいく。最終的にこの協業が、そんなビジネス環境形成の起点になれたらよいな、とも思います。